レベル
「凄いです!鎧が、体が、軽いです!」
ストールさんは鎧の変化には、気付いてなく・・・・
軽く腕を振ってはしゃいだ。
「それに暑くないですし、呼吸も何だか鎧を脱いでいる時よりも、しやすい?空気が美味しい?」
そりゃあ、精霊の中だもの
食事やお茶、お風呂など、精霊の出汁の恩恵よりも、濃厚な恩恵があると思う。
草木や地面、影に潜り込んでいることはあるけど・・・・通常精霊は、突き抜けることはあっても、人や生き物の体の中に、ずっと潜り込んでいたりしないし。
ストールさんは軽く体を捻る。
「それに凄く動きやすいです!」
胴体の鱗細工は、その動きを妨げない。
「ストール様、鏡をご覧下さい」
メイド姉様達が、大きな鏡を引っ張り出してストールさんの前に置いた。
「!?」
鎧の具合を確かめていたストールさんの動きが固まった。
「前王様と、ロダン様をお呼びしますね」
一人のメイド姉様が、そう言って部屋を出る。
入れ替わりにメイド長とミマチさん・・・・?が、入ってきた。
ミマチさん・・・・何だか存在感が薄れて、かなり煤けてたけど。
そして、目の死んでいたミマチさんが、ストールさんを見て彼女と同じように固まった。
「メイド長、どうですか?素晴らしいでしょう」
「精霊生成具だったんですね!ストール様の鎧!」
「・・・・これは、単に精霊が生成しただけでは、ないようね・・聖精霊布と、似た気配がするわ」
聖精霊布?
もしかして、精霊を生み出した作品が、他にもあるんだろうか?
「それに、この姿はメネス家の・・・・」
メイド長が目を細め、そう言ってから私を見た。
「ユイ様、『見』ましたか?」
精霊を・・・・と、問われた気がして、反射的に頷いていた。
次の瞬間、固まっていたミマチさんが、ストールさんに飛び付いてた。
「こ、小人族伝説のっ!花冠の鎧乙女っ!あぁっ!本当に実在してたなんて!」
「うわっ!コラッ!ミマチ?」
「あ、でも、羽根はない?伝説では、空も飛べるって、それは流石に伝説か」
いや、羽根はある。
魔眼の持ち主にしか見えない羽根が。
あと、飛ぶのは無理でも、駆け上がることは出来る。
浮かべるように、なれれば。
・・・・浮けるんだよ!この鎧!
ちゃんと着たことで、はっきりしなかった加護縫い効果が分かる。
鎧精霊だけど、属性はたぶん大気系?あとは熱系?馴染めば、鎧内部の温度調節以上のこと、炎の槍とか氷の槍とか操れるだろう。
ファンタジーの固まりだ。
鎧を作った人と加護縫いした人の、腕が凄い!
鍛冶は勿論専門外だし、加護縫いの方も・・・・
悔しいけれど、私では後ちょっと、何かが、足りない。
精霊は生み出せない。
やっぱりこの世界、レベルとかあるんじゃないだろうか?
ふわっとした感覚でしか分からないのに、ふわっとした感覚で、何かが足りないと分かるのだから。
ドアがノックされ、前王様とロダン様が入ってくる。
そして、ストールさんを見て、感嘆の息をついた。
「これは、予想をしていたが・・・・」
「メネス家、伝説の鎧が実在しているからには、炎の槍と氷の槍も実在しているかもしれませんね」
左右の手首に装備されている、鎧の一部のような手のひらサイズの棒が、槍の元だと思う。
魔力が貯まれば、取り外し出来て、炎や氷纏う槍になるっぽい。
私は分かるかぎりのことを、書いて前王様に差し出した。
「ん?鎧の付け方と性能・・・・か?」
前王様はストールさんの背中側に、回り込んで額を押さえた。
「本当に羽根が・・・・精霊の羽根が・・・・、聖精霊布と同じか・・・・」
「!!アージット様っ!羽根があるんですね!あぁっ!」
「ちょっ、ミマチ、怖い!怖い!私をキラキラした目で、見るんじゃない!なんだ、その清らかな憧れの目はっ!お前は変態が標準装備だろうが!」
「酷いわ、ストールちゃん!小人族にとって、伝説の最高傑作なんだよ?直系の鍛冶師なんか会ったら、拝礼して足先を舐めさせてくれって言い出すね!絶対!」
「・・・・小人族って、皆変態なのか?」
ボソッとストールさんは呟いた。
彼女に酷い偏見が生まれたようだった。
んー?小人族ってホビット系かと思ってたけど、ドワーフ系だった?
ちょっと職人さんには、会ってみたいなぁ・・
ミマチさんの言うように、変態ではなければ。
「ストール、ユイの書いてくれたこれを見ろ、凄いぞ?」
「え?・・・・・・・・・・・・凄い、槍、あるんですね?・・・・と、言うか、本当に聖精霊布と同じ・・って」
ストールさんの体は、すぅっとゆっくり傾いていった。
あ、意識手放しかけてる・・と、誰でも分かった。
それをロダン様が、慌てて支える。
「しっかりしろ!ストール!君は今、職務中だろう!」
「はい!」
ロダン様の一喝で、ストールさんは持ち直して姿勢を正した。
そして改めて私の書いた、鎧の詳細、取り扱い説明図に目を通して・・それを胸元で抱きしめながら、私の前に進むと片膝をついた。
「ユイ様、我が一族の秘宝を見いだして頂き、ありがとうございます。私の生涯の忠誠を、改めてここに誓います」
「にゅっ!?」
うわっ、ひっくり返った声が出た。
重たいよ!