第4話 挟撃のダブルヒロイン ~4~
更新が遅れて申し訳ございませんでした!
作者のテスト週間を迎えてしまたため一時更新が滞ってしまうかもしれませんが、ご理解よろしくお願いします。
では、本編へどうぞッ!!
俺が実家に着いたのは、日が完全に落ちたあと、のんびりと歩いて帰ったらこんな時間になってしまっていた。
ちょっと長居しすぎなと思いつつ、玄関の扉を開ける。
「ただいま……」
「遅いっ! 何やってたのよ!」
玄関先で待ち構えていたのか、エプロン姿の姫川が俺に向かって人差し指を突きつけてきた。
「別になんだっていいだろ……。それよりも、全員来てるか?」
「誰の差金か分からないけど、一ノ瀬先輩に鹿嵐君に大海君までアンタの家にいるわよ」
「了解、了解」
部屋はいくつかあるし、泊まることに関しては何も問題ないだろう。人数が集まったぶん、何故か姫川が不機嫌そうな気がするが、気のせいだろう。
いちいち、触れていたら命がいくつあっても足りないからな。
「で、なんでエプロン姿?」
「えッ!? そ、そのなによ!!」
「なんだよ」
よく分からないが、何故か急に慌てだした。エプロンを着ていることでなぜそこまで焦る。
「皆お腹減ってるだろうから、料理していただけよ! 別に特定の人物のために作っていたのではないわ」
そう言い切って、フンッとそっぽを向いてしまう姫川。そして、姫川のちょうど後ろを通りかかった鹿嵐が両手を合わせて呟いている。
『ツンデレご馳走様です』
学校で習った読唇術ではそう見えたのだが、さっぱり意味が分からない。姫川自身も鹿嵐が後ろで手を合わせてたことを知らないみたいだし、一体なんだったんだろうか。
「あっ、刀夜お帰り~」
キッチンからヒョイっとフィオナが顔を出す。エプロンを着ているということは、姫川と一緒に料理していたのだろうか?
その2人の組合せが何故か俺に不安感をよぎらせる。
キッチンの原型が残っていればいいのだが……。そう思いながら、キッチンを恐る恐る覗き込むと、意外や意外に綺麗に整理整頓されている。
その綺麗にされたキッチンの真ん中で立っているアズ姉を見て、大体自体は読めた。
「アズ姉。すまん」
きっと、俺の想像を絶する戦いの火蓋が切って落とされる前にアズ姉が止めてくれたのだろう。
「刀夜か。晩ご飯はできてるぞ。みんなを呼んで支度をしてくれないか?」
鍋のだしの味を確認しながらそう言うアズ姉は、母さんそっくりだ。落ち着いた物腰とかを見ていると、家に帰ってきたんだなという安心感がある。
「おっと。さて、用意しておくか」
大海たちが座るソファーの横に航空課のジャケットを置くと、ダイニングに戻って客用の長机を出して食事場所のセットをする。ついでにテレビも見ながら最近のニュースを見ながら作業を進める。
宇宙を航海していると、重要なニュース以外は入ってこないからどうも世間に疎くなるからな。
「エルドライン港に宇宙戦艦長門寄港だってよ。明日は休日だし、見に行ってみるか」
「へぇ。長門が来てるんだ。大きな戦艦がいるなとは思ってけど、あれがそうだったんだね」
ソファーで俺の家のテレビをくつろぎながら見る大海と鹿嵐を見ると、まるでここが俺の家じゃないかのように思えてくるよ。
しかし、皇国一と呼ばれる長門が火星にね……。
……んっ? なんだって!?
「おい大海! それいつのニュースだ!?」
「んぁ? なんだよそんなにテンパって。今日の夕方だけど?」
俺は慌ててさっき脱いだジャケットのポケットに入れておいた携帯を取り出す。電源をつけて送られてきているメールを確認すると、俺が予想していたものが送られてきているではないか。
「し、しまった……」
「どうした。死んだ魚のような目をして」
「まずいことになったぞ」
メールを送ってきた主に連絡を取ろうとした時だった。
ピンッポーン
無情にも、玄関のチャイムが鳴り響く。
「は~い。ちょっと待ってくださいね~」
いつもの癖でフィオナが玄関に向かって駆けていく。俺がフィオナを止める、もしくは、俺が先に玄関にたどり着くには時間が足りなさすぎた。
俺の願いは叶うことなく玄関の扉は開かれた。
「あっ! さぁちゃん。こんばんは!」
玄関先でフィオナがフレンドリーに話しているのにみんなの視線が一瞬玄関に集中する。
フィオナの背中越しに見えるのは、姫川のように黒髪の綺麗なストレートヘアー。おっとりとした大和撫子のような女性がそこにいた。
その女性の姿を見たアズ姉は驚きのあまり手に持っていた包丁を手放してしまって、床にその銀色の刃が突き刺さっている。
ほかのメンツはというと、玄関先にいる女性が誰なのか気づいていないようだ。それはある意味正しい反応なのだが……。
「フィオナではないか。しかし、結構人がいるんじゃな?」
「そうだね。僕も合わせて、6人いるかな?」
家の中を見回しながらフィオナはそう答える。俺やアズ姉は非常に焦っているのに、フィオナのマイペースさを見ていると尊敬に値するものがあるな。
「誰?」
姫川が小首をかしげている。
「おっと、紹介が遅れてすまない。ワシは桃嶺園桜じゃ。よろしくの」
営業スマイルというか、後光が見えそうな笑顔で少女が笑ったの対して、フィオナを除いて、皆が青ざめたような顔をして硬直している。
「うぬ? まずいことを言ったかの?」
「大丈夫だよ。さぁちゃんの笑顔に皆びっくりしただけだからぁ」
「と、桃嶺園……桜様?」
口をパクパクさせながら姫川が一歩後ずさる。
「う、嘘よね?」
助けを求めるように姫川が俺に視線を向けてきたが、残念ながら首は横にしか振ることができない。
今だに半信半疑の姫川に決定打を与えたのはアズ姉の行動だった。
さっきまでキッチンに立っていたアズ姉が愛用の日本刀を持ってきたのだ。
アズ姉の握っているのは、『菊花』と呼ばれた刀で、なんでも天下五剣にされていないものの、かなりの業物らしい。
そんな大事な刀を手に持ち、玄関口現れたのだから、姫川だけでなく俺も驚いた。
攻撃の意思がないために、鯉口が紅い刀紐で固く結ばれた菊花を床に置き、片膝をついて忠誠の意を示す姿勢をとる。
「や、やっぱり内親王殿下なの?」
そう、みんなが驚くわけ。いま玄関に立っている少女こそが、太平洋皇国内親王殿下。桃嶺園桜様なのだ。
現太平洋皇国、皇女の七輝様の妹。テレビなどのメディアで見るのは、七輝様で国内の認知度が高い。対する、桜様はどちらかと言うと日本にいることが少なく、長門に乗艦して様々な地を訪問しているため、国外で人気、認知度が高い。
実質、皇国で2番目に偉い人といったところか。
しかし、いくらメディアに出ることが少ないとはいえ、桜様から発せられる、神聖な気品を感じるオーラには一歩引いてしまいそうになる。
「ここは、皇室でもないからそう固くすることはないぞ。梓殿。私用でここに来ている以上、気遣いなど無用じゃ」
「は、はい」
「そうそう。みんな楽しくね」
後ろでニコニコ笑っているフィオナはもうちょっと気遣いというものを覚えて欲しいのだが。
まぁ、そこがフィオナらしい良いところでもあるんだな。
アズ姉の横に置かれていた刀を手に取ると桜様は少し目を細めた。
「この鞘の紋。抜いておからんから本物かわからんが、菊花かの?」
「はい、一ノ瀬家の家宝。菊花でございます。私のようなものが持つにはあまりにも不釣合でございますが……」
「ふむ、名刀を持ち出すほど、ワシは偉くないぞ。それに、この名刀は飾っておるより、梓殿の腰にある方がよっぽど似合っておる」
「ありがたきお言葉です」
刀を受け取ったアズ姉を見て、桜様は満足そうにウンウンと頷きながら微笑む。
「やっぱり似合っておる」
「さて、さぁちゃんを玄関に立たせるのもなんだし、家に上がってよ。夕飯もできてるから一緒に食べようよ」
「ほう。刀夜。お言葉に甘えて、ご一緒して構わないかの?」
「ん? ええどうぞ。うるさい食卓ですが」
「フフッ。賑やかということは良いことじゃ」
ほかのメンツが大慌てで食事の用意をしたリビングへ桜様は楽しそうに入っていく。その後ろ姿を見送っていた姫川が俺の元へと寄ってきた。
「刀夜。桜様の知り合いなの?」
「ん、まぁ、昔はな。今となっては、話す機会が減っちまったがな」
「アンタの交友関係の広さにはちょっと驚き」
「俺自身、驚いているところもあるけどな。さ、そんなことより夕飯だ。明日しか休みがないんだからな」
「え、ええ。そうね」
すでに盛り上がりを見せつつあるリビングへ俺と姫川も入っていく。
「刀夜! さっさと座りやがれ! 俺が昔のお前の恥ずかしい話をしてやるからよッ!」
「その件に関しては、断固拒否する。もし話したら、お前の恥ずかしい話も話してやる」
場を和ませるためか、本気なのか分からないが、大海の一言でリビングの空気が和やかなものになった。
「あっそうだ。 刀夜、刀夜ッ! 唐揚げ食べてよ」
「鯖の煮込みでもいいぞ」
「ちょっと! なら、野菜炒めも食べなさいッ」
「分かった、分かった! 食べるから置いとけって!」
三人一斉に俺に向けられてくる器を1つ1つ手元に持ってくる。どれも美味しそうな料理なのはとてもいいことなのだが、俺が手をつけようとする料理に三人が凝視してくるのでものすごく食べづらい。
「いやぁ、モテモテですねえ」
「じゃのう。流石じゃな」
「まぁ、ド変態だからな」
どうやら、一言多い奴がいるが無視しておこう。さて、まずは何から手をつけたものか。そう思いながら、手前に置いてあった唐揚げを摘んでひと口食べる。
モグモグ……
「おっ、美味いな」
意外とあっさりとした味付けの唐揚げは俺の好みを的確に貫いていた。シンプルな味付けなのだが、そこがいい。
「フフフ。研究した甲斐がありました」
満面の笑みでフィオナが俺を見てくるので、どうやらこの唐揚げはフィオナが作ったらしい。
フィオナの料理腕は確かなもので、どれもまずかった試しがない。俺の好みの料理ばかりしか作らないあたりが変な気もするが、そんなことはそれほど気にはしていない。
唐揚げと食べたあとに、アズ姉が差し出してきた鯖の煮付けに箸をつける。
丁寧に作りこまれている煮込みは、アズ姉の料理で間違いなかった。味付けの醤油と味噌の加減が絶妙で文句の付け所がない。
「うん、これも美味い」
「秘伝の味付けでじっくり煮込んだからな」
アズ姉から以前、和食は突き詰めれば奥が深いと聞いたことがあったが、この料理を食べた限り普通に料亭で出てきそうなレベルなのだが、本人はまだまだ納得いかないらしい。
さて、それじゃ野菜炒めを食うか。
そう思って、小皿に盛られた野菜炒めを口の中に放り込んだ。
「……」
こ、これは……。
『ちょっと、何か言いなさいよ』的な視線を姫川が俺に向けてくるということは、この野菜炒めはどうやら姫川が作ったモノらしい。
だとしたら、どう答えるべきか。
正直、美味い、不味いで判定するならば、限りなく不味いに近いものだった。まず、ピーマンの種がうまく取れていない。口にするまで気づかかなかったが、噛み締めたとたん、とんだ伏兵が潜んでいたことに気づいたのだ。
更に、火の通り具合がおかしいのだ。もやしは水分が無いほどなのに炒められて、ボソボソになっているのに対して、キャベツはほとんど火が通っていないところがあったりする。
食べれない程不味いというわけではないが、面と向かって美味いとは言えない代物だった。
「……火の通し方がおかしい」
「はいッ!?」
「取りあえず、黙って自分の作ったものを食ってみろ……」
不機嫌そうな表情を浮かべながら姫川が野菜炒めを一口食べる。そして、顔を真っ青にする。
本人自体、味音痴ではないらしい。まぁ、初歩的なミスだからこれから直せばいいことだしな。
姫川には悪いなと思いつつ、口直しに味噌汁を飲むことにしよう。
お椀に味噌汁を注ぎ口を付ける。
「……この味噌汁誰が作った?」
「うっ……。私だけど、そっちも不味い?」
潤みかけている瞳を俺に投げかけてきた姫川。じゃあ、この味噌汁は姫川が作ったことになる。
「正直に言う。こんな美味い味噌汁初めて飲んだ」
「エッ? ほ、本当にッ!?」
「ああ、言いダシが出てる。これなら銀河の食堂で毎朝食いたいぐらいだ」
本当に美味しかったのだ。どこか、昔に飲んだ気がするような懐かしい味。お袋の味ってやつなのかもしれない。
俺の言葉を聞いて、パァっと顔を明るくした姫川。どうやら、機嫌を良くしたようで、良かった。
しかし、結構な大人数で夕食を食べるのは久々な気がするな。
学校にいた時でも仲のいいやつ食べていたが、それとはちょっと違う雰囲気を楽しみながら夕食の時間はあっという間に過ぎ去っていった。