揺れ
迷宮からの声(?)は、街中にも響いていたらしい。
しかし迷宮核を得た人が起こした事件が有名なのか、慌ててやって来たのはギルド職員で初老の方々、三名だけだった。
元冒険者のギルド職員だとアージット様が教えてくれた。
不安そうだった若いギルド職員がほっとして、三名に小突かれた。
「さて、冒険者の方は念のため待機してくれ。風呂の利用のために来た一般人、広場で屋台出していた奴らは安全のため、避難だ」
「慌てずゆっくりな」
なるほど、避難誘導してなかったから怒られたらしい。
風呂上がりの人々の中、半数がゆっくりと帰路に足を向けだす。
「あ、屋台の奴ら、帰る前に食い物売ってくれ! 風呂上がりに食う予定で、食料切らしてるんだわ!」
「私達も!」
「私達は帰宅した方が良いですよねぇ」
ミマチさんの言葉に、アージット様は抱き上げたままだった私を、エンデリアさんに渡した。
「俺は待機だな」
「僕もだ」
アージット様の言葉に、シュネルさんも同意した。
「エンデリアとルゥルゥーゥは、ユイを任せた」
「あの~、ユイ様の護衛、私なんですが」
「ユイ、悪いがミマチを貸してくれ、この場で最も優秀な斥候はミマチだからな」
「? はい。どうぞ?」
「首をかしげながらも即答!? ユイ様、私とストールちゃんは、ユイ様のものなんですからね! ちゃんと認識して下さい!」
でも、アージット様にも一応護衛必要だものね?
「迷宮の危険を把握することは、ユイの安全を守るためでもあるぞ、ミマチ」
「わかってますけどォ! でも、ストールちゃんがいない時にユイ様から離れるのはぁ、正直辛い!」
「ミマチ、エンデリアの名に誓って、あなた達の留守中ユイ様は私が守ります。」
「うえっ? え、エンデリアしゃまが、な、名に誓うって」
ミマチさんの丸い目が、さらに大きく丸くなった。
「安心しましたか?」
「ひゃい」
「エンデリア、大丈夫か? 魔族が名に誓う制約は」
「大丈夫です。元よりロダン様にユイ様を頼まれた際、名に誓って引き受けましたので」
アージット様はこめかみを押さえ、ミマチさんは両手で顔を覆った。
「凄いな、ロダン」
「私、ストールちゃんの恋人って以上、ロダン様のこと、詳しくないの今気付きました。私が! 恐い」
カタカタ震えるミマチさんに、私は首をかしげた。
「ロダン様、優しいし恐くないよ?」
「私、斥候なんですよぅ! ユイ様! 何でも調べておくのが仕事! なのに、ユイ様の保護者的立ち位置の、ロダン様のこと、把握してない。うぅ、自覚しても、調べようとする気力がわかない」
とうとう頭を抱えてしまったミマチさんの肩を、エンデリアさんがポンと叩く。
「大丈夫ですよ、ミマチ。私が仕える方ですから。あまり気にしてしまうと、危険ですよ」
「あ、あぁ、」
アージット様が何かに気付いたような相槌を打って、ミマチさんの頭に手を置いた。
「あいつを調べると、エンデリアを筆頭に色々訳ありな立場や種族がゴロゴロだからな。むしろ気にするなと命じておく」
どうやらエンデリアさんが、魔族が名に誓うって、凄いことなのだとは把握した。
「では、帰宅いたしましょうユイ様」
エンデリアさんに言われ、頷いた瞬間だった。
地面が揺れた。
周りの人達の顔が強張る。
「氾濫か?」
知らない人の震え声が聞こえた。
「いや、違う。広場に強い光りの柱?」
地震に怯えて、しゃがみこんで震える人達の中、スキンヘッドの男の人とその仲間の女の人と、私達だけが立っていた。
あ、ルゥルゥーゥさんはしゃがみこんで震えてた。
「な、なんですこれ、地面揺れ」
「地面ですね、迷宮の変化の揺れ? 迷宮の外まで揺れるのは、氾濫の危険性が高いのですが、あの光りが分かりませんね。」
冷静なエンデリアさんの声が響く中、私は光りの柱が滑るように動くのを、振り返って見ていた。