第7話 轟け46センチ砲 ~ ⅳ ~
蒼く塗られた艦底のハッチがゆっくりと開く。
「侵入コース良好。マスター。このままどうぞ」
「了解」
ゆっくりと緋龍を減速させていき、銀河との相対速度を落としていく。銀河の航空機の収納ハッチは艦底中央部にある。
平らな船底へ、まるで空母に着艦するように優しく緋龍のタイヤを接触させてブレーキをかける。
そのまま、緋龍の後ろについたアレスティング・フックがワイヤーを引っ掛けて緋龍の速度を一気に落とした。
「全く便利なものだな」
「艦底に重力フィールドをはることにより、擬似的に地球上で空母に着艦するようにできるとはよく考えられていますね」
「ああ、少ないスペースをよく使ってるよ。この船は。 姫川! いつまでも泣いてたら皆にバレちまうぞ」
「バカッ! 泣いてなんかないわよ!!」
そう怒る姫川の声はまだ若干泣いていたように聞こえたが余計な事を言うのはやめておこう。
前みたいにボコボコに殴られるのは勘弁だからな。
「そんなことよりちゃんと前を見なさいよね!」
「へいへい」
ワイヤーが巻き上げられて緋龍がエレベータへと誘われていく。正直ここまでくれば、パイロットの役目はもうないのだが、余計なことをしてると後ろの姫様にどやされそうだ。
『帰艦をまずは祝福します。よくやってくれました。刀夜』
無線機越しに聞こえる姉さんの声も明るい。さらに、その後ろから聞こえるクルーたちの声もお祭り騒ぎみたいに騒いでいる。
エレベータが完全に降り切ったのち隔壁が開くと、そこには沢山の銀河のクルーたちが勢揃いで俺たちの帰艦待っていた。
「お帰り! 艦長!」「待ってたぜ! 姫川艦長!」「刀夜! よくやった!」
皆人それぞれに賞賛してくるので、少し恥ずかしくなる。
「帰ってきたな」
「ええ」
頷く姫川を見て、俺は緋龍のキャノピーを開け、手持ち用のマイクを手に取る。
「お前のフネだ。しっかり頼むぜ。艦長」
俺はそう言って、緋龍の通信機と繋げた手持ちマイクを姫川に手渡してやる。
「あ……」
まだ少し、潤んでいる紅い瞳を手で拭うと、姫川はキリッとした表情に戻ると俺が手渡した手持ちマイクをしっかりと握って立ち上がった。
「みんな。本当にありがとう。みんなのおかげで無事勝つことができました」
「おうよ! 俺たちを誰だと思ってるんだ! なぁ、みんな」
ガッツポーズを掲げて大海がそう叫ぶ。それに便乗して他のクルー達がガッツポーズを掲げる。
「カグヤっ!」
その時だった。聞き覚えのある声が格納庫に響き割った。一瞬でしんとなった格納庫内にひとりの少女が入ってきた。
「フィオナ! お前ッ!」
ブラッティー・メアリーの基地の中で出会ったフィオナだった。
俺たちが来ているアリアスの白い制服ではなく、血ような色。そう、どす黒い紅色の制服を着ていた。
恐らく、あの服がブラッティー・メアリーの制服なのだろう。
「少し、聞きたいことがある」
格納庫に集まっていたクルー達は、いつもと違うフィオナの服や雰囲気に圧倒されて静かになっている。
姉さんは、驚きはしていないものの、口を開かずに静かにこの場を注視していた。
「今回はうまくいった。でも、カグヤ。例え、逃げても絶対追いかけてくるよ。これは宿命だよ。企業連の奴らのしつこさは異常だからね。しかも、これから襲ってくるのは企業連だけとは限らない。情報が漏れている可能性が高いからね。第三者の可能性もグンと上がってる」
「フィオナ! どういうつもり――」
「刀夜」
俺の目の前に手を出して、姫川が俺の言葉を遮った。
「今、僕と一緒に来てくれれば、ブラッティー・メアリーの名にかけて絶対守る。フレンはそう言っている。どうする?」
「私は……私は、戻らない!」
「えっ? 姫川。お前……」
「私は逃げない。アンタらが言う宿命とやらと徹底的に戦ってやる。刀夜が……。みんながそう教えてくれた。それが私の答えよ」
俺達が驚いた顔をしているのを尻目にフィオナはイタズラそうにニヤリと微笑んだ。
そしておもむろに上着の中へと手を持っていく。
この瞬間。俺の頭中で最悪のシミュレーションがされる。あの上着の中にどんな銃が隠されているか分からんが、俺は姫川を服を引っ張って射線上俺が来るように抱き寄せる。
バリッ!
上着の中に入るどころか、フィオナの手は上着を掴んで引きちぎるように手を振った。
まるで、手品師の様に瞬間的にフィオナは紅い制服から、黒いラインが3本入った白い制服へと早変わりしていた。
「気に入った。もしも、逃げるなんて言ったらナイフのサビにしてやろうかと思ったところだったよ」
「「……はっ!?」」
俺と姫川は目を丸くしてフィオナの奇行に驚く。ど、どういうことなんだ?
「ブラッティー・メアリーよりもこっちのほうが楽しそうだしね」
「フィオナちゃんには、正式に砲雷長として今後仕事してもらうことになったんですよ」
「えっ? 砲雷長? ただの砲雷課の一員じゃ」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 火星で刀夜の代わりに砲雷長が正式に加わるって」
「「ハァッ!?」」
「そういうことだから、改めてよろしくっ!」
そう言ってフィオナはいい笑顔で俺たちに向かって敬礼するのだった。