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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
新章 第二部 『承』
32/57

第3話 対人地雷との正しい付き合い方 ~上~

どうも、今回話から、新シーン、新キャラクターがバンバン出てきてストーリーも随分変化しています一度アリソラを読まれている方でも楽しめるストリートなっています


では、第3話をどうぞッ!!

ここ100年間に、人類の科学技術は目覚しく発展をした。そして、人類の勢力図もまた、ずいぶん昔と異なってしまっていた。

200もの国家がひしめいていた地球は、今では4つの巨大な国家に変わってしまっている。

激しい技術の進歩に追いつき、それでもって、他国と争える国は自然と決まっていく。

現在地球を実質的に支配しているのは国を昔の国分けで表すと、南北アメリカと大西洋の小さな島々を含めた、南北アメリカ連邦。ヨーロッパとアフリカを含むEAU、ヨーロッパアフリカ連合。ユーラシア大陸の大半を占めるユーラシア人民共和国。そして、太平洋の小さな島々を含む、太平洋皇国。

 様々な国が侵略されたり、統合したりして現在の勢力図に至った。

他にも小さな国はいくつかあるのだが、この4大国家の技術には到底及ばない。大国家によって均等な軍事バランスが取れた地球には、しばしの平和が訪れている。資源に関する小さな戦闘はあるものの、今のところ大きな戦闘は起きていない。

(本当に嘘みたいだよな……)

自室へ帰る途中に見つけた世界地図を見て俺はそう思った。8年前、西暦2177年までこの地図上に日本という国は確かにあった。

しかし、その2文字は8年前に世界地図の上から姿を消した。

天災、人災、相次ぐ不幸な事態に日本は耐え切れなかったのだ。あの日を境に眠らない街と呼ばれていた大都会東京は長い眠りについた。

どん底の1年間。

今まで経験したことのない苦難に国民は絶望という名の渦にその身を任せるしかなかった。しかし、この強大な渦の中でも懸命に抗っていた1人の少女がいたのだ。

日本列島の隅から隅まで走り回り、絶望の中の国民を再び立ち上がらせたスーパーヒロインの快進撃は留まることを知らなかった。

翌年2178年、民主主義国家日本の代わりに立憲君主制国家太平洋皇国が誕生。日本を中心に太平洋の島々が次々に皇国に加入していき、たった7年で世界4大国家の仲間入りになるほどの大国に成長したのだ。

これほどの大国まで伸し上がれたのは、日本の高い宇宙船技術が作り上げた守護神、宇宙戦艦長門のおかげでもあるが、国民を立ち上がらせた少女であり現太平洋皇国天皇の(とう)(れい)(えん)(なな)()様で間違いないだろう。

俺は再び壁に掛けられた世界地図を見つめる。

(……きっといい国になるよ)

 心の中でそう呟く。俺にできることなんてほとんどないけど、精一杯のことをやっていこう思う。

それが俺にできる唯一の恩返しだからな。

「さて、少し時間もあるし、シャワーでも浴びるか」

「そうですね。予定では、あと1時間ほど余裕があります。もしも何かあったらお呼びしますので、マスターはゆっくりシャワーに入ってくるといいですよ」

「了解、了解。鬼の居ぬ間にさっさと入っちまうか」

 姫川のいない間に風呂に入ろうと考えた俺は、自室のドアを開ける。

銀河の乗員は他の戦艦や巡洋艦の乗員数に比べて比較的少ないため、大きな2~4人部屋が各乗員に用意されている。しかも各部屋に小さいながらもシャワールームまで完備されている豪華さ。

バスタオルと替えの制服を手に取った時だった。俺は恐ろしい事実に気づいたのだ。

部屋の3つあるベッドで部屋の奥にあるベッドの上に転がっている革製のホルスターが転がっている。そして見覚えのある白い制服も畳まれていたのだ。

あ、マズい……。

「ふう。いいお湯だったわ」

 そして、図ったかのようにちょうどこのタイミングでシャワールームから出てきた姫川。

「「あっ……」」

双方、いるとは思っていなかった異性の姿を見て時間が停止したかのように固まる。

 姫川というと、開いた口がふさがらないといった感じだ。薄いピンク色のバスタオル1枚でその身体を隠しているのだから、分からないでもないが。

い、いかん。ここ目をそらそう。あのこことぞ主張する白い肌は非常に危険だ。健全な男子高校生には眼福かもしれんが、コレはちと刺激が強すぎる。

不自然なほどぎこちない仕草で首を右に向けて、平然を装う努力をする。

「じゃ、俺は部屋出るから、後はご自由に」

「ちょっと待ちなさい。アンタってやつは、ほんっと懲りないわね……」

「えっと、これは事故であって故意にやったわけじゃないんだ」

 まずは弁明しておこう。今の状況下で有効なのか随分怪しいが。苦し紛れのなんとやらだよな。

「もちろん、故意でやっていたなら殺す」

 こ、怖ッ! ただのヤンキーだろこいつ。

「取りあえず、故意ではないのでさよう――」

「ふうぅん。帰る前にまず罪改めなさいッ!」

 どこにしまっていたのか知らんが、背後から抜き出した巨大ハリセンを姫川が大きく振りかぶる。

「お、落ち着け! なんだよそれ!?」

「分析結果を報告します。あのハリセンはARIASが独自開発した強力な和紙を職人が丁寧に折って仕上げた業物です。叩いた時の音を聞けば、もう他のハリセンは使えなくなるといわれている特注品ですね」

「だから、なんでそんなもの持ってるんだよ!」

「言いたいことはそれだけ?」

 ニッコリと微笑む姫川。小悪魔のような生易しいものではない。それは絶世の美少女の格好をした死神の笑顔だった。

「や、やめろ! それ、気絶じゃすまねぇって!」

「ふふっ。問答~無用!」

 情の笑顔を見せた後、プロ野球選手もびっくりの綺麗なスイングで振り抜かれたハリセンがもの凄い勢いで俺に迫ってくる。

「死んでたまるかよッ!!」

 制服を投げ捨て、右手に持っていたバスタオルの両端を持ち、真剣白刃取りの要領でハリセンの攻撃を受け止める。

 タオルを伝わっているはずなのに、この衝撃。もしも、直撃をくらっていたら即ノックアウトだったに違いない。

だが、これで俺は逃げに転ずることができる。

そう思い、俺が一歩下がろうとした時だった。足の摩擦が一瞬にして消え去る。

何ッ!

しかし、時すでに遅し、俺の右足は床では、なくさっき自分で投げ捨てた制服に上に乗っていたのだ。

もちろんハリセンとタオルによって保たれていた力の均衡が崩れ去り、姫川自身も俺につられて倒れてしまう。

そのまま、後ろへと倒れる俺に重なるように姫川もこちらに倒れてくる。後は2人揃ってコントのようにぶっ倒れた。

「いてててて……」

 倒れた拍子に頭を打ったみたいだ。頭を押さえようとして手を動かしたところで誰かの細い腕に俺の手が当たる。もちろん、そこに俺の手は無い、そう思って目を開いた俺は、一瞬で血の気が引いた。

 目の前にあったのは、頬を赤く染めた姫川の顔。その真紅の瞳がワナワナと震えながら俺を見つめている。

 そして、あろうことか、彼女の身体を隠していた最終防衛ラインのバスタオルは、はだけて全く意味のないものになっていた。

 見てはいけないとは分かっていても、見えてしまうものはあるものだ。

 すまん姫川。悪いが見ちまった。

「さ……」

 先程までの驚きが隠せなかった真紅の瞳に怒りの炎が燃え上がる。

 あ、俺死んだな。そう確信させるのに十分なほどの目力を俺は目の当たりにしたのだった。

「サイッテー!!」

 次の瞬間、振り上げられた平手が俺の顔に直撃。視界は、即ブラックアウト。

 チクショウ。だから、なんで俺ばっかりなんだよ……。

薄れていく意識の中、本日2度目の愚痴を心の中でつぶやいた。



目が覚めた俺が初めに見たのは、真っ白な清潔感ある部屋。そして、消毒用のアルコールの臭いに薬品の入った戸棚。

どうやらここは医務室らしい。

危うく、もう目覚めなくなるところだったぞ。生きてて良かったと心底思った。

あれで死んでいたら、墓に死因が『覗きによる打撲死(笑)』と書かれかねないからな。

起き上がり、壁に綺麗に掛けられている俺の制服を手に取る。拳銃の入ったホルスターは棚の上に丁寧に置かれていた。

「生きていることに対して神様に感謝だぜ」

「ん? 起きたのさ~?」

真っ白いカーテンを開けて、中を覗き込んできたのは、どう頑張っても中学生くらいにしか見えない少女。

ブロンドの少し長い髪の毛は、仕事の邪魔にならないように頭の上でお団子みたいに丸めている。

そして、その体型で大人用の白衣を着ているせいで、失敗した仮装衣装みたいに見えてしまう。

「一応診断したけど、脳にも異常が無いみたいだから大丈夫さ~」

「は、はあ……」

「おお、そう言えば自己紹介してなかったさね。私は第一診療室、室長の東雲守しののめまもりさ~。みんな東雲先生って呼んでるから、ヨロシク!」

 ビシッと親指を立てて笑顔で自己紹介した東雲先生。この先生、大丈夫なのか? もしかして、最近のアリアスは深刻な人員不足だったりするのか?

「おうおう、気にしなくてもちゃんと医療免許は持っているから、ドーンと安心して怪我するさ~」

 そう言って、東雲先生が俺の目の前に突き出したのは星間医療免許書。

 星間医療局が発行する最高の医療免許書だと……。腕利きの医者にしか発行されないというとても珍しい免許書だ。

さらに驚いたのが、免許書に書かれている東雲先生の年齢。

「22歳……だ、と」

 俺より5歳も年上とは、せめて同い年かと思ってた……。

「むぅ! レディーの年齢は国家機密に値するものなんだぞ~」

「なら、せめてそこは指で隠すとかして見せてくださいッ!」

「まぁ、君は特別許してあげるさ~。以後気をつけるさ~」

そう言って東雲先生は俺の背中をそのちっこい手でバンバンと叩くのだった。なぜ赦してくれるか分からんが、好意に甘えておこう。

「しかし、君は丈夫な体をしてるさね~。医者としては、面白くないさよ~」

「人の体で遊ばないでください。あと、健康で面白くないと言われても困ります」

「ははは、ジョーク、ジョーク~。まぁ、体は大切にするさよ」

「了解です」

俺の返事を聞いた後、東雲先生はニコニコ微笑みながら自らの席へと戻っていった。

「因みに、何か悩みでもあると私に相談に乗るさ~。恋の悩みでもなんでもお姉さんにドーンとくるさよ」

先生に恋の悩みはおそらくしないと思うが、東雲先生のキャラというか、人柄的を理解していれば、彼女に相談しにくるクルーは多いのではないだろうか?

「分かりました。何かあれば東雲先生にご相談させていただきます」

「おうおう、なんでも任せるさよ! そうだ。お近づきの印に君にこれをあげるさ~」

 戸棚から取り出した小さな小瓶を俺に手渡した。

「えっと、コレはなんです?」

「ズバリ、睡眠薬さ~。不眠症の方から、推理小説の犯人まで愛用の万能薬さよ」

「いや、いりませんから」

「ふふふ、まぁ持っていて損はしないさ~。人があげると言ってる時は素直にも貰うのが礼儀さよ」 

「は、はぁ。じゃあ、使う予定はありませんが頂いておきます」

 仕方なく受け取った小瓶を胸ポケットにしまいこむ。

「うんうん。これで君も一人前の大人になったさ~」

「よく分かりませんが、素直に喜べそうにないですね」

「なぬッ!? まぁ、君にもそれが分かる日がくるさ~」

「は、はぁ……」

 東雲先生の言ってことが分かるようにはなりたくないもえのだな。

「守。あまり、ウチの弟をイジメないでくださいね」

「ハッハッハ。いやぁ、風音ちゃんの弟なら、ちょっかい出さなくちゃ損さよ」

 俺の背後から現れた姉さんに、驚く様子もなくむしろ、東雲先生は楽しんでいるように思えてしまう。

「もう、ほどほどにお願いしますよ」

 姉さんと東雲先生が並んで話しているのを見ていると、どっちが先生なのか分からなくなりそうの程の身長差だ。

「全く、砲雷長がいないと仕事も進まないし、早く第1艦橋に戻ってきてくださいよ」

「ああ、分かった。今から戻るよ」

「じゃあ、刀夜君も気をつけるさよ~」

姫川の強烈なパンチによりまだ痛む頬を気にしながら俺は、第1艦橋へと戻っていく。気は進まないが、仕事は仕事なのでしっかりとやらないとな。

「坂上、ただいま戻りました」

 艦橋にいたクルーが、俺の声に若干反応するも直ぐに自分の仕事に戻っていく。俺の頬を叩いた張本人である姫川艦長はというと、呑気に艦長席で読書をしている。

 その雰囲気もあってか、第1艦橋内はゆったりとした空気が漂っていた。

 立ち止まっているのも変なので、俺はそのまま砲雷長の席に着いた。地球から火星にかけての航路は比較的、海賊などとの戦闘になることは滅多にない。しかも、荷物を運んでいるのは普通の貨物船ではなく、戦艦ときたら襲ってくる海賊もそうそういないだろう。

 俺としては、艦橋で勤務しているより、航空機を操縦している方が症に合っているからどうも、こういった空間は居づらい。

 俺は、ふと顔を上げ艦橋内を見回してみる。その時、操縦士の少年と目があった。

少年はやあ、といった感じに手を挙げにこりと微笑んだ。

「どうも、僕の名前は鹿嵐(かならせ)優。見ての通り、銀河の操縦士。よろしくね」

「ああ、よろしく」

「因みに僕の左隣に座っているこの女の子が、オペレーターのイーシス・リークベルさん」

「よろしくお願いします」

 鹿嵐を挟んで向こうの席に座っている銀髪の少女が軽くお辞儀する。見た目で判断するのはいけないとは思うが、第1印象で彼女の職種を当てられる人はそうそういないだろう。

「坂上刀夜だ。よろしく」

「イーシスさんのオペレーター技術で右に立つものがアリアスにはいないって言われるほど凄いんだよ」

「へぇ。すげぇな」

 俺より若いのに早くも凄腕オペレーターとして仕事をしているとはな。確かに、発進時の手際の良さからして経験者だと思っていたが、正直驚きだ。

「それほどでもありません。ただ、毎日に積み重ねが活きているだけです」

 彼女が言うと嫌味に聞こえないところがまた凄い。それほど努力しているということだろう。

テキパキと仕事をこなすイーシスは、アズ姉にみたいな真面目な女の子らしい。まぁ、慣れてくればうまく付き合えるだろう。

 しかし、鹿嵐もイーシスも仕事をこなしているが、正直言って俺の席は平時にやる仕事はほとんどない。

 まあ、目を通さないといけない書類が山積みなんだがな……。

 地球から火星までは寝ずに進んだ場合、約2日で到着する。夜は夜間の部署が操縦をするため、明日の昼には火星に着くだろう。といっても、宇宙標準時間では昼だが、火星は夕方になるだろうな。

 初日の仕事は、そんなことを考えている間に夜間課との交代時間になっていた。

「定時報告。航路修正なし。火星までの航路の3分の1まで消化しました」

「うん。じゃ、昼の営業はこれで終了。後は夜間の人に任せて、みんな解散!」

姫川の号令でクルーたちは第1艦橋から出ていく。結局、艦橋に最後まで残ったのは、俺と姫川だった。

 双方、どちらが先に自室に戻るのか見定める為だったからだろう。

 俺は、無言で目の前のモニターに映るシステムチェックの結果を書類と照合しながら、時間を潰す。

 静かな艦橋内。銀河の夜間運用は第2艦橋で運用されているので夜となれば、第1艦橋は一気に静かになる。

窓の外に広がる景色はどこまでも続いて永遠にも感じられる漆黒の宇宙空間。

 全てが、俺の神経をすり減らすように追い立ててくる。無言の空間がこれほどまでも居づらいと思ったのは初めてだった。

 さて、この状況をどうしたものかと考えていた時だった。俺の背後で、モニターのスイッチを切った音がした。

 そうやら、先に姫川が帰るらしい。

「いつ部屋に帰るの?」

「この仕事が終わったから帰る予定だ」

「そう」

 姫川はそう言い残すと第1艦橋から去っていった。昼のことは案外根に持っていないのだろうか? 仕事中は無視されている感じではなかったし案外心の広い人物なのかもしれないな。

「マスター。書類のチェックミスがありますよ」

「えッ!?」

「はぁ……。うわの空では仕事ははかどりませんよ?」

 ユリアにため息をつかれるほど俺はボーとしていたらしい。その後、書類の見直しに半時間ほど費やしてしまった。


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