第6話 漆黒の戦闘機 八
どうも皆様、夏川です。
ハイ、生きていますよ。
ということで、一ヶ月ぶりに本編投稿ということで、皆様にはお待たせしました。
それでは、本編、どうぞ!!
いくら広い通路とはいえ、逃げる側にはほとんど逃げ場のない一本道。対して、追う立場になると、敵を狙う絶好の狩場ともいる。
「ちょっと! 大丈夫なのッ!?」
「さぁな。……ただ、当たったら間違いなく終わりだろうなッ」
広角度モニター越しに漆黒の戦闘機の機銃が光る。それを、事前に察知していた俺は、機体をロールさせて、弾丸を避ける。
おそらく威嚇だろうが、当たったら洒落にならないからな。
「この通路の出口まであとどれくらいかかる?」
「このまままっすぐいけば、コロニーから出れます」
「了解。コロニーを出たらちょっと揺れるからな」
「ちょっとって、今でも充分揺れてるわよッ!!」
後ろで姫川の叫び声が聞こえるが、俺は構わずスロットルを叩き込んで緋龍を加速させる。
姫川。悪いが、緋龍じゃなかったら、きりもみ状態になるところだ。これくらいの揺れじゃ、戦闘機乗りにとっちゃ、振動レベルだ。
加速する緋龍のコックピットから見える景色は、ほとんど線状になっていて、針の穴を通すようにかろうじて景色は見えるだけ。
「後方に熱反応! ミサイルですッ! フレア、間に合いません!!」
「チッ! 今回は容赦ないな」
狭い通路の中でミサイルを避けるようなスペースはない。横にも後ろにも逃げ場がないとなれば、退路はただひとつ。
俺は迷いもなく緋龍のスロットロルレバーの付け根にあるスイッチを押す。
それと同時に、後ろから蹴り飛ばされたかのような加速力が緋龍を襲った。速度メーターの針が振り切れんとばかり振れて、異次元的な加速を刻み込む。
レーダー画面には、さっきまで迫ってきていたミサイルとの距離が徐々に離れはじている。
限られた狭い視界。通路の出口は俺の目に飛び込んできた。一気に開けた周りの世界に、躊躇せず俺は操縦桿を引いて機体を垂直に持ち上げる。
「インフィニティまで距離、200!」
「鬼ごっこは終わりにさせてやる!」
ひねり込むようにインフィニティの後ろを取りに行く。漆黒の機体を目で捉えながら、フットペダルを踏み込むが、相手もそう簡単に後ろを取らせるわけがない。
定常円を描くように二機の戦闘機が互いの内側を取ろうとする。こうなれば、腕の勝負というより、機体の旋回性能が物を言う。
緋龍の性能からすれば、いつでも内側に入れるのだが、あえて、相手に合わせて均衡状態を保つ。
互いの機体の上部を見るかのように綺麗な円を描いたときだった。
「ここだッ!!」
思いっきり操縦桿を引いて、一気の描く円の内側に入り込む。目の前に取り付けられている光学照準器が闇色のインフィニティの翼を捉えた。
間髪を入れずに、操縦桿に取り付けられている機銃のスイッチを引く。
翼に装備されている30mmレーザー機銃から紅色のレーザーが次々と撃ち出されていく。
そして、そのレーザーが闇色の戦闘機の翼を食い破る……ハズだった。俺の目の前でインフィニティが機体を回転させて緋龍の機銃を、鮮やかに交わしていく。
一瞬だが、俺の中で集中力がきれてしまう。
その瞬間を狙ったかのように、次はインフィニティがその闇色の機体をひねり込んで、その機体を難なく緋龍の後ろに滑り込ませた。
「ウソ……だろ」
広角度カメラに入りきらない程近くに映っている闇色の機体。恐怖を超えて、背筋を冷たい何かがゆっくりとなぞるかのように俺を支配する。
止まったかのように流れるゆったりと流れる時間の中、カメラに映る機銃の銃口に俺の目は釘付けになっていた。
……もう遅い。
俺の脳はそう判断していても、手と脚は機体を逃そうと勝手に動いていく。
間に、合わない。
バシュッ!!
機銃の銃撃音とは明らかに違う音が緋龍から発せられる。
広角度カメラには、迫り来る闇色の機体とは別に、視界覆うように光り輝く小さな火の玉が飛竜から放出されているのが見えた。
フレアだと!?
赤外線誘導のミサイルから航空機が逃れる為に撒く無数の火の玉に驚いたのは俺だけではなかった。
真後ろについていたインフィニティのパイロットもまた、その同様を隠しきれていなかった。
「刀夜!!」
姫川の声で、最大のピンチが最大のチャンスに切り替わった。
考えるよりも先に操縦桿とフットペダルを踏み込んで機体を180度ロールさせながら、進行方向を反転させる。
そのまま、インフィニティの後ろにつくこともできるが、俺は機体を反転させたまま、インフィニティから一旦、距離を取ることにする。
相手の腕は、俺よりも数段上。しかも、俺の攻撃方法を読んでひねりこんできた。俺の思考回路に似た戦闘を仕掛けてくる辺り、同じ技ではその熟練度がモノをいう。
技の熟練度でも劣っているというのに、乗り慣れていない緋龍を完全に自分の手足のように動かせていない俺では部が悪すぎる。
スロットルレバーとブーストボタンを押し込んで猛加速させなるが、インフィニティが再び真後ろにつくのは時間の問題だった。
「刀夜。私に考えがあるの。聞いてくれる?」
俺の後ろから、鈴の音のように静かで、透きとおった姫川の声が耳に入ってきた。その声は、あまりにも冷静で、さっきまで叫んでいた姫川とは思えないほど、冷たい声だった。