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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
第1章 宇宙(ソラ)への旅立ち
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第4話 『銀河発進!!』 改稿版

「さぁ。2人とも早く支度してね。お客さんを待たせてるから早く出港しないといけないのよ」

 姉さんに押されて、俺たちはずぶ濡れの服で銀河に近づいていく。近寄ってみてはじめて気づいたが、船体の喫水線より上の塗装が漆黒の闇のような黒色で、喫水線より下がメタリックブルーのような青色の2色でカラーリングされているようだ。

 後部間甲板にそびえるマストにはARIASの戦艦には必ず描かれている3本の青いラインが見える。

「近くで見るとでかいな」

「まぁ、初めは戸惑うかもしれないけど、そのうち慣れるわ」

ニコニコとした姉さんは本当にうれしそうで、かなり機嫌が良いらしい。その横で、機嫌が悪そうな姫川はやはりスルーしておこう。

 ドッグと銀河を繋ぐ移動式の桟橋を渡って、銀河の中へと入った。

「へぇ。中は意外だな」

 漆黒の船体の外見とは異なって、中は淡いクリーム色のような壁の廊下がずっと伸びている。

「ここから右に向って通路を30メートルほど歩いたら男子更衣室があるから、そこで刀夜は着替えてきて。制服はその紙袋に入っているからね」

 俺が持っている紙袋を指差す姉さん。いつものことながら準備がいい。

「他にも、必要品をその紙袋に入れてるから無くしちゃダメよ」

「分かった。着替えた後はどうしたら良い?」

「そうね。第一艦橋に来てくれる?」

「了解」

 さて、姫川が早く行けと言わんばかりにガンを飛ばしてくるし、さっさと退散するとするか。

 姉さんに言われた通り、通路を右に向って進む。

 通路を進んでいく途中で、背後から「さぁ、姫川さんの着替えは私が手伝ってあげるわよ~」「ちょ、長官! 私1人で出来ますッ! って、服を脱がそうとしないでください! あ、アフッ!」などと俺も赤面してしまいそうな会話が聞こえてきたので、通路を足早に進んで行った。

 男子更衣室と書かれたプレートを発見したので飛び込むようにその部屋に入る。

 部屋の広さはそれなりに広く、背の高いロッカーがズラリと並んでいる。奥のほうには、ルームランナーなどのトレーニングマシンまであるようだ。

 手前のロッカーを選び、濡れた服を脱いでロッカーの中に入っていたバスタオルで体を良く拭く。

「やっと着替えられるか」

「水も滴るいい男ってやつですよ。マスター」

「海水だけどな」

 ユリアとそんなやりとりをしながら、紙袋の中に手を突っ込んで黒色のシャツを取り出す。

これは、一見普通のシャツなのだが、防弾、防刃性に優れている素材を使用しているため、拳銃で撃たれたぐらいでは、この素材を突き破って体内に銃弾が進入してくるということはまず無い。

 だが、衝撃は吸収しきれない為に当たり所によっては骨が折れたりするが、命あってのものだから文句は言えないだろう。

 その防弾シャツを着て、もう一度紙袋の中に手を突っ込む。

「んっ?」

 指先に触れた、冷たくて硬いもの。不思議に思った俺はそれを取り出した。紙袋の中から現れたのは、皮のホルスターに入った銀色の拳銃。

「そうか、民間とはいえ、携帯が義務づけられてるもんな」

 宇宙空間であっても、戦艦を強奪する為に宇宙船を乗り付けて乗り込んでくるような恐れを知らない海賊達もいる。その為、乗組員全員に護身用として拳銃が手渡される。

 この銀色の拳銃は、日本の大和技術研究所で開発された富士七八式自動拳銃。通称、銀富士だ。

 装弾数15発、発砲時の反動が小さく素人でも扱いやすい。低コストで作れるといった面から民間護衛会社でよく使われている。

戦艦の主砲などのレーザー主流化が進む中、こういった人間が運べるサイズのレーザー兵器は、発砲したときの反動が大きい為にライフル銃ぐらいしか実用化されていないのが現状だ。

拳銃の重みを感じながら、防弾シャツの上にホルスターを装着する。最後に紙袋から取り出した制服を着る。

「制服は白か……」

 上下とも白地の制服で、肩の辺りや袖口など、所々黒色が使われている。胸ポケットには、お約束の3本ラインがしっかりと引かれている。派手過ぎず、身が引き締まるようなデザインになっている。

「そう言えば、姉さんが他にも何か入れてるってたな」

 紙袋の中に入っているものを順々に出していく。

 手帳にボールペン、応急薬と色々でてくる。それらを制服の内ポケットやらに仕舞いこんでいる時だった。

「坂上!? 銀河に乗ってたのか!」

 不意に背後から聞こえてきた懐かしい声で振り向くと、髪の毛がやたらツンツンした茶髪の少年が立っていた。

「誰?」

「なッ! この俺を忘れたのか!?」

「冗談だよ。久しぶりだな。大海」

「おう。中等部以来だから、2年ぶりか」

 この少年は大海龍兵おおみりゅうへい。坂上家の養子になってからの親友で、よく馬鹿なことをして姉さんに怒られた仲だ。

 元々同年代の子より身長が高く、今では180センチの高身長。かなりの大男だ。

「それで、大海は何でこの船に?」

「機関整備課に配属になったんだ」

「機関整備課か。そう言えば昔から大海は機関整備課に入るって言ってたもんな」

 宇宙船の心臓であるエンジンなどの整備をする機関整備課は、大海にとって水を得た魚のように得意分野であり幼い頃からの夢だった。

「そういう坂上は航空課じゃねぇか」

 俺の制服に付いている鳥の羽根を象った金色のバッジを見て、大海がニヤニヤする。

 幼い頃、俺は航空課のエースパイロット、大海は機関整備課の整備課長になるのを夢見て語り合ったことを思い出しているのだろう。

「ヘヘッ、おめでとう!」

「オマエもな」

 お互いにハイタッチをして喜ぶ。

「オホン! 再会を喜ぶのもいいが、私も忘れてもらっては困るぞ」

凛とした女性の声が聞こえてきて、大海の後ろから長身の女性が現れる。

俺と同じ航空課のバッジをつけた制服、腰には一振りの刀が差されている。栗毛のポニーテールに日本刀の刃のように鋭い瞳。そして特徴的な男口調。

一瞬で誰だか分かった。

「アズ姉じゃなかッ!」

「久しいな。刀夜。噂は聞いているぞ。ミッドウェー航空学校のエースパイロットになったらしいな」

優しい笑みで笑うこの女性は、一ノ(いちのせ)(あずさ)。俺より1つ年上の先輩で正義感が人1倍強く、面倒見のいい性格から、よく俺と大海は怒られていた。

姉さん同様、根は本当に良い人なのだが、怒らせたら怖い。

そんなアズ姉は、驚くことにこのご時世で居合い斬りの免許皆伝を持っている。

さらに驚くのが、戦闘機パイロットとしての技術力。その腕前は、ARIAS航空課の中で5本の指に入るくらい。

「アズ姉に比べればまだまだひよっこだよ」

「そんな事はない。それに、刀夜の全力はそんなものではないはずだぞ?」

「いやいや、ひよっこだって」

 俺がそう言って苦笑する。正直、アズ姉は昔から、俺たちをよく見て叱ってくれたり褒めてくらたりしてくれたもう1人の良き姉さんだ。

 だが、再開の感動ムードは次の瞬間崩れ去った。

『坂上刀夜! 今すぐ第一艦橋に来なさい! 繰り返す! 坂上――』

 特徴ある声が艦内アナウンスで俺の名前を呼ぶ。この声を聞き間違うはずがない。まごうことなくウチの艦長姫川だ。

「やばっ!」

「坂上。早くもウチの艦長怒らせてるみたいだな」

「早くしないと、長官からも罰を喰らうことになるぞ」

「えっと、艦橋ってどう行ったらいい?」

「そうだな、前の通路を前に向かって進むとエレベータがある、それに乗るといい」

「ありがとう、アズ姉! ごめん先行くから!」

 叫ぶようにそう言うと俺は部屋を飛び出した。銀河の艦尾側から乗り込んだ為、艦橋までへ続く100メートル近くの廊下を全力疾走で走りきると、アズ姉が言ったエレベータが目に入った。

 上に向かうボタンを押し、エレベータが降下してくるのをもどかしく感じながら待つ。ようやくドアの開いたエレベータに乗り込み第一艦橋のボタンを押す。

 低いモータ音と共に上昇が始まる。その間に乱れた呼吸を整える。

 ピンッ

 短い機械音がしてドアが開く。

「坂上。ただいま到着しました」

「遅い! 私が呼んだら5秒で来なさい」

早速無理難題を突きつける姫川艦長も、白地に黒いラインの入ったARIASの制服を着ていた。

 掃除していた時はくポニーテールにしていた髪は下ろしたのか、長く艷やかな黒髪が彼女の腰近くまで伸びている。

「アナウンスしてから1分8秒だから、結構いいタイムだと思うわよ?」

 懐中時計を覗き込んでいた姉さんが、俺のフォローを入れてくれる。

「ま、まぁ。今回は不問にしてあげるわ」

 姉さんの助言で俺の件は保留になったらしい。今回は姉さんに救われたようだ。一息ついて、艦橋内部を見渡すと意外と人が少ない。

 全員合わせて6、7人といったところか実習で見学した正規軍の艦橋と比べると半分ぐらいしか人がいない。

 部屋の中央部の1段高い所に艦長席があり、艦長席の前に操縦席がある。あとは左右を囲むようにいくつか席があるだけ。

 ARIAS最新鋭艦というだけはあって、色々な最先端技術を艦橋内部にもりこんでいるようだがこの人数の少なさは異常だな。

「姫川艦長。そろそろ出発しましょうか」

「そうですね。鹿嵐(かならせ)君。エンジン始動準備」

「了解。始動準備に取り掛かります」

 鹿嵐と呼ばれた少年が、操縦席に座ってスイッチ類を手際良く操作していく。後ろからだから、顔は分からないが、おそらく俺と同い年ぐらいだろう。

「メインエンジン圧力正常。姿勢制御ブースター異常なし」

「レーダーシステム、オールグリーン。全通信回路良好」

 慌ただしくなってきた艦橋内部。それぞれが最終チェクを済ませていく。

「刀夜。そこの席お願いね」

 姉さんが、空いている席を指さしてウインクする。どうやら、あの席に座れという意味らしい。

 操縦士の鹿嵐の右側の席に座り、パネルに目を向ける。目の前の透明のガラスに映り込む艦内の情報に目を通す。

 どうやら、この席はこの艦の情報を統括しているものらしい。航空学校で宇宙船実習もやっていたので、扱いには苦労しなさそうだ。

「艦内異常なし。総員配置につきました」

 最終チェックを済まし報告する。ここ最近、地球での実習ばかりだったので、宇宙空間に出るのは2年ぶりだ。

「錨揚げ! 微速前進。ドッグハッチ開け」

 姫川の指示で、ゆっくりと銀河が動き出した。徐々に速度を上げていき、薄暗いトンネルの中へ漆黒の戦艦が進入していく。

トンネルの幅は約45メートル。銀河の最大横幅は40メートルらしいので、かなり狭苦しく感じられる。

 まるで身をよじるように、進んでいかなくてはならない。

 これほど狭い水路を進んで行くのは至難の業だ。

「速度10ノット」

 新型エンジンは、非常に静かで滑らかに戦艦を押していくので、水面を滑るように進んでいるように感じられる。

「トンネル出口まであと30秒」

俺と反対側の席に座っている、若いオペレーターの少女が落ち着いた口調で報告していく。

銀髪の似合う少女で、俺よりずいぶん年下に見える。だが、コンソールパネルを操作する手つきや落ち着き具合から、その道では俺より数倍手練れているのが簡単に見て取れた。

艦橋の雰囲気も張り詰めているわけでもなく、たるんでいるわけでもない。適度な緊張感が辺りを漂っている。

「トンネル出口のハッチ、開きます」

 薄暗かったトンネル内に太陽の光が差し込んでくる。辺り一面の青い世界が俺達の目に飛び込んできた。

 夏の入道雲がずっと向こうの水平線の上にドカッと腰を据えている。

「半径100キロ圏内に船舶、及び飛行物体なし。」

「よし、エンジン出力を重力圏内モードに移行。サイドブースター展開」

「了解。システム起動します」

 オペレーターの少女が手馴れた手つきでテキパキと仕事をしていく。

「サイドブースター展開。エンジン出力、正常に上昇中」

 さっきまでの穏やかな運河とは違い、外洋の波が銀河の船体に叩きつけられる。しかし、大きな波でも船体は揺れることもなく進んでいく。

「艦長。準備完了しました」

「ん、ブースター点火。宇宙戦艦銀河発進!!」

「宇宙戦艦銀河、発進します!」

姫川の発進指示で、鹿嵐がエンジン出力レバーを押し込み、ハンドルを引く。

「……おっ!?」

ゆっくりと銀河の艦首が上昇していく。

エンジンが力強く銀河を押し出し、盛大な水しぶきをあげながらも、その船体を上へ上へと持ち上げる。

 鹿嵐の手の動きに銀河のエンジンが更なる咆哮で答える。グググッと下に向って力が加わり、銀河を青い空へと導いて行くのが分かる。

 黒と蒼の戦艦はその巨体で空を悠々と飛んでいる。新型エンジンの出力には少々驚いた。もっともたつく上昇しかできないだろうと思っていたが、エンジンの本領を全く発揮せずにこの巨体を持ち上げたのだ。

 伊達に、46センチ荷電砲を積んでいるだけはある。主砲の一斉掃射をしながら、何の支障もなく航行できるぐらいのエンジンだ。

「出力安定。各部に異常ありません」

「うん。進路そのまま」

「脱出コースに乗りました。45秒後に大気圏を突破します」

 みんなの顔に安堵の色が広がる。

「みんな、よくやったわね。まずは、月面で通商船団と合流するわ。鹿嵐君。いい操艦だったわ。姫川艦長もお疲れ様」

優しい笑で姉さんがみんなをねぎらう。

ひと安心した俺は、メインモニタ―に映し出された外の景色に目をやると、さっきまで銀河が停泊していた姫島が豆粒みたいな大きさになっていた。


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