第6話 漆黒の戦闘機 七
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では、本編へどうぞ!!
銀河の停泊する宇宙港を飛び出て、ユリアが到着するのは緋龍の性能およそ5分。それまでに奴らに捕まらずにユリアと合流できるかが勝敗の分かれ道だ。
「だけど、その前に宇宙服がないとマズイな……」
「宇宙服ならそこの階段を降りたドッグ入口の部屋にあるけど?」
「ホントかッ!?」
視界の端から聞こえてきた声に俺は反射的に答えてしまったが、明らかに姫川とは違った声色の声だったが、つい条件反射で振り返ってしまう。
振り向いた先で、真っ黒の宇宙服にパイロット用のフルフェイスヘルメットの女性が現れた。
「ッ!!」
突然現れた女性に一瞬戸惑ってしまった事に、心の中で後悔しながら右手に持っていtら拳銃を構えようとする。
「あらあら。私は荒事は嫌いなんだけど。それとも、拳銃を向けるのが礼儀なのかしら?」
不覚にも走っていたはずの俺は、その一言でその場に立ち止まることになってしまった。
「刀夜。銃を下ろして」
「……」
「貴方たち、誰かに追われているんでしょ? 私なら、貴方たちを追う人たちをなんとかすることはできるけど、どうする?」
その言葉は、フルフェイスで顔を隠しているというのに、俺には、真っ黒なシールドの向こう側で女性が笑っているように思えた。
「アンタがうまくやってくるれる保証がどこにもないんだが……」
「そうね。でも、私たちは拳銃を向け合うことよりも、戦闘機の操縦桿を握っている方が性分だと思うわよ」
フルフェイス越しに感じる威圧感に俺は、不思議にも親近感のようなものを抱いていた。初めてあったはずの人なのに、どこか懐かしさを感じてしまう。
「刀夜ッ!」
姫川の声と共に複数の足音が耳に飛び込んでくる。どうやら、早くも追いついてきたらしい。
ここでモタモタしているのは得策ではないと判断して、後ろ髪を引かれる気持ちを抑えて、再び走り出す。
さっきのフルフェイスの女性が言ったドッグに降りる階段を駆け下り、宇宙服が保管されているという部屋に駆け込んで内側から手動ロックをかける。
「ハァハァ……。これでどの程度持つか」
「どうやら、話は本当だったみたいよ」
棚に置かれていた宇宙服とヘルメットを手に取った姫川は、俺にその1つを投げだした。
「ユリア。到着までどれくらいだ?」
『ただ今、整備用通路を飛行中。問題がなければ、残り2分38秒で到着です』
「よし。到着を待ってるぞ」
『了解です。マスター』
「本当に無茶するわね」
「不可抗力だ。それに、俺としてはどうしても確かめたかったこともあったしな」
ユリアの管制飛行でも、どうやら緋龍はある程度飛行ができるらしい。フルマニュアルだと聞いていたが、一応ユリアの自動飛行システムと直結すればそれなりの性能が出るようだな。
ここに来て気になることだらけだが、一番俺の中で気になっていたのは、フレンの言った状況が変わったという一言。
一体、同状況が変わったのか。
「できれば、面倒事でないと願いたいが」
今以上の面倒事には巻き込まれたくないなと思いつつ、宇宙服に着替えて、最後にヘルメットの気密性を確かめる。
特注品なのか、身体によくフィットして使い心地が良い。これなら、緋龍の運転に支障はほとんどなさそうだ。
「ねぇ。本当に大丈夫なの?」
「さぁな。何せ、あまり考えずに飛び出したからな」
「はぁ……。今のあんたを見てたら、さっきまで泣いていた私が、バカらしくなってきたじゃない」
ヘルメット越しに姫川が呆れているのが分かるが、別に何も策をねっていないわけでもなかった。
最も、賭けに等しい策だったのだがな。
「そもそも、落ち込んでいるよりはマシだろ。それとも黙ったまま捕まるか?」
「あのね。私は人殺しの遺伝子の持ち主なのよ! 普通の女の子じゃないのッ!!」
俺を鋭い眼差しで睨みつける姫川。どうやら、結構怒っているみたいだ。
「だからなんだ?」
「だからって、アンタ何もわかってないでしょ!! 私にその気がなくても、この力は企業連以外でも欲しがっている奴はいるのよ!」
「それは大層なことで」
「アンタ馬鹿にしてるでしょッ! 私を――」
「お前の価値はそのDNAか?」
「え……?」
唖然とした表情で俺を見る紅色の瞳が驚きを隠しきれず揺れ動く。
「DNAで人の価値が決まるならバカらしくて人間なんてやってられないだろ」
俺には姫川の身体の中にあるDNAがどれほど凄いものなのか、そしてどれほど危険なものなのかさっぱり分からない。
だが、そのDNAが彼女の全てではないことは分かる。怒り、悲しみ、悩み、笑えるのは、DNAではなく彼女の内側、つまり性格があってこそ。
「縛られるだけじゃなくて、自分な好きなことをやってみろ。お前の本気でやりたいことを」
「私のやりたい、こと?」
「ああ。姫川のやりたいことだ」
『マスター! お待たせしました! お迎えにあがりましたよ』
ジャストタイミングで真っ赤な機体がドッグの中に滑り込んでくる。そのまま、 機体を90度回転させてすぐ近くの桟橋に横付けするように停止する。
『半径50m内に多数の生命反応を確認。マスター。急いでください!』
「可能性を諦めるか。可能性を求めて賭けに出るか。姫川。お前ならどうする?」
「そんなの、可能性に賭けるわよ!!」
「OK。それじゃあ、こんな面倒なところかサッサと出ちまうぞ!」
「アンタにそんなこと言われなくても分かってるわよッ!」
姫川と同時に桟橋に向かって走り出す。後ろの方で追っ手の足音が聞こえてくるが、振り向かずに全力で走る。
「ユリア!」
『もう、面倒なモノをゾロゾロと引き連れて。いつからマスターはそんなにモテモテになったんですかね。強制排除システムを起動します。マスターたちは全力でダッシュしてくださいよッ!』
ユリアがそう言ったのと同時に、緋龍に搭載されているフレアが前方に向かって射出させれた。
綺麗な放物線を描いて、俺たちの上空を飛び越えたフレア。追いかけてきた奴にフレアが火の雨となって襲いかかりその進路を阻む。
その隙をついて、緋龍のコックピットに飛び乗る。
「こいつが複座で助かったぜ。ユリア、コントロールを」
『了解です』
「複座なのはいいけど、なによこの計器の多さは」
「文句は戻ってからだ!」
ドッグの隔壁が閉じられてしまったら、折角の逃げ口がなくなってしまうため、俺はスロットルを思いっきり叩き込んで緋龍を急発進させる。
既に閉じ始めている隔壁の間をすり抜けて、整備用通路に侵入する。小型の宇宙船が行き来できるように設計されているのか、比較的に広い通路なので緋龍なら難なく通過できる。
「ユリア。俺が出かけているあいだに何か変わったことはあったか?」
『変わったところですか。銀河の内部では特に何もありませんでしたが』
「そうか。なら、フレンのあの言葉は……」
『マスター! 後方に飛行物体!』
「きやがったか」
後方を確認できるモニターに漆黒の戦闘機の姿が鮮明に映し出されていた。嫌というほどオーラを纏っている戦闘機に後ろに付かれるのは正直生きた心地がしないが。
「こっちもやられてばっかりじゃ、話にならないからな!」