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第23話 『復活の時』

何も言わず俺は部屋をあとにした。コロニーの発艦口に緋龍を待機させるようにユリアに指示して、廊下を歩いていく。


 姫川がハイゼル氏の言う事を無理やり聞かされているのなら強引にでも連れて帰ろうと思っていた。


 だが、今の状況からして、このまま帰るのが最善の選択肢だろう。連れて帰れなかったことなど、俺の責任にしてしまえば簡単なこと。


 そう思い、角をも左に曲がろうとした時だった。


「刀夜!」


背後から姫川の大きな声が俺に届いた。振り向くと、さっきまで涙を流していたのか、慌てて袖で拭うと俺を見つめる。


「銀河は! 銀河は無事なの?」


「みんな無事だ。誰ひと一人怪我してねぇよ」


「そ、そう……」


 勢いよく聞いてきた割には、そこで口ごもってしまった姫川。


「?? さっきまで威勢はどうした」


「私、もう艦長じゃないから……」


「艦長は図太くあれ」


「ヘ?」


 泡を食らったように目を丸する姫川


「姉さんの口癖だ。初めて姫川にあったときは、お前ほど図太い神経を持っている奴はいないと思ったけどな」


「し、失礼ね!」


「失敗したなら、馬鹿にしたやつを見返してやれ。それくらいの気持ちじゃないとやっていけないぞ」


 ポケットから取り出したペンダントを姫川に手渡す。


「しっかり頼むぜ。パートナーさんよ」


 白銀に輝くペンダントを見て、姫川は首を縦に振る。


「服取ってくるッ!」


 すぐさま、走り去っていった姫川を見て俺はひと安心した。さて、後は銀河にもどるだけ――。


「困りますなぁ。彼女を艦長の座に戻されては計画が台無しになるのですよ」


 突如、聞こえてきた中年男性の声に俺は振り向く。


「どこだッ!」


「ここですよ」


 男性がそういった時だった。廊下の壁にかけられている巨大モニターに映像が映し出された。


「お久しぶりですねぇ」


 細い猫目にニヤリと笑うそいつの表情を見るだけで背筋に悪寒が走る。姉さんと俺の父さんに自らの罪を擦り付け、ユーラシアへ亡命した忌々しい男がそこにいた。


澤崎(さわざき)!」


「クックックッ。愉快ですねぇ。地べたを這いずり回る貧民を見るのは実に愉快だ」


「下品な笑い声あげてんじゃねぇ。何が目的だ!」


「あら、貴方は知らないですか? 戦争ですよ。不景気を打開する一大のセールスは戦争ですからねぇ。そのために、わざわざ銀河を執拗に攻撃したり、ハイゼルの悪い噂を流し、第7艦隊まで派遣したのですからね。そうでもなければ、貧民の作った薄汚い船に高価なミサイルなどブチ込むかけがないでしょう」


 この止まらない口、8年前と全く変わっちゃいない。しかし、わざわざ話してくれたおかげで銀河を攻撃てくる野郎の正体がつかめた。


「だが、もう銀河もハイゼル必要ない。悪役(ヒール)は揃った。後は戦争を待つのみですよ」


 最後まで下品な笑みを浮かべ、映像はそこで途切れた。


「刀夜、今の放送なんなの!?」


「説明はあとだ。銀河に戻るぞッ! ユリア! 発進準備体制のまま待機!」


『了解です』


 制服に着替え終わった姫川を連れ、廊下を全力疾走して緋龍を停めてある発艦口へと急いだ。


 すぐさま発艦できる体勢で停止している緋龍の後部座席へ姫川を乗せる。続いて俺もコックピットに乗り込みベルトをしっかりと締める。


「ちょ、この後部座席どうなってるの!?」


「何もないかもしれんが我慢してくれ」


「何もないって、あんたこの後部座席ちゃんと見たことあるの!? この機体内で銀河の状況も把握出来るようになってるじゃないの!」


「なにッ!?」


「それが、緋龍の本当の姿なのです。高性能なのは機体の運動性だけではありません。後部座席からは戦闘指揮、広範囲の索敵も可能なのです」


 緋龍のエンジン音が次第に強くなっていく中、ユリアは冷静にそう答える。


「マスター、圧力限界、発進してください」


「っ! 了解」


 スロットルレバーを押し込み緋龍を宇宙空間へと放り出す。


「しかし、ここから銀河まで飛ばしても3時間はかかる。俺たちの到着は遅れちまうじゃないぞ」


「大丈夫です。艦長、足元にある赤色のレバーを引っ張っていただけますか?」


「レバーね。分かったわ」


 姫川がレバーを引っ張ったのと同時にモニターに超広範囲3Dマップが表示される。


「座標値を確認。粒子加速装置リミッター解除。シールド展開」


「ちょっ! ユリア! 何やってるっ!!」


「ダイブですよ。では、秒読み入ります。5、4」


「う、嘘でしょ」

 

緋龍のエンジン内圧力が異常なほどにまで上昇している。銀河がダイブする時と同様に、目の前の空間が飴細工のように曲がり、そこに吸い込まれるように緋龍が突っ込んでいく。


「2、1、ダイブ!」

 

空間にめりこんだ瞬間だった。激しい閃光で周りが一瞬真っ白になる。


「ダイブ成功。機体に損傷なし」


「ダイブするならもっと早めに言えよ!」


「少々時間が押してますから、説明はあとです! さぁ、敵さんの登場ですよ!」


 レーダーが敵を捉えたのか、警告音が鳴り始める。


「2時の方向!? 姫川ッ! なにがいる?」


「戦艦1、空母1、重巡5、軽巡10、駆逐艦30……お、多すぎる」


「ちっ、あの野郎。ご丁寧に数を揃えてきやがって」


 銀河までの距離を考えて、直接の戦闘まであと少し時間がある。


緋龍から戦闘指揮ができるとはいえ、姫川が艦橋にいるかいないかでは士気随分変わってくるはずだ。それに早めに動けば、緋龍の高いステレス性で相手にバレる前に逃げきることができる。


「気づかれる前に銀河に行くぞ」


「う、うん」


「大丈夫だ。お前らしくしていればいい。与えられた艦長の仕事を最後までこなせばいいだけだ!」


 素早く緋龍を方向転換させ、艦隊から離れるように銀河のいる宙域へと加速させる。空母から戦闘機が発艦してないところかして、相手は爆撃機を使った戦法ではなく、あくまでも艦隊戦で銀河を潰すらしい。


 そして、銀河が攻撃されるということは、皇国とユーラシアの間で致命的な亀裂が走ることになる30年前の第2次星間戦争をはるかに超える死者を出す戦争になりかねない。


「ユリア、皇国海軍に救難信号を送っておいてくれ。それと、もし戦闘が始まれば、ユーラシア海軍にも救難信号を送るんだ」


「えっ!? ユーラシア海軍にもですか?」


「ああ、現在の国力さで2つの国が戦ってみろ。例え、大国ユーラシアといえど、深手を負いかねない。そんな状況下な今だからこそ、ユーラシアの正規軍なら戦いの火種になりかねないこの事件に反応してくれるはずだ」


 さて、あとは自体がどう動くかだが、間違いなく両者が衝突することは確かだ。


「こちら緋龍。着艦許可を願います」


『こちら管制室。着艦を許可します。おかえりなさい刀夜さん。皆さんお待ちしていますよ』


艦底の着艦口に入り、誘導灯に沿って管内に入る。圧力の操作が行われ、隔壁が開くとそこには銀河のクルーたちが勢揃いで俺たちを待っていた。


 みんなが見つめる中、風防を開け、後部座席から姫川を下ろすと、クルー全員から歓喜の声が上がった。


「艦長おかえりなさい!」「待ってましたよ、艦長」


 皆が姫川を見てにこやかに笑いながら出迎えた。当の本人、姫川はというと背を背けて袖で顔を拭っている。


「泣いているのか?」


「泣いてなんかないわよッ! バカ!」


「はいはい。みんなも待ってる早く艦橋にいけ。お前の仕事はまだ終わってないんだ」


「あ、後で覚えてなさいよ!!」


 そう言い残して、クルーたちに指示をして第1艦橋へと走り去っていく姫川。


「フフッ。今の先輩、いい顔してますね」


 遠目で見ていたミラが緋龍の脇まで歩いてきてそう微笑んだ。


「そうか? でも、これからが大変なんだ。ミラちゃん。積める武器は全部積んでくれるかな」


「了解です」


 ビシッと決まった敬礼をすると、何人かの整備員ともに緋龍の翼の下にミサイル等をつける準備を始める。


 このままいけば、一般的な交戦距離に入るまで約10分。味方は1人もおらず、銀河を防衛できる航空戦力は数えれるほど。


 なのに、相手は正規軍の1艦隊の半分ほどの数。一対多の状況はそうそうひっくり返せれるものではない。


 1艦隊の半分が相手か。


 ……ん?


 俺の中で何故か引っかかる妙な感じ。なんだか答えが喉まででかかっているのにその先がうまく繋がらない。



『その、アリゾナが先日、小惑星帯付近で発見されたのです。そして、昨日は1週間前に火星付近を哨戒任務中に突如、消息不明になった第七無人艦隊の艦船も多数発見されたのです』



『何者かによって、プログラムを乗っ取られたのではないでしょうか?』


『しかしな、いくらプログラムを乗っ取るといっても、相手は艦隊だぞ。一気に複数のプログラムを同時に攻略しないといけないんだぞ。馬鹿でかいスーパーコンピュータが何台いると思っているんだよ』



つい最近話した言葉が、パズルのピースのようにはまっていく。


 背筋を悪寒が走り抜ける。


「まさか、そんなことが……」


『対艦戦闘用意! 正体不明の艦隊が本艦に接近中! 見張りを厳となせ。なお、これは演習にあらず! 繰り返す、演習にあらず! 各員戦闘配置に付け!』


 姫川の放送が、銀河に火をつけた。


 慌ただしくクルーが動き出したとき、俺の背筋を嫌な悪寒が走り去ったのだった。


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