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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
第3章 すれ違う想い
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第19話 『囮』

なんなんだ? この不安は……。心の中で渦巻く嫌な予感。だが、ゆっくりと考えている暇はない。

敵がこちらを無視しているのか、あるいは気づいていないのか分からないが、今の隙にこの宙域を脱出するほうが先だ。


緋龍の操縦の方に無理やり意識を持って行き、長門とセンチュリオンが沈黙の睨み合いをしている内に俺は長門の方へと機体を向けた。


「米軍は何らかのルートからあの船が現れることを知っていたのでしょうか?」


「おそらくな……。訳の分からない事だらけだ」

 銀河を襲った2度の攻撃、ルーゼル重工業、そして、戦艦センチュリオン。客観的に見て、全ての原因は、ハイゼル・レキシントンの可能性が高い。そして、そんなハイゼル氏と関係している姫川かぐや。


 全ては、銀河にいるであろうハイゼル氏か姫川に聞けば早い話かもな。


「ユリア、銀河は今どうなってる?」


「レーダー反応は……あれ? 銀河1隻?」


「1隻!? そんなことはないはずだ。逃げるときに駆逐艦だっていたんだ。最低でも2隻はいたぞ」

 レーダーにちらっと視線を向けると、レーダーの範囲内にいるのは、長門とセンチュリオンと米軍の駆逐艦、そして、銀河のみ。


 ドッキングしてきた船はおろか、駆逐艦さえもいない。


「しまった! センチュリオンは囮だったか!!」


 もう、ハッキリ言って嫌な予感しかしなかった。再び、フルスロットルで銀河に向かって加速する。


 長門から銀河までの距離は約200キロ。してやられた。長門の視線をセンチュリオンに向けてしまえば、ドッキングしてきた船は容易に逃げることができる。


 そして、そうまでしてその宙域から逃げないといけない理由があるとすれば……。


「頼むから杞憂であってくれよ……」


 主砲をセンチュリオンに向けて硬直している長門のすぐそばを超高速で通り過ぎ、銀河に向かう。

幸いなことに、小惑星帯の中でも比較的に浮遊する障害物の少ない宙域。緋龍を無駄に右に左に振る必要性がないために、ほぼ直線的に進むことができる。


「銀河を視認。ダメージスキャンを開始します」


 ユリアが光学カメラを使った、銀河の外観のダメージを調査する。一応今までに銀河が攻撃を受けているといった通信は来ていないから、目立ったダメージは無いはずだ。


「スキャン完了。銀河に致命的なダメージは見受けられず、なお、エンジンは動いているため、通常の航行をしているはずです」


「通常の航行?」


 おかしい、敵は、センチュリオンを囮にして逃げたんだぞ。なのに、銀河が通常通りに航行しているはずがない。


「ユリア。銀河に着艦許可の通信をしてくれ」


「了解です。こちら、緋龍。着艦の許可を願います」


『……』


 しかし、ユリアの通信に応答する様子はない。帰ってくるのは静寂のみ。薄く聞こえる砂嵐のような雑音のみが通信機の向こう側から聞こえてくる。


「ハッキングシステム機動。コードナンバー005」


「ちょ、マスター! そんなことしていいんですか!?」


「緊急時だ。ハッキングして銀河の艦艇にある着艦口を開けるんだ」


「了解です!」


 ユリアに銀河のシステムに潜り込ませて、着艦口を開かせる。あらかじめ銀河のメインコンピュータにユリアのことを教えていたために、今回は外からのハッキングに成功した。


 これが見知らぬ宇宙船だったらそうはいかなかっただろう。


 誘導もない銀河に直接着艦した緋龍の中で、もしかしてのことを想定して、宇宙遊泳用のヘルメットを着用したまま、緋龍を降りた。


 緋龍を降りてすぐに気づいた異変は、隔壁の向こう側にいる管制室だった。


 明かりはついているのに、人の姿が全く見えない。


「酸素の存在を確認。並びに重量制御も正常。人体に有害な物質は確認できません」


「……最悪の事態はある程度想定しておかなくちゃいけないかもな」


 俺は、ホルスターに閉まっていた78拳銃を抜くと、スライドを引きいつでも弾を打ち出せる状態にさせる。


「照明灯が一部消えているようだな。生命維持に必要なシステムは?」


「酸素循環システムは生きています」


「了解。それじゃ、まずは艦橋に向かわないとな」


 手動ハンドルを使い隔壁を開け、銀河の右舷に存在する通路に出る。


 通路は武器なほどに静かで、明かりすらついていない。


「まるで、ホラー映画だな……」


 拳銃の下側に付けられている専用のライトで照らしながら銀河の中央にあるエレベーターに向かう。


「誰一人としていないなんて……」


「いや、いたぞ……」


 ちょうど廊下の壁に持たれるようにして座り込んでいる人影が目にはいった。まだライトで照らしてないから誰なのか分からない。


 ライトで照らした瞬間に、血みどろのクルーが倒れているかと思うと、一瞬戸惑ってしまう。


 ゆっくりと息を吸い込み、決心を決めて、ライトをその人影に向ける。


「ね、姉さん?」


 明かりの中で、眠るように壁にもたれかかっていたのは、俺の姉の姿だった。ぱっと見たところ怪我は無いようだ。眠るように壁にもたれかかっている。


「脈は……あるな」


 ヘルメットに脱ごうと手をかけた時だった。


「マスター。ダメです!」


「ダメってなんだよ?」


「SG‐109です。今、ヘルメットを脱ぐことはおすすめしません」


「SG‐109? なんだそれは?」


聞いたことのない単語に、ヘルメットにかけていた手が固まる。恐らく、今の状況を作り出しているモノだろう。


 コードネームぽいものを使っているあたり、軍用の物らしい。


「ユーラシア海軍が開発した、即効性の催眠ガスです」


「つまり、銀河のみんなは眠っているということか?」


「恐らくそうでしょうね。酸素循環用ダクトを使って艦内に充満させたのではないでしょうか?」


 催眠ガスということは、一度、艦内の空気を入れ替える必要性があるな。


 通路を抜け、第一艦橋に向かう前に、手動で空気循環システムを再起動させて、電気が通っていたエレベーターで第一艦橋へと向かう。


さっきの廊下で倒れていた姉さんと同じように、銀河のクルーたちが催眠ガスを吸わされて倒れていた。


 何者かによって操作された銀河の自動航行システムを止め、電源の復帰をさせると、薄暗かった艦橋内が一気に明るくなり、銀河のシステムが回復していく。


「艦内に異常はないみたいだな」


「空気の循環も上手くいってますし、皆さん無事のようですね」


 ようやく安堵できた俺は、自分の席であるシステムの管轄用の席に座った。ひとまず、やれることはやった。ユリアから聞いた感じなら即効性の薬で直ぐに効果も切れるらしいから、30分もすればみんな目を覚ますだろう。


「あとは、みんなが目を覚ましてから事情を聞けば――」


ビーッ! ビーッ!


完全に気が抜けている最中に銀河のレーダーが異音を上げた。


「な、次はなんだ!」


危うく席から滑り落ちそうになったが、何とか体勢を立て直すと、艦橋中央にある艦長席に走り寄る。


「じ、重力波を確認! センチュリオンがワープします!」


 急いで手元のコンソールパネルを操作して、モニターをレーダーに切り替える。次の瞬間、レーダーの中で紫色で表示されていた、船籍不明艦、センチュリオンの反応が消えた。


「ちっ、あっちも逃げたか……」


 囮役だったセンチュリオンもこの宙域から離脱したことを考えて、相手方の作戦は上手くいったのだろう。


 そのまま、ドカッと艦長席に座る。その拍子で、足元に見慣れた白い帽子が落ちた。


「艦長帽?」


「姫川艦長のものですね」


「全く、大事なものをこんなところに……」


 金色のバッジが取り付けられた白い帽子を凝視したまま俺の時間が止まる。俺の頭の中で殿下の言った言葉が繰り返される。


『……ハイゼル氏は我が皇国海軍の幹部に根回しをきかせて艦長を拉致する計画まで企てていたようなのです』


「ッ!!」


「どうかされたんですか? マスター」


「ユリア、モニターチェック。姫川は何処にいる?」


「えっ? は、はい!」


艦内の至る所に設置された監視カメラがモニターに映しだされたがその何処にも姫川の姿はない。


「はめられたな」


相手の目的は姫川。どういった理由なのか分からないが、姫川の義父が拉致したので間違いはないはず。


 姫川を拉致した宇宙船は何処かの宙域にダイブした後で、もう後を追いようがないな。


「マスターどうしますか?」


「どうするもこうするも俺たちには手に負えんな。船団が無事なのが不幸中の幸いだったな」


「せ、船団を率いて木星に向かうわよ」


 フラフラとした足取りで第一艦橋に入ってきたのは、さっきまで廊下で倒れていた姉さんだった。


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