第5話 銀河の少女 ~Ⅵ~ 改稿版
皆様、お待たせしました。
毎週日曜更新などと言っておきながらこの有様ですよ。
では、本編へどうぞ!
「はぁい。お帰り刀夜。……あとオマケもお帰り」
「私の扱いの差にまずは問題がありそうね」
「嫌なら、この部屋から出ていってもいいんだよ」
真ん中のベットでに転がっているフィオナが余裕の笑みを浮かべて姫川に火花を散らす。
「ご心配なく。艦内の風紀を守るのも私の仕事なので、この部屋にいますから」
対する姫川自身も不敵な笑みを浮かべている。早くも女性陣は激しい火花のぶつかり合いが始まっているのだが、是非とも乱闘だけは避けてもらわないとな。
「と、取りあえず。暴れるなよ」
「「刀夜次第ね」」
なんとも息の合ったコンビネーションだな。というか、これは俺のせいなのか?
「でも、今回の件で銀河を救ってくれたことには感謝するわ」
手を差し出した姫川を見て、さっきまで睨みを聞かせていたフィオナが、何故かクスッと笑うと、その差し出された手を握った。
「仲良かったか?」
「あくまでも、艦長としての仕事をしたまでよ」
「そういうこと。僕としてもライバルがいることは楽しいからこれはこれでいいんだけどね」
詳しいことはよく分からんが、今のあいだは停戦条約を結んでいるってことか?
「あ、そうそう。ユリアが届いていたよ」
「マスターがなかなか迎えに来てくれないので捨てられてのかと思いましたよ」
「悪い、悪い。忙しかったんだよ」
「まぁ、状況は心得ているのでかまいませんよ。それに、フィオナさんと久々に面白い話ができましたし」
「うんうん、刀夜の面白い話を聞いちゃった」
はぁ。プライベートっていうのはあって無いものだな。ま、仕事にまつわる、マズイ話は流石にユリアもしてないだろうから、そこまで変な話はしてないだろう。
「マスターの恥ずかしい秘話を約1時間ほど」
「……後で、詳しく聞かせてもらおうか」
「仕方ありませんね。マスターには、後でゆっくりお話しさせいただきます」
全く、コイツは油断も隙もないな。コイツの会話内容を全て確認できるように、雨宮博士に頼んでおくんだったな。
そう思いながら、ユリアの画面に表示される情報を流し見していく。火星で起きた強盗事件や惑星探索船のニュースの中に、俺は気になる記事を見つけた。
「……ユリア。この記事をモニターに出力してくれ」
「はい。了解しました。マスター。」
「何かあったの?」
数秒の処理時間の後、部屋のモニターにとある記事が映し出された。
「宇宙商船連続沈没事件?」
「ああ。この部分を読んでくれ」
記事の一部を拡大してモニターに出力する。
「えっと。この一ヶ月で宇宙商船が謎の沈没を遂げるという事件が多発している。宇宙保安局の調査では、今年に入って、すでに17隻の商船が沈没しており、その内の5隻が先月沈没した商船だ。どの商船も、航行中に原因不明の爆発で沈没と発表しており、これにより、宇宙保安局は宇宙商船を所有する各社に更なる警戒を呼びかけるとともに、テロも想定して、警戒艦の配備を急ぐことを検討している」
「謎の爆発って、……まさか」
「多分そのまさかだな。この原因不明の商船沈没事件に、銀河にいきなり攻撃を仕掛けてきた謎の宇宙船が関係している可能性が高い」
「でも、なんでこんなことを……」
「ユリア。この17隻が沈没した日時と場所を宇宙海図にプロットできるか?」
「少々お待ちください。……出ましたよ。マスター」
モニターに表示される17の点。どの点も特定の場所に集まっているわけではなく。パッと見た感じから乱雑で法則など見えない。
「艦長としてどう見る?」
「パッと見た感じだからはっきりとは言えないけど……」
「言えないけど?」
「……少なくとも2隻以上いるわね」
海図をじっと眺めながら姫川はそう呟いた。
「そ、そうなの?」
「事件発生時刻と海図を照らし合わせて分かるけど、この距離を1隻の船でカバーするのは無理ね」
「少なくともか……。2隻かもしれないし、あるいは、それ以上いるかもしれないってわけか」
もしも、あの潜宙艦がそうならば、俺たちはまたアイツと戦わなくなるってことか。
出来ることなら、もう二度とあんな奴と戦いたくないのだがな。
「早急な対策が必要ね……」
「そうだな。でも、まずはコロニーに帰って修理の方が先だ。姉さんとも合流すれば何かいい案も浮かぶだろう」
「そうだね。風音さんならなんとかしてくれるよ」
「確かに私たちが悩んでいても今はどうしようもないものね……」
「この件は後日、クルーに話したほうがいいだろうな。とりあえずは、明日。まずは休む方が先だ」
「ええ。そうね」
相手が何者かは分からない以上。俺たちにできることはそれほどない。
明日も早いし、さっさとシャワーでも浴びるか……。
シャワールームのドアに手をかけようとして一瞬思いとどまった。
そう言えば、銀河には大浴場が完備されていたんだよな。たまには大浴場にでも行ってみるか。
銀河には個室風呂以外にも、共同の大浴場がある。いつもなら人がある程度いるのだが、この時間帯になれば、誰もいないだろうな。
ゆっくりと浴槽に浸かれるし一度見に行ってみるか。風呂道具一式と着替えを手に俺は大浴場へと向かうことにした。
明日は、姉さんに報告しないといけないこともあるし、緋龍の初乗り(ファーストコンタクト)で得たデータをユリアにフィードバックさせないといけないしな。
「ブースターの割り当ても、詰めれるとこまで詰めれば、まだ、機動性が安定するだろうな」
「そうですね。この前のデータから考えると、排粒管をもう一回り太めにしたら、エネルギー効率が上がると思いますよ」
なるほどな。確かにそこもイジれば機動性がもっと良くなりそうだな。詳しい値が分かれば、整備課か技術課当たりに頼んでみるか。
そんなことえを考えていると大浴場までやってきていた。脱衣所に入るも、もちろん誰もいない。
「貸し切り状態だな」
「ですね。マスター。どうぞ、ごゆるりと」
「了解。了解」
鍵付きのロッカーに拳銃とユリアをしまい、大浴場に入る。うっすらと湯気とかかる浴室の壁には、銭湯よろしく青い富士山の絵がでかでかと描かれている。
「思っていたのよりデカイな」
そう呟きながら、体を洗った後に無駄にでかい風呂に浸かる。
シャワーとは違って、湯船に浸かるのはやはり気持ちがいい。これぞ、日本人の心の故郷。リラックスした常態でのんびりと時間が流れていくのを感じられる。
「のんびりできる時間がないから、たまにはこういうのもいいな」
湯けむり越しに見る富士山もなかなかいい味を出しているしな。水の滴る音が浴室でこだまして独特の空間を生み出している。
ガラガラガラガラ。
どうやら誰かが入ってきたらしい。まぁ、珍しいことだが誰も入らないと言い切れる時間帯ではないしな。
さて、それじゃ俺は風呂を出るとするかな。
湯船から上がり腰にバスタオルを巻きつけた時だった。俺は風呂に入ってきたその人物と目があった。
「あ……」
「えッ?」
浴場に現れたのは、バスタオル一枚の銀髪の少女。整ったプロポーション。長くて白い脚。そして、非常にきわどい角度でバスタオル一枚で隠された身体。
ツンっと鼻に登ってきた熱い血を抑えるように俺は即座に後ろを向く。
待て待て待てッ!!
「な、なんでフィオナがいるんだよ!!」
「え? ええっ!?」
どうやらフィオナにとっても不測の事態だったらしい。
「す、すまん!! すぐに出ていくッ」
「え、えっと。そ、その、僕のことは気にしなくてもいいから、もうちょっとゆっくりして行っても……い、いいんだよ?」
いつもの元気に笑うフィオナらしくない消え入りそうな声でそう言うものだから、俺の心臓がいきなり高鳴る。
お、落ち着け、俺よ。フィオナこそああ言っているが、ここにいては俺の身がもたない。焦らずここは出ていこう。
そう思い、鼻を抑えて俺は身長に出口へ向かおうとする。
カラカラカラカラ。
浴室ではなく、脱衣所のドアが開いた音がした。
「ッ!」
ドアの音に悪寒が体中を駆け巡る。なんでこんな時に人がくるんだよ!
さらに俺を追い立てるかの如く脱所に入ってきた人物はこう言った。
「ねェ、刀夜。フィオナ知らない?」