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針子の乙女  作者: ゼロキ
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もう一人の転生者

「手っ取り早い方法そこあげとして、ユイの当主契約をすぐに執り行う」


何とか気を取り直して、王様が宣言した。

反対する人はいない。

夜会前はヌィール家の領地が王族に返還される・・・・正式にはメネス家の管理下に置かれる予定に、渋い顔をしていた人も居たのだが今は表面上いない。

分類的には、

あんまり王族に力を付けたくない人

メネス家、敵対関係ねたんでいる

ヌィール家から賄賂を貰っていた者

居なくなったわけではないので、注意は必要だと囁かれた。


「まぁ、この状況でアレを庇える者はいないでしょう」

「ユイ様が若すぎるってだけじゃあね~」

「ふん、アレの擁護に回るようなのが居たら、アレの作る服が好きなんだろうな、残りの生涯をアレの服で過ごさせてやろう?」


アージット様、それ多分一番エグいです。

あ、でも、アージット様これまでずっと、そのエグい目にあっていたのだなぁ・・・・と、泣けてきた。


「アージット様の服、これからは、全部、私が、作ります」

ちょいちょいっと、袖口を引いて宣言する。

アージット様の冷えてた目が、ホワリと暖かく緩んで、大きな手が私の頭を優しく一撫でしていった。

「頼むぞ、私の針子の乙女」

その会話がとどめとなったか、何人かは顔色を悪くした。



凄く立派な箱に入っていたのは、一枚の布だった。

「これがヌィール家初代と、蜘蛛との契約書だ」

真ん中に魔法陣が描かれた契約書は、加護縫いの魔道具に見えた。


「この中心に蜘蛛を」


王様に言われて、蜘蛛を魔法陣の中に置いた。

陣が、ゆっくりと光り出す。

銀色の光りだ。


「ユイの魔力光だな」

アージット様が呟くと、周囲がざわめく。

「綺麗」

と、誰かが呟く声に、これが魔眼持ち以外の人達にも見えるのだと気づいた。

「ぁ」

陣を中心に周りに文字が、浮かび上がる。

浮かび上がった順に、文字を目で追う。


「いにしえよりの、契約の更新を、ロメストメトロ王アムナートが宣言する!」


反時計回りに、文字は桜色に文になっていく。

ずっと昔の文字だからか、読めない単語や文が混じった。


「ピンク色の文字は、始祖の魔力色だ。『永久に友情が続くことを、願い、私黒髪の乙女サクラは蜘蛛の乙女[     ]と契約を交わす』と、書かれている。あの金色の部分が、最初の聖獣の名らしいが誰も読めない」


アージット様が説明してくれるが、私はその金色の『カタカナ』に釘付けだった。

初代のサクラって名前も気になったけどね、この世界桜の木ないから。ブロッサムって呼ばれている桜そっくりの花咲く蔓科の植物はあるけども。

植物とか動物とか、前世と似た物には似た名前やそのままの名前が付いてたりしたが・・・・

そりゃ、私という前世持ちが居るんだもの、他に居たって不思議じゃない。

カタカナ!

これって、私と同じ前世持ちってことだよね!


「魔物は子を作って増えても、全て親の分身だ。よほどのことがないかぎり、別個体にはならない。蜘蛛に名前をつけられないのは、すでに名前があるかららしい」


なるほど

うん、何度か名前付けようとした。

ヌィール家のあの環境じゃ、精霊さん達と蜘蛛だけが私のまともに触れ合える存在だったし。

でも何故か呼べない。

少したつと、付けたはずの名前を忘れてしまう。

それを数回繰り返して、諦めた。

そういうことだったのか。


あぁ、大昔から、意志の宿った時から、

魔物からは別個体になったけれども、その性質のまま彼女は生き続けている。

意識は残っている?

つらくはない?


「針子の乙女、ヌィール・ユイよ。手を」


蜘蛛の上に手をかざすように言われ、その通りにする。


「永久に友情が続くように、精霊の友であることを蜘蛛の乙女に誓います。繰り返して」

「永久、に、友情が、続く、ように、精霊の友、で、あること、を、蜘蛛の乙女、」


たぶん、呼びかけたら、応えてくれる。

私は試さずにいられなかった。

だって、私以外の日本人だ。

この世界での先輩だ。

彼女が今、どんな状態でも、会いたかった!


「[アリアドネ]に、誓います!」


え?と、皆が私を見るのを感じた。

それ所じゃない変化は始まっていた。

私の銀色の魔力光が、綿飴のような質量を出し、色合いが金色へと染まっていく。

蜘蛛が脚を畳んで小さくなり、それを光りは包んで・・私は慌てて手を引いた。


「な、何が起こって・・・・」

「金色の魔力光は、聖獣の」

「彼女はまさか、聖獣の名が読めたのか?」


ざわめく背景はともかく、アムナート王とアージット様は慌てて契約書から離れる。

若いけど、魔法使いっぽい人が急いでテーブル周りを杖でガリガリと削った。


「王よ、三人とも円の外へ!」


アージット様が私を抱き上げ、その場から連れ出そうとしたけど

「あ、」

ふわりと体が浮く。

「契約書が!」

「閉じろ!トルアミア!私達は大丈夫だ!」

「くっ」

アムナート王の命令に、トルアミアと呼ばれた彼は辛そうに円を閉じた。

契約書の端から金色の糸が溢れて、私の体も王とアージット様の体も床から浮かび上がっていた。


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