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第7話 『緋色の翼』

姫川の後ろをついて歩くこと10分、第3格納庫と書かれた大きな扉の前についた。

「ここが第3格納庫よ。道ちゃんと覚えた?」

 姫川が機嫌良く俺たちを振り返った。

「ああ、なんとかな」

「はい、次から迷子にならないと思います」

 1度で覚えられるか心配だったが、丁寧に案内してくれた姫川のおかげで道を覚えることができた。バスガイドのおばちゃん並みのプロさを感じたぐらいだ。

「試験機見てなかったし、私もチラッと見ていこうかしら」

「あ、はい! ちょっと待っていてくださいね」

 赤髪の少女の後に続き俺と姫川も格納庫に入ったが、中は真っ暗で何も見えない。

「えっと、電源は確かこの辺に……あった、あった」

 少女の声と共に格納庫内のライトが点灯する。明るくなった部屋の中央にたたずむ1機がそこにあった。

「こ、これが試験機?」

「みたいだな……」

 次に繋がる言葉が出てこないまま俺と姫川は唖然とした。

燃えるように紅いボディ、前から後ろに向かって流れるようななめらかな曲線美に絶句してしまう。

 昔のプロペラ機を彷彿させるような格好だが、後部についた2基のエンジンはまごう事なく宇宙空間での飛行を考えられた大容量エンジン。

「機体略号、SB26J。正式名称、()(りゅう)です」

 紅色の機体に手をついて、まるで友人を気遣うような目線で緋龍と呼ぶ航空機に目を向ける。

「緋龍……」

「はい。兵装に30mmレーザー機銃、小型ロケットランチャー、高速誘導ミサイルを標準装備し、哨戒任務から爆撃、空中戦闘(ドッグファイト)までこなせる多目的航空機です」

「へぇ。なかなか便利な機体ね。でも、なんでまたこんな派手な色なわけ?」

 確かに姫川の言うとおりだ。多目的航空機として少々目立つのではないだろうか? 

これでは偵察任務などの隠密行動には使いにくそうだ。

「そうですね。この塗装にはステルス性があるんですよ。性能としては米軍の最新鋭戦闘機に引けを取りません。それに、近くから見ると目立つ色ですが、距離を取れば赤い星と見間違えてしまうぐらいですよ」

「なるほど、特殊塗装というわけか」

「はい。内部の部品に至るまでARIASが作ったオリジナルですので、この機体の整備は私が一任しています」

 赤髪の少女はそう言ってニッコリと微笑んだ。

緋龍か……。

少し派手な色だが俺専用という感じがして、これはこれで悪くないかもしれないな。

「うん。よろしく。俺の名前は坂上刀夜」

 俺はそう言って、少女に手を差し出す。

「私の名前はミラ・ハートネアです。こちらこそよろしくお願いします!」

 ミラは俺の手を握り返すと、眩しいくらいの良い笑顔で自己紹介をしてくれた。

「まっ、不本意だけど。刀夜のパートナーオペレーターの姫川かぐやよ。よろしくね」

 俺とミラの間に姫川が入ってきた。一応、俺とタッグを組んでいることは了解してくれているらしい。

「も、もしかして艦長ですか!」

「ええ。銀河の艦長もしているわ」

 ミラが驚くのと同時にアホ毛が再びピンっと立つ。そのあまりの同調具合が意外に面白い。

「そんなに構えなくてもいいわよ。ARIASは軍じゃないんだから。私のことは姫川でいいわ」

「いえ、適度な上下関係は大切ですので、艦長と呼ばさせてもらっていいですか?」

「貴方がそれでいいならそれでいいわ。でも、いつでも名前で呼んでもらっていいからね?」

「はい!」

 へぇ。意外な一面もあるんだな。俺と姫川の出会いがあんな感じだったからこんな笑顔で彼女が話せるとは知らなかった。

「……な、何よ! ニヤニヤしちゃって」

慌ててミラから手を離すと、姫川はジト目で俺を睨んできた。

いかん、まるで仲の良い姉妹のような微笑ましい光景に俺自身ニヤけていたらしい。

「いや、仲の良い姉妹みたいだなって思ってさ」

「べ、別にいいでしょ!」

 俺の返事が意外だったのか、姫川は顔を真っ赤にして反論してきた。その反応は新鮮でなかなか面白い。

だが、あまりイジると、巨大ハリセンあたりが吹っ飛んできそうなので、ここらへんにしておこう。

「それはさて置き、ミラちゃん。緋龍のレクチャー頼める?」

「ちょ、ちょっと私の話ちゃんと聞きなさいよ!」

 慌てる姫川をよそに緋龍の元に歩いてく。紅色の機体は綺麗に磨き上げられており曇り1つ見当たらない。

 これから、俺の相棒となる機体にはあまりにも綺麗すぎるものだった。

「ふふっ。分かりました。気になることがございましたらどんどん聞いてくださいね」

 先ほどは少し表情が硬かったミラも、俺と姫川のやり取りを見て元の良い笑顔に戻っている。

「マスター。これが新しい機体ですか?」

「ああ。聞いていたと思うがユリアはどう思う?」

「そうですね。まず、不思議に思ったのですが、この機体は複座なんでしょうか? 単座にしては少々大きすぎる気がいたしますが」

 ぐるりと緋龍の周りを1周してユリアが気にしたのは、その機体の大きさだった。

チラッと見た感じでは、コックピットには席が1つしかない単座の航空機みたいだが、そのコックピットの形状では最低でも2人乗りぐらいはありそうだ。

「カタログスペックとしては単座になっています。ですが、後部座席のスペースもあるので複座にすることも可能です」

 ユリアのことも慣れたらしく、ミラは柔軟に俺たちの質問に答えていく。

「臨機応変に対応できるというわけね」

 冷静さを装っているが、少し頬が赤いままの姫川も緋龍を見上げる。

「緋龍の最大の特徴は最高速、並びに旋回性能です。可変ノズル搭載の新型エンジンがこれを大きく担っています。銀河のメインエンジン、新型APCエンジンをそのまま小さくしたような構造をしているので、アタランタ粒子があるかぎり、もちろんガス欠状態にはなりません」

アタランタ粒子、それは、広大な宇宙空間に無限と言えるほど存在する新エネルギーは近年になって発見されたものだ。

この粒子の発見があったからこそ、現在の宇宙開拓時代があると言っても過言ではない。

宇宙船に搭載されているエンジンのほとんどがアタランタ粒子を取り入れ、推進力を生み出すAPCエンジンなのだ。

それまでは、机上の世界でダークエネルギーやダークマターと呼ばれ、存在しているだろうとされていた未知のエネルギーだったアタランタ粒子の発見で、化石燃料等を使用せずに宇宙空間を移動することができるようになった。

少し不便なところがあるとすれば、地球のようなある程度の大きさを持ち、大気が存在する天体の地表近くでは、アタランタ粒子の濃度が薄いために宇宙船が重力圏を出るの費用分のエネルギーの充填、あるいは特殊なタンクに貯めておいたアタランタ粒子を使う必要がある。

それ以外を除けば、アタランタ粒子は無限に広い宇宙空間のどこにもあるので非常に使い勝手の良いエネルギーなのだ。

「ちなみに、予備タンクを使えば地球上でも約1500キロは飛行可能です」

「へぇ。ついAPCエンジンの小型化にも成功したのか」

「そうですね。まだ試験段階ですので、細かな不具合等は銀河の中で調整して、データを採っていくことになります」

 ミラはそう言って大きな工具箱を緋龍のタイヤ止めの横に置くと、中からスパナやらレンチやらを取り出してレーザー機銃が収められているあたりのパネルを開けた。

「緋龍の30mm機銃は他に例を見ない大口径なので少し扱いづらいかもしれませんが、慣れれば非常に強力な武器にもなりますよ」

「確かに戦闘機では聞いたことのないほどの大きさだな」

「戦闘機どころか、銀河の機銃でさえ25mmよ。大きすぎるわ」

「そうですね。大型爆撃の翼でも、数回当たれば翼自体が折れてしまう程の威力ですよ」

「へぇ~。空を飛ぶ軽戦車ですね。マスター」

「恐ろしいほど強力な機銃だな」

 はしごを登り、風防を開けてックピットに乗り込む。綺麗な曲面を描く強化ガラスの風防ごしに見える外の景色はひらけていてパイロットとしては文句はない。鋼板で覆われている後ろ半分には広角度カメラを取りつけているため、わざわざ後ろを振り向かなくても、備え付けのモニターで後方を確認できるようになっている。

 そんなハイテク装備が並ぶ中、コンソールパネルは意外にもデジタルメーターではなくほとんどが懐かしいアナログメーターが採用されいた。

 右側にユリアを装着するソケットがあったので、そこにユリアを装着し、緋龍と適合ソフトを起動させる。

「……意外です。実際に飛んで誤差を調整しないと詳しいことは分かりませんが、適合ソフトの情報を読む限りは本当に米軍の最新鋭戦闘機に並ぶ性能を持っていますね」

 航空機には口うるさいユリアだが、その口から発せられたのは文句ではなく感嘆の言葉だった。

「ユリアが褒めるなんて珍しいな。そんなに気に入ったか?」

「いい機体ですよ。これならヘタレのマスターでもかなりの力を発揮できます」

 一言多いのは、それほど気に入ったという証拠だろう。

 俺も、操縦桿を握り。スロットルレバーに左手を添えて操作のしやすさを調べる。驚いたことに、まるで俺専用のオーダーメイドで作り上げた部品のようにぴったりと手にフィットする。

「アナログメーターだから、航空学校にいた時の訓練機にそっくりで扱いやすいな」

 計器やスイッチ等の位置の確認をすると、ユリアを外して俺はコックピットから出た。

「坂上先輩。どうでしたか?」

「うん。ユリアと同じで、飛ばしてみないと分からないけど、今のところでは申し分ないよ」

「後はテスト飛行というわけね……」

腕組みをして姫川は緋龍を見つめる。しなやかな黒髪が緋龍の濃い赤を背景にすると際立って綺麗だ。

ちょうどその時だった。

姫川の小型通信端末の呼び出し音が鳴り響いた。

「ん? 誰かしら?」

 姫川が端末を取り出し、非接触型画面を展開する。

『艦長。緊急事態です』

 画面に現れた総合オペレーターのイーシスは緊急事態と告げた割には意外と冷静だった。

「どうしたの?」

『はい、船団の2時の方向に未確認船が確認されましたので、至急ブリッジに来ていただけますか?』

「未確認船? 海賊船なの?」

『いえ、海賊船ではないと思われるのですが、少し様子が変なので艦長に連絡させていただきました』

 イーシスの一言で第3格納庫にいた俺たちの顔が瞬時に険しいものに変わった。

「分かった。すぐに戻るわ。その間に近づいてくる他の船がないかレーダーの監視体制を厳となすように!」

『了解しました』

 通信を切ると姫川はキリっとした目つきで俺たちを振り向いた。

「ミラちゃん。緋龍を今すぐ発艦させることは可能?」

「発艦まで5分ください。まだ、ロケットランチャーの弾薬を補給していませんので」

 姫川はミラの言葉を聞き、満足そうに頷いた。

「よし、弾薬補給の後、緋龍は発艦体勢のまま待機」

「了解!」

 俺たちにそれだけ言い残すと姫川は第3格納庫から走り去っていった。



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