第20話 『小さな決意』
長らくお待たせしまいスイマセンでしたッ!
夏休みもあけ、ネット環境がバリバリに向上いたしましたのでどんどんアップしていけたらと思います
このような作品ですが、皆様に読んで頂ければ幸いです
イラスト&小ネタ集に宇宙戦艦長門の説明とイラストを載っけておきましたのでよかったらどうぞ!
「姉さん! まだゆっくりしてないと!」
「航海予定からズレているぶんを何とかしないと、アリアスの信用に関わるわ。ゆっくりしている暇なんてないのよ」
姉さんを支えて長官席に座らせて、銀河の自動操縦を木星に向けての航路図をとる。幸い小惑星帯を抜けているから航行するには問題はないはずだ。
「でも姉さん。姫川が拉致られた」
「分かっているわ。長門に連絡をとって艦長を探してもらって」
「あ、ああ。分かった」
皇国海軍か。そうだな。俺達にできることなんて無い。そもそも、この原因の元になったのは姫川自身だ。
それに、拉致られたといっても相手は姫川の義父。誰だか分かっている以上無駄な心配は無用だろう。
俺は自分にそう思い込ませて、今しなくてはいけない仕事に専念するようにした。
一時間もしない内に銀河のクルーが目覚めたお陰で銀河は、鹿嵐の手により足早に木星へと進路を向けた。
姫川がいなくなったのはクルー全員が理解していた。
特に第一艦橋にいたメンバーの中には、姫川が連れされていく一部始終を目撃しているものもいた。
物言わぬ艦長席が重たくずっしりとした空気を作り出している。
「刀夜君」
銀河の操縦をしながら、鹿嵐が呟いた。いつもなら俺をからかう余裕すらある鹿嵐が珍しく真剣な目付きで俺を見た。
「どうした?」
「艦長がいない船がここまでも活気に満ちてないとは思わなかったよ……」
「そうだな。良くも悪くもな。だが、今回のことはアイツが招いたことだ。俺達が気にすることはない」
「刀夜君。それはちょっと……」
予想外の返答に驚いたのか、鹿嵐は俺を少し睨みつけるような視線を向けていた。鹿嵐の目線で自分の言った言葉を客観的に酷いことを言ったとは理解できていた。
だが、今更謝る気にはならなかった。
「刀夜。ちょっと自室で休んできなさい。いろいろあって休んでないでしょ」
「そうだな。ちょっと休んでくる……」
姉さんにそう言われて、俺は席を立ち上がり、他にも何も言わずに第一艦橋を後にした。自室に帰り着くまで、知らない間に俺は拳を固く握りしめていた。爪が食い込んで痛みを感じるまで自分でしていたことに全く気づいていなかった。
部屋に入り、俺のベッドにそのまま腰掛ける。もちろん同室者だった姫川は居るはずもなく、静かだった。
冷静さの欠けている頭を冷やすにはもってこいだった。
深い溜息を吐き、真っ白な天井を見上げて少し頭に血が昇っている自分を落ち着かせる。
「これじゃ、父さんを避難した連中と同じだよな」
「マスター……」
腰のケースに入っていたユリアが心配そうに口を開いた。何処か、遠慮がちでいつもの威勢が無かった。
「ん? 気にするな俺の勝手な反省だ」
部屋を半分に分けるカーテンの向こう側には、姫川の私物がそのまま残っていて、今にも姫川が戻ってきて「なんで私の部屋をジロジロ見てるのよ!」なんて言ってきそうだ。
「……」
「マスター、通信が!」
通信? こんなタイミングに誰だ? ユリアを介して通信をして来られるのは、秘匿回線のコードを知っている人だけだ。
「全く、誰だ?」
部屋に取り付けられているモニターに出力させて相手が出るのを待つ。
この手の秘匿回線は相手が誰なのかモニターに顔が映されるまで分からないのが少々難点だな。
「もしもし、聞こえていますか?」
綺麗な澄んだ声とともに、モニター映しだされた長い黒髪の女性。鮮やかな赤色の着物には金色の桜の紋章が描かれいる。
「っ! 帝様!!」
突然目の前のモニターに現れた女性の姿に俺はひっくり返りそうになるほど驚いた。
モニターに映しだされたのは、桃嶺園七輝様。皇国を統べるお方が現れるとは全く予想していなかったから、心底慌ててしまった。制服をきちんと着直そうとする俺を七輝様は穏やかな声で止めた。
「構いませんよ。公式の通話ではないのですから、気を使う必要はありません。それよりも貴方に一つお伝えしたいことがありましたので、お電話させて頂きました」
「お伝えしたいこと……ですか?」
「はい、姫川かぐやさんについてです。銀河からの救助要請がありましたが、アリアス本部から探す必要はないとの連絡を受けました」
「は!? どうして」
「恐らく上からの圧力でしょうね。しかも、姫川艦長ご本人からアリアスに銀河艦長の辞任書が明日提出されるそうです。故に、皇国海軍としては動くことができなくなりました」
まるで頭をおもいっきり殴られたかのような衝撃だった。アリアスに圧力をかけてくるのはある程度予想はついた。
だが、まさか姫川本人から辞任してくるとは。
「皇国海軍としては、動くことはできません。スイマセン、我々の力不足で……」
「いえ! 帝様のせいでは!!」
「もう1つ、お伝えしなくはならないことあります」
さっきまで心配そうだった眼差しから、帝様の様子が変わったのが分かった。ふぅと小さく息を吸うと、カメラ越しに俺をジッと見つめるように帝様は口を開いた。
「今回の件とは別に、姫川かぐやさんの抱えているとある問題についてです」
「とある問題?」
「刀夜さんは、マル七計画をご存知ですか?」
「人工知能に関する何かだったとしか……」
マル七計画、確か人工知能に関する日本が行なった実験だったか? 俺が5、6歳の頃の計画らしいが詳しいところまではよく知らない。
「国民の方々には公開できないほど惨たらしい計画ですからね。詳しく知らないのは無理もありません。現に私も全てを理解したのはつい先日でした」
「その、マル七計画と姫川に何の関係が?」
「彼女は被験者だったのですよ……。計画に関しては、電子書類にしてお送りします。はっきり言って私はこの書類を見て欲しいは思いません。ですが、真実をどうしても知りたければ、刀夜さんの目で確かめてください」
帝様は複雑な顔をしてそう呟いた。自分の言ってしまったことに強い責任感を感じている風に俺は思えた。
「分かりました。考えておきます」
「お願いします。では、何か聞きたいことがありましたら、いつでも通信してきてください」
通信を切った俺は独りため息をついた。被験者、マル七計画。俺の周りで飛び交う不穏な言葉。
「マスター。帝様からの電子書類が届きまいたがどうしますか?」
「いや、今はいい」
この重苦しい空気から逃れようと俺は、部屋を出ようとした時だった。ドアノブに引っかかった金色のペンダントが俺の目に飛び込んだ。
赤いガラスと金色に輝くの金属で構成されたツバメのペンダント
「あれ?」
姫川に買ってやったツバメのペンダント。たしか、露天で見たときは銀色だったはず。
不思議に思いながらも、チェーンの部分を持った時だった。ツバメのペンダントがその拍子にクルッと回る。
金色のツバメの裏には、この前見た銀色のツバメが輝いていた。翼に描かれたMoonの文字。反対側の金色の翼にはSunと彫り込まれている。
どうやら、銀色のツバメが月で金色のツバメが太陽を表しているらしい。
「……コンビ解散ってか? 何も言わずに、いきなりそれはないだろ」
「マスター、大丈夫ですか?」
知らず知らずのうちに拳を固く握りしめていたようだ。ユリアの言葉で、我に返るまで気づかなかった。
「気が変わった。ユリア、電子書類を見せてくれ」
その時、小さいことだが、何か俺の中で踏ん切りがついたような気がしたのだった。
第20話を読んでいただきありがとうございました!
今回は、アリソラとは違う世界観の宇宙戦艦ものの小説をアリソラと同時進行で書いているのでURLを貼らさせていただきます。
ありそらから得た経験を生かしたしっかりとしたプロットで書いているしているので投稿はかなり遅いですがよければどうぞ
http://ncode.syosetu.com/n7974bf/