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かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  作者: 秦本幸弥
第9章 魔法書店編
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1.謎の少女

 夜の訪れが日に日に早くなる季節の、とある日の夕方。

 黒い外壁に小さな窓が四枚はめられたお洒落な店の前に、乗合馬車が停まった。


「懐かしいなぁ」

「コースケさんはすっごく久しぶりだもんね!」


 馬車から降りてきたのは幸助とサラだ。

 二人は久しぶりにアヴィーラ伯爵領へ帰ってきた。

 サラは王都のレストランに勤めるセリカの修行で一度帰ってきたが、幸助は同行していなかった。


 王都へ発ったのは春。

 実に季節は二つも巡っている。

 当初は魔道具店の販売を手伝いがてら観光をするという予定であった。

 それが、偽魔石の事故や廃業寸前のレストランオーナーと出会ったことで状況は一変。

 苦しく忙しい毎日を過ごすこととなったのだ。


 ようやく帰ってこれた。

 幸助は感慨深く『アロルドのパスタ亭』と書かれたプレートを眺める。


 ギィ。

 懐かしい音と共にドアが開く。

 薄暗い店内には既にランプが灯されていた。

 所狭しと並んだテーブルが淡く照らし出されている。


「アロルドさん、お久しぶりです」

「ただいま! お父さん」

「おう! 帰ってきたか」


 厨房にいたアロルドが二人を出迎える。

 以前のような感極まった様子はない。

 娘が長期間外出することにも慣れてきたようだ。


「で、その後はどうだったんだ」

「王都のレストランはうまくいきました」

「ちゃんとお店の人たちだけでメニューの問題も解決できたしね」

「そうか……。それは良かった」

「逆に修行がうまくいかなかったから、店の皆で解決できたってのもありますしね。……うん?」


 ここで幸助は厨房わきに置かれている紙に気付く。

 材料や調理法などが書かれている。どうやらレシピのようだ。


「アロルドさん、これ新作のレシピですか?」そう言いながらレシピを手に取る幸助。

「あっ、お前には関係ない!」


 慌てて乱雑に紙を取り上げると、ぐちゃぐちゃに丸めてポケットにしまう。

 レシピは料理人の命だ。

 その扱いにサラは「えっ」と声を漏らす。


「それはボツになったやつだ」

「そ、そうですか。ならいいんですが……」


 実は、アロルドはセリカの修業がうまくいかなかったことを気にかけていた。

 このままではサラだけでなく幸助も困るだろう。

 そう思い、せめてレシピだけでも送ろうと考えていたのだ。

 残念ながらそのレシピが日の目を見ることはなくなってしまった。


「おし、お前ら腹減っただろう。何か作ってやるから待ってろ」




 その後、幸助は久々のアロルドの味に舌鼓を打つ。

 トマトバジルパスタに、ハンバーグもしっかりと食べた。

 さて、住み慣れた宿に戻ろう。幸助がそう思った時、アロルドが小皿を持って来る。


「アロルドさん。これ、何ですか?」

「試してみろ。新作の菓子だ」


 皿の上には濃いクリーム色でサイコロ状のものが何個も載っていた。

 幸助はそれを一つつまむと口に放り込む。

 柔らかく甘い味わいが口に広がる。

 それは、生キャラメルそのものだった。


「うん、おいしいですね! 久しぶりに生キャラメル食べましたよ」

「何だ、またお前は知ってたのか」


 幸助を驚かしてやろうと考えていたアロルドは肩を落とす。


「い、いえ。僕ではレシピも知らないし作れなかったですから。すごいですよ、アロルドさん! 日々進化してますね」

「お父さん、おいしいよ!」

「そ、そうか……」


 ポリポリと頬をかくアロルド。

 いつもの雰囲気が返ってきたことでホッとする幸助。

 やはりここが落ち着く場所なのだと再確認する。



   ◇



 翌朝、しっかりと寝た幸助は宿で遅めの朝食を済ますと、メインストリートを西へ向かう。

 小麦屋を営むルティアの店へ行くためだ。


「何だか活気が増えた気がするな」


 歩きながら町の様子を観察する幸助。

 王都へ発つ前よりも、賑わいが増したように感じる。

 特に馬車の数は確実に増えている。

 今までであればパラパラと見かける程度だったのが、列をなして石畳を駆け抜けている馬車まである。


「お久しぶりです、ルティアさん」


 宿からルティアの店までは徒歩五分程度だ。

 あっという間に到着した。


「あら、コースケ。久しぶりね」

「ようやく王都から帰って来ました」

「どうだった、レストラン? サラちゃんから大変だって話は聞いたんだけど」


 修行に帰っていたサラから、王都の様子は聞いていたルティア。

 それにアロルドの店で修行している様子を目にしている。

 順調そうな様子ではなかったことを気にかけていた。


「はい。何とか無事に終えることができました」

「ふふ。やっぱりコースケは何でもできちゃうのね」


 そう言いながら、しっとりした紫の髪をかき上げるルティア。

 まだ秋口だ。

 薄手のルティアを相手に目のやりどころに困る幸助。

 もう少し下へ視線をずらしたいのをぐっとこらえる。


「えっと、ルティアさんの商売は順調ですか?」

「コースケのおかげで順調そのものよ」


 相変わらずルティアの店は、オリーブオイル不足が続いている。

 親戚が生産するほとんどをこの店でさばいている状況だ。

 それに、魔道コンロの普及率も右肩上がりで上昇中。

 消耗品である魔石からの収益もバカにならない。


「それは良かったです。何だか王都に行く前よりも町に活気が溢れてる感じがしますしね」

「周りの町や村から人が集まってるみたいよ。ほら、コースケが魔道具の普及、頑張ったでしょ。だから仕事がたくさんあるみたいなの」

「へえ、それはすごいですね!」

「それはすごいって他人事みたいな言い方ねぇ」


 魔道具が国中に広がるにつれ、アヴィーラ伯爵領は「魔道具のメッカ」というイメージが急速に広がっている。

 最先端の町ならば仕事もあるはず。

 その期待感から、国内から多くの労働者が流れ込んでいる。


 実際に仕事も多い。

 大規模な魔道具工場も稼働している。

 出稼ぎ労働者が住まう住宅も宿屋も供給不足の状況だ。


 アヴィーラ伯爵領では今、良い循環が起きている。

 冒険者は魔石の採掘に。

 鍛冶屋は魔道具のパーツ作成に。

 出稼ぎ労働者は魔道具の組立や金属の採掘、精錬に勤しんでいる。

 それを引き起こしたのは他ならぬ幸助だ。


「それにね、住宅街の端のさびれた場所に新しい市場もできたの知ってる?」

「新しい市場、ですか?」

「そうなの。揃えられないものは無いくらい商品が充実してるの」


 あたしはまだ一回しか行ってないけどね、とルティアは続ける。

 人も増え、新しい市場もできた。

 これは幸助に行かない理由はない。


「ルティアさん、いい情報をありがとうございます。早速行ってみます!」

「あら、もう行っちゃうの? 早すぎない?」

「あ、えっとですね……」




 その後、小一時間ルティアと雑談をすると、幸助は店を後にする。

 ルティアに教えられた通り、新しい市場行きの馬車に乗る。

 公営の乗合馬車でなく、市場の運営者が提供しているのだそう。


「へぇ、アウトレットモールみたいだな」


 着いた場所はアヴィーラ伯爵領の南西側。

 魔物除けのため町を囲う外壁のすぐそばだ。


 もともと何もなかった場所に、木造の真新しい店が数えきれないくらい並んでいる。

 町の至る所をつなぐシャトルバスならぬシャトル馬車もある。

 建物のスタイルは違うが、王都にあるカレンの店の向かいにあった商業施設のようだと感じる幸助。


「ほらあなた、こんな滑らかな真っ白の手袋が買えたわ。貴族様になった気分よ」


 楽しそうな客の声が幸助の耳に届く。

 人の数も店の数も多い。評判も上々のようだ。


「さて、どこから行こうかな」


 モール内を目的もなくぶらつく幸助。

 レストランやテイクアウトの屋台を始め、服屋、食品店、金物屋など、本当に生活に必要なものは何でも揃いそうな勢いだ。

 それだけでなく、冒険者向けの装備を売る店まであった。


「あ、こんな店もあるんだ」


 そんな中、幸助はある店の前で足を止める。

 看板には「魔法屋」と書かれている。添えられたイラストは杖とローブの絵だ。

 武器屋はホルガーの店で深く関わった。

 だが魔法にふれることは、まったくなかったことを思い出す。

 召喚直後に適性がないと言われてはいたものの、興味をひかれた幸助は魔法屋に入る。


 真新しい店に入ると、木の香りが幸助を包む。

 間口は狭く奥行きが長い、ウナギの寝床のような店だ。

 店員を横目に奥へ進む。

 壁面には魔法使いの杖やローブなどが所狭しと並んでいる。

 その価格はどれも金貨二桁。

 魔法使いは希少なため、単価も相応に高くなっているようだ。


 更に奥に進むと、お香のような別な香りも混ざってきた。

 陳列されている商品は、装備から小物へと変わっていく。

 魔石のようなものもあるが、幸助にはそれらが何の道具なのかは皆目検討がつかない。


「あっ、本だ」


 店の一番奥には、棚一本分の本が並んでいた。

 高いところに並んでいる本には柵がついており手に取れなかったが、下の方は柵がない。

 その中の一冊を手に取る幸助。

 タイトルには「初級火魔法入門」と書かれていた。


 幸助が手に取った本は、魔法書と言われているものだ。

 新たな魔法を身に付けるには、魔法書を使うことが必須となる。

 もっとも、本人の適性もあるため、魔法書があってもほとんどの人が使えないのが現実だ。


「せっかくの異世界なのに魔法使えないのかなぁ」


 ペラペラとページをめくるが、それほどページ数は多くない。

 それも抽象的なことばかり書かれており、イマイチ使い方が分からない。

 そのため幸助は店員に声をかける。


「すいません、これってどう使うんですか?」

「それはね、魔法書に手をかざして最初のページに書かれている呪文を読み上げるの。そうすれば魔法書の魔力があなたに移る感覚があるはずよ。あとは次のページに書かれたことを練習して、発動できるように頑張るの」


 もちろん魔法の適性がないとダメだけどね、と店員は続ける。


「これっていくらですか?」

「入門書は金貨一枚に大銀貨二枚よ」


 男子の夢である魔法を放つことができるなら金貨一枚少々など安い。

 一度でいいからこの手から火をぶっ放してみたい。

 そう思った幸助は、購入を決める。


「では、これ買って帰ります」

「はい、ありがとね!」


 魔法屋を出ると、幸助は先ほど見つけた肉串の屋台へ向かう。

 小腹がすいたためだ。


 何の肉があるのかなと楽しみに想像しつつ歩いていると、果物屋の前で緑色のポンチョを纏った少女が目に留まる。

 フードには耳がついている。

 カエル変装グッズのようだ。

 背格好は小学生中学年くらいだろうか。

 キョロキョロ辺りを窺っている。


(あの子、怪しいぞ)


 幸助がそう思った矢先、少女はリンゴらしき果物を懐へ入れると、そのまま走ってモールの外へ向かう。

 案の定、万引を働いた。

 万引は窃盗だ。

 店へ与えるダメージも小さくない。

 仮にポテチ一袋を万引きされた場合、同じものを四袋は売らなければ損失は取り返せないのだ。


 正義感から追いかける幸助。

 小学生くらいならすぐに追いつくだろうと高をくくっていたが、距離は縮まらない。

 あっという間にモールの外へ出て、更には魔物除けの外壁の隙間から外へ出ていってしまった。


「えっ!? 外に行くの危ないんじゃ……」


 幸助も腹を引っ込め狭い隙間から外へ出る。

 追いかけること数分。

 少女は、穀倉地帯に場違いのごとく生い茂っている小さな森の中に消えていった。


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