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かいぜん! ~異世界コンサル奮闘記~  作者: 秦本幸弥
第7章 王都魔道具店編
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2.王都へ

「というわけで、王都へ行くことになりました」


 ニーナの店での用事を済ませると、幸助はその足でアロルドの店へ向かう。

 そして店に入るや否や王都行きのことを伝える。


 時刻は夜の営業が始まる直前。

 至る所にランプが灯り、薄暗い店内を淡く照らしている。


 その店内のテーブルで三人が幸助の話を聞いている。

 アロルドとサラ、そしてサラの母ミレーヌだ。

 幸助の報告にまず声を上げたのは、幸助の隣に座るサラだ。


「今度こそ私も一緒に行く! マルコ君も仕事任せられるようになったし、いいでしょ?」


 そう言いながら両親の顔を交互に見る。

 見習いのマルコはここへ来て四カ月以上経過している。

 調理は少々、ホールならば全てを任せることができる。

 以前幸助が一人で隣町に行った時とは状況が違う。


「いいんじゃないサラ、行ってきなさいよ」


 そう言ったのはミレーヌだ。

 サラと視線を合わせると、二人でにっこりと笑顔を作る。


「えっ? ミレーヌ。お前……」


 その二人とは対照的に戸惑った表情をしているのは、もちろんアロルドだ。

 確かに見習いは育っている。

 サラがいなくても店は回る。

 だから店が回らないという反対意見は使えない。

 それでも必死に行ってはいけない理由を探し、並びたてる。


「そんな話突然言われても」

「行くのは二週間後ですから、ゆっくり準備できますよ」

「足手まといにならないか?」

「仕事に関しては逆に僕が助けられているところもありますからね」

「そうだよお父さん! 私、足手まといなんかじゃないもん!」


 二人の言葉にアロルドはどんどん小さくなっていく。


「王都は危険だぞ」

「何かそういうデータはあるんですか?」

「……そんな気がするだけだ」

「では、それだけでは危険という理由にはなりませんね」

「そうよ。王都の方が整備されててここよりも安全じゃないの」

「それでも……」

「ねぇお父さん、いいでしょ?」

「……」


 アロルドはここで口をつぐむ。

 必死に言葉を探すが出てこない。


「反対意見も無いみたいだし、決定ね」

「ぐぬぅ……」


 迷えるアロルドに止めを刺したのは、妻ミレーヌだ。

 アロルドもこれ以上反対はしなかった。

 愛娘サラは十五歳。既に成人している。

 アロルドもそろそろ子離れしなければならないという自覚はあるのだ。


「やったぁ!」


 店内にサラの声が響く。

 こうして二人の王都行きが決まったのだった。



   ◇



「コースケさん、すごい! 大きいよ!」

「うん。さすが王都だね」


 馬車で移動すること数日、幸助とサラは王都のすぐ近くまでやって来た。

 小高い丘を移動しているため、馬車の車窓からは王都が一望できる。

 まず目に入るのは街の中央に所狭しと並ぶ石造りの建物だ。

 どれも三階建て以上の高さがあり、統一された濃いオレンジ色の屋根が美しい景観をつくっている。


 その建物の群れを高さ五メートルほどの城壁が囲っている。

 さらにその周りには、納まりきらなかった住宅が無秩序に広がっている。

 一説によると人口は三十万人。

 幸助が訪れた街の中では最大である。


 そして何よりも目を惹くのは北にそびえたつ城だ。

 山を背に一段高いところに建っているので、距離は離れているがその姿は圧巻だ。


「あのお城の中にお姫様がいるんだね!」

「うん。きっとそうだよ」


 サラは久しぶりに訪れる景色を楽しんでいるようだ。

 幸助も日本では味わえない景色をしばし堪能する。



   ◇



 翌朝。

 二人はニーナに紹介された宿で一泊すると翌朝、目的の場所へ向かう。


「ここかな?」

「そうみたいだよ!」


 まっすぐ整備されたアヴィーラ伯爵領と違い、細く入り組んだ道を歩くこと十数分。

 幸助とサラはニーナに教えられた魔道具店へ到着した。

 場所は住宅街の中でも貴族街に近い場所に位置する、比較的富裕層が多いエリアだ。

 五階建ての建物の一階部分が店舗となっていた。

 事前情報では、ここで販売と修理を行っているとのことだ。


「こんにちは」


 ドアを開け店内に入ると二人は声をかける。

 店内に待機していた一人の女性がそれに気づき、近づいてくる。


「いらっしゃいませ」

「幸助といいますが、ニーナさんからの紹介でアリシアさんに会いに来ました」

「はい。お話は伺っております。こちらにかけて少々お待ちください」


 幸助は案内された椅子に座ると店内を見回す。

 すぐ横には幸助たちが掛けているものと同様のテーブルが二セットある。

 商談や実演販売をするコーナーかもしれないと幸助は推測する。


「コースケさん、オシャレな店だね」

「うん。僕もそう思う」


 この店はアヴィーラ伯爵領の店とは違い、カジュアルな造りだ。

 コンビニほどの広さの店内には白で明るい印象の棚が並び、そこには二サイズの魔道コンロが陳列されている。


 将来を見据えてなのだろう、商品を陳列する場所は広い。

 しかし今あるのはコンロのみで、冷却庫はまだ並んでいなかった。

 従って、売場はスカスカだ。

 水を温めたり冷やすことのできるポットも、もうすぐできると聞いていた。

 様々な商品が並ぶ将来が待ち遠しい。


 店内を一通り見回したところで、奥から一人の女性がやって来た。

 幸助は反射的に立ち上がりつつ、女性の様子を窺う。


 紺色のショートヘアーに少し垂れた紺色の目。

 年の頃は幸助よりも少し若いくらいであろうか。

 背はサラよりも高く、すらっと細い。

 しかも出ているところはしっかりと出ている。

 ブルー基調の制服が、そのサイズを強調している。


「お待たせ致しました。私が店長のアリシアです」


 自己紹介をするアリシアの声は、透き通るようだった。

 見た目だけでなく声も麗しい。

 幸助は鼻の下が伸びそうになるのをぐっと堪え、自己紹介する。


「ニーナさんから紹介して頂きました幸助です」

「サラです」

「話はニーナさんより伺っております。魔道コンロを人気商品にのし上げた立役者ですってね。何度もお話を伺っておりますので、初めてお会いしたようには思えません」


 アリシアはそう言うとにっこりとほほ笑む。

 前評判はかなり高いようである。


「ありがとうございます! 何より製品が良かったですからね。これからの展開が楽しみです」

「はい。これから少しずつ新製品が増える予定ですから、私も楽しみです」


 アリシアは花の咲いたような笑顔でそう答える。

 幸助の心拍数は高まる。

 口はだらしなく開いたままだ。

 サラからの肘鉄は飛んでこなかった。


 二人はアリシアに促され再び椅子へ掛ける。

 まずは互いのことを知るための雑談からだ。


「アリシアさんもニーナさんみたいに小さな頃から魔道具に触れてらっしゃたんですか?」

「いいえ、魔道具に触れたのはここに来てからなんです」


 そう言い始めたアリシアは、ここに勤めることになった経緯を説明する。


 アリシアは商家の次女として育ち、最近まで家業を手伝っていた。

 しかし、商売はいずれ長男が継ぐことが決まっている。

 長女はとっくの昔に嫁いだ。

 家督を継ぐことのできないアリシアも、いつまでも家にいるわけにはいかなかった。


 そのような状況の中、たまたま魔道具店が求人していることを知った。

 商売については心得ている。

 魔道具といえば今トレンドの成長産業だ。

 この大きな波に乗れるかもしれない。

 そう考えたアリシアは、迷わず応募したそうだ。


 同じように考えるライバルは多かった。

 しかしアリシアは持ち前の賢さを活かし、試験をくぐり抜ける。

 結果採用が決まり、さらにはニーナの代わりに店長へと大抜擢されたのだった。


「へぇ、そんなに人気だったんですね。魔道具店」

「すごいです!」

「はい。ですので両親とも大喜びで。採用が決まった日はお祝い料理に鶏の丸焼きが出たくらいです」


 日本で言えば勢いのあるベンチャー企業か、はたまた公営の事業なので公務員的な感覚なのか。

 幸助にはアリシアの両親の気持ちは分からなかった。

 だが、魔道具店がそれほど喜ばれる存在になったということは嬉しいことである。


「それにしても、アリシアさんのような方が店長で安心しました。前回はみんな技術畑で大変でしたので」

「うふふ、お世辞でも嬉しいです」


 幸助はそんなやり取りをしながら、数ヶ月前のことを思い出す。

 当時の魔道具店にいるメンバーの中には、営業ができる人間はいなかった。

 結果、幸助は体重を削りつつ代理店政策に奔走することになったのだ。


「そういえば、王都内で魔道具を売っているのはここだけですか?」

「ええ。そうですよ?」


 そう答えながら小首をかしげるアリシア。

 その可愛らしさに幸助は一瞬ドキッとするが、おくびにも出さない。いや、出せない。


「ということは、小売店には卸してないんですね」

「はい。その通りです。コンロの性能については認知されておりますし、今後商品が増えてくると兼業ではお店に負担がかかってしまいます。ですので改めて商品ラインナップが充実したときに、魔道具専門の代理店を募ることにします」

「なるほど。それは確かにそうですね」


 具体的な回答が返ってきたことで幸助は安堵する。

 ならば仕事は冷却庫の販売プランを一緒に考え、実績を作ることに絞られる。

 これならば、王都観光もしっかりと楽しめそうだ。


「では本題ですが、アリシアさん。冷却庫はもう届いてますか?」

「はい。倉庫に試作品があります。ご覧になりますか?」

「私、見たことないから見てみたいです!」


 まだ冷却庫を見たことのないサラの言葉で三人は席を立つ。

 倉庫には大量のコンロと魔石が保管されていた。

 しかし店頭と同様、スペースにはまだまだ余裕がある。

 幸助はその倉庫の一角に、見覚えのある箱と見たことのない小さな箱があるのを見つける。


「へぇ、小さいサイズも造ってたんですね」

「はい。暫定ですが大きい方が金貨五枚になってしまいますので、手が出しやすいよう小さなものも造ってもらいました」


 幸助は小さな冷却庫に近づくとドアを開ける。

 外観以上に収納できるスペースは小さかった。

 しかし冷やすものを限定するならば必要にして十分。

 ビジネスホテル備え付けの冷蔵庫もこのくらいのサイズであった。

 宿の部屋に置くのは、この小さなものでもいいなと考える幸助。


「小さなのも便利そうですね。こっちの価格はどのくらいになりそうですか?」

「こちらは金貨二枚です」


 小さな方でも金貨二枚。

 ということは、魔道コンロの倍以上である。


「結構するんですね。ただ、大小で比較ができるから小さいのがあってよかったです」


 幸助のこの言葉に、興味深そうに冷却庫を観察していたサラが声を上げる。


「オリーブオイルの時と同じだね、コースケさん!」

「そうだね、サラ。比較するものがあればオリーブオイルの時と同じで、アンカリングの効果が期待できるんだ」

「アンカリング……ですか?」


 アリシアの頭上にはハテナが浮かんでいる。

 アンカリングの手法は多くの店で用いられている。

 千円の価格を横線で取り消し、五百円と表示するのもアンカリングを活用した手法だ。

 こうすることで商品そのものの価値に加え、割安だから買おうという別の動機が発生する。


 ルティアの小麦店でオリーブオイルを販売した際は、その品質に応じて松竹梅三種類の商品を用意した。

 今までの相場は「梅」商品の価格だったが、「松」商品があることで「竹」商品を安く感じてもらうことができた。

 もちろん相応の品質あってこそである。


 そして冷却庫のようにまだ馴染みのない商品は、最初に見た価格が冷却庫の「基準価格=アンカー」となるのだ。

 基準価格に対して小さなものが割安と感じれば、それが購入動機にもなり得る。


「――という訳ですので、大きな冷却庫を一番目立つところに置き、奥に小さな冷却庫を陳列すると良いと思います」


 幸助は二人へ説明すると、そう締めくくる。

 それを聞いていたアリシアは、感心しきりの表情で幸助を見つめている。


「なるほど。流石はコースケさんです。早々にお知恵を拝聴でき光栄です」

「ありがとうございます」


 とはいえ店内に商品を並べただけでは冷却庫のような高額品は売りにくい。

 冷却庫を使うことで生活にどんな素晴らしい変化が訪れるか。

 それを表現し、冷却庫に興味を持ってもらわなければアンカリングも意味がない。


 しかも、コンロは消耗品である魔石のコストは薪と置き換えられた。

 冷却庫の場合、魔石のコストが取って代わることはない。

 運用コストは純粋に家計の負担増につながる。


 現状を踏まえたうえでしっかりと販売プランを練る必要がある。

 そのことを告げると幸助とサラは店を後にする。


「お店、好調そうだったね」

「うん。私たちがいる間にも何人もお客さん来てたもんね」

「アリシアさん、いい人だったからなぁ。これからどんどん流行るんじゃないかな」

「うん。綺麗な人だったよね。コースケさん、ずっと嬉しそうだったもん」


 サラの言葉に棘が含まれている。

 だが、その眼は決して怒っていない。

 ルティアと相談したことで、幸助に対する心の余裕ができたようだ。

 しかしそうとは知らない幸助は、慌てて取り繕う。


「そ、そう? い……いつもと変わらなかったと思うけど」

「何でどもるの!」

「さて、早速冷却庫の販売プランを考えないとね」

「ちょっと、コースケさん! もう……待ってよ!」


 足早になる幸助の後を、サラは慌てて追いかける。



   ◇



「さて、夕飯の準備をしなきゃね。今日は何を作ろうかしら」


 ここは王都内のとある住宅。

 台所では女性が鼻唄交じりに夕食の準備を始めるところだった。

 今ある食材を一通り回し見すると、パチンと手を叩く。


「よし、決めた! ポテトサラダにしましょう」


 鍋をコンロにかけること数分。

 鍋の水は一度は沸騰したものの、すぐに勢いが弱くなり沈黙してしまう。


「あら、魔石切れかしら。交換用は……あったあった」


 女性はコンロのスイッチを切り使い切った魔石を取り外すと、新しい魔石をカチリとめる。

 もう何度も交換している。

 その作業は慣れたものである。


「さてと、気を取り直してもう一度」


 そう言いながらコンロのスイッチを押した瞬間――。


 バンッ!!!


 コンロが突然大きな音を立て爆発し、部品や熱湯が飛び散った。


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