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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
新章 第一部 『起』
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第2話 抜錨! 銀河発進ッ! ~下~

 男子更衣室と書かれたプレートを発見したので飛び込むようにその部屋に入る。

 部屋の広さはそれなりに広く、背の高いロッカーがズラリと並んでいる。奥のほうには、ルームランナーなどのトレーニングマシンまであるようだ。

 手前のロッカーを選び、濡れた服を脱いでロッカーの中に入っていたバスタオルで体を良く拭く。

「やっと着替えられる……」

「水も滴るいい男ってやつですよ。マスター」

「海水だけどな」

 ユリアとそんなやりとりをしながら、ロッカーに掛けられているタオルで身体をよく拭いた後、紙袋の中に手を突っ込んで黒色のシャツを取り出す。

これは、一見普通のシャツなのだが、防弾、防刃性に優れている素材を使用しているため、拳銃で撃たれたぐらいでは、この素材を突き破って体内に銃弾が進入してくるということはまず無い。

 だが、衝撃は吸収しきれない為に当たり所によっては骨が折れたりするが、命あってのものだから文句は言えないだろう。

 その防弾シャツを着て、もう1度紙袋の中に手を突っ込む。

「んっ?」

 指先に冷たくて硬いもの当たる。不思議に思った俺はそれを取り出した。紙袋の中から現れたのは、皮のホルスターに入った銀色の拳銃。

「そうか、民間とはいえ、携帯が義務づけられてるからな」

 宇宙空間であっても、戦艦を強奪する為に宇宙船を乗り付けて乗り込んでくるような恐れを知らない海賊達もいる。その為、乗組員全員に護身用として拳銃が手渡される。

 この銀色の拳銃は、日本の大和技術研究所で開発された富士七十八式自動拳銃。

 装弾数15発、発砲時の反動が小さく素人でも扱いやすく、低コストで作れるといった面から民間護衛会社でよく使われている。

戦艦の主砲などのレーザー主流化が進む中、こういった人間が運べるサイズのレーザー兵器は、発砲したときの反動が大きい為にライフル銃ぐらいしか実用化されていないのが現状だ。

拳銃の重みを感じながら、防弾シャツの上にホルスターを装着する。最後に紙袋から取り出した制服を着る。

「制服は白か……」

 上下とも白地の制服で、肩の辺りや袖口など、所々黒色が使われている。胸ポケットには、お約束の3本ラインがしっかりと引かれている。派手過ぎず、身が引き締まるようなデザインになっている。

 着替え終わり、第1艦橋を目指して廊下を歩いていた時だった。

「坂上!? 銀河に乗ってたのか!」

 不意に背後から聞こえてきた懐かしい声が聞こえてきた。

振り向くと、髪の毛がやたらツンツンした茶髪の少年が入口に立っている。

「……誰?」

「なッ! この俺を忘れたのか!?」

「冗談だよ。久しぶりだな。大海」

「おう。中等部以来だから、2年ぶりか」

 この少年は大海龍兵。俺が坂上家の養子になってからの親友で、よく馬鹿なことをして姉さんに怒られた仲だ。

 元々同年代の奴より身長が高く、今では180センチの高身長。かなりの大男だ。

「それで、大海は何でこの船に?」

「よくぞ聞いてくれた! 念願の機関整備課に配属になったんだ」

「機関整備課か。そう言えば昔から大海は機関整備課に入るって言ってたもんな」

 宇宙船の心臓であるエンジンなどの整備をする機関整備課は、大海にとって水を得た魚のように得意分野であり、幼い頃からの夢だった。

「そういう坂上は航空課なんだろ?」

 俺の制服に付いている鳥の羽根を象った金色のバッジを見て、大海がニヤニヤする。

 幼い頃、俺は航空課のエースパイロット、大海は機関整備課の整備課長になるのを夢見て語り合ったことを思い出しているのだろう。

「ヘヘッ、おめでとう!」

「オマエもな」

「……オホン! 再会を喜ぶのもいいが、私も忘れてもらっては困るな」

凛とした女性の声が聞こえてきて、大海の後ろから長身の女性が現れた。

俺と同じ航空課のバッジをつけた制服、腰には一振りの日本刀が差されている。栗毛のポニーテールに日本刀の刃のように鋭利な瞳。そして特徴的な男口調。

一瞬で誰だか分かった。

「アズ姉ッ!」

「久しいな。合同演習以来だから5年ぶりか?」

優しい笑みで笑うこの女性は、一ノ瀬梓。

俺より1つ年上の先輩で正義感が人1倍強く、面倒見のいい性格から、よく俺と大海は怒られていた。アズ姉は昔から、俺たちをよく見て叱ってくれたり、褒めてくれたりしてくれるもう1人の良き姉さんだ。

姉さん同様、根は本当に良い人なのだが、怒らせたら怖い。

そんなアズ姉は、驚くことにこのご時世で居合い斬りの免許皆伝を持っている。さらに驚くのが、戦闘機パイロットとしての技術力。

その腕前は、ARIAS航空課の中で5本の指に入るほどで、いろんな国の空軍からスカウトが来るほど。

 だが、再開の感動ムードは次の瞬間崩れ去った。

『坂上刀夜ッ! 今すぐ第1艦橋に来なさい! 繰り返す! 坂上――』

 特徴ある声が艦内アナウンスで俺の名前を呼ぶ。この声を聞き間違うはずがない。まごうことなくこの船の艦長の姫川かぐや。

「やばッ!」

「坂上。早くもウチの艦長を怒らせてるみたいだな」

「早くしないと、長官からも罰を喰らうことになるぞ」

「えっと、艦橋ってどう行ったらいい?」

「そうだな、前の通路を前に向かって進むとエレベータがある。それに乗るといい」

「ありがとう、アズ姉! ごめん先行くから!」

 叫ぶようにそう言うと俺は部屋を飛び出した。銀河の艦尾側から乗り込んだ為、艦橋までへ続く100メートル近くの廊下を全力疾走で走りきると、アズ姉が言ったエレベータが目に入った。

 上に向かうボタンを押し、エレベータが降下してくるのをもどかしく感じながら待つ。ようやくドアの開いたエレベータに乗り込み第一艦橋のボタンを押す。

 低いモータ音と共に上昇が始まる。その間に乱れた呼吸を整える。

 ピンッ

 短い機械音がしてドアが開く。

「坂上。ただいま到着しました」

「遅い! 私が呼んだら5秒で来なさい」

早速無理難題を突きつける姫川艦長も、白地に黒いラインの入ったARIASの制服を着ていた。

 掃除していた時はくポニーテールにしていた髪は下ろしたのか、長く艷やかな黒髪が彼女の腰近くまで伸びている。

「アナウンスしてから58秒だから、結構いいタイムだと思うけど?」

 懐中時計を覗き込んでいた姉さんが、俺のフォローを入れてくれる。

「ま、まぁ。今回は不問にしてあげるわ」

 姉さんの助言で俺の件は保留になったらしい。今回は、姉さんに救われたようだ。

呼吸を落ち着かせた後、艦橋内部を見回した。

 全員合わせて6、7人といったところか、実習で見学した正規軍の艦橋と比べると半分ぐらいしか人がいない。

 部屋の中央部の1段高い所に艦長席、その前に操縦席がある。あとは操縦席を囲むようにいくつか席があるだけ。

 ARIAS最新鋭艦というだけはあって、色々な最先端技術を艦橋内部にもりこんでいるようだが、この人数の少なさは異常だな。

「あの、俺は何をするんだ?」

 俺の質問に、無表情にも艦長の右斜め前にある空席を指を指す。

「えっと、この席は……?」

「砲雷長」

「は?」

「いや、だから砲雷長」

いやいや、そこに俺が座れと。そこには経験のある人間が座る大事な席だぞ! いくら、この戦艦が若手の人間ばかりとはいえ、俺みたいな初心者が座る席じゃない。

砲雷長とは、艦に搭載されている兵器で戦略を立て、攻撃命令を下す。船のことを理解しており、尚且つ相手の攻撃を先読みして指示を出すのだ。

 はっきり言って素人がどうにかなるようには思えない。

「俺は、航空課志望なんだが……」

「火星に着くまでの我慢よ。そこで正規の係と交代するから、いいからさっさと座る!!」

 命令されるがまま、俺は仕方なく砲雷長の席に座る。椅子を囲むように銀河の戦闘関係のシステムがモニターに表示される。

「エンジン始動準備」

『機関室よりブリッジ。エンジン点火準備完了』

「了解。エンジン始動します」

艦橋中央の席に座っている少年が、パネルのスイッチ類を手際良く操作していく。後ろからだから、顔は分からないが、おそらく俺と同い年ぐらいだろう。

「メインエンジン点火。エンジン内部、圧力正常。」

「レーダーシステム、オールグリーン。全通信システム良好」

「たく……。火器管制システム異常なし」

ここ最近、地球での実習ばかりだったので、宇宙空間に出るのは2年ぶりだ。

「艦長。発進準備完了です」

「よし、抜錨! 前進微速。ドックハッチ開け」

「了解。ドックハッチ開きます」

 姫川の指示で、ゆっくりと銀河が動き出す。徐々に速度を上げていき、薄暗いトンネルの中へ漆黒の戦艦が進入していく。

トンネルの幅は約50メートル。銀河の最大横幅は40メートルらしいので、かなり狭苦しく感じられる。

 まるで身をよじるように、進んでいかなくてはならない。

 これほど狭い水路を進んで行くのは至難の業だ。

「速度15ノット」

 新型エンジンは、非常に静かで滑らかに戦艦を押していくので、水面を滑るように進んでいるように感じられる。

「トンネル出口まで残り30秒」

俺と反対側の席に座っている、若いオペレーターの少女が落ち着いた口調で報告していく。

銀髪の似合う少女で、俺よりずいぶん年下に見える。だが、コンソールパネルを操作する手つきや落ち着き具合から、その道では俺より数倍手練れているのが簡単に見て取れた。

艦橋の雰囲気も張り詰めているわけでもなく、たるんでいるわけでもない。適度な緊張感が辺りを漂っている。

 岩盤の扉が開き、薄暗かったトンネル内に太陽の光が差し込んでくる。トンネルを抜けた先は、辺り一面の青い世界が俺たちを迎えていた。

 夏の入道雲がずっと向こうの水平線の上にドカッと腰を据えていて、今にも手が届きそうな勢いだ。

「半径100キロ圏内に船舶、及び飛行物体なし。」

「エンジン出力をG1モードに移行。サイドブースター展開」

「サイドブースター展開。エンジン出力、正常に上昇中」

 さっきまでの穏やかな運河とは違い、外洋の波が銀河の船体に叩きつけられる。しかし、大きな波でも船体は大きく揺れることもなく進んでいく。

「艦長。準備完了しました」

「サイドブースター点火。上げ舵20。銀河、発進ッ!!」

「宇宙戦艦銀河、発進します!」

姫川の発進指示で、鹿嵐がエンジン出力レバーを押し込み、ハンドルを引く。

ゆっくりと艦首が上昇していき、空高く広がる青空のみが見えるようになる。

力強い銀河のエンジンが盛大な水しぶきを上げながらも、その船体を上へ上へと持ち上げる。

 鹿嵐の手の動きに銀河のエンジンが更なる咆哮で答える。銀河を青い空へと導いて行くのが分かる。

新型エンジンの出力には少々驚いた。

もっと、もたつく上昇かと思っていたが、エンジンの本領を全く発揮せずにこの巨体を軽々と持ち上げたのだ。

 伊達に、46センチ荷電砲を積んでいるだけはある。主砲の一斉掃射をしながら、何の支障もなく航行できるぐらいのエンジンだろう。

「出力安定。各部に異常なし」

「うん。進路そのまま」

「進路固定、宜候」

「脱出コースに乗りました。20秒後に成層圏に到達します」

「了解」

 みんなの顔に安堵の色が広がる。

「みんな、お疲れさまです。まずは、火星へ向かいましょう」

優しい笑で姉さんがみんなをねぎらった。

メインモニタ―に映し出された外の景色に目をやると、さっきまで銀河が停泊していた姫島が豆粒みたいな大きさになっていた。

しばらく地球を留守にすることになるのか。しかし、人類が初めて宇宙に旅立って220年あまり、人がこんな形で宇宙に行けるようになったとはある意味驚きだな。

俺の後ろで、姫川が無線機を手に取り艦内に向かって告げる

「艦長の姫川です。本艦は予定通り出航。これより、火星エルイドライン港を目指します。各員、気を引き締めて仕事に当たるように」

 エルドラインか。

 行き先も聞かされずこの船に乗ったが、まさかあの港街に行くことになるとはな。

「あの日から、もう3年か……」

モニター越しに離れゆく地球を見ながら、俺はそう呟いた。


どうも

第2話の変更点としては、刀夜の姉、風音の口調が変わったということですね。


やはり、口調がヒロインとかぶってしかも働く場所が同じとなると、自分の拙い技術では皆様が見分けがつかないんじゃないかと思ったからです


さて、次回第3話からは、新キャラ、新シーンがかなり多めになってきますのでお楽しみに!!



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