第5話 銀河の少女 ~Ⅶ~ & 第6話 漆黒の戦闘機 零
どうも夏川です。
今回は『第5話 銀河の少女 ~Ⅵ~』の改稿版も投稿させていただきました。
皆様にはご迷惑をおかけしますが
変わっているのは、刀夜が大浴場に行くあたりからかなり内容が、変わっているので、読んで頂ければ助かります。
後、これから2週間ほど作者はテストのため、投稿を一時中断させていただきますので、そちらもご迷惑をお掛けしますが、ご協力よろしくお願いします。
では、第6話から、物語は『転』に入っていきます。
これからもよろしくお願いします。
最後になりましたが、蒼崎さまから『アリソラ』のロゴを頂いたので、『イラスト&ネタ集』にて紹介しますので、よければそちらも覗いていただけると嬉しいです。
では、本編へどうぞ!
「ムグッ!?」
姫川の声に俺は反射的にフィオナの口を手で抑えてしまった。人間意識していない行動というものは、自分の意思で止めるには、時間が足りないものだ。
フィオナの口を抑えて後に、自らのしたことに思考が追いついて真っ青になる。
「刀夜?」
「あ、い、いや、俺は見てないぞ!」
マズイぞ。非常にマズイことになったぞ。
ただいま艦長がお探し中の人は今俺の横にいるんだが。ここで俺が口を抑えている少女こそがフィオナだとは口が裂けても言えない。
それは、真実を口にする=『死』だ。
「そう。分かったわ。全く、どこに行ったのかしらね?」
「さ、さぁな?」
幸い、フィオナは俺に口を塞がれているにも関わらず無抵抗なので、姫川は気づいてないらしい。
「まぁ、いいわ。 私は部屋に帰ってるわね?」
「あ、ああ。分かったよ」
姫川は俺の返事に満足したのか脱衣所を出て行った。良かった。何とか隠し通せたらしい。
だが、しかし。俺にはまだ対処せねばならない問題が一つあるのを思い出した。
「スマン! つい手がッ!」
慌てて手を離すとフィオナはその場に膝をついた。
「はぁ、はぁ」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫……。ちょっとビックリしただけだから。えへへ」
そう言って微笑んだフィオナを見て俺は顔をそらしてしまった。
「刀夜?」
「先に出てるよ」
「う、うん」
顔を合わせないまま、俺は浴室を出る。ロッカーに入れておいた乾いたバスタオルを手に取り頭を掻きむしるように強くタオルをこすりつける。
早まる鼓動を落ち着かせるように深呼吸をして、脱衣所に設置されている洗面台の蛇口を捻って冷たい水を顔に打ちつける。
さっき頭をバスタオルで拭いたばかりなのに髪が水浸しになるのもお構いなしに顔を洗った。
「さっき、俺は何を考えた?」
フィオナの笑顔を見たときに、俺はなんで彼女を抱きしめようなんて考えたんだ? 理性がブッ飛んでいたのか? 一体、何をしていたのか分からなかった。
「マスター。大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫だ」
頭を冷やした俺は、着替えを済ませて、大浴場を後にする。フィオナとの付き合いも長いし、彼女がさっきの出来事を他人に広めるようなことはないだろう。
だが、俺はそんなことよりもフラッシュバックのように蘇ったある記憶に俺の心を激しく動揺させていた。
直ぐに部屋に戻る気にならなかった俺は、あてもなく歩いているうちに、銀河の宙域観測室などがある後部艦橋の展望室にやってきていた。
一応、銀河の艦内時間では、今は夜の11時を回ったところ。だが、そんな夜中でも、展望室には1人の人物が星空を見上げながらベンチに座っていた。
「なによ。幽霊を見た様な顔して?」
「部屋にいるんじゃなかったのか?」
「ちょっと考え事するために来ただけよ」
「そ、そうか……」
展望室で時間を潰そうと思っていたが、姫川の考え事の邪魔するのも悪いし、俺は別の場所に行くか。
「別にアンタが帰る必要はないわよ」
姫川はベンチから立ち上がり、自動販売機の缶コーヒーのボタンを押す。ガコンッという音ともに落ちる缶コーヒー。
「深夜に展望室に来る人の思考回路はほとんど同じこと考えているのよね。これは私からのおごりよ」
手に取った缶コーヒーを姫川は俺の目の前に差し出す。
「ありがたく頂いとくよ」
手渡された缶コーヒーを開け、俺はベンチに腰を落とす。姫川も自分用の缶コーヒーを買うと俺の横に座る。
柔らかいシャンプーの香りに少しドキリとしたが、熱い缶コーヒーを口にして心を落ち着かせる。
展望室から見える星は地球や火星で見るよりも鮮明でより輝いて見える。
「クルーの考え事を聞くのも艦長の仕事だし、別にアンタが話したいなら聞いてあげてもいいわよ?」
「ん? そうだな。ちょっとだけ聞いてもらおうかな?」
缶コーヒーの飲み口の向こう側に広がる深淵の世界を眺めながら俺は口を開いた。
2177年。
俺たちにとってその年は最悪の年と呼ばずにはいられないだろう。祖国を失い。富も地位も名誉も人権さえも消え去った地獄のような世界に俺たちは生きていた。
大都市東京にいたのは、何も言わない寂れたビルと子どもたち。親を失い。友を失い。いきなり厳しい現実を突きつけたられた子どもたちは数人グループの団体生活を余儀なくされていた。
生き残った大人たちは、文字通り着のみ着のままで地方に疎開していく一方で、交通手段を持たない子供たちは都会だった廃墟群に残されたのだ。
俺たちのグループには5つ年上の少女がみんなを指揮をとってその日その日を生きていた。
大都会だった東京から人々は消えたのだが、幸いなことに、保存の効く缶詰やインスタント麺などは、廃屋と化したデパートやコンビニには山ほどあった。
冬が近くなるうちに、北からユーラシア軍が南下をはじめる。もちろんその内、この東京にも奴らはやってくるだろう。
その一報を聞いて、我先にと南下を始める子ども達のグループもいたが、俺たちは東京に残っていた。
いや、正確には奴らに一矢報いるため、俺たちは息の根を潜めていたといたったほうが正しかった。
親を、住む土地を失った俺たちを支配していたのは死への恐怖よりも怒りの方が数倍強大だった。
だが、俺たちがユーラシア軍と衝突することはなかった。ユーラシア軍の第1波の猛攻撃で撤退を余儀なくされた第一艦隊旗艦の長門が戦場に復帰したのだ。
広島、呉を出発した長門は、東京に迫り来るユーラシア軍をたった1隻で北海道まで押し戻した。
同時展開で戦艦金剛も沖縄諸島の奪還に成功。そして、ダメ押しの如く、長門と連携した実弾艦砲射撃でユーラシア陣営に甚大な被害を与えることにより、国土の死守に成功したのだ。
直接的な戦線に巻き込まれずに生き残った俺たちだったが、自然の驚異は残忍だった。他に例に見ない大寒波が冬の東京を襲ったのだ。
厳しい冬を乗り越えれなかった子どもたちも少なくなかった。グループの指揮を執っていた年上の少女もまたその息を引き取ろうとしていた。
彼女が俺に見せた笑顔が今でも忘れられない。
さっきのフィオナの笑顔にあまりにもそっくりだったものだったからそれを思い出してしまったのだ。
今思えば、あの人は本当にフィオナに似ていたこと今更気付いた。
「その人がフィオナだったってことは無いの?」
「いや、あの人は死んだのは間違いないからそれはない。それにどう見たってフィオナが5つも離れているようにも思えんだろ」
俺の記憶の中では、あの人は黒髪だったし、フィオナなようなシルバーブロンドの髪じゃなかった。
「そう。アンタも戦時は大変な思いをしたのね」
「みんな。経験したことさ。俺だけじゃない……。悪いな暗い話になっちまって」
「構わないわ。それこそ、あの頃の話で暗くない話が無いわけがない。でも、みんな頑張ったのよ。だから、こうして生きてられる。それだけでも、とてもいいことだわ」
「……そうだな」
時というものは、本当に優しいの厳しいのか、嫌なことも何もかも時間が流していく。
2年、3年と年を重ねるごとにおとぎ話のようなあの年、あの日がようやく現実味を帯びてきた。
つまり、現実にやっと自分の頭が追いついたという事なんだろう。
喜んでいいのか悲しまないといけないのか、今の俺にはもう分からない。ただ、あれは事実だったのだとう記憶が頭の中にしっかりを残されているだけなのだから。