第5話 銀河の少女 ~Ⅱ~
どうも、予約投稿でなんとか冬期休暇分はなんとかなりそうです。
一応、来年1月6日分までは毎週日曜の正午12時の更新になっていますので、よかったら読んでください!
さて、やっとSFぽい宇宙戦闘がかけるところまで来ました。物語も折り返し地点です。皆様、最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。
では、本編へどうぞ!!
予想だにしていなかったことに対して、不慣れな第1艦橋員に不安の色が伝染する。
今日に限って、頼りになる姉さんがいないのだ。この場で皆の集中力が欠ける非常にまずい。
特に、兵器の速度が非常に速い宇宙空間での戦闘は、ほんの一瞬の判断速度で生と死が明確に分かれる。
ましてや、戦艦という巨大なものうまく運用するには、しっかりと連携の取れた行動が必要不可欠。
団体行動に乱れが出るということは、すなわちそれは死を意味するといっても過言ではないのだ。
「みんな落ち着いて! イーシス。艦種の特定を急いで。総員戦闘態勢のまま待機! 焦ることはないわ。こっちは天下のアリアスが作った新造艦よ。どんと構えなさいッ!」
姫川の一言は正に鶴の一声だった。ざわついていたクルーたちが自らの持ち場に集中しだす。
彼女の言葉で全体の乱れが瞬時に元に戻った。
「艦長。艦種識別、完了しました。接近してくるのは、国籍不明船。光学カメラ映像で、船体に主砲らしきものが確認されています」
「海賊か……」
「恐らくそうでしょう」
この広い宇宙空間には宇宙海賊と呼ばれるものがいる。海賊と聞いて古めかしいなどと思うかもしれないが、その驚異は無視できない。
個人でやっているものから、組織的に海賊をやっているもの。特に、組織的なものが介入して資金力のある海賊は特に厄介だ。
「面倒な相手ね。接触予定時間は?」
「停船常態で約10分後です」
「よし。これより、本艦は不審船に向かって警告を実施する。磯風には、当宙域から退避するよう伝えて」
「了解!」
「取舵。最大船速で行くわよ」
「宜候。取舵。最大船速!」
銀河のエンジンが再び轟音を上げて回りだす。磯風をその場に残し、銀河は迫ってくる不審船に向かって舵を取った。最大船速で直進する銀河は、まるで獲物を追いかけるライオンそのもの。
「一番砲に乙型警告弾装填して待機!」
「こちら、アリアス所属宇宙戦艦銀河。当宙域は、太平洋皇国の領空ある。直ちに当宙域より離脱せよ。なお、進路の変更がなければ貴艦を撃沈する」
「不審船。進路変わらず」
「ちゃんと同時翻訳で通信したわね?」
「はい。しっかりといたしました」
どうやら、向こうさんは、こちらの警告を聞く気はないみたいだ。それどころか、挑発してくるように船を右に左に振っている。
「不審船まで7万。主砲の最大射程圏内に入りました」
「舐められたものね。警告射撃を行う」
「了解。予想進路の電算! 主砲発射準備!」
「砲雷課。いつでも発砲可能です」
「警告弾、発射ッ!」
銀河の前甲板に鎮座する主砲の砲口が再び、巨大な火柱を上げて主砲弾を放った。
銀河には、さっきのお披露目会で使用した攻撃の為の主砲弾はもちろんだが、警告用に開発された甲型警告弾と乙型警告弾の2種類の警告弾を所有している。
皇国海軍で使用されている警告用ミサイルを銀河の主砲用に作り替えたもので、甲型は爆発時に激しい閃光を撒き散らすタイプ。乙型は船体にある程度のダメージを与えるために目標物の手前で爆発する時限信管がついているタイプ。
そして、銀河からたった今、放たれたのは乙型警告弾。
状況にもよるが、こちらに攻撃可能な兵器を持っている相手に対する警告射撃に使用することが多い。
今回の相手は、宇宙海賊。少なからずとも奴らは駆逐艦と同程度の武装をしている可能性が高い。
そんな相手に、閃光撒き散らすだけの甲型は生ぬるい。そんな相手には、いつでもこちらから狙い撃てるということを示す必要がある。
そんな時に、乙型は非常に役に立つ。警告弾なので、相相手方に大きな影響は出ない。しかし、船体にダメージを与えることができるので、十分威嚇になる。
「時限信管作動まで、5、4、3、2、1、作動!」
遥か先の宇宙で爆炎が上がったのが、光学カメラを通してこちらでも確認できた。
「イーシス。目標は?」
「目標の停船を確認」
「他の4隻は? 4隻とも転進しています」
どうやら、自分たちの立場が分かってくれたらしい。こちらとて、無駄な殺生はしたくないしな。
「逃がすのですか?」
さっきまで席について黙っていたフレンが俺を見てそう呟いた。
「はい?」
「自国の領空を犯したモノを野放しにしておいて良いのですかと聞いているのです」
「きちんと証拠映像だってこっちには残っていますから。このあとは保安局の仕事です。俺たちがでしゃばる必要もないですし」
「国際宇宙法第18条第3節。自国の宇宙空間に無断で侵入してきたモノに対して武力を行使することを認める。国際法で取り決めてられているのに、悪を放おっておくのは納得できません」
フレンの言いたいことを俺はようやく理解した。
彼の中で善悪はかなりはっきりしているらしい。そして、その悪に対して、罰を与えるのが彼なりのルールなのだろう。
とはいえ、この船の艦長は姫川だしな。
「姫川はどうする? 見逃すか。撃沈するか。姫川は艦長としてどうしたい?」
「そうね。確かに、国際法でも、皇国の法律でも撃沈することは認められている。でも、私たちの仕事はあくまでも護衛任務。それがさえできれば、余計な殺生は必要ない。だから、銀河の仕事はここまで」
「かぐやさんがそう仰るのでしたら。私から言うことはございません」
姫川の言葉で簡単に引いてしまうことに妙にムッと来たが、それをどうこう言うのは大人気ないし、俺は自分の仕事に戻ろう。
先ほどの戦闘とお披露目会で使用した兵器の集計を出して、本社に提出するという仕事も残っていることだし、火星に戻るまでにさっさとやってしまおう。
家に戻ってまで仕事はしたくないしな。
そう考えていた俺は、砲雷課の集計をしようと思った時だった。砲雷長席の八十三式電探がほんの一瞬だけ反応した。
「ん? イーシス。レーダーに何か映ってる?」
「いえ、レーダーに反応はありませんが。どうかしたんですか?」
イーシスが見ていないというのだから、恐らくレーダーの誤作動か。宇宙空間に漂う岩やゴミに反応することはそれほど希なことではない。
「いや、一瞬だけこっちのレーダーに反応があっただけだ。多分、誤作動だろう」
それに、ここは皇国が管理する宙域。さっきみたいな宇宙海賊に出会うことのほうがごく希だ。
「その様みたいですね。レーダーにも光学カメラにも反応はありませんから」
レーダーと光学カメラの二重監視体制をかい潜ってこれる兵器も宇宙船も聞いたことがない。
銀河の主砲弾は比較的レーダーに写りにくいのだが、やはり光学カメラにはしっかりと捉えられてしまう。
仮に姿さえ見えないというのなら、話は別だがな。そう思って、モニターに目線と戻そうとする――。
ドンッ!!
「きゃぁ!」
「な、何が起きた!?」
鈍い爆音とともに艦橋が揺れる。何が起こったのか分からない俺たちを現実世界に引き戻すかのように警報が鳴りだした。
通常電源に戻っていた艦橋が、再び非常電源に切り替る。
「くッ! 状況報告!!」
「右舷に何かが衝突したようです! エンジン出力低下ッ!!」
「ダメージコントロール急いでッ! 被害状況は!?」
「右舷後部の装甲を貫通されていますが、幸い艦内へのダメージは軽微です」
か、貫通だって!? イーシスの報告を聞いて第一艦橋にいた誰もが青ざめたような顔をした。
銀河の装甲は、対レーザー用に特殊コーティングが施されている特注品。その装甲がいとも簡単に貫通されたって?
なんの悪い冗談だ。
「エンジン出力、50%まで低下! 右舷エンジンが粒子漏れを起こしてます」
「一体何が起こってるのよ。鹿嵐君。取舵いっぱい!」
「了解! 取舵一杯!」
後部の装甲から黒々とした煙を吐きながら、銀河は急速回頭を始める。
「な、なんだよこれ……」
それは、右舷後部の爆発直前のカメラしっかりと映りこんでいた。