百万回エタった名無し
注意:なろう避難所向け&童話の練習の為に書いた作品です
ある所に皆から「名無し」と呼ばれる人がいました。
名無しは小説を書くことが大好きです。
いつか小説家になろうと夢見て、毎日じぶんが思いついた面白い設定の小説を書き、ネット上の小説投稿サイトに投稿していました。
来る日も来る日も、名無しは小説を書き続けました。
ですが、感想をもらった事は一度も無く、ポイントすらまんぞくに付く事はありませんでした。
ざんねんな事に、名無しの書く物語はおもしろい作品では無かったのです。
名無しは考えました。
「なんでボクの考えた最高におもしろい小説がひょうかされないんだろう?」
名無しはその原因が題材にあると判断しました。
ランク入り作品と呼ばれる、皆から喜ばれる作品は、いくつかの共通点があったのです。
そして、本当にみんなに喜ばれるおもしろい作品を書くために、毎日いろんなランク入り作品の題材を参考にした小説を新しく書き始めました。
その中で人気が出れば続け、人気が出なければ「エター」――つまり、そのまま放っておく事にしたのです。
「ボクはもっとおもしろい小説をかける! 本当はもっと評価されていいはずだ!」
名無しの作品はあいかわらずおもしろいものではありませんでしたが、それでも彼はいっしょうけんめい書き続けました。
来る日も、来る日も、新しい題材を見つけてきては書き、ポイントが付かなかったらエタらせて、そうして誰しもがおどろく様な数の小説を書き上げたのです。
ただ残念な事に、それほど沢山の小説を書いたにもかかわわらず、名無しの小説は一つも完結した事がありませんでした。
ポイントを重視するあまり、少しでも伸びないとすぐにエタらせていたからです。
いつしか名無しは最初に小説を書きはじめた時の事を忘れ、ただポイントのためだけに小説を書く様になっていたのです。
やがて時がたち、名無しが100万もの小説をエターさせた頃。
名無しは小説を書く事が大嫌いになっていました。
「やっぱりボクには才能なんて無かったんだ! 小説なんて書くんじゃ無かった! 何もいい事なんて無いじゃないか!」
名無しは叫びました。
そしてついに書くことをやめてしまおうと決意しました。
ですが、いざ決心するととても悲しい気持ちになっている事に気がつきます。
名無しは小説を書く事に長い時間をかけてきました。
その全てがなくなってしまう事に、言いようの無い寂しさを感じたのです。
「……最後くらいはちゃんと終わらせよう」
名無しはその寂しさと別れるため、最後の物語を完結させる事にしました。
そうして自分が持つ未練を捨ててしまおうとしたのです。
名無しは最後の物語を書きました。
読む人が読めばすぐ分かってしまいそうな、強引な最後ではありましたが、名無しはなんとか物語を完結する事ができました。
その後、最後の話を投稿してしばらくしてから、名無しは今まで書いた作品を全て削除してしまおうと思い立ちました。
そして、ネットに接続し、見慣れた――けれどももう二度と見る事はない画面を開きます。
ですが、名無しが違和感を覚えました。普段とは何かが違うのです。
そして目をこらして、何が違うのか探し始め、「あっ!」と小さく叫びました。
画面の一点、そこには赤い文字で「新しい感想があります」と表示されていたのです。
名無しは驚きました。
まるで夢の様な出来事で、自分の目が信じられませんでした。
何分も、何時間も、何日も、名無しはそれを確認する事ができませんでした。
もしヒドイことが書いてあったらどうしよう?
そう思うと恐ろしくて、なかなか確認する事ができなかったのです。
けれど、ついに名無しは勇気をふりしぼることにします。
そして、震える手を無理やり動かしながら、名無しはその感想を開いたのです。
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投稿者:通りすがり
一言 :完結おめでとうございます、面白かったです
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いつの間にか、名無しの瞳からは大粒の涙が滝の様にながれ落ちていました。
ようやく名無しは気づいたのです。
物語を書く上で、本当に大切な事を。
本当に欲しかった言葉を。
自分の作品を読んでくれていた人たちの事を……。
「ボクは、間違っていたんだ……」
ボロボロと涙をこぼしながら、名無しはお礼のコメントを書きました。
それはとてもとても丁寧な物で、書かれたコメント以上に長いものでありました。
ですがそこには名無しの純粋な感謝の気持ちがこれでもかと込められていました。
名無しは生まれて初めて、小説を書いていて良かったと思いました。
そうして、名無しは小説を書き続ける事にしました。
ですが、もう名無しがエタる事はありません。
完結する大切さを読者さんより教えてもらったからです。
いつしか、名無しの物語にはポイントが付くようになり、感想も貰えるようになりました。
あいかわらずその数はランク入り作品には遠くおよびませんが、その代わりどれもこれもが暖かみにあふれ、名無しの心を幸せな気持ちにしてくれます。
名無しは小説を書くことが大好きです。
いつか小説家になる事を夢見て、毎日小説を書き続けています。