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第5話 『同室者は小悪魔どころでは無かった……』

ここ100年間に、目覚しく発展をした科学技術に並び、人類の勢力図もずいぶん昔と異なってしまった。

200もの国家がひしめいていた地球は、今では4つの巨大な国家に変わってしまっている。激しい技術の進歩に追いつき、それでもって、他国と争える国は自然と決まっていく。

現在地球を実質的に支配しているのは国を昔の国分けで表すと、南北アメリカと大西洋の小さな島々を含めた、南北アメリカ連邦。

ヨーロッパとアフリカを含むEAU。

ユーラシア大陸の大半を占めるユーラシア人民共和国。

そして、太平洋の小さな島々を含む、太平洋皇国。

 様々な国が侵略されたり、統合したりして現在の勢力図に至っている。

他にも小さな国はいくつかあるのだが、この4大国家の技術には到底及ばない。大国家によって均等な軍事バランスが取れた地球にしばしの平和が訪れている。資源に関する小さな戦闘はあるものの、今のところ大きな戦闘は起きていない。

(本当に嘘みたいだよな……)

壁に貼られた世界地図を見て俺はそう思った。8年前、西暦2177年までこの地図上に日本という国は確かにあった。

しかし、その2文字は8年前に世界地図の上から姿を消した。

天災、人災、相次ぐ不幸な事態に日本は耐え切れなかったのだ。あの日を境に眠らない街と呼ばれていた大都会東京は長い眠りについた。

どん底の1年間。今まで経験したことのない苦難に国民は絶望という名の渦にその身を任せるしかなかった。しかし、この強大な渦の中でも懸命に抗っていた1人の少女がいたのだ。

日本列島の隅から隅まで走り回り、絶望の中の国民を再び立ち上がらせたスーパーヒロインの快進撃は留まることを知らなかった。

翌年2178年、民主主義国家日本の代わりに立憲君主制国家太平洋皇国が誕生。日本を中心に太平洋の島々が次々に皇国に加入していき、たった7年で世界4大国家の仲間入りになるほどの大国に成長したのだ。

これほどの大国まで伸し上がれたのは、日本の高い宇宙船技術が作り上げた守護神、宇宙戦艦長門のおかげでもあるが、国民を立ち上がらせた少女であり現太平洋皇国天皇の(とう)(れい)(えん)(なな)()様で間違いないだろう。

俺は再び壁に掛けられた世界地図を見つめる。

(……きっといい国になるよ)

 心の中でそう呟く。俺にできることなんてほとんどないけど、精一杯のことをやっていこう思う。それが俺にできる唯一の恩返しだからな。

「さて、通商船団と合流するまで少し時間もあるしシャワーでも浴びるか」

「そうですね。予定では、最終チエックを済ませた後、通商船団と合流することになっているので、あと一時間ほど余裕があります。もしも何かあったらお呼びしますので、マスターはゆっくりシャワーに入ってくるといいですよ」

「了解、了解。あと、同室者が来ても不意に声かけたりするなよ。お前みたいに話すAIは珍しいんだから」

「心得てます」

 自分のベッドにユリアとホルスターに収めたままの拳銃を置くと、バスタオル片手シャワールームに入っていく。

銀河の乗員は他の戦艦や巡洋艦の乗員数に比べて比較的少ないため、大きな二人部屋が各乗員に用意されている。しかも各部屋に小さいながらもシャワールームまで完備されている豪華さ。

普通の戦艦ならこうはいかないだろう。熱いシャワーでタオルでは落としきれなかった塩水を落とす。

 しかし、同室者は誰だろう。

 大海だったら気も合うし喋り易いからいいんだが、まぁ、部屋の編成は姉さんがしているし、その辺は察してくれているだろう。

 あの、暴力的な艦長の目の届かない自室は唯一の心休める場所だよな。

体も頭もスッキリとした俺が、脱衣所で替えの制服に着替えている時だった。ガチャっというドアの開く音ともに誰かが部屋の中に入ってきた。

んっ?

同室者でも来たか?

後は上着に腕を通すだけだったのでまずは同室者日に挨拶をすべくボタンも締めず脱衣所のドアノブに手をかけた。

「へぇ。結構いい部屋ね。まっ、2人部屋なのは残念だけど」

 ドアノブを捻ろうとしていた俺の右手が凍りついたように動かなくなる。

この声、まさか……。いや、そんなはずはない。きっとさっきの声は幻聴だ。俺の部屋にあの傍若無人な艦長が来るはずがないし、ましてやここが彼女の部屋なワケがない。

半分パニック状態になりかけている頭を落ち着かせるべく自らに言い聞かせる。

空いた左手を右手に添えてゆっくりとドアノブを握る。

「先に来た人はシャワー入っているのか。ついでだし、私もシャワー浴びてから艦橋に戻るか」

 再び聞こえてきたその声はまごう事なく姫川かぐや、その人の声だった。

 今までの一件もある。このタイミングでこのドアを開けようものなら、俺はあの世への片道切符を買いかねない。

 だが、ここでジッとしていても事態は解決しない。それどころか更に悪化する可能性だってある。

 マズイ。マズイぞ!

 どっちの道を選んでも結果は同じじゃねぇか!

「んっ? 男物のホルスター……」

 ドアの向こう側の声のトーンが瞬時に変わった。

 しまった! 

そういえば、ARIASでは男性は脇の下に拳銃を吊るすタイプのショルダーホルスター。対して女性は腰の周囲に拳銃を装着するタイプのヒップホルスター。

一目で分かるほど形状が違う。

「さて、まずは名前を名乗ってもらおうか。そこにいるんだろ?」

 扉のむこうにいるのは姫川で間違いないはずだ。だが、その口調は今まで聞いたことがない男口調。

 ゾクッとするような悪寒が背筋を駆け抜ける。

「30秒だ。30秒やる。まずは名前を名乗ってなぜそこにいるのか答えろ」

 カシャン

 拳銃を扱うものならだれでも知っているその音に俺の動きが止まる。

 あ、アイツ。スライドを引きやがった!!

 おそらく引き金に手をかけ、その銃口を俺に向けているに違いない。

「お、俺だ! 坂上刀夜だ! 先に行っておくが別にお前を待ち構えていたわけじゃないからな。ここは俺の部屋のはずだ。姉さんに紹介されたから間違いない」

「さ、坂上!?」

 ドアの向こうの声が急に元に戻る。先ほどまでの殺気が嘘のように消え果てている。

「へっ?」

 呆気にとられた俺がドアを開けて部屋を覗き込んで見ると、プルプルと震えている姫川が視界に入った。

「アンタってやつは、ほんっと懲りないわね……」

「こ、このパターン。まさか――」

「このヘンタイが! そんなに私を辱めたいか~!!」

 背中から抜き出した巨大ハリセンを姫川が大きく振りかぶる。

「姫川! お、落ち着け! あとなんだよそれ!?」

「マスター。分析結果を報告します。あのハリセンはARIASが独自開発した強力な和紙を職人が丁寧に折って仕上げた業物です。叩いた時の音を聞けば、もう他のハリセンは使えなくなるといわれている特注品ですね」

「だから、なんでそんなもの持ってるんだよ!」

「言いたいことはそれだけ?」

 ニッコリと微笑む姫川。小悪魔のような生易しいものではない。それは絶世の美少女の格好をした死神の笑顔だった。

「や、やめろ! そんなの食らったら気絶じゃすまねぇって!」

「ふふっ。問答~無用!」

 情の笑顔を見せた後、プロ野球選手もびっくりの綺麗なスイングで振り抜かれたハリセンで俺の視界は真っ暗になった。

 チクショウ。だから、なんで俺ばっかりなんだよ……。

薄れていく意識の中、本日二度目の愚痴を心の中でつぶやいた。


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