第6話 漆黒の戦闘機 六
皆様お待たせしました。
このペースを保てるよう頑張っていくつもりです。
それでは、本編へどうぞ!
「まさかこんな形で話すことになるとはね」
「……話しにくいなら別に無理して話すことは――」
「構わないわ。いつか話さないといけないとは思っていたから。実は、私には父と母がいないの。意味が分かる?」
俺と向き合う姫川の表情が、いつも以上に真面目で、その目には怒りや悲しみといった感情よりも、どこか達観し、諦めたような目をしている。
「人工人間、なのか? あれは、国際宇宙条約で禁止されているはずじゃ」
「自由企業連合って知ってる?」
自由企業連合か。無法企業の集まりで、金のためならどんな汚い仕事でもやるっていうエゲツない組織だったはず。
最も、都市伝説みたいなもので、本当に存在するなんて聞いたことがないがまさか、本当に存在していたのか?
「都市伝説じゃない、みたいだな」
「ええ。存在するわ。そして、ブラッディー・マリーが追う巨大組織。私が生まれた場所は自由企業連合の秘密研究所。様々なDNAを高速実験で掛け合わせて作る最強の人間。いや、最恐の人間ね。私のDNAは戦争の為だけに作られた、平和を脅かす魔物なのよ」
「姫川……」
「怖いのよッ! この前の海賊襲撃の時だってそうだった。警告射撃以上のことは望まない私とは別に、海賊相手にまるで赤子の手を捻るように命を簡単に消し去ろうと考えている自分がッ!」
堰を切ったように姫川の隠された本音がボロボロと溢れ出てくる。実際、俺は姫川と同じ立場に立ってことがないが、姫川の苦しさは分かる。
だが、そうした彼女の苦痛を『苦しかったな』という半ば同情のような言葉を俺は出す気にはならなかった。
きっと、彼女の苦しさを真に理解できる人間なんていないだろう。結局、かける言葉は、推測に過ぎない中途半端な答えになってしまうのだから。
「私は嫌だ!! 普通の女の子に生まれたかった。こんな人殺しの為のDNAなんて嫌ッ! ねぇ。刀夜。なんで私なの!?」
縋るように俺の胸を叩く姫川は、自らが泣いていることを気づいているのだろうか? 今の彼女に。カッコつけて泣いていないなんていう精神的余裕が無いのかもしれない。
大粒の涙がその頬を伝って地面に落ちていく。
泣いて、泣いて、俺のことを叩いて訴えてくる姫川に俺は何も返す言葉がなかった。もし、言葉があったとしても、それを口にすることなんてできなかっただろう。
あやすわけでも、何か声を掛けるわけでもなく、ただただ、棒立ちで立っていることしかできない俺に姫川は泣くだけだった。
「私は、私は……なんなの?」
不幸だった。その一言で片付けられるような問題ではない。
掛け合わせたDNAから生まれた姫川かぐやという少女が自由企業連合の連中に何を求められていたのかなんて深く考えなくても分かる。
合法的殺しのビジネス。戦争という稼ぎ口に使わられるのは火を見るより明らかだ。金のためなら何でもやるヤツが行き着く最終地点は戦争になってしまう。
戦争には武器はもちろん、装備、食料、輸送手段、そして、兵器の開発。あらゆるところに大量の金を使い込むため、それをうまく使えば巨万の富を手に入れることは、平時の時比べて簡単だ。
「刀夜。だから、アンタはこの面倒ごとから降りて。ブラッディー・マリーに入ろうなんて思わないで」
「……分かった」
『貴方がたが話している間に状況が変わりました。坂上君には、ぜひ我々の組織に入っていただかなくてはなりましたよ』
部屋の隅に置かれているスピーカーから、フレンの声が俺たちの耳に飛び込んできた。
「俺は何って言われても降りますよ」
さっきの姫川の目を見ていまさら入りますなんて思うわけがない。俺ははっきりと答えをスピーカーの向こう側にいるフレンに言い返した。
『ならば、少し強引ですが交渉に応じていただくとしましょうか』
トーンを下げてそう言ったフレンの声と共に、廊下から走ってくる大勢の人の足音。
「チッ! 何が正義の組織だ! とりあえず逃げるぞ」
「う、うん」
姫川の手を引き俺は、漆黒の戦闘機が置かれていた部屋から飛び出る。
部屋から飛び出るのと同時にホルスターから拳銃を引き抜いて、そのままドアの電子ロックの操作盤を撃ち抜く。
火花を散らして、弾けた操作盤を横目に扉を閉め、反対側からロックする。どれくらいもつかわからないが、少しは時間稼ぎにはなるはずだ。
そのまま後ろ振り返らず廊下を突っ走る。
「ちょ、どこに行くのよ。刀夜!」
「ユリア! 聞こえるか!?」
耳にはめていた小型通信機越しに、相棒を呼び出す。
『もちろんです。マスター。どうかされましたか?』
「ちょっと用事が出来た迎えに来てくれ」
『私はタクシーではないですよ。マスター』
「急ぎの用だ! 銀河の発艦システムを一時的に乗っ取ってでも迎に来いッ!」
『訳ありのようですね。了解しました。銀河のカタパルトシステム。並びにエレベータシステムのハッキングを行います』
「ちょっと! 何やってるのよ!!」
俺が物騒なこと言ったせいか、後ろでかなり驚いている姫川。無理もないが、なんせ相手が相手だからな。
少々こっちも手荒に行かせてもらう。
『エレベータ上昇完了。宙域スキャン完了。オールクリア。エンジン圧力正常。発艦準備整いました』
通信機越しに緋龍の双発エンジン音が大きなっていくのが分かる。
「よし、緋龍発進ッ!」
『了解。SB-28。テイクオフ』