孫
着替えを済ませ、一同は私の回りに集まった。
いくつものクッションが持ち込まれ、私は足を影から離さないようにそこに座った。
ミマチさんがすぐ側に小さな石の卓袱台を、魔力で作ってくれる。
ちなみに動かない影の部分は、魔力が通らなかった。
精霊さんもはじき出されるくらいだから当然である。
人は普通に入れるし、影響もない。
精霊さん達と、鎧を着込んだストールさんだけ影の中には入れなかった。
他の人には影響ないと確かめしだい、止める間もなくアージット様が、私を抱え込むように腰を下ろして、背もたれになってくれた。
人肌の温もりに、ほっとして力が抜けた。
神の寄り代的な人達が、日本人でセンリさんの祖父母さんなら大丈夫だと思っていたが、拘束されるというこの状況に一応体の方は緊張していたようだった。
そして卓袱台には、軽食と飲み物が用意され、脇には蔓かごに毛糸玉と編み棒編み針が置かれた。
「ユイ様、先ずは食事を」
エンデリアさんに、にこやかに注意され、頷いた。
切り取られたパイは、断面下から薄いクリーム色、玉ねぎやベーコンにトマトソースがかけられ、最上位には絶妙な固さの温卵がのせられた。
ちなみに卵は温泉の一番熱いお湯が、流し込まれるスペースがあって、そこで用意されていた物である。
・・・・・・・・ここ作ったの、絶対日本人だわぁ。
もしかしたらセンリさんの祖父母さん達かもね。
ちなみにクリーム色はお芋を蒸かして潰した物だった。サツマイモみたいに甘い。玉ねぎベーコントマトソースの甘しょっぱさとあって、更にそれを包んだパイがサクサクしてて美味しい。
皆さんにとっては軽食だが、私にとっては一切れでお腹いっぱいになりそうだ。でも結構食べられるようになってきたなと思う。
前はこの一切れの半分でも食べ切れなかったもの。
もぐもぐしている私を抱え込んだまま、アージット様はゲートに関する一連の出来事を聞いて、眉間を押さえた。
ガイドさんの声を聞けるのが、私とセンリさんだけだったので、センリさんはちょっと眼差しを虚ろにしつつも、頑張って説明を終えた。
「どうすれば、ユイが解放されるか聞いたか?」
ハッとした表情を取り戻して、センリさんは叫んだ。
「ガイド殿! ユイ様はどうすれば解放されますかな!?」
《・・・・・・・・現在・アリアドネに影響を与えないように・解析制約・しております。しばらくお待ち・下さい》
「解析制約!? 何ですかなそれはっ」
「解析制約!?」
「制約っ!?」
皆の顔色が悪くなる。
首輪と鎖、制約という単語から、奴隷化を連想してしまったらしい。
《または第二資格保持者か・第三資格保持者・が・神の座に転移して・審査登録を》
「行きますぞ! 神の座っ! ユイ様に制約など冗談じゃないっ!」
「あ、センリさん、待っ」
センリさんの姿は淡く輝いて、消えた。
完全に自分で行くって、言っちゃったものね・・・・・・・・蜘蛛の時みたいに止める間なんてなかった。
「・・・・・・・・審査、って何か、聞いてから、でも・・・・・・・・」
私の手は、空気を凪いで降りた。
《審査・とは? 力に溺れないか? 意志の強さ・覚悟などです》
「あぁ、あの、私の解析も似たような、ものじゃ? あと、センリさん戻ってくる前に、問題なければ、終わるん、じゃ?」
「センリ・・・・・・・・時々、うっかりというか、慌てん坊なんですよね」
私の言葉に、エンデリアさんは深くため息をついた。
ガイドの声は聞こえなくても、センリさんが無駄足を踏んだことは私の反応で、皆に伝わってしまったようだった。
「大丈夫だろうか? あの娘・・・・・・・・神に喧嘩売りそうな様子だったが」
アージット様の呟きに、皆「あ~」と、心配そうに唸った。
まぁ、神の寄り代が祖父母さんなら、神様にとっても孫かもしれないし、よっぽど性格が悪くなければ孫って可愛がられる存在のはずだから大丈夫じゃないかな?