浴衣
あまりに哀れだったからか、ロダン様が…というか執事のウルデ様が、あっという間に高価な布を山と調達してきました。
「すまんユイ、お前の作る寝巻のようなものをアージット様に頼めるか?」
加護縫いでと言うロダン様に頷く。
衣服一揃えと、肌着のちゃんとした物はもう少し手間が掛かるものね。
浴衣ですね、ロダン様にも縫って愛用されてるから、すぐ分かった。あれならほぼ一枚だし、ロダン様は風呂上がりに使ってるらしいから、楽さも分かってるんだろう。
とりあえず高価で重い布はよけて、肌着につかってもいい種類の布地を選んで、机の上に広げてもらう。
躊躇無く布をざくざくっと切って、留め針を打ち、蜘蛛の背を撫でる。
しゅるっと出てきた糸を針に通し………
「前王様は、光と氷と空と月、緑の精霊さん、とも、相性がいい、みたい」
元からそっと寄り添ってた精霊の色を見て、呟く。
正し何故か、ちっちゃい子ばっかりだけどね。
「お願い」
ちっちゃい子に無理はさせられないから、呼びかける。
前王様に力を分け与えても、いいよって子、来てと。
前王アージットは、息を飲んだ。
聖域に匹敵するほどの、健やかな精霊達が沢山漂う屋敷にも驚いたが、ヌイール家の真の当主に匹敵すると聞いた子供の能力に。
蜘蛛の腹の上で、精霊はクルリクルリと踊り適度に次に場所を譲り渡した。周囲では力を分け与えるために、順番待ちをしている精霊達・・・・・・・・という有り得ない光景。
普通の加護縫いならば、縫われたヌイール家の蜘蛛糸と魔力に精霊の力が染み込むに任せねばならない。
最初から、望んで積極的に力を分け与えて貰えるなど、奇跡としか言いようがない。
「ここからは、月の精霊さんがいいかも、」
子供が呟くだけで、精霊達が順番を入れ替えるのにも、眩暈がする。魔術師だって精霊達の力を使うが、それには魔力を声にのせる技術が、そして専門の知識と精霊達の好意が、必要なのだ。
魔術師でもない子供に、精霊達が喜んで力を使う・・・・
これはもう真の当主所か、伝説のヌイール家開祖並みなのではないか・・
更には、適当に切ったような布が魔法のような速さで縫われ、見たこともない不思議な形状の服になっていくのに、唖然とするしかなかった。
「寝間着、です」
少女はウルデが更に持ってきた荷物の中から、サイズ違いの同じ服を取り出し羽織って見せた。
「こうして、こう、着てください亅
他の服は脱いでと、付け加えて背中を向ける子供に、小さくとも娘だなぁと微笑ましく思った。
戸惑いなく全裸になり、寝間着を子供の言うとおり着て・・・・
アージットはその着心地に、体に纏わりついて離れることのなかった疲労が、瞬く間に消えていくのを実感する。
「凄まじいな‥」
気付けば自分に寄り添ってくれている精霊達が、成長していた。シンプルな肌着のような赤子ワンピースが、色合いも濃く、形もこの寝間着のような物に変化し、人に例えれば赤子から幼児ほどに育ったかのように。
このような現象は、精霊付きの魔術師が何らかの要因で、急成長した際に、希に起こることだった。
「アージット様、魔力が・・・・」
ロダンが思わず呟くのに、アージットは頷いた。
精霊を見ることの出来ない者も、魔力を感じ察するほどの変化があった。
「これは確かに、私に紹介するわけだな」
「私もここまでは・・・・」
少女は周囲の驚愕についていけないのか、不思議そうに首を傾げた。