第6話 漆黒の戦闘機 五
どうも、シリアス展開に違和感を感じながら書いている夏川です。
シリアスの雰囲気が上手く書ければいいのですが……
では、本編へどうぞ!!
静かに開いたリムジンの扉の向こうに見える紅い鉄の門を見て、姫川は俺に言うというよりは自分に言い聞かせるようにそう呟いていた。
車を降り、紅い門の前に立ったフレンに反応して、重々しく鉄の扉が開いていく。怪しさ満点の場所。ギャングの巣窟に等しい怪しさが扉の向こうから臭っている。扉の向こうに続く長い廊下は、清潔感溢れる白い電灯で照らされている。
「坂上くん。この場所では、銃のセーフティー(安全装置)は下ろさないようにね」
「あ、ああ」
あらかじめ銃のセーフティーを下ろしていたのだが、どうやらフレンはそのことを知っていたらしい。ここは忠告に従って一応セーフティーを上げておくことにしておこう。
「さあ、どうぞ」
無言で歩いて行く姫川に続いて、フレンに促されて扉の向こう側へと入っていく。
50メートルほど歩いたところだろうか、いきなり開けた展望室のような場所に出た。一面ガラス張りのその部屋から巨大な空間が覗いている。
「コレは……」
展望室の向こうに広がっていたのは、小規模ながらも宇宙船を格納するのには十分な広さを有するドッグ。
そのドッグの中央にいたのは、宇宙船ではなく複数の航空機。様々な機種が揃っており、最新型の偵察機から、戦略爆撃機まで。
一個大隊はありそうな航空機の数に唖然とした。
「……何もんだよ。お前ら」
「ブラッディー・マリー。政府、連邦、全ての汚れた権力に属さない独自の宇宙保安組織ですよ」
「宇宙保安組織……。なんでそんなものを」
「連邦の保安組織では、やっぱり裏に繋がっているところがあるからね。僕らみたいな組織が必要なの。分かるよね。刀夜なら」
俺たちの後ろから歩いて来たその姿を見て、一瞬自らの目が信じられなかった。そこにいたのは、俺のよく知る人物。
「フィオナ!? なんでお前が!」
「僕もここに属する身だから。刀夜は知らないかもしれなけど。3年前のエルドライン海難事故。あれは事故じゃなくて事件だったの」
「な、なんだと?」
事故じゃないって? たしかあれは、偶然起きた不慮の事故だったはずだ。事故後に政府と学校の両方の調査結果でも、事故だったことが証明されたはずだ。それが事故じゃなく事件だったなんて聞いたことがない。
「あの丘に立つ死亡者の名前を刻んだ碑の中で、実は今も生きている人はいるんだよ。社会的に死んだことになってるけど、この組織の中でみんな仕事してる」
「嘘だろ。そんなデタラメ――」
「嘘じゃないよ。現にあれは事件だった。あの事件の首謀者はもう分かってる。でも、そいつは連邦との繋がりで罪を逃れて生きているんだよ!」
「法で裁けないなら、私たちの出番ということです。どこの権力にも属さないブラッディー・マリーなら、そのようなことは関係ない。我々は、様々な政府の法律で裁けない罪人たちも追う立場でもあるで、どこの国も我々を捕まえることができないんですよ」
つまり、この組織は、法では裁けない罪人たちを裁くことが許された組織。合法も非合法もない。
「さて、もう少し詳しいところまでご紹介しましょう。どうぞこちらに」
相変わらず、ニコリと微笑むフレンとこの怪しげな空間とのギャップに違和感を覚えながらも、フィオナも加わった俺たちは更に最新部へと足を踏み入れていく。
何故フレンが俺をここに連れてきた理由に疑問を浮かべたくなる。
正義を唱う組織。本当かどうか分からないが、もしこの組織が本当なら、一体この組織の影響力はどこまであるのだろうか。
一国に影響力を持つほどの組織なら、俺は相当場違いなところ来てしまったに違いない。
しかも、さっきから一言も発しない姫川の方も気になる。フィオナ、フレンがこの組織の人間なら、姫川もこの組織の人間なのだろうか?
そして、姫川の言った「絶対後悔することになる」という言葉。きな臭さのする組織。俺は、フレンの後に続いて廊下を歩きながらそんなことを考えていた。
「我々の組織は様々な国、企業の情報を集めることができます。例え、僻地でもあろうとも悪は逃しません」
「この組織の存在理由については分かりました。でも、何故俺を?」
「そうですね。才能と言いましょうか」
「才能? 俺には魅力的な才能なんてないですよ」
「そのうち気づきますよ。己の血に流れる才能に。さて、ここです」
廊下の先にあった扉を前にフレンがそう言った。扉が開かれ、その先の開かれた空間に鎮座する一機の戦闘機。
「この前のインフィニティ……」
漆黒色をした真っ黒の機体は、光を反射せずまるで吸い込んでいるかのように黒い。この機体には見覚えのある。
緋龍のテストをしていた時にいきなり俺の後ろに張り付いてきたあの戦闘機だ。張り付かれて、ロックアラームを鳴らしやがったあの機体。
最後は俺が後ろはとったとはいえ、あれは完全に腕の差で負けていた。ぴったりと後ろに張り付かれた瞬間から格の違いを背中越しにヒシヒシと感じていたのは忘れたくても忘れられない。
「戦闘機も一級品なのですが、パイロットの方も我々の組織でも自慢の方でしてね」
「つまり、この前緋龍を襲ってきたのも組織絡みなのか?」
「いえ、それは我々の命令したことではございません。その時のパイロットの独断ですね。ですが、その自慢のパイロットの話によると、その時に追いかけた紅い戦闘機のパイロットの腕は忘れられないとのことで」
「忘れられない? 俺のことが?」
確かに、うまく避けたとは言え、あれは緋龍の運動性能あってこそのその場しのぎのやり方だった。
「はい。そこで、そのパイロットを調べて見れば、貴方だったというわけです。ちょうど、貴方に用事がところでもあったのでここまでご足労頂いたというわけです」
「用事?」
「単刀直入に言いましょう。貴方は姫川かぐやという人物との接触が多すぎたということです」
「は?」
本人を目の前に、ごく真面目な顔でフレンは俺に向かってそう言い放った。彼にとってはごく自然なことなのかもしれないが、俺にとっては全く持って意味が分からない。
「組織の中でも、彼女は要監視人物なのですよ。なので、そのよう監視人物に接点の高い人物はどうしても調査しなくてはならないので」
「姫川が要監視人物? こいつが何をやったって言うんだよ」
「彼女は何もやっていませんよ。至って普通の善良な市民です。ただ――」
「フレンっ!!」
会話を遮るように姫川がそう叫んだ。辺りがシンっと静まり返り、怒ったような鋭い瞳をフレン達に向ける。
「もういい! 私から話すから、アンタたちは黙ってて」
「分かりました。では、我々はここを出るのでそちらでお話をどうぞ」
悪びれる様子もなく、フレンはフィオナと共に部屋を出ていき、扉を閉めた。部屋に残ったのは、俺と姫川と物言わぬ漆黒のインフィニティのみ。
冷房をきかせているせいか、かなり広い部屋の割に少し肌寒い。そんな部屋の中で続く沈黙に俺は、何も言わず待っていた。