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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
新章 第二部 『承』
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第5話 銀河の少女 〜Ⅲ〜

「魚雷攻撃……だと」

 黒い円筒形の物体が銀河に突き刺さる瞬間を捉えたカメラ。これは間違いなく、事故ではなく、何者かが明らかな敵意を持って銀河に向けられたものだった。

「魚雷ですって!? そんものレーダーに映ってなかったわよ!」

「俺の方にも映ってなかったぞ。チッ! 何がどうなってるんだ!」

「とにかく、まずはここから離脱よ! 最大船速ッ!」

「ダメです。艦長! 右舷エンジンの出力低下で船速がのりません!」

 右側のエンジンの出力が圧倒的に足りなくなった銀河は、思ったように進まない。

自動消火装置と隔壁閉鎖によって被害の拡大は防がれたが、銀河の危機はまだ脱出していなかった。

 それと同時に回避行動に移る銀河。今の銀河は、狼の狩場に入ってしまった羊のごとく危険な状況。

 更に、その危機を上乗せするかのようにイーシスの報告が艦橋内に響く。

「左舷後方に魚雷出現! 距離3000! 迎撃不可能域まで残り15秒」

「クッ! 対空防御! 面舵20」

銀河にハリネズミの針のように大量に取り付けられた対空砲が唸りを上げて迫ってくる魚雷に向かってレーザーの弾幕を貼る。

迫り来る魚雷が次々とレーザーによって破壊されていく。誘導性の少ない魚雷は、当たるととても厄介だ。

さっきみたいに装甲を貫通されるようなことが続けば、間違いなく銀河は沈んでしまう。宇宙船というのは海を潜る潜水艦に近い。装甲に穴が開けば、圧力差で宇宙空間に向かって放り出されてしまうし、人が生きていくうえで必要な酸素も吸い出されてしまう。

戦艦といえど、何発も魚雷を喰らえば、間違いなく戦闘不能になってしまうのだ。

「敵魚雷排除!」

「気を緩めないで! 魚雷出現場所に向かって参式弾発射。弾幕を貼りつつ、回避行動で直進」

 弾頭から小型の爆弾を面状に無数に散蒔く参式拡散弾が銀河の左舷の副砲群から一斉に打ち出された。

銀河を守るための爆弾の壁を形成して、銀河はそのまま、魚雷回避のためにジグザグ航法を駆使して、遅い船速なりに逃げの一手に出る。

「イーシス。レーダーには反応は?」

「レーダー反応ありません」

「光学カメラでの監視体制強化よ。必ず本体を探し出すのよ!」

 敵がどこにいるのか、どこから攻撃してくるのかすら分からない銀河の最後の目は有視界域の光学カメラで観測しかない。

しかし、どうする?

このままではジリ貧だ。防戦一方の銀河にとって、すぐさまこの宙域を脱出する以外は、援軍が駆けつけてくれない限り状況は悪化するばかり。

「どこだ……。どこにいる!?」

「2時30分の方向に魚雷出現!! 距離2500に数6発!」

「今度そっちかよ! 対空防御。迎撃ミサイル発射! 」

 まるで俺たちを弄ぶかのように、予測できない方向から再び魚雷が出現する。

「迎撃不可能域に魚雷3発侵入!」

「取舵ッ! カウンターブースターも使いなさい!」

「2発回避。1発が直撃コース!」

 イーシスがそう言った瞬間だった。爆音とともに銀河の船体が激しく揺れる。艦橋からも前甲板で起きた爆発がしっかりと見えた。

 赤い炎と黒々とした煙が甲板から立ち込める。

「右舷魚雷発射管にダメージ! 艦内への影響は未だありません!」

「消火急いで!」

 すでに、右側に2発も魚雷攻撃を受けた銀河は満身創痍の常態。エンジンにダメージを受けて船速は乗らない。

 まだ、艦内への致命的なダメージはないが、このままいつまでもやられっぱなしではいつか、船体に致命的なダメージを受けるのは明らかだ。

 この状況でどうやって切り抜けたらいい? このままでは銀河とともに沈没することになってしまう。

 せめて敵さえ見えればなんとかできるっているのに。

「刀夜! 3時の方向!」

フィオナにそう言われて直ぐにカメラを向けると、黒煙に紛れてその向こう側で一瞬何かが光った。

 パイロットをやっていただけはあって、視力にはかなり自信がある。ほんの一瞬だったが、俺の目はそれが何だったかしっかりと捉えていた。

「3時の方向に探照灯を向けろ!」

 俺の声に反応して、銀河に搭載されている探照灯が巨大な光の筋を虚空の宇宙空間に向かって照射される。

「ちょっと刀夜ッ! どういうことなの!?」

「説明はあとだ!」

 銀河の煙突の両側にそれぞれ3基ずつ取り付けられた探照灯で一瞬だけ見えた光の主を探す。

 そして、1基の探照灯から発せられる光の帯がついに敵の正体を捉えられる。普通なら光が直進していく場所で何故か鏡にライトを向けたかのように反射する一点を銀河の射撃用カメラが捉えていた。

「見つけたぞ。全砲塔旋回! 旋回後は自由射撃!」

 それぞれの主砲が獲物を求めて旋回し、探照灯が照らす目標に向かって火を噴く。銀河から放たれた主砲弾が光を放つ点に命中して爆炎を上げた。

「来た!」

 さっきまで何もなかった空間に、黒煙を上げる1隻の船が出現したのだ。

「レーダー。捉えました!」

「よし、後部VLS。バルムンク発射! てっ!!」

八十三式電探と連動しているバルムンクが、銀河から勢いよく飛び出す。上に向かって飛び出したミサイルは、その進行方向を90度折れ曲がって、目標点に向かって超高速で猛進していく。

「着弾!」

 激しい爆炎を上げてバルムンクが爆発する。

「目標の消滅を確認……」

 急に静かになった宇宙空間を薄い煙を出しながら直進する銀河に攻撃してくるものはいなくなった。

 いまだ、目の前で起きたことを信じられないクルーたちは、戦闘態勢を維持したまま自らの席のモニターを凝視している。

「お、終わったの……?」

シンっと静まり返った世界が姫川の言葉を際立たせる。

「レーダーに反応なし」

「やった、みたいだな……」

 何も襲ってこない宇宙空間の安心感にみんな席から崩れ落ちそうなほどに姿勢を崩して、深く息を吐いたのだった。


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