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【4.闇の中にある光】

 【4、闇の中にある光】

 

 【1】

 

 「記憶が残っているのか?」

 「思い出したの、少し前に」

 「思い出した?」

 普通、記憶をもったまま転生する事はない。思い出すのも、この世界では珍しい事のはずだ。

 「ずっと、私を捜していた人が居て会った。その人の事が好きだから、貴方を選ぶ事はない」

 「まさか、アイツも」

 「そうよ、シェノスもこの世界に居て、ずっと私を捜していたの」

 「でも、それは…過去の記憶だ」

 「私は、今の私があの人を好きになっている。過去の私は関係ない」

 俺は正面から見据えられて、視線を逸らしてしまう。意志の強い瞳は昔のままで、直視する事が難しい。それは自分が過去を変えようと企んでいるからなのか、自分自身が弱い事を認識させられてしまうのが怖いからなのか。たぶん、理由はその両方なのだろう。

 「帰ってください」

 拒否する瞳は冷たくて、隙がない。

 あの当時から分かっていた。

 あの人は、俺の事を好きではない。

 急に結婚の話が進み出した時からだ変だと思ったが、俺はあの人に一目惚れして好きになっていた。

 

 「アイツは、泥棒じゃないか!」

 「そうだったわね」

 「それに、女遊びもしていた」

 「そうね」

 「アイツのどこがいいんだ!」

 「・・・そうやって、表面しか見ていない。そんな事をしていたら良い面なんて見えてこない」

 「でも、アイツは…」

 その先を言おうとして、言うのをためらう。その理由を彼女は察したかのように口を開く。

 「分かっている。それを知っていて、私は、あの人が好きなの。今でも・・・」

  

 アイツは泥棒で、俺は貴族だった。

 アイツは血のつながりがあって、俺は血のつながりがない。

  

 「そんな…」

 

 目を閉じれば、昨日の事のように思い出される記憶は、人間界の時間で千年程度が経過している。俺の過去世は、人間界とは違う世界で、人間界と同時並行で存在している世界では、穏やかな時間が流れていて、魔術も当たり前にある世界に生きていた。

 この世界では、「あの世」とも呼ばれている異世界で、俺は彼女に恋をしていた。

 今でも彼を想っているという彼女の告白を聞いても、納得する事ができない。あの出来事は、もう、先年以上前の出来事だ。

 「信じられない」

 「ごめんなさい」

 頭を下げてそう言うと、彼女はマンションにある自分の家に向かって歩き出した。

 その後ろ姿を見送る。

 「好きな人ではない、か」

 苦笑を浮かべてしまう。

 分かりきっていたのに、改めて言われた言葉が胸を刺した。 

 

 【2】

 

 数年前、『怪盗シリウス』が世間を騒がしていた。

 『シリウス』は、ある大きな力が自我を持ち、暴走するのを止めるために動いていた。その力は、壊されて消滅した、はずだったが、残った力の欠片たちは散らばっていき、新たな力になるために、美術品やアクセサリーなどの創作物に取り付いていった。

 創作物には、創作者の想いが込められていて、力が取り付きやすい状態を作り出していたからだ。

  

 俺も、元々、過去世の記憶があったわけではない。

 その出来事の最中に、アメジストに取り付いていた力の影響で思い出してしまった。その力は、過去にシェノスという青年が、落とした力であった事も、その力は危険であるが故に、異世界でも封印されていて手を出してはいけない事も、そのすべてを思い出した。

 

 記憶を思い出した後、俺が望む事は一つだった。 

 彼女との過去をやり直したい。

 

 異世界での俺は、貴族という権力のある暮らしをしていた。

 アイツが言っていた大きな力を手に入れたら、支配したいという欲はわかなかったし、どうでもよかった。世の中を変える程の力を持っていたとして力で支配したとしても、その先にあるのは孤独だけだ。

 力だけの支配では、いつかは綻びが出てくる。同じく力を欲する物達によって命を狙われてしまい、誰も信用する事などできない状況に追い込まれてしまうと悲しさと寂しさの中、独りで死んでいく結末が待っているだけのひどく哀しい生き様だ。

 権力を持つ者は、孤独を抱えて生きていき、最後を迎える。あんな人生を繰り返したいとは思えない。

 そんな結末を迎える事を知っていても、力が欲しいという物好きがいるのなら、ソイツに喜んでくれてやる。

 『キミなら、そう言うと思っていた』

 その話をアイツにすると苦笑を浮かべた。 

 『でも、キミがしようとしている事は、彼女に対する支配欲ではないのか?』

 「そうかも、しれないな。本当に彼女の事を想っているのなら、幸せを願うべきなのだろうが…俺はそこまでできた人間じゃない。前世からの想いが時を越えるなんていうのは、一見、美しいように見えるけど、俺には過去に固執しているように見えてしまう。俺も含めて過去に執着しすぎてしまう事は美しくはない。そうだろ…?」

 『私に同意を求められても困る。まるで、欲が汚いように言っているが、欲がまったくなければ、人は何も行動する気にならないのだろう?ならば、自分でその欲をどう使いこなすかによって、プラスの意味での欲を使いこなせる事になるんじゃないのか?』

 「そうなのかもしれないな」

 『……』

 何か言いたそうな気配をアイツは出していたが、あえて無視する。

 もしかしたら、人の為を想っての欲なら、その欲は願いに変わる事もあるのかもしれない。なぜか、アイツが言いたい事はそうなのではないかと感じた。

 『本当にいいんだな、過去を変える事がキミの叶えたい事で』

 「あぁ」

 『それでは、開始する』

 アイツが外国語のような呪文を唱え始めると同時に、眠気が襲ってきて俺はその場に倒れてしまった。あらがう事の難しい強烈な眠気は、過去世に関わっている人物全員におよんでいるはずだ。

 俺は、ゆっくりと瞼を閉じた。 

 

 【3】

 

 長い「夢」を見ていた。

 先年も前の前世の記憶で、過去にみんなが出会っていた内容だったように思える。時間があの当時へと巻き戻っていくのを感じ、不思議な浮遊感がおさまってから目を開けると、そこは懐かしい過去の世界が広がっていた。

 

 『もう信じられない、あのバカ』

 目の前にいる彼女は昔の記憶のまま、シェノスの悪口を言っていた。

 『何かあったの?』

 それを苦笑交じりに聞くのが俺の役割だった。

 あの当時、彼女と俺は幼なじみの関係で、それ以上でもそれ以下でもない関係だった。俺は彼女の事を好きだったのだが、彼女は俺の事を恋愛感情での好きではない事は分かっていた。それでも、彼女を思う気持ちをとめる事ができずにいた。

 『聞いてよ、この前ね…』

 彼女から聞くのは、いつも他愛もない事だった。話している本人は真剣な問題でも、俺からしてみれば可愛いケンカにしか思えなかった。それは、お互いが両想いだからケンカしていて、大切なのだと告白しているようにしか聞こえない。

 『ちょっと、聞いているの?』

 『聞いているよ』

 だから、時々、彼女に不満そうに顔を覗きこまれるはめになる。

 手を伸ばせば届く距離に居るのに、心の距離は触れる事ができないほどに遠くにあるのだと思い知らされる。幼なじみでいるから近くにいる事ができるのだが、いっそ、そんな環境で出会ってしまった事が憎らしく感じていた。

 (幼なじみとして出会った事に関係はない、その後自分が彼女の心を動かせなかった自分の問題だろ?)

 冷静に嘲笑する自分が、別人のように冷たい。こういう心のどこかで冷めている自分が嫌いだ。

 『おいおい、惚気はよそでやってくれ』 

 『惚気じゃないもん』

 『私からしてみたら、惚気だ』

 同じテーブルに座っている彼女の従兄弟にあたる青年が口をはさみ、クスと笑みを浮かべている。彼には相談に乗ってもらっているので、俺が彼女の事を好きな事を知っている。

 彼は現世では、執事喫茶を経営していたから驚きだ。

 『そうだろ?』

 彼はお茶を淹れてくれた女性に同意を求めた。

 求められた女性は困ったように曖昧な表情を浮かべている。どちらの言い分も分かるので返答に迷っているようだった。

 『お答えできかねますね。ただ、お嬢様が好きなだけ伝わりました』

 『…そうか』

 同意してくれない事に面白くなさそうな表情を彼は浮かべ、女性は苦笑を浮かべている。こんなSな青年のどこがいいんだ?と女性に質問してみたかった。女性は現世では、青年の「お嬢様」になっている。まるっきり逆の関係になっていて不思議に思った。

 『あの人に相談するから、もういい』

 『もしかして、アイツか…やめておけ、アイツだけは近づくな』

 『そうそう、アイツに相談するのだけはやめたほうがいい』

 すっかり拗ねてしまっている彼女に、青年と俺には思い当たる人物がいるので2人で止めにかかってしまう。その人物は、シェノスの親友で女性の扱いに慣れていそうな雰囲気の青年だ。現世でも、同じような雰囲気をしていて、執事喫茶で執事として働いているようだった。

 『なんで? 優しい人だよ』

 すっかり疑う事をしていない瞳を向けられてしまい、青年と俺は視線を見合わせてしまう。

 『そうやって、表面で人を見るのって2人の悪い癖だよ』

 ぷんと怒ってそう言われてしまっては、アイツは、遊び人だ。女を泣かせてきているんだ。はっきり言えば、身が危ないんだ!と言い辛くなってしまう。

 『…だけどな、優しい仮面を被っている事も』

 『そうそう、良い面みせるために優しくする事もあるんだよ。俺も相談のるから』

 『2人とも、心辺りでもあるかのような口調だね』

 そう指摘されてしまって、俺と青年は何も言えなくなって沈黙する。

 『大丈夫よ。あの人には大好きな人がいるから、私には恋愛感情は向けてこないから』

 『そうですね、あの人はお嬢様にはそういう事になりそうになさそうです』

 『なんで、そう言い切れるの?』

 『私も、あの人に相談にのってもらった事があるからです。誰かさんと違って、本当に優しい人で、居心地のいい雰囲気の方でした』

 にっこりと笑みを浮かべて言う女性の言い方は、どこかトゲのある口調で、笑みが冷たくて怖かった。そのトゲの矛先は、青年に向けられたもので、向けられた青年は「うっ」と短く唸った。

 

 【4】

 

 短く唸っている青年を見て、俺は苦笑を浮かべた。女性が思わずそう言ってしまいたくなる気持ちも分かる気がするからだ。

 『なぜだか、2人とも心当たりがありそうな言い方をしてなかった?』

 『『そんな事ない』』

 彼女に疑いの目を向けられてそう答えていたものの、俺も彼もどこか表情がぎこちないものになってしまったのは、図星を言われてしまったからだ。

 『本当?』

 『あぁ』

 黙って頷くと、ひとまず彼女は納得したようだった。

 『…なら、そういう事にしておく』

 『そうしてくれ』

 視線を横に逸らして彼もそう言うと、飲み物を一口飲む。俺も飲み物を飲みながら、アイツにも負けてしまうのかと苦笑を浮かべてしまう。相談してくれた順番が一番でも、相談してよかったと思われなかった事が少し悔しく感じる。話を聞いていなかった自分が悪いと、分かっていても。

 

 彼女の家を出て外に出ると、建物の外は眩しく感じるほどの光があって、片手で目に日陰を作りながら細める。

 はぁと短いため息を吐き出す。

 すでに、この時には彼女の特別な人はシェノスに決まっていた。俺に振り向く可能性は限りなくゼロに近い。手の届かないのなら、諦めようと思ってしまう。可能性が限りなくゼロに近くても、手を伸ばすのは・・・。

 『ため息吐くと幸運が逃げるぞ』

 『…君が羨ましい』

 『どこがだ?』

 呆れたような口調で声をかけてきたのは、さっき話に出てきた女遊びをしている等と言われていた青年だった。コイツなら、可能性がゼロに近いような恋愛でも、手を伸ばす事をやめなさそうだ。誰にでも優しい部分がある。本当に性格に魅力が皆無なら、好意をたくさんもたれる事もない。だから、特別になりたいと願う存在には、寂しい思いをさせてしまうのだろう。

 『誰にでも、優しいところが』

 ふっと青年は苦笑を浮かべている。

 『羨ましがるような事でもないぞ、これは。いつも良い面に受け取られるとは限らないからな。本当の優しさとも違う』

 『それは、どういう意味?』

 『あ、こんなところにいた!』

 コイツの弟が姿を見つけるとこちらに近づいてきた。銀髪に先端にいくほどに赤なるグラデーションがかかっているのは、特徴的な髪型だ。

 『家に話があるって女性が来ているから、早めに来て・・・って、逃亡しようと思っても無駄。自分で撒いた種は自分で刈り取る!』

 話の途中でどこかに逃亡しようとするコイツの首を、猫を捕まえる時のようにガシっとつかむと、そのまま、本人の意志とは無関係に引きずっていく。

 『すみません、今から少し用事があるので兄を連れて行きます。また、後にしてください』

 俺に軽く会釈をすると、弟君は嫌そうな表情を浮かべている兄をそのまま連行し、残された俺はそれを見送った。

 

 【5】

 

 口ケンカもよくしているが、本当に仲の良い兄弟だ。言いたい事を言えるから、口ケンカもよくできるのだろうなと思う。

 このまま何もしないで見送った後、何が起こったのかも後日聞かされた。この頃の彼にとっての彼女は、まだ、恋愛対象として自覚していない。自分でも彼女がどういう存在なのか、自覚が足りなかったのだと後日聞かされた事がある。

 

 この時の選択によって、違った結末になっていた。

  

 こういう自分の大切な選択の鍵は、自分では気づくのが難しく感じてしまうのは、心の素直な叫びを大人になるにつれて無視する機会が増えるからだ。その結果、鈍化してしまって、心がいろいろな打算で曇ってしまっているから、素直な気持ちに耳を傾ける事ができなくなってしまう。

 大事な選択の鍵を掴めている人は、自分の意志をいい意味で押し通せる強さがある心の持ち主なのかもしれない。

  

 『…待て!』

 走って兄弟を呼び止めると、不思議そうな表情を2人はしている。

 『自分の気持ちには素直になれ。今は、まだ自覚がないかもしれないけど、これから会うのは大切な存在だろ?伝えていない言葉があるのなら、伝えた方がいい』

 『…そうだな、そうするよ』

 苦笑を浮かべてそう言うと、そのまま自宅に向けて兄弟そろって歩き始めた。彼はそのまま片手だけあげると、ひらひらと軽く振ってみせる。

 『どうなったのかは、後で報告する』

 『分かった』

 安堵して笑みを浮かべる。これで、結果が少しは違うものになればいい。この時の出来事がどうしても未来にとって必要なもので、この当時に大きな違いがなかったにしても、今後、大きな違う結果に結びつけたい。

 小さな行動が積み重なって、違う大きな結果を呼ぶ事だってあるから。

  

 『…懐かしいか?』

 ふっとアイツの気配がして、声が心の中から聞こえた。

 『あぁ、懐かしいよ。でも、今思えば、後悔ばかりだ』

 苦笑してそう答える。

 後からこうしておけばよかったと後悔したところで、過去を書き換える事はできない。もう同じ後悔はしたくないと願ったところで、先に進めているのかどうかも分からずじまいだ。だから、俺は過去を書き換える事を願ったはずだ。

 『後悔できているだけ、前に進めているんじゃないのか?前に進めていないと不安になるのは、何時でも何処にいても同じだ。後悔を活かそうとするかしないか、心のありようが大切なんじゃないのか?』

 『言い返す言葉のないぐらい、正論だな』

 正論だからこそ、苛つかせる。

 『それでも、俺はやり直したい』

 『……』

 しばらく沈黙していたが、アイツの気配がふっと消えた。

 

 【6】

 

 男性の一人暮らしをしているマンションの一室は、必要な広さだけしかないが、必要最低限の雑貨しか置かれていないので狭さは感じられない。

 雑貨がなければ、人が住んでいる気配も感じられないような雰囲気の部屋で何か小さな声で静かに呪文を唱えている声が空気に染み込む。

 床に横たわって寝ている昴を、哀しそうな表情を浮かべている人影は、別の気配を感じてそちらに振り向く。

 ドアが開く音はしなかったのに、茶髪でショートカットの少女は静かにそこに立っていた。

 「…見つけた」

 『どうするつもりだ?』

 「よかったね、見つけたのが私で。ま、今回はシェノスも眠っていて動けないから、彼がこの場所に来る事もできなかったけど」

 『そうなるようにしたからな』

 少女がそこに音もなく立っている事に驚きはしなかった。彼女は、人ではない存在で、物質のドアなど鍵をかけていても何も意味はない。人であれば少しは時間稼ぎになったのかもれないが、使い魔と呼ばれる存在になっている彼女には意味がなくなっている。幽霊や魂だけの存在にとって、物質が何の意味を持たないのと同じだ。

 『シェノスも巻き込み、自分自身が消されないように、自分の後悔を書き換えるために私はこの時代に来た。本来呼び出されるものを強引におしのけて。安心してくれ、「昴」は本当に書き換えるような事はしていない。関係者全員に「夢」を見せているだけだ』

 昴が横たわっている。彼が眠ったまま涙を流しているのを見て、彼は嬉しいような哀しいような複雑な笑みを浮かべる。

 『この場所に来るのが、シェノスだった時、「昴」は「昴」ではなくなって別の存在になってしまったんだよ。今の君と同じように…』

 自分を嘲るような表情をうかべて、彼女を正面から見据える。茶色の瞳に写り込む自分の姿は、そこに横たわっている昴に面影のよく似た人の姿をしている。

 「なぜ、そんな事をしているの?」

 『今の昴には必要だからだ。過去を書きかえる事ができなくても、振り返って後悔のないように行動する事ができるから』

 「……」

 『無意味だと言いたそうだな。もう少しで終わるから、手を出さないでくれ』

 

 過去を書き換えると言う事は、関わった者すべての記憶に影響してくる。本人にとって些細な選択も、大きな流れの中では決して些細な出来事ではない。複雑にからまりあい、全員にとって必要な出来事だけが起こるようになっている。自分だけの問題ではない。

 もし、それをしようとすれば、無傷ではすまない。

 その結果、私は、人ではない存在になってしまった。今となってはなぜ

 あんなバカな事をしたのか悔やまれてならない。

 

 【7】

 

 無意味な事だという人もいるだろう。実際には書き換える事ができずに、夢を見ているだけだ。その「夢」が、ただの夢ではないのは、全員で見ているという事が違うだけだ。それだけが違うのに、関係者全員の過去の記憶が同じ出来事を見る事が特別な事のように感じた。

 『…なるほどね』

 神野は目を開け、懐かしい過去の自分の部屋を見てそう言った。

 関係者全員の過去をすべて書き換える事ができなくても、関係者全員を夢の中に誘いこみ、あの頃の記憶を全員で別の過去の認識をする。過去の事実を書き換える事はできなくても、魂の記憶を全員で夢を見て共有する事によって書き換える事をするのは、偽物の書き換えだと言う事もできる。

 『今度は、この方法を使ったのか』

 苦笑を浮かべながら、起きあがると彼女が部屋に入って来た。

     

 『過去に戻れば、過去が「今」になる。君は、過去は確定されているものだと言ったな?それは、未来から見た過去の話だ。「今」になれば、未来は選択によって違う未来になる。過去を書き換えるという事は、今から未来を選びとるのと同じくらい不安定で不確定だ。結局のところ、選びとる事は変えようがない真実だ』

 アイツが誰なのか俺は知ってしまった。

 アイツは、俺だ。

 『だから、俺はもう一度過去を変える事にした。本来、俺が契約する相手は俺ではない』

 無意味な事だという人もいるだろう。実際には書き換える事ができずに、夢を見ているだけだ。その「夢」が、ただの夢ではないのは、全員で見ているという事が違うだけだ。それだけが違うのに、関係者全員の過去の記憶が同じ出来事を見る事が特別な事のように感じた。

 『…なるほどね』

 神野は目を開け、懐かしい過去の自分の部屋を見てそう言った。

 関係者全員の過去をすべて書き換える事ができなくても、関係者全員を夢の中に誘いこみ、あの頃の記憶を全員で別の過去の認識をする。過去の事実を書き換える事はできなくても、魂の記憶を全員で夢を見て共有する事によって書き換える事をするのは、偽物の書き換えだと言う事もできる。

 『今度は、この方法を使ったのか』

 苦笑を浮かべながら、起きあがると彼女が部屋に入って来た。

 記憶が2つあるという事は、奇妙な感覚する。どこが遠くを旅をして戻ってきたかのような感覚だ。この選択とあの選択の結果を知っている感覚は二度と味わいたくない不快感がする。

 『なぁ、もう一度過去をやり直せる方法があとしたら、使ってみたいか?』

 『…何よ、いきなり。そうね、使ってみたくはない。自分の選択は自分でするものだから、選択で変えるのなら未来を変えたい』

 『そうか、君らしい答えだな』

 『そうでしょ?』

 にやりと笑みを彼女は浮かべている。

  

 過去を書き変える事はできない。

 当たり前の常識として存在していた。当たり前の共通認識として刷り込まれてきているが、科学の力で時空を越えて旅をする事も夢見る人もいただろう。

 では、過去を書き変える事のできないと決めた、何者かはなぜ時間の流れが一本の川の流れのように淡々と流れていくだけのもので、一本しか存在していないかのように見せてきたのか。

 やり直せるものだとみんなが認識してしまったら、賢明に生きようとしなくなるかもしれない。一度きりで限りのある命だから、自分にとって無意味だと感じるような生き方はしたくなくなる。すべてを創り出した者は、すべて計算して過去を書き変えられないという事実を創り出そうとしたのだろうか?

 

 【8】

 

 過去を書き換える事ができない理由がどういうものなのか、正解を知る事は、限りなく不可能だろう。すべてを創り出した「神」という存在が居るのなら、その存在に質問しての返答が一番の正解だが、なかなか質問する事も返答をもらう事も難しい。

 その事を分かっていながら、昴だった俺は質問の答えを探し続けた。そして、一つの結論を出した。

 

 懐かしい世界が広がる夢の中、過去の自分はやるせない表情を浮かべていた。

 『どうした?』

 『…また、来たのか。結局、俺は未来を変える事ができたのか?あれから、知っていて何もできずに後悔していた選択する場面には、違う選択をしてきた。だけど、本当にこれでよかったのか、確信がもてない』

 『……過去に戻れば、過去が「今」になる。君は、過去は確定されているものだと言ったな?それは、未来から見た過去の話だ。「今」になれば、未来は選択によって違う未来になる。過去を書き換えるという事は、今から未来を選びとるのと同じくらい不安定で不確定だ。結局のところ、選びとる事は変えようがない真実だ』

 今までぼんやりとしか姿を見せてなかったが、実体をともなって彼の前に姿を見せる。彼は驚いた表情を浮かべたが、すぐに苦笑を浮かべる。

 『やっぱり、俺か。なぜだか、そんな予感がしていた。何のために、過去に戻ってきた?』 

 『もう一度過去を変える事にしたからだ。本来、俺が契約する相手は俺ではないし、ここを探してあてたのも陸ではなく神野だ。神野が、俺をとめた。だから、今の俺はこういう存在になった。自我があるけれど、今の俺はただの「力」の塊だ。人間として生きる事もできないし、長い生がどこまで続くのかも分からん』

 『それでも、変えられる事があると思っているのか?』

 『あぁ』

 『……一つ、頼みたい事がある。元の時代に戻してくれ、全員』

 『分かった』

 呪文を唱えると同時に彼の姿がだんだん薄くなっていき、この世界から完全に消えた。

 意識を現代に戻すと、彼がゆっくりと目を開け、立ち上がると近くの椅子に座った。

 「全員、夢の内容は覚えているのか?」

 「詳細に覚えているのかどうかは別にするなら、覚えているだろうな。そんなに簡単に魂の記憶は完全に消し去る事はできない」

  

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