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針子の乙女  作者: ゼロキ
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御披露目

さて、入口に回っている間に、妹と連れの男性は立ち去ったらしい。

ハーニァさんはドレスの濡れた部分を隠すように摘まんで、立っていた。

彼女に声をかけようとする人達はいない。

評判の悪いヌィール家の妹を非難して、それを切り口に話かけようとする男性もいない。

「なぜ、誰も、手をかさ、ない?」

「あ~、ノンアのせいですね。あの屑、まだ一応ロミアーシャ家の長子ですし、目を付けられるとしつこくて陰険なんです」

うわ、ミマチさんを罵るよりも、嫌そうな低い声がストールさんから響いた。

ロミアーシャ家がどういう家か知らないけど、等級の高い家なんだろう。なんだかそのうち、叩き出されそうな、そんなストールさんの評価だけど。

妹の連れ・・か

「し、りあい?」

「・・・・・・」

沈黙が、知り合いとすら表したくないと、言っているかのようだ。

「早く空気の汚染を辞めてほしいな?と、見るたびに望むくらいの存在です」

ストールさん、怖いよ!

ふっと軽く、いっそ可愛らしい声が、呪っているかのようだよ!

それ『死ね』って、ことだよね!?

ま、そんな会話をしながら、注目を浴びつつ私とストールさんは彼女の前に立った。

「失礼いたします。フルク・ハーニァ様」

ストールさんは片膝をついて、私を下ろした。

ハーニァさんを守るように、抱き締めていた炎の精霊さんが、私達を見て目を輝かせた。

強い加護精霊さんだ!

通路側からは見えなかった。炎特化?

ハーニァさんと同じくらいの大きさだ。そして、ドレスのデザインが、精霊さんとおそろいだった!

そこへふわりと、若葉色の精霊さんが、王様の魔力を纏って舞い降りた。

会場にいた数人の男性が、顔色を変え、こちらに向かってくる。

もしかして魔眼持ちかな?

「あ、王様の加護精霊?」

精霊さんは目を細めて微笑んで、王様の魔力を吸収すると、魔力の糸を両手から差し出した。

「え?あなたも魔眼持ちか?」

「はい、ドレス、直します。王様、王様の精霊さんの力、使え、って、ことだよね?」

精霊の糸は片方は私の蜘蛛の腹に、片方は炎の精霊さんに伸びた。

若葉色の糸を差し出しつつ、王様の精霊は炎の精霊にいい?と訪ねるように、顔を覗き込む。

炎の精霊さんは、勢い良く頷いた。

「私は、ユイ。針子の乙女」

ストールさんが預かっていてくれた針を、ケースから手に取る。

蜘蛛が出してくれた若葉色の糸を、針に通す。

魔力を細く固めて針を作る。

精霊さんの力、王様の魔力を取り込んで作った糸を針に通す。


炎は燃やすだけじゃない。


火は、日、光

植物を育てる力

炎の精霊は緑の力を受け入れて、更に強くなる。


真紅のドレスに若葉の蔦が、伸び、葉が茂った。

彼女達を守るように、愛するように。

フフ、現王様はアージット様と違って、ハーニァさんとラブラブだね!

ドレスの染み、濡れた部分は緑が吸い取った。

「凄い、同時にこんな・・・・!」

うん、初めてしてみました。同じデザインだから、なんとか同時進行やれました。

縫製が甘かったのも、ドレスのスカート部分だったから、それもカバーした。

「ふぅ、完成」

「君は初代の生まれ変わりか?こんな素晴らしい加護縫い・・・・魔法みたいだ!」

いえ、前世は普通の日本人です。


彼女の精霊さんが、嬉しそうに彼女を抱き締めてふにゃりと笑顔になる。

それにハーニァさんも、ふにゃりと笑顔を返した。

うぁぅ!

想像以上に、笑顔が美人で可愛らしい!

見ていた人達皆、胸キュンしたよ!私もキュンした。精霊さんが見えるから威力は二乗だ。

更にその笑顔を、向けられてしまう。

「ありがとう!そしてすまない、頼めるだろうか?彼女達にお返しをしたい」

ハーニァさんは魔力を、なんとか両手いっぱいほど出して、精霊に渡した。

精霊さんは魔力を吸収して、糸を差し出す。

「量、的に、お花、精霊さん、と王様に、一輪ずつ・・いい?」

「ああ!」

レース編みで、真紅の花を

一輪は若葉色の精霊さんの胸元に咲き、一輪はハーニァさんの手に。

「綺麗だ」

「ユイ様、飲み物を」

いつの間にかミマチさんが、一流メイドモードでコップを持たせてくれた。

ゆず茶のような味の、喉に良い飲み物だ。

「王様とアージット様が、そろそろいらっしゃいますので、行きましょう。ユイ様、ハーニァ様」

王座のある方へ、ミマチさんが促すように手を伸ばせば、人垣が自然と割れた。

それこそ、魔法みたいに。

私達、王様の関係者よ?と、示して声をかけようとする人達を牽制したのだけど。

ほとんどの人達が、こちらを注目してたらしい。

微かに聞こえてくる、『初代』『生まれ変わり』

ん?捨てられたヌィール家の長女では?とは、考えないのかな?

疑問が顔に出ていたのだろう。ミマチさんが、「あ~」と囁いた。

「ユイ様の容姿も、加護縫いの腕も、アレの血縁とは結びつけ難いでしょう」

「確かにな」

「?」

ストールさんが同意して、ハーニァさんが首を傾げる。

「初代様の生まれ変わりではないのか?」

「ユイ様の保護者は、カロスティーラ・ロダン、現在はアージット様の針子の乙女でいらっしゃいます。私はメネス・ストール、ユイ様の騎士です」

「え?では」

「元、ヌィール・ユイ?あ~、初代様の生まれ変わりの方が、説得力あるね☆」


前世は普通の日本人ですから!


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