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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
新章 第一部 『起』
30/57

第2話 抜錨! 銀河発進ッ! 〜上〜

全く、とんだ目にあった……。

なんとか岸に這い上がった俺に元凶のもとである少女が俺を睨みつけてきた。

「アンタのせいでずぶ濡れになったじゃない!」

びしょ濡れになったエプロンドレスの少女は、怒りながら無駄にヒラヒラのついたスカートを絞っている。

ぴったりと服が体にくっついていて、綺麗な曲線を披露しているので目のやり場に困る。

俺は、少女に背を向けて上着を絞ることにする。

「ちょっと聞いてるの!? 全部アンタのせいなんだからねッ!」

「聞いてるよ。あと、桟橋を壊したのはハンマーを振り回していたオマエだ」

「なッ! オマエって言うな! 私は泣く子も黙る姫川かぐやよ!」

なぜ泣く子も黙るかは知らないが、どっちかというと、泣く子も大泣きするのほうがあっていると思う。

でも、今はそんなことよりも、俺は早く海水でベトベトになったこの服を着替えたい。喋らなくなったユリアも気になるが、防水なので故障はしていないだろう。

「私はアンタのことなんて0.0001パーセントも信用しないわ! ばらすだけばらして国外逃亡だって――」

「ねえよ!」

 どんだけ信用してないんだよ。そもそも、それぐらいのことで海外逃亡するかっての。

はぁ……。

 コイツと話していると無駄に体力が消費される。

「いい? ばらしたら、アンタをバラすわよ!」

 脅し文句で俺に圧力をかけてくるが、それに相手してやるのも疲れてきた。

「大体なんでそれくらいのことで必死になるんだよ?」

「それくらいとは何よ! これは私のプライドに大きく傷つけることになるよの!」

 大興奮で激怒する姫川。

おいおい、そんなに怒るほどのことじゃないだろ。そもそも、鼻歌交じりに掃除してたのはどこのどいつだ? 実は結構楽しんでたんじゃないのか?

「分かった、分かった。誰にも喋らなければ万事OKだろ。だから、もっと話の通じる相手のところに連れてけ」

「くぅぅぅ。あんた私をバカにしてるでしょ!」

「馬鹿にはしてない。オマエなりに頑張ってるんだよな」

 半ば、哀れむような感じで俺はやれやれと手を振った。

「バカにしてるじゃないッ!」

 ものすごい形相で俺を睨めつけてくる。

何だか目からビームでも出そうな感じだ。

 誰もが認める文句なしの美少女だが、やっぱり性格に難癖ありだよ。

「そもそも、なんで航空学校の生徒がこんなところにいるのよ。それ、航空学校の上級生の制服でしょうが。ここは関係者以外立ち入り禁止区域よ!」

 俺の制服を見ただけで学校まで当てるとは、驚いたな。

だが、そのセリフは、メイドの格好したアンタが言うのはどうかと思うぞ。明らかにここ関係者には見えないからな。

「姉さんに呼ばれてココに来た。だから、俺は関係者だ」

「姉さんって誰よ?」

「坂上風音。分かるか?」

 俺は、姉さんから受け取った手紙を姫川に手渡す。

「坂上……。まさか! あんたのお姉さんって!」

「私ですよ」

橋の向こう側からこちらに向ってくる人影。

白色の制服に金色の矢の刺繍の入った帽子。おっとりとした優しそうな藍色の瞳に、短く切られたアイスブルーの髪はいかにも姉さんらしかった。

「ちょ、長官!?」

 姫川が驚くのも無理はないだろう。

俺の姉さんは16歳という異例の若さで、女艦長として電撃デビュー。その並外れた戦術、判断力、そして感から、海賊のみならず正規軍の船乗りから恐れられることもよくある。

 現在、民間護送会社の司令長官という座で訓練生や新人社員の教育をしている。

「あら、姫川さんと一緒だったんですね」

 帽子を取り、髪を掻き分けれると姉さんはクスッと笑った。

 その笑みは姫川の時とはまた違った大人の女性の笑み。

でも、表面上は笑ってはいるが隠しきれていない黒いオーラが見えるのは俺の気のせいではないだろう。

「さて、2人揃って海水浴でもしていたのですか?」

「ま、まぁ。色々あって」

 そう言って姫川に視線を向ける。

「な、何よ。もしかして、私のせいにするつもり!?」

 あからさまに慌てている姫川からして、既に姉さんが怒っていることを察したようだ。

「大体アンタがあの現場を見るのが悪いのよ!」

「なっ! あんなの見るなって言うほうが無理だぞ!」

 口論を始めた俺と姫川の間に姉さんが割って入ってくる。そして、背後に雷雲から顔を出す龍が出てきそうな笑顔で俺の方を向いた。

「刀夜。集合時間覚えていますか?」

 ま、マズいぞ! この感じ、かなり怒ってらっしゃる。

「え、えっと。2時30分……」

「ちなみに、今何時か知っています?」

 姉さんは俺の目の前に懐中時計を突き出す。今時珍しいアナログ時計の針が2時53分を指している。

「……スイマセン」

 一切反論できないほどの大遅刻である。

「ふふ。分かればいいのですよ」

 姉さんの後ろで一安心している姫川が目に入った。

 くそう。難を逃れやがって!

だが、今姉さんに指摘された俺は反論などできない。しようものなら、精神がおかしくなるまで説教をくらうハメになるだろう。

「あっ。そうそう。姫川さん」

「は、はひぃ!?」

 俺に説教していた姉さんがいきなり振り向いたので、かなり動揺したらしい。言葉が面白いことになっている。

「桟橋に大穴が開いてたけど、あれ、どうしたのですか?」

「あ、あれはですね……」

 愛想笑いで誤魔化そうとするが、姉さんに効果があるはずもない。

「まさか、エプロンドレスで掃除していた姫川さんに刀夜が偶然にも声をかけ、自分の格好を見られたのが恥ずかしくて、勢いあまって船の中にあったハンマーを振り回した結果、桟橋を壊しちゃった。ってことは無いですよね?」

 その場に居合わせたわけでもないのに、あの桟橋で起きた事件をさも見ていたかのように的確に状況を把握している。

毎度思うことなのだが、この人だけは敵に回したくない。エスパーではないだろうかと疑いたくなってくる

「それがですね……」

「私は、この服を着て掃除してくださいとは言いましたが、桟橋を破壊しろとは一言も言っていませんよ?」

 どうやら、姫川は姉さんの定番罰則の一つ、『メイド服で掃除の刑』に処せられていたようだ。

この処罰は、読んで字のごとく、メイド服、つまりエプロンドレスを着て掃除をしろいう罰則だ。

 この刑のさらに刑の恐ろしいところは、女子だけに限らず、男子にもこの罰則が科せられることがあるということ。

 はっきり言って、男がメイド服で掃除するなんて死んでもゴメンだ。

 他にも『逆立ちして路上ライブの刑』とか、『空気イスで会議出席の刑』などといった精神的にも肉体的にも恐ろしい罰則が沢山ある。

「どうなんですか? 姫川さん」

「……スイマセン」 

 流石の姫川も、姉さんの迫力に負けて白旗を揚げる。

 姫川の判断は正しいものだ。変にプライドを意識して、姉さんに刃向かった所で勝てるわけが無い。

姉さんは、見た目も優しそうな雰囲気を出しているし、普段はとても面倒見の良い性格をしている。

だが、怒らせたら最後、鬼のようなプレッシャーで相手を圧倒する。

あのプレシャーは洒落にならない。姉さんを怒らせるぐらいなら、サファリパークの猛獣ゾーンを走り回っているほうがまだ怖くない。

某会社の社長も姉さんの前では姉さんの意見をいとも簡単に通してしまうのだから。

「ふぅ。2人とも17歳なんだから、しっかりとしないといけませんよ?」

「「ごもっともです……」」

 声を揃えて、頭を下げる俺と姫川。なんというか、言い返す言葉も無い。

 腰に手を当てて、姉さんが帽子をかぶりなおすといつもの優しいオーラに戻った。

「さて、いつまでも説教していても仕方ありませんし、仕事に戻りますよ」

 いつもの優しいニコニコ顔に戻った姉さんは、俺に1枚の書類と紙袋を手渡す。

「手紙にも書いていたけど、今日から正式にARIAS航空課の一員として頑張ってもらいます。大丈夫ですよね?」

「航空学校の学生にできることなんてほとんどないかもしれないけど、努力するよ」

 俺は姉さんに向かって敬礼をすると、それに合わせて姉さんも軽く敬礼する。

「ありがとう。本当に助かります」

ニッコリと微笑む姉さんと対照的に姫川の方はポカンとしている。

「へっ? どういうことなんですか。長官?」

「そういえば、姫川さんには説明していませんでしたね。刀夜には試験機のテストパイロットをしてもらうために私が呼んだのですよ。じゃあ、刀夜の乗る戦艦に案内しましょう」

 いつにまして上機嫌になった姉さんの後をついて、俺は地下道を案内されていった。

200メートルほど細長い通路を進むと大きな広場のような空間に突き当たった。そこには1~8番までの数字が振られているエレベータがあり、姉さんは迷うことも無く5番のエレベータに乗り込む。

エレベータの番号を見たとき、あからさまに姫川が嫌そうな顔したが、気にしないでおこう。

変に話しかけたり、チラチラ見ただけで激怒されては俺の体力が持たないからな。一瞬の浮遊感が背筋を駆け抜ける。

降下していくエレベータはガラス張りで、ドッグの中が良く見えるようになっていた。

 この島を買い取った会社ARIAS(アリアス)は、通商宇宙船の護衛と国家絡みの重要物資の運送をしている民間護衛会社だ。簡単に言えば、武装していない通商船を守るボディーガードのような仕事をしている。

ARIASが所有している艦艇は、軍の払い下げの旧型艦だがその数は2個艦隊に匹敵するほどで、太平洋地域で1番大きな民間護衛会社で間違いないだろう。

そんな仕事を請け負っている傍らで、孤児になった少年少女を引き取り、教育を受けさせ社会へと送り出している。

ちなみに俺もそういった孤児だった。だが、坂上家の養子となって姉さんとも知り合った。

姉弟だが、こうも髪の色や顔つきが違うのはこのためだ。正直、ARIASと姉さんに救われていなかったら今の俺はなかっただろう。

「……あれ?」

 鉄筋とコンクリートのみで構成される巨大な地下ドックに1隻の船が鎮座しているのが見えた。

 全長はおよそ250メートル。宇宙戦艦にしては少々小ぶりなサイズで、どちらかというか巡洋艦に近い大きさだ。

「あら、気づきました?」

「あれは、アメリカの旧型艦……いや違うな。でも日本の巡洋艦でもない。あれはどこの船だ?」

「どこの国のものでありませんよ。あれはARIASが独自に造り上げた戦艦です」

「造り上げただと……」

 ドックの中でひときわ目立つ漆黒の船体。  

船体中央からやや前方にそびえ立つ巨大な艦橋。その周りをハリネズミの針のよう沢山の機関銃が取り囲んでいる。

そして、何より目を引くのが、前に2基、後に2基取り付けられた大きな主砲。あれほどの大口径の主砲を持った戦艦は見たことが無い。

「全長241メートル。主砲は独自開発の46センチ零式荷電砲を採用。新型長距離航行エンジンを搭載したARIASの自信作。宇宙戦艦銀河です」

「銀河……。レーザーは撃てないのか?」

 駆逐艦クラスから戦艦クラスに至るまで、現在の主流はレーザー砲が採用されている。

「圧縮粒子弾頭を使えば、レーザーに近い効果は得られますよ。一撃で敵の戦力を削ぐよりは、長距離から攻撃できるレールガンが使い勝手がいいし、状況に応じて砲弾を変更できるのも強みなんです」

 機嫌の悪い姫川を置いて、優しく姉さんが解説する。

「ほほう。大きさこそは巡洋艦ですけど、主砲の威力は米軍の新型戦艦レベルといったところですね」

 ユリアがいきなり俺たちの会話に入ってきた。さっきまでずっと黙っていたのに、いつの間に電源が入ってたんだ? 

持ち主である俺でさえ、こいつが何を考えているのか分からないぐらい神出鬼没だ。

「流石ユリアちゃん。ウチは主に通商船護衛だから、機動性を重視してこの大きさに収めたのです」

 更に、普通に対応できる姉さんも恐ろしい。意外と気が合うのかもしれないな、この2人。

「たしかに、レールガンなら多様性はあるかもな……」

 下手なレーザー砲より威力のある武器なのだが、砲弾を飛ばすために莫大な量の電気が必要になる。

それが46センチ主砲となればなおさらだ。現在世界最大の戦艦群、ビック7と称される7大戦艦の1つ、宇宙戦艦長門でさえレーザー砲だが41センチ。

 大口径のレーザー砲は威力が高すぎるため、ワシントン条約が切れるまでは、41センチ以上のレーザー砲を宇宙戦艦に搭載してはいけなくなっている。

故に、ARIASは条約には記載されていないレールガンを採用したのだろう。だが、46センチのレールガンの威力も凄まじくても、消費する電力も馬鹿にならないはず。生半可なエンジンでは砲弾の1発すら飛ばすことは出来ないだろう。

「ちゃんと飛ぶのか?」

「失礼ね。まだ本格的な航海には出てないけど、テストを予想以上の数値でクリアしているわよ!」

「刀夜。この船の性能は私が保証します。少なくとも今まで私が乗ってきた戦艦の中では1番です」

 姉さんが1番と評価するということは、正規軍の新型艦並みの戦闘能力を持っていてもおかしくないだろう。

「長官。やはり、銀河に乗せるのですか?」

 俺と漆黒の戦艦を交互に見て姫川が不満ありげに姉さんに問いかける。なんだよ。文句あるのか? そう文句を言ってやりたいがここはグッと我慢する。

「そうですね。刀夜には、この宇宙戦艦銀河の航空課に所属してもらうことになります」

「そうですか……」

 肩をガックリとうなだれる姫川。

「俺が乗ったらだめなのか?」

 なるべく、相手の気を逆立てないように平常心を保とう。また姉さんの説教を喰らいたくないしな。

 しかし姫川、そんなこと気にもせず俺をキリっと睨みつける。

「ダメに決まってるわ!」

 訳の分からないことでまたもやキレたぞ。姫川、カルシウムはしっかり取ったほうがいい。

ただでさえ、最近の子どもは良くキレやすいって言われているんだから。

「なんでだよ。別にいいじゃねぇか」

「よくないッ! 銀河の艦長がこのワ・タ・シ・だからよ!!」

 へぇ。艦長ね。世の中にはこんなにもキレやすい艦長が――。

「か、艦長!?」

驚きのあまり、俺の心臓は危うく体を離れてどこかに飛び立っていくところだった。

「なるほど、なるほど。そういえば思い出しました。ARIASに彗星のように突如現れた美少女艦長が姫川かぐやという名前でしたね。なんでも、昨年の艦隊シミュレーションの世界大会で2位を勝ち取ったとか」

「ま、マジかよ……」

 昨年のその時期に行われた航空機試験で忙しく、試合中継までは見れなかったが、そう言えば友人が噂していたのを聞いたことがあるぞ。

 強豪が名を連ねる中、最年少で世界大会に出場した強すぎる新人(ルーキー)が現れたって騒いでいたが、まさかコイツのことだったとは。

「どう分かった? これでも私が艦長なのに文句ある?」

いや、文句あるに決まってるだろ! 

でも、ようやく納得できた。艦長という上位職だったから、あんなにプライドを気にしてたんだな。

だから、俺からも一つ言わせてくれ。

プライドを気にしてるんなら、鼻歌歌いながら掃除するな!

俺が心の訴えを全力で叫んでいるさなか、そんな俺たちをよそに姉さんはのほほんとしながら「あら、大変ですね」「若いっていいですね~」と言って、注意するどころか呑気に顎に手を当ててユリアと姉さん、蚊帳の外からなかよく見物している。

どうやら、あの2人は完全に面白がって俺たちを見ているに違いない。

「しかたありませんね。姫川艦長。刀夜の乗艦、許可してくれないかしら?」

「いや、でも……」

「ほら姫川艦長も心の広い女の子ですよね?」

「うっ……。分かりました。坂上刀夜の乗艦を許可します」

 姫川はいい具合に姉さんに丸め込まれてしまう。

まぁ、姉さんの頼みごとを断れるような人間を未だかつて見た事がないんだがな。

「あっ、そうだ。お願いついでにもう1つお願いを聞いてくれますか?」

「はぁ。何でしょうか?」

「部屋が空いてないから同室でお願いしますね」

 満々の笑みで姉さんの口から衝撃の一言が発せられた。

「「はぁッ!?」」

 その言葉を聞いた俺と姫川は見事にハモってしまった。

丸く事が収まりそうだったのに、新たな火種を放り込む形になった。

「長官! 同じ部屋というのは倫理的にもダメですッ!! どうにか別室できないんですか?」

「それが、もう人数分埋まっているんですよ。それに、2人とも罰則1がついていますからね」

「そんな……」

「大丈夫ですよ。喧嘩するほど仲がいいって言いますから」

「いや、そういう問題じゃないだろ!」

「なにげにマスター達、息ピッタリだから大丈夫ですよ」

「「ピッタリじゃない!」」

 ユリアにからかわれた直後に見事にハモるとはなんとも説得力がない。

「何とかなりますよ。2人ともお願いしますね」

 姉さんが軽くウインクしているが、俺は頭を抱えたくなってきた。

 おいおい……。ホントに大丈夫なのかよ。

いい経験になるって姉さんに言われてやってきたが、その姉さんがなんだか不安になってきたぞ。

「さぁ。2人とも早く支度してくださいね。荷物を待っているお客さんがいますので」

 姉さんに押されて、俺たちはずぶ濡れの服で銀河に近づいていった。

近寄ってみて初めて気づいたが、船体の喫水線より上の塗装が漆黒の闇のような黒色で、喫水線より下がメタリックブルーのような青色の2色でカラーリングされているようだ。

 後部間甲板にそびえるマストにはARIASの艦艇には、必ず描かれている3本の青いラインが見える。

「近くで見るとでかいな」

「まぁ、初めは戸惑うかもしれないけど、そのうち慣れますよ」

ニコニコとした姉さんは本当にうれしそうで、かなり機嫌が良いらしい。その横で、機嫌が悪そうな姫川は、やはりスルーしておこう。

 言っておくが、俺もお前と同室組むことになってちっとも喜んでないからな!

 心の中でそう叫びながら、ドックと銀河を繋ぐ移動式の桟橋を渡って銀河の中へと入っていく。

漆黒の船体の外見とは異なって、中は淡いクリーム色のような壁の廊下がずっと伸びている。

「ここから右に向って通路を30メートルほど歩いたら男子更衣室があります。そこで刀夜は着替えてきくださいね。制服はその紙袋に入っているから」

 俺が持っている紙袋を指差す姉さん。いつものことながら準備がいい。

「他にも、必要品をその紙袋に入れてるから無くしちゃいけませんよ」

「分かった。着替えた後はどうしたら良い?」

「そうですね。第1艦橋に来てくれますか?」

「了解」

 さて、姫川が早く行けと言わんばかりにガンを飛ばしてくるし、さっさと退散するとするか。

 姉さんに言われた通り、通路を右に向って進む。

 通路を進んでいく途中で、背後から「さぁ、姫川さんの着替えは私が手伝ってあげるますよ~」「ちょ、長官! 私1人で出来ますッ! きゃあ! ふ、服を脱がそうとしないでください!」などと俺も赤面してしまいそうな会話が聞こえてきたので、通路を足早に進んで行った。


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