大天狗の大団扇
うーん、シュネルさんはちょっと先入観が強いのだろうか?
「はは、けっきょく、自分の作品をだめにしていたのは、僕ってことか」
脱力して、涙を零すシュネルさんに、「いやいやいや」と、私以外の人達が手を振った。
「普通、祝福物のなりかけなんて、気づきませんからね!」
「俺達だって、汚れた糸のせいで着れない物にしか、感じなかったぞ」
アージット様の言葉に、私はゆっくりと口を開いた。
「呪い糸、下手で良かった。着ていたら、たぶん、干からびた魔物に、なってた。あと、糸がなじんで、溶け込んだら、手に、したら、着ないでられない服、に、なってた」
ミイラ系アンデットかな?
「待て、糸がなじんで、溶け込む?」
「生きてる、呪い? 元王妃のと、似て、る。けほっ」
うん。糸を作り出したのは、魔物化した元人なのかもしれない。
奪った精霊の力を使っている呪いの糸だ。
縫い手がへっぽこなので、祝福物のなりかけでなければ、あんな危険性の高い物には成らなかっただろう。
ちょっと喉が疲れたので、メモを取り出して、あの服を見た瞬間分かったそれらのことを書いて差し出した。
「溶け込んだら、着れるようになって、取り返しのつかないことになっていたのか・・・・・・・・」
「ある意味、シュネル様の腕が良すぎて起こった奇跡でしょうか」
「うっわぁ、ありがたくない奇跡ですねぇ~」
「おい、いや、これ、ヌィール家元当主の、あの豚野郎の手だぞ! あの屑野郎、何飼ってやがんだ?」
あー・・・・・・・・シュネルさんの叫びに、納得しかなかった。
アリアドネさん、魔物化してるって言ってたものね。私、あの人の蜘蛛、めったに見なかったけど・・・・・・・・人、食わせたのだろうか?
どうもあの父親と、イメージが合わない。あの人、どう考えても、三流の悪党なんだよね。
自分で人を殺すのは、びびる小心者タイプ。
「一応、連絡を入れておきますが、ユイ様、もう一つの気になる物は?」
エンデリアさんに問われて、皆がシュネルさんの腰に目を向けた。
テーブルの上に、ハリセンが置かれる。
「うわぁ、珍しい! 迷宮産面白武器ですね!」
ミマチさんがはしゃいで、食い入るようにハリセンを見る。
「ハリセンタイプは、そう珍しくないだろう?」
「あたしはよくハリセンで叩かれますけど、本物の迷宮産面白武器のハリセンは初めて見ますよ!」
ミマチさんはそう言いながら、「やっぱり鉄鉱石製じゃないと、よく分からないな」と呟いた。
「んー」
お茶を飲んで、喉の調子を整える。
「これ、ハリセンじゃ、ないよ」
なんとなく、そわそわしてしまう。
もしかして、世間では、こんな種類の主人のいない迷宮産武器が知られずに、出回っていたりしないだろうか?
「針子職人の、持ち主が、改造出来る武器」
シュネルさんは目を丸くして、息を飲んだ。
「シュネルさん、先入観、捨て、て、見る」
私がすぅはぁと、深呼吸して見せると、シュネルさんも真似して深呼吸して、目を閉じ、見開いた。
「『大天狗の大団扇』?」
「上手く、持ち主が作れば、凄い、風属性、の、武器になる」
風属性・・・・・・・・皆が探していた、切断系の武器である。
「アージット様の、迷宮産武器が、氷系なのと同じように、迷宮産武器はだいたい持ち主に相応しい物が出ると言われておりますものねぇ~、もしかして職人で冒険者な人達も、先入観で気づかないで持っているかも?」
ミマチさんがそわそわと、体を揺らして、私に懇願した。
「ユイ様、あの、あたしの一族に連絡入れてもいいですか? あたしの一族、職人で冒険者な人達、多いので」
「? なぜ許可を?」
「私、ユイ様に仕えてますからね! 主人が得た情報を、勝手に流出なんて、出来ませんよ!」
? でも、知っている職人さんだって、普通にいると思うのだけど?
「ユイ様、たぶん、迷宮産武器を改造しようなんて考える人は、いないです。そして、改造出来ると思って、迷宮産武器を素材として見ないと、気づかない仕様になっているんだと思いますよ」
「そうですね、迷宮産武器は、神の作りし幻想宝具の劣化版、大量生産品と言われていますから。ただでさえ不思議な力の宿った物に、手を入れようなんて考える・・・・・・・・実行出来る職人はそういないでしょう。彼のように」
シュネルさんは自分の武器を確認した後、なんだか無表情になって、立ち上り・・・・・・・・私の側で片膝をついて、武器を差し出した。
この体制・・・・・・・・ストールさんで見たことある!
「それ、持ち主だけが、改造、出来」
「レベルが足りないのです。お願いします! 僕をあなたの弟子にして下さい!」