第一話
生まれて初めてデジタルカメラというものを買ってみた。
とても軽くて薄いのに、これで撮った景色はとても綺麗だ。
連続撮影だって動画だって思うがままに撮りたい放題なので(別売りのメモリーカード次第で、だけれど)
僕は毎日色んなところへいき、その時その場所で見たものをカメラに収めるのが日課になっていた。
ある日、いつものように町へ向かうと、市民病院のとある部屋の、黒髪ロングがとても印象に残る
少女が窓際に佇んでいた。
どこか愁いの帯びたその瞳に惹き込まれそうになりながらも、気付くと僕はシャッターを切っていた。
「はっ・・・これじゃまるで盗撮じゃないか。何をしているんだ僕は」
ふと我にかえる。院長さんに告げ口でもされたら後々めんどくさいことになるぞ。僕は足早にその場から離れた。
家に帰り着いてからも、昼間目にした少女のことが頭から離れず、眠りについたのは午前1時を過ぎた辺りだった。
翌日、僕は再び市民病院を訪れた。理由は一つだ。
彼女がいた部屋を眺めてみたが、今日はカーテンがかけてあり残念ながら彼女の姿を拝むことはできなかった。
諦めのつかなかった僕は、病院の中へと入り、受付の人に尋ねてみる
「あの、窓際にいる女の子の面会に来たんですが」
「窓際?あなたこの病院に窓が幾つあるか知ってますか?」
「あぁすみません、入り口を正面に捉えて左側から―――」
「ところで、お名前は?」
「えと、真田健二と申します」
「あなたのじゃなくて、面会相手の、ですが」
「ええっと…、すみません会ったことがないのでわからないのですが」
「はぁ……。いいですか?相手の名前も知らないのに面会を許可するわけにはいかないのはわかりますよね?」
「すみません…」
ちょっと待ってください、と遠くから声が微かに聞こえた気がした。
「あっ!」
パジャマ姿にスリッパをちょこんと履いて、黒くて長い髪が印象的な少女。一目であの子だとわかった。
「速見さん、この人が私と面会したいと言っている人?私の部屋は502号室だから」
受付のお姉さん(お姉さん、というにはやや語弊があるかもしれないが、ここはあえて"お姉さん"と呼ばせてもらおう)は
「どうぞ」
と、不機嫌そうな顔になりながらも通してくれた。
部屋の前に来る。心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
コンコン…
「失礼しまぁーす」「どうぞ」
カーテンは開けられており、彼女は外を眺めていた。
思わず僕はカメラのシャッターを切った。
「君、あの時もそのカメラで何か撮ってたよね。何撮ってたのか教えてくれないかしら」
どうやらあの時撮影していたことはバレていたらしい。
「あ、いや、大したことじゃない…こともないんだけど、ただ君が綺麗だったから」
「へぇ、冗談にしては気が利くじゃない。ここ座って」
近くの座椅子に腰掛ける。それから僕は、彼女といろんなことを話した。学校の話、カメラを最近買った話、撮っている景色の話
彼女はとても満足そうに話を聞いてくれた。
「それじゃ、今日はこれで。突然尋ねたりしてごめんね」
「いいよ。どうせ暇だったし。それより、明日もまた来てくれるよね?」
「よろこんで!」
僕は意気揚々と病院を後にした。
それから何度か病室に足を運び、今まで撮った景色を眺めながら彼女と過ごすひと時に満足感を得ていた。
彼女は元々体が弱く、幼い頃から入退院を繰り返していたそうだ。入退院を繰り返す、と言っても入院期間は長く、退院期間は短いため
病院での生活が主だった。それ故、どこか遊びに行こうと思ったこともないし行ったこともなかった彼女にとって
僕が撮って来た様々な景色はとても刺激的だったらしく、目を輝かせながら一枚一枚眺めていた。
「ところで、由紀はいつここから退院できそうなの?」
「わからない。明日かもしれないし、明後日かもしれない。このままずぅーっとこの病室から出られないかもしれない」
そっか、と言うと、それ以上僕はもう何も言えなかった。