眠りと進化
難しい部分を終え、集中が解けて
仕上げを終える頃には、アリアさん達の話合いは終わっていた。
アージット様はこめかみを押さえて、「よ、幼女趣味・・・・変態・・・・」と、ショックを受けていたので、私を真っ先に隔離した訳も話したのだろう。
他の人達も顔色が悪かった。
「アレの、十倍は強い・・って、ハハ、死んじゃうよぉぉおっ」
「うむ、主の前で弱音を吐くとは、教育し治さねばなりませんな・・・・」
「あわわわわ、執事長、ウェルスしゃま!頭イタタタタッ!潰れるゥ」
ミマチさんはいつもストールさんにやられているように、執事長?さんに頭を掴まれ宙吊りになっていた。
そのやり取りで、微かに皆さんの表情も緩んだ。元々ストールさんはフルフェイスの鎧で表情は見えないし、執事長さんだけは顔色も表情も悪くなかったけれど。
「さて、そろそろ眠るわ」
私が手袋を作り上げ、呪いとの境目にアリアさんが、どこからか出したピンク色のリボンを巻き結びつけて言った。
金色の光沢を帯びた綺麗な・・・・桜色だ。
もしかしなくても、アリアさんのサクラさんの手なんだろう。
きっと彼女の魔力の色だ。
そして何だか不思議な気配がした。
精霊さんが宿る品と、少し似ているけど・・・・違う?
私が気配を感じ、見ていると、アリアさんは教えてくれた。
『これはね、魔法具よ。この世界は時々作品に神の力がランダムに宿るの。迷宮産の宝物と似たようなものかしら?もちろんそれなりの作品にしか宿らないし、傑作でも宿るとは限らない。勿論、どんな力が宿るのかも、分からない』
「えっ!?」
それはちょっと、作ってみたい。
『これは魔除けの力があるわ。私はもう死ねるから、国と共に存在するこの子に・・・・・・』
私にだけ、教えたかったのだろう日本語で囁いて、アリアさんは微笑んだ。
作る者にとって、作品は子供だ。
そこに精霊という意識が生まれたら、愛しさも倍増だ。
国布精霊さんは、アリアさんと始祖・・・・サクラさんの子供のようなものなのだろう。
『私の宝物を、この子に・・・・・・・・形見にあげるわ』
アリアさんは国布精霊さんとの別れを惜しむように、国布精霊さんもアリアさんも淋しそうな表情で、互いに抱き合ってそして離れた。
その、どこか淋しそうな愛しそうな表情に、私は思った。
・・・・国が滅びても汚れ堕ちても、国布精霊さんに影響しない対策も、考えるべきかもしれない。
ヌィール家は腐った。
王族だって、今は良くても遠い未来は分からない。
アージット様の時のように、外的要因が再び訪れない保証なんて無いのだから。
私の、生涯をかける目的が、いくつか増えた日となった。
「そうそう、私の元他の体、一体は完全に魔物化しているわね。もう一体も汚れつつあるから、従魔の首輪を主と両方にはめないと危険よ?」
「他の体と言うと・・・・ヌィール家の」
一同顔をしかめたが、そこに驚きはない。
予想していたのかもしれない。
「あの父親と娘か・・・・」
柔らかな雰囲気のアムナート王様が、すうっと表情をなくした。
あ、ハーニァ様にしたこと、スッゴく怒ってる。
妹、終わったな・・・・・・・・
「完全に魔物化しているのに、よく被害者が出てないな?」
「あの家は、使用人含めてまともなのがいないからな・・・・被害者が出るまで見張らせて、それから倒そう。呪いのレストラーナと戦う前に練習になっていいんじゃないか?」
アージット様、笑顔・・・・恐いです。
「まぁ、ちゃんと始末するなら、好きにしなさいな。」
アリアさんは再び光の繭に包まれながら・・・・・・眠りにつく間際、
やんわりとふんわりと、付け足した声は、柔らかな分無関心さが透けて見えた。
アリアさんが繭に包まれると
迷宮の壁や天井なども金色の光となって、すうっと分解して消えていく。
不思議と眩しさはない。
何体か・・・・小型なモノは結構沢山、残っていた魔物は、光に群がられギィーギャー悲鳴を上げて消えていった。
動いていないのに、動いているかのような、気持ち悪さ。
空間が広かった時には気付かなかった、不思議な現象を感じながら
光の空間は、繭を中心に縮まっていって、一番外側だった壁が光と解ける頃には杖を持った人が地面に書いた円の中に、全部収まっていた。
「アムナート王、ご無事ですか!」
ガクッと膝を付き、杖の人が叫ぶ。
顔色が悪い。力を使い果たしたのが、見て分かった。
「ああ、トルアミア心配かけたな」
足元に集まった魔物の残した石を拾いながら、王様はため息をついた。
「王宮で、これほどの魔物を作れるとはな・・・・」
外側に残されていた人達と合流し、ガヤガヤと騒がしい中
私は、どんどん小さくなっていった繭を、ドキドキしながら見守ってた。
繭は何だかツヤツヤし出して、固そうなモノになっていく。繭と言うより卵のよう。
ダチョウの卵より二回り小さな・・・・普通の卵よりはずっと大きな所で、収縮は止まった。
明らかに、元の蜘蛛より大きい。
元の大きさのままなら、普通の卵の大きさで充分のはずなのに。
そして
パリパリと音がして、卵は割れた。
みょっと、小さな白い手が飛び出した。
「!?」
割れ目に手をかけて、小さな頭が出てきてふはっと息を吐いた。
「精霊、さん?」
精霊さんの姿と似た系統の、私とアリアさんに似た顔立ちが、眠そうに首を傾げ私に向かって両手を差し出す。
抱っこをせがむように。
思わず両手のひらを差し出すと、そこに彼女は落ちて来た。
予想通り、下半身は蜘蛛
私の蜘蛛は・・
ちっちゃいけれど、アリアさんと同型になっていた。




