第4話 挟撃のダブルヒロイン ~5~ 修正版12月18日
皆さんお待たせしました! アリソラもようやく半分まで来ました。これからもアリソラをよろしくお願いしますね!!
では、本編へどうぞ♪
本編で桜様の口調が前回と違う場面がありますが、キャラがブレているのではないであしからず。
バカ騒ぎしたあとの静寂が包んだ夜。俺はベランダでしばし涼んでいた。体の芯が火照るような暑さを冷たい夜風が冷やしてくれるので、自然と心が休まる。
「全く、騒ぐのはいいのだが、ちょっとは加減ってものを覚えて欲しいもんだな……」
そう呟いた俺の後ろで、ひとりの少女がクスリと笑った。
「楽しみを共有できる友人がいるということは、それだけでとても大切なものだと私は思うけどね」
俺の後ろに立っているのは、姫川でもフィオナでもアズ姉でもない。太平洋皇国内親王殿下、桃嶺園桜様。
いや、殿下ではないな。
小さい頃の俺知る数少ない友人で心優しき親友。彼女がこうして、懐かしい口調で話してくれるのは、俺と二人の時くらい、彼女がそうしてくれているのだから、俺のいつもの口調で彼女に答える。
「それにしても、久しぶり。大勢の人と仲良く食べたのはいつぶりかなぁ?」
「皇室ではそんなことはないのか?」
「うーん。お姉ちゃんぐらいかな。あとのみんなはなかなかフレンドリーに接してくれないし。刀夜もウチに晩ご飯食べにくればいいのに」
「そうは言ってもな。皇居に安々入るわけにも行かんだろ」
「それは残念」
本当に残念そうな顔を浮かべて落ち込む桜を見ると、少し悪いなとも思えるのだが、俺みたいな一般人が皇居に出は入りしていてはあらぬ誤解を招きかねない。
桜がウチに来るのも、もちろんお忍びで、しかも関係者各所のお許しがあるから可能になっている。
ウチに一国の内親王殿下が来るという事実は、国家機密レベルで管理されているのでメディアに伝わる事は無い。
「しかし、今回は偉く急だったな? 何かあったのか?」
「ちょっと良くない噂を小耳に挟んでね」
「良くない噂か……」
良くない噂なんてものはどこにいても沢山あるのだが、皇室に流れる良く無い噂ってものは、ある意味タチが悪い。
信憑性が高い上に、かなり切迫していたりするモノが多い。
「だから、それについて調べてたんだけどね。これなにか分かる?」
桜はそう言ってポケットに入れていた写真を俺に手渡した。
写真に写っていたのは、コンテナとそれを釣り上げてるクレーン。それほど良い撮影条件じゃなかったらしく、画像にはノイズが入り込んでいる。
普通に見れば何の変哲もないコンテナなのだが、見る人間が見れば少し不自然な点がいくつもあった。
「ブルーカラーの割に少々デカイな。それに、冷却装置つけてるみたいだが、それにしては余計なものがつきすぎてる。これは怪しさ満点だな」
「詳しくは分かってないんだけど、ある種の細菌兵器であることは間違いないはずなのよ」
「細菌兵器ね。国家絡みか?」
「実行犯の目星は抑えてある。でも、黒幕まではまだ掴めてないのよ。それに、太平洋皇国内なら無理やりにでも検分入れるんだけどね」
細菌兵器ね。大量殺戮兵器としては、安価で安易に人を殺せる兵器だ。使用するのは簡単だが、問題はその保管方法と、使用する際の気象。この二つは押さえてなかった場合、細菌兵器の猛威は敵のみならず味方にも大きな損害を与えうる。
そもそも、細菌兵器の類は国家間での売買は禁止されているし、大規模な細菌兵器の使用が判明した場合、実施した国には国連から制裁が待ち受けている。
「つまり、国家絡みよりはどっかの組織が絡んでそうだな。ヤクザ、マフィア、或いは反国家組織。宛はいくらでもあるってか」
「だから、やっかいなのよ。その件もあって、長門を使って火星まで来たというわけ」
「殿下様も大変だな」
「茶化すんだったら牢獄入れるからね」
「悪い悪い。でも、何かあったら俺に言えよな。絶対一人で何とかしようなんて考えないことだ」
「もちろん。分かってます。さて、すっかり冷えちゃったし、私は寝るからね。刀夜も明日早いんでしょ?」
桜に言われて思い出した。そういえば、明日は銀河の一般公開だった。まだ出来たばっかりの銀河をある程度の人に見てもらい、企業宣伝を兼ねたお披露目会だったことを今の今まで忘れていた。
「面倒な。砲雷長なんて係りにさえならなきゃこんなめんどいこともなかったんだがな……」
「ふふ、砲雷長さんも大変ね。じゃ、おやすみ」
そう微笑んだあと、桜は部屋の中へと入っていった。
「そうそう。面倒でも、しっかり仕事を怠るでないぞ」
窓を開けて戻ってきた殿下モードの桜さまはそう言ってウィンクしたあと再び部屋の中へ戻って行った。
全く、アイツもつくづくいい性格してるよ。さて、殿下様に応援されてることだし、自室で眠るとするか。
直ぐに眠りにつこうと思っていた俺は自室の電気もつけずにベッドに潜り込んだ時だった。
「うぅ。刀夜、お帰り~。どこいってたの?」
「ん? フィオナか。いや、ちょっとベランダに……。はあッ!? なんでお前がここにいるんだよッ!」
「ふぇ? だってここ私のベッドだしぃ」
そう言って満面の笑みを浮かべて布団に頬を擦り付けるフィオナはどこか、子猫を見ているような気持ちに……。
って! 何飲み込まれてんだ、俺!
「いや、そこ俺の布団だから!」
「刀夜の布団? じゃあ、それ私の布団だよ」
目をこすりながら起き上がったフィオナを見て、俺は瞬時に顔を背けた。
フ、フィオナのやろう、何の着ずに寝てやがったな。ギリギリのところで隠されているからこそいいが、それ以上はマズイぞ。フィオナ!
薄手のタオルケットが彼女の体のラインを余すことなく強調していた。そのタオルケットから不注意にも伸びる白い脚には非常に恐ろしい威力があった……。
「と、取りあえず、服を着ろッ! 服をッ」
「ニャハハ。なんだぁ、そんなこと気にしてるの? 刀夜は可愛いなぁ」
人の気も知らないで、お転婆に笑っている。この能天気さが彼女のいいとこでもあるのが、それが玉にキズなのだ。
しかし、流石に体はせめて隠してもらいたいものだ。
「そんなことですむ問題じゃねぇよ! つか、女の子ならもっと恥じらいを持て、恥じらいを」
「じゃあ、刀夜は恥じらいを持った女の子が好きなの?」
急に真面目な顔でフィオナがそう言ったのだから、俺はちょっとしどろもどろになってしまう。
「いや、好きとか嫌いとかじゃなくてさ。というか、今はそんな話は必要ないだろ」
「大事な話だよ。少なくとも僕にとっては大事な話。ねえ、刀夜にとって大事な人は誰なの?」
「大事な人?」
フィオナのやつ。もしかして寝ぼけてるのか? だったらいい加減――。
「刀夜はさ、優しすぎるんだよ」
「は?」
「ん? なんでもない。さて、それじゃお休みぃ」
そう言ってフィオナはぱたりとベッドに寝転がって、小さな寝息とともに再び夢の世界へと帰っていってしまった。
「な、なんだったんだ?」
取りあえず、俺の部屋でフィオナが寝ていたので仕方なく俺は、フィオナのために用意していた客室で寝ることにした。
ベッドに入り、暗い部屋の中で俺はついさっきフィオナに言われた言葉を思い出してた。一体、フィオナは俺に何を言いたかったのだろうか?
そう考えているうちに俺は、深い眠りの中へと誘われて行ったのだった。