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かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  作者: 秦本幸弥
第9章 魔法書店編
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8.エピローグ

「――という訳で、僕とサラは結婚することになりました」


 湧きおこる盛大な拍手。

 テーブル席が六つしかない『アロルドのパスタ亭』には、入りきらないほどの人が集まっている。

 幸助とサラの結婚記念パーティーが開催されている。


 貴族から平民まで。

 老人から子どもまで。

 その誰もが大なり小なり幸助から影響をもたらされている。


 幸助とサラは皆の正面に立ち、結婚のあいさつを終えたところだ。

 今日のサラは真っ白なドレスである。

 真っ赤な髪とのコントラストが美しい。


「ううううぅぅ、サラぁ」


 大粒の涙を流しているのはアロルドだ。

 いつか来るとは覚悟していた。

 だが、心のどこかで来なければいいと思っていたのも事実だ。

 めでたいことと寂しいことが同時に訪れ、複雑な心境のアロルドであった。


「アロルドさん、他の町に出る訳ではないですしお別れじゃないんですから……」

「お前、うぅ……。サラを不幸にしたら承知しないからな」

「分かってますって」


 功績が認められた幸助は、褒章とは別に領主から立派な家を与えられた。

 もともとは騎士の家だったそうで、部屋は十室もある大きな家だ。

 そこが二人の新居となる。

 二年間お世話になった宿ともお別れだ。


 幸い、これまでに魔法で身を守らないといけないような事態は起こっていない。

 幸助自身、アレストリアの店で練習する時以外は使わないようにしている。


 この能力がもとで争いごとにでも狩りだされたらたまらない。

 魔法の発動はできたとしても、運動音痴なのだから。

 だから魔法のことは二人だけの秘密だ。




 パーティーの主役、幸助とサラそれぞれの周りには人だかりができている。

 招待客が思い思いの言葉をかけている。


「おめでと、コースケ」


 幸助のもとにやって来たのはルティアだ。

 胸元がざっくりと開いたドレスを着ている。


「ありがとうございます。ルティアさんにもずっとお世話になりっぱなしで……」

「何言ってるの。コースケのおかげであたしもこうやって店を続けられてるんだから」




「おめでとなの!」


 ルティアと話していると元気な声が飛び込んできた。

 声の主はパロだ。

 その横には武器屋の店主でありパロの父、ホルガーもいた。


「ありがとう、パロ。ホルガーさんもありがとうございます」

「おう」

「パロ、アロルドさんがおいしい料理いっぱい作ってくれたから、いっぱい食べてね」

「はいなの!」


 ホルガーの武器店はその後、騎士団からも冒険者からも絶大な信頼を勝ち取っている。

 結果、数名の鍛冶職人が勤める大所帯となっている。




「おめでとうございます。コースケさん」

「フフッ。この日が来るのが待ち遠しかったよ」

「ありがとうございます」


 続いてやって来たのは、領主令嬢アンナと魔道具店のニーナだ。

 当初はこの店に貴族令嬢がいることに違和感があった。

 だが、この二人はもう常連だ。

 完全に溶け込んでいる。


 しかし今日は違う。

 この町で一番偉い人、領主アルフレッドまで来ているのだ。


「領主様まで来ていただいて、何だか恐縮です」

「気にしないで。これからも深く世話になるんだからね。それにもうすぐ始まるよ、新しい魔道具ビジネスが……」


 そう言うと、アルフレッドは幸助に耳打ちする。

 それを聞いた幸助は目が点になる。

 領主は幸助の背中をポンとたたくと、アンナのもとへ戻っていった。




「んもー、コースケちゃんったらぁ。久しぶりに連絡くれたと思ったらびっくりよ」


 体をくねらせながらそう言ったのは隣町の造船工房店主、ウィルゴだ。


「お久しぶりです、ウィルゴさん。その後、商売はいかがですか?」

「組合に帰ったから注文がもらえることはもちろん、無償で貸し出したでしょ? 在庫の船。あれね領主様が一括で買い取ってくださったの。だから安心して」

「へえ、すごいですね! それを聞いて安心しました」

「じゃ、また後でね!」


 幸助にウィンクすると、ウィルゴはサラのいる場所へと向かった。




「おめでと、コースケ君。めでたい席に呼んでくれてありがとう」

「めでたいの?」

「めでたいよ!」

「アラノさん、それに皆さんもありがとうございます」


 靴屋であるアラノ一家も来てくれた。

 ココとミミはそれぞれ水色とピンクでフリフリの可愛らしい衣装を着ている。

 アラノの店は、あれからも競合店との棲み分けはうまくいっている。

 今では噂を聞きつけて、遠方からもわざわざ来店してくれるようになったくらいだ。




「コースケさん、おめでとうございます」

「コースケ、約束通り呼んでくれてありがと」


 続いて幸助の声をかけたのは王都の魔道具店店長アリシアと、レストランオーナーのカレンだ。

 今日のために、王都からわざわざやって来てくれた。

 二人とも従業員がそれなりにいるので、店長が長期間抜けても店は回る。


「わざわざありがとうございます、遠くから」

「全然気にしてないよ。こうやって二人で来ることもできたしね」

「はい。その通りです」


 笑顔で顔を合わせるアリシアとカレン。

 久しぶりに友人と旅行を兼ねてのパーティー参加だ。

 二人の店は、幸助が関わってからそれほど時間は経過していない。

 今後の発展が期待されるとこだ。


 アリシアとカレンが料理のあるテーブルへ向かうと、幸助の前からは人がいなくなった。

 さて、自分も料理に手を伸ばそうと思った時、魔法書の番人アレストリアと視線が合った。


 言葉は交わさない。

 だが、視線を交わすだけでお互いの気持ちは通じる。

 あの表情は、これからもキャラメルを持ってこいという顔だ。

 幸助は黙って頷く。




「コースケさん、お疲れ様」

「サラもお疲れ様」


 友人たちのお祝いの嵐から解放されたサラが近づいてきた。

 幸助の横に立つと、その腕をとる。

 お互い顔を見合わせると、サラは恥ずかしそうにはにかむ。

 そんな姿がまた愛おしく感じる幸助。


「私たちこんなに多くの人たちのお店を改善してきたんだね」

「だねぇ。僕も信じられないくらいだよ」


 感慨に浸る幸助とサラ。

 ここにいる店主たちは、幸助と出会うことで人生まで大きく変化した。

 店主だけでない。家族や従業員たちの人生も変わった。

 それは、その店の商品を買う顧客たちすべてにも影響している。


 それもこれも、幸助が今まで通ってきた過去があってこそだ。

 心の中でそのこと思い起こす。


(職場の先輩には感謝だな。右も左も分からなかった僕を、自立できるまでに育ててくれたんだからな……。でもやっぱり魚屋に生まれなければこの仕事をしてなかったんだし。人生ほんとにどうなるか分からないよなぁ。ってことは両親には感謝しかないな。

 親父、母さん。とうとうこの日を迎えることができました。この姿を見せられることができなかったのは残念だけど、僕は幸せです。育ててくれてありがとう。生んでくれてありがとう。これからもこの世界で精いっぱい生きていきます。応援しててください!)


 幸助は集う人たちの笑顔を眺める。

 カレンは念願のカルボナーラに舌鼓を打ち、アレストリアとパロはケーキでとろけている。

 早くしないと自分たちの分がなくなりそうだ。


「サラ。僕たちも食べようか」

「うん!」


 二人はフォークを手に取ると、料理の争奪戦へ参戦する。




 こうして、幸助の異世界奮闘劇は一つの区切りを迎えることとなった。


 様々な店を改善してきた。

 大きなことにも巻き込まれた。

 これから先、もっと大きな案件に関わることは間違いない。


 強い人脈を手にすることができた。

 使いきれないくらいのお金も手にしている。

 そして一生を添い遂げたいと願う女性――サラとも結ばれた。


 だが、これからも幸助のポリシーが変わることはないだろう。

 ――それは困った商売人の力になりたいということ。


 商売人の笑顔を取り戻すため。

 きっとこれからも町のどこかで宣言する違いない。


「あなたのお店、僕が流行らせてみせます!」




 かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  ―完―


 とうとう完結しました。

 最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

 こんなに多くの方に読んでいただくことができ、感謝の念にたえません。


 連載を始めたのは約一年前。

 自分の専門分野である商売をテーマに、流行りの異世界物を書いたらどうなるのだろう。

 連載を始めたのはそんな軽い気持ちからでした。


 ですが、いざ書いてみると難しいものですね。

 幸助の異世界で生きる目的が弱い。

 キャラが思う通りに動いてくれなかった。

 世界観の練り込みがあいまいだった。

 そもそも異世界に行く必要があったのか。

 などなど……。

 反省点は多々あります。


 それでも、これだけの方が読んでくださるというのは力になりました。

 初めてのポイント、コメント、ランキング入り、書籍化打診の知らせが入った時など、一喜一憂したことを昨日のことのように思い出しました。


 当初はもっと続ける予定だったのですが、業種やキャラは違えどお店で取り組む改善手法など、それほど大差ないことばかりです。

 原則は、集客して買ってもらう。その客に繰り返し来てもらう。

 これだけです。


 同じ手法を物語で繰り返し使ってもマンネリ化しそうだったので、このあたりがやめ時かなと思った次第です。




 本作の舞台は産業革命前夜です。

 これからもどんどん新しい魔道具が出て、人の暮らしを豊かにしていくことでしょう。

 それと同時にいろいろ失う人も出てくるのは間違いありません。

 魔道コンロのライバルとなった薪屋などように。


 世界観としては未来の地球という設定になっています。

 科学文明が衰退し、魔法文明が勃興したという設定です。

 場所はスペイン辺り。


 それに気づいた幸助が、ここから日本まで冒険の旅に出たりという別な話も思いつきましたが「改善」というテーマとかけ離れるのでそれは止めておきます……。


 サイドストーリーなどを更新することはあるかもしれませんが、本編はこれにて完結とします。

 本当にありがとうございました。


 秦本幸弥


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かった!! 帰れそうにないことは残念だったけど。 幸せにやっていけるなら良かった。
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