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かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  作者: 秦本幸弥
第8章 高級レストラン編
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8.笑顔が溢れるレストラン

「久しぶりねぇ、ここに来るのも」

「ああ、そうだな。以前と雰囲気は変わってなさそうでホッとするよ」


 ある日の夕方。

 カレンの店の前で、身なりのよい夫婦が足を止めた。


「でも大丈夫かしら。私たちの記念日がここで……」

「生まれ変わったって言ってたんだから信じてみようよ。これでダメだったらもう忘れればいいんだからさ」

「それもそうね」


 迷いの吹っ切れた女性がドアを開ける。

 この日初めての来店だ。

 エントランスで待機していたカレンが客を迎える。


「いらっしゃいませ」

「先日声をかけていただいたアイナですけど早速来てみたよ。カレンちゃん、元気そうね」

「あ……ありがとうございます!」


 カレンの記憶にはなかったが、この客の記憶にはカレンのことが残っていた。

 耳にした客の名前をしっかりと焼きつけつつ、席へ案内する。


 客が来店してくれた経緯はこうだ。

 幸助達は顧客データベースの整備ができた後、すぐに営業活動を行った。

 大量の名簿の中でも、当時の来店頻度が高く家の場所が判明している人をピックアップ。

 そこへ従業員が手分けして訪問をした。


 残念なことに既に引っ越ししていたり、亡くなっている人もいた。

 それでも、多くの人へ声をかけることができた。

 名簿の、いや、祖父の記憶の正確性には驚かされるばかりだ。


 営業活動を行う際「店に来てください。なぜなら――」と動機づけするため、海鮮料理も用意することができた。

 しかし、レシピを開発する時間の余裕はなかった。

 そのため幸助が領主のコックに頼み込み、屋敷のレシピを教えてもらったのだ。


 すべての準備が完了したのは、幸助とカレンが約束をした期限の一週間前。

 それから既に六日が経過している。

 少しずつ売上は増えているが、まだ目標は達成していない。

 今日中に、一日の売上が金貨二枚を超えなければならない状況だ。


「えっと、アイナさんの名簿は……あったあった」


 大量の名簿の中から該当の名簿を取り出すカレン。

 そこに書かれている内容に目を通す。

 奥さんは肉の生焼けが苦手で旦那さんは逆にレアが好み。

 そしてなんと今日この日が二十五回目の結婚記念日であった。


 もらった注文は、肉と魚の両方が楽しめるコース料理だ。

 オーダー内容と併せて必要事項をキッチンへ伝達する。




 時間は少し経過し、店内にはパラパラと客の姿が見られるようになった。

 最初に来店した二人のテーブルは前菜、スープを経ていよいよメインの一つ、魚料理を提供するタイミングとなった。


「お待たせいたしました。本日のお魚料理、シーバーのマガラ風を白ワインソースでどうぞ。お取り分けいたします」


 領主の館で幸助が食べたのと同じ、アクアパッツァ風の料理だ。

 焼き色のついた魚の半身に貝とトマトが散りばめられた、王都では珍しい料理に二人の視線は釘付けだ。


 カレンが小皿に取り分けると、二人へ配膳する。

 それらをおいしそうに、あっという間に平らげる。


「王都でこんなお魚料理が食べられるなんて幸せね」

「時代は変わったものだなぁ」


 感慨深く感想をこぼす。

 海鮮料理は気に入ってもらえたようだ。


 口直しの後は肉料理だ。

 提供された肉に男性がナイフを入れる。


「あれ、僕の肉、レアだけど大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ。私のはしっかりと火が通ってるわ」

「いつの間に焼き加減を伝えてたんだ」

「いいえ、聞かれなかったから言ってないわ」

「へぇ、よく覚えていてくれたな……」


 おいしい時間はあっという間に過ぎ、最後のデザートがやって来た。

 皿がテーブルに置かれた瞬間。女性は目を見開く。


「まあ、素敵!」


 デザートそのものはよくある果実を調理したものだ。

 だが、皿にはソースで「結婚二十五周年、おめでとうございます」と書かれている。

 同時に、手の空いている従業員たちが「おめでとうございます」の声をかける。

 祖父の情報が無ければできない業だ。


 程なくして、すべてのメニューを食べ終えると二人は帰り支度をする。


「今日はここに来て良かったわ」

「とてもおいしかったよ」

「ありがとうございました」


 カレンや他のウェイトレスたちに見送られ、夫婦は笑顔で帰る。

 接客テーマである「記念日の演出」はうまくいったようだ。

 この様子ならきっと繰り返し来店してくれるであろう。


 カレンがあわただしくしている間にも続々と来店は続いていた。

 サラと幸助も応援に入ることになる。


「この皿の量なら目標達成いけるんじゃないか」


 厨房で額に汗を浮かべ、必死に皿を洗いながら幸助は手ごたえを感じる。

 蛇口を捻れば水が出る訳ではないので重労働だ。




 開店から四時間。

 あっという間に閉店時間はやってきた。

 最後の客を見送ると、カレンの周りに幸助達が集まる。


「今日は賑わいましたね、カレンさん」

「すごかったよ、コースケ! こんなに忙しい日はどれくらいぶりだろう」

「早く売上、数えてみましょう」

「だね!」


 テーブルに大銀貨や銀貨を積み重ねていくカレン。

 一二三とその数を数えていくと、次第にんまりとした表情へと変化していく。


「計算できたよ」

「どうでした……?」


 皆の視線がカレンに注がれる。

 静まり返る店内。

 ゴクリと唾を飲み込む幸助。


「大銀貨十八枚……」


 目標は金貨二枚分だ。

 大銀貨の場合二十枚が必要である。


「それに銀貨が……二十五枚! 目標、達成だよ!!」


 ワーッと従業員たちから歓声が湧きおこる。

 その表情は様々だ。

 充実した表情を浮かべる者。満面の笑みを湛える者。

 料理長に至っては涙ぐんでいる。


 カレンに目を向けると、必死に何かをこらえているようだ。

 幸助も久々の充実感に満たされている。

 隣を向くと、サラも同じ気持ちのようだ。


 二人とも一時は失敗を覚悟した。

 修行の失敗にリニューアルオープンの失敗。

 今までになく困難な道のりであった。


 道のりが困難であったからこそ、その喜びも大きい。

 幸助はサラと視線を合わせると、パチンとハイタッチをする。


 こうしてカレンの店の改善は、成功裏に終了することとなった。



   ◇



 一週間後。

 カレンの店のドアには「本日貸し切り」のプレートが掲げられている。


「では、売上目標達成を祝して乾杯」

「かんぱーい!」


 冷えたエールをゴクゴクと一気に飲み干す幸助。

 営業中は気を遣ってゆっくり飲んでいたが、今夜は関係ない。

 身内だけで行う打ち上げの場なのだから。


「ぷっはぁ! やっぱりこの一杯のために僕は働いてるんだよ!」


 結局、初めて売上目標を達成してから連日、その記録を更新し続けた。

 名簿はあるが住所が分からなかった客も、噂を聞いてきてくれるようになった。

 まだ満席には程遠いが、今までのことを考えれば大成功である。


「うれしかったのです!」

「僕もです。こんなに喜んでもらえるだなんて……感無量です」


 晴れやかな表情のセリカと、腕を目に当てる料理長。

 二人は誰よりも長くこの店にいる。

 良い時も悪い時も経験した。

 感動もひとしおだ。


「料理長、涙もろいの」

「う……うるさいやい」


 テーブルの上にはオードブルがたくさん並んでいる。

 それぞれの料理に舌鼓を打つ従業員たち。

 幸助は従業員それぞれにねぎらいの言葉をかける。

 一通り幸助が回ったことを確認すると、グラスを手にしたサラがやって来る。


「やっぱりコースケさんはすごいね!」

「サラもよく頑張ったよ」

「ありがと!」

「海鮮料理でお客さんに喜んでもらえたのもサラのおかげだしね」

「じゃあ、乾杯しよ、コースケさん」


 二人で小さく乾杯をし、エールを飲む幸助。

 そんな様子を見ていたカレンが口を挟む。


「相変わらず仲いいねぇ。で、お二人さんはいつ結婚するの?」


 ぶーーー!!

 盛大にエールを噴き出す幸助。

 一部が鼻に入りゴホゴホとむせる。

 サラはサラで顔を真っ赤にし、呆然と立ち尽くしている。


「カカカカカカレンさん、何を突然!?」

「そ、そうですよカレンさん……。私たちまだそんな話全然」

「何だ。まだ婚約もしてないのか。結婚式にはぜひ呼んでくれよな」


 わははっと笑うとカレンはバンッと幸助の背中を叩き、料理をつつきに行く。

 二人きりになった幸助とサラ。

 一瞬顔を見合わすが、恥ずかしそうに顔を逸らす。

 どうしたらよいか分からず、幸助はごまかすように目の前の料理に手を伸ばす。


「ほら、サラ。これおいしいよ」

「う、うん……。ほんとだ!」


 その後も「これもおいしいね」などと仲良く料理をつつく幸助とサラ。


 他の従業員たちもワイワイと楽しそうに過ごしている。

 今まで何をやっても認めてもらえなかった従業員たち。

 それが幸助から、カレンから。そして何より客から認められたというのは大きかった。

 初めての大きな達成感に包まれている。




 テーブルの上のオードブルがあらかた皆の胃に収まった頃。

 酔っぱらったカレンが再び幸助に絡んでくる。


「なぁ、コースケぇ」

「ど、どうしました?」

「あたしってさー、この仕事向いてないよねー」

「えっ、突然どうしたんですか?」

「だってさー。接客は下手だし料理もできないんだよ。あたしなんて、いなくても良くないかい?」


 相当飲んでいる様子だ。

 普段は極端なほど行動派のカレンの思考が、後ろ向きになっている。


「カレンさんができなくても、セリカさんのように接客ができる人もいるし、料理長のように素晴らしい料理ができる人もいるじゃないですか」

「ショック! どーせ、どーせ、あたしなんて店にいる価値ないってことだ」


 大げさに首を左右に振るカレン。

 励ますつもりが追い打ちをかけてしまった。

 今度はしっかりと言葉を選んでから発言する。


「カレンさん、仕事は適材適所ですよ」

「てきざい、てきしょ……?」

「はい。料理が得意な人が厨房に立ち、接客が得意な人がホールに立つ。レストランの仕事は他にもいっぱいありますよね。カレンさんはカレンさんが輝くポジションで頑張ったらいいんですよ」

「あたしが輝くポジションねぇ」


 今回の改善を経て、顧客データベースの整備も重要な仕事の一つとなった。

 食材や酒の調達も、料理の出来を左右する重要な仕事だ。

 他にも経理やマネジメントなど、やるべき仕事は多い。

 遠い目をしていたカレンは、パッと笑顔になると続ける。


「はは。よくわかんないけど考えてみるー」

「そうそう。カレンさんは元気でなくっちゃ」

「よし、コースケ。まだまだ飲むぞー!」


 ワインボトルを手に取ると、幸助のグラスへ並々と注ぐ。

 賑やかな宴会は、夜遅くまで続く。



   ◇



 数日後。

 店の前には幸助や従業員たちと向かい合い、大きな背嚢はいのうを背負うカレンの姿があった。


「セリカ、店のこと任せたよ!」

「はいっ!」

「料理長、ウチの店一番のベテランとしてこれからも頼りにしてるよ」

「ありがとうございます。腕のなる食材、楽しみにしてますね」


 従業員たちそれぞれに声をかけたカレンは、最後に幸助と向かい合う。


「カレンさん。やっぱり旅に出るんですね」

「接客はダメ。料理もダメ。これがあたしの一番活きる場所なんだ」


 今までも珍しい料理を探す旅に出ていたカレン。

 悩んだ末、店は頼りがいのあるスタッフに任せ、自分は食材探しや他の裏方仕事に徹することに決めたのだった。

 行商をしている父親譲りの性格は変えることができなかったようだ。


「コースケ、ほんとに世話になった。感謝してもしきれないくらいだよ」

「いえ、僕ができることをしたまでですから。それよりも珍しい食材を見つけても、メニューに入れるときは皆さんとよく相談するんですよ」

「分かってるって! それじゃ、みんな。あとはよろしくね!」


 大きく手を振ると背を向け歩き出すカレン。

 きっとカレンは王都の誰もが見たことのない、おいしい食材を見つけてくるのであろう。

 店から笑顔を絶やさないために。


8章はこれでおしまいです。

お読みいただき、ありがとうございました。

次の9章で完結の予定です。


それでは、良い年をお迎えください。


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