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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
第1章 宇宙(ソラ)への旅立ち
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第1話 『ハンマー注意報発令中!!』 改稿版

現在投稿中の新章が練り直した改稿版になります!

こちらは、ストーリーに一部無理があったりしますので、改稿版(新規書き直し版になります)を読まれることオススメいたします。



では本編へどうぞ!!






プロローグ


夜空には、赤い光を放つ月がまるで人々をあざ笑うかのように悠々と浮かんでいた。

月面都市の神々しいほどの明かりが、地表に降り注いでいる。

月に向かって伸びるように建っているビルは、対照的に真っ黒な闇が支配していて、物音ひとつ聞こえない。4車線の国道には車1台すら走っていない。

少し前まで人工の明かりが支配していた都市は、今や真っ暗なゴーストタウンとかしていた。

この1年で天災、戦争が日本を限界まで追い込んでいた。

春先に起きた大地震で多くの人が住む家を失った。夏の大型台風により、作物が大きな被害をこうむった。秋に北から攻めてきた敵によって沢山の人が死んだ。

日本は、その国家としての意味をもう果たせなくなっている。

大都会東京に住む人はもうほとんどいない。みんな、疎開するように人々は地方に散らばっていったからだ。

この国は。天災に負け、戦争に敗北し、静かなる終焉を迎えていた。



 日本敗戦から、8年……。

日本は新たな道を進んでいた。


どこまでも、広がる青い空と青い海。

見渡す限りの青い空間を俺、坂上(さかがみ)(とう)()が乗る飛行艇が駆けていた。

眼下に広がる広大な大海原の景色は、数時間ほど前からさほど変化していない。たまに、小さな無人島が見えるぐらいで、それ以外は青々とした景色が水平線の向こうまで広がっている。

「しかし、代わり映えのない景色ですね」

 機内のスピーカーから聞こえてきた少女の声がそれまでの沈黙を破った。

「太平洋を突っ切るように飛んできたからな」

 俺はスロットルレバーを微妙に調節しながら横目にスピーカーを見る。

「まぁ、こういう景色は嫌いではないんですけどね」

 旧式の飛行艇なので音質はあまり良いものではないが、透き通った少女の声だけは、いつもと変わらない音のままで俺の耳に入ってくる。

 いらない雑音を削除し、自らの声を最適な音質でスピーカーから発しているのだから、それは当たり前だろう。彼女にとってこれくらいのことは朝飯前ぐらいのことなのだ。

 彼女。いや、正確には声の主に性別はない。紅色に塗装されたアルミボディ、手のひらサイズの画面に表示された現在位置の情報。

 そう、彼女は人間ではない。

とある博士が開発した世界で唯一の、自我と驚異的な電算能力で瞬時に答えをはじき出す電子の頭脳をあわせ持つポータブルコンピュータ。

「景色はいいんですが、何故もっと良い機体を借りてこなかったのですか? 今の時代、フルオート操縦のない飛行機なんて天然記念物並みですよ」

 そして、ユリアという名前を持つ少々口の悪い俺の相棒だ。

「仕方ないだろ。いい機体は予約が入っていたし、財布に余裕のない貧乏学生には贅沢すぎだ」

 2日前、俺のもとに1通の手紙が届いた。差出人は坂上風音(かざね)。民間護送会社に勤めている俺の姉からの手紙だった。

 手紙には、呼び出した理由を書いた簡素な文章、時間、そして集合場所。

 手紙の内容を思い出しながら操縦桿をゆっくりと倒す。手動の操作になるが、別に違和感はない。一連の動作として体が動いて飛行機を飛ばしていく。

「おっ、見えてきたぞ」

 視界に入ってきた島に向かって高度を下げていく。

「あれが隠れ基地、姫島ですか。私がイメージしていた島よりずいぶん賑やかそうですね」

ユリアそう言うのも無理もない。島の東側に大きな学校があり、島の西側に学生のための居住区がある。

 通称学生街と呼ばれるその場所は、学生のためのマンションから格安ショッピングモール、映画館、レストランなどほとんどのものが揃っている。

 まるでちょっとした街だ。

「もとはリゾートように開発が進められていたんだが、8年前の敗戦で開発を進めていた会社が倒産。そこをが安く買い取ったんだ。だから、建物なんかはまんま使われているらしいな」

「マスターはずいぶん詳しいんですね」

「少しの間だけあの島で住んでいたからな。と言っても表向きのアパートに住んでいただけだから、島の内部に隠れる基地の存在なんて知りもしなかったがな」

 そう言いながら俺は着水するためのフロートを下ろすスイッチを入れ、飛行艇の速度を徐々に落としていき着水させる。数回の振動と共に飛行艇はその機体を海の上に浮かべる。

 穏やかな波に揺られながら島の西側にそびえ立つ岸壁へ機首を向けた。

島に飛行艇が近づくと、岸壁が左右に割れて、岸壁の中から幅20メートルほどのトンネルが姿を現す。

「へぇ……。なかなか、手が込んでるんですね」

「戦艦(、、)が中にあるからには、あまり他国を刺激しない為にも表向きにおおっぴらとしたものにはできないからな」

強大な砲と強固な鋼の船体を持つ戦艦は20世紀の末にはその姿を消していた。時代は戦艦から航空機へ時代が変わっていたのだ。

だが、その頃から時代はさらに変わった。

海洋での活動を主としたものから、宇宙空間での活動を主として考えられた戦艦が造られるようになったのからだ。

宇宙戦艦(、、、、)。宇宙空間で戦うその船を人々はそう呼んだ。

人類はここ100年の間に目覚しい進歩を遂げた。

枯渇していく資源を何とかしようと宇宙へ飛び出して、様々な資源を手に入れ、人が住める環境を作るために各国が宇宙開発を進めていった。

そういった過程で、近場の資源の取り合いが起きるのは珍しくない。

星を手に入れ、安全な資源の採掘、居住空間を建設する為に自衛の為の兵力が必要となる。

そこで注目を浴びたのが、強固な防御力。大火力の兵装を持ち、一度に沢山の物資や人さえも運べる宇宙戦艦だった。

 かくして、人類は宇宙開拓時代とともに宇宙戦艦建造の時代を迎えることになる。

 西暦2185年の現在。

 人類の活動範囲は、ずいぶん広がった。

 火星は第2の地球としての開発は既に終了し、続いて、月面都市、コロニーの建設が進められていった。

 テラフォーミングの技術は、火星に劇的な変化をもたらした。気温を安定させ、永久凍土や地中深くの氷が解けたおかげで、雲ができ、雨が降り、海が作られた。

 見違えるほどの美しい星になった火星には、現在30億の人々が住んでいる。

 火星の豊かな環境は人類の活動範囲をさらに広げるためになくてはならない存在になった。

「よし、到着したぞ」

 薄暗いトンネルの終着点の小さな軍港のような場所だったに飛行艇はたどり着いた。

「さて、到着したのはいいが、一体姉さんはどこにいるんだ?」

 あたりを見渡すが、俺をここへ呼んだ姉の姿は見当たらない。

「それ以前に人がいませんね……」

 エンジンを停止させ、周りを見渡すが誰一人として人影が見当たらない。

「みんな仕事中か?」

「マスターが集合場所を間違えたんじゃないんですか?」

「そんなはずはないんだが……」

 俺は姉から送られてきた手紙を広げて文章を確認する。

「姫島西岸の隠れ港だからここで間違いないはずだ」

 風防を開け、飛行艇の上からも一度港の中を見渡す。いくつもの小型の艦艇が並んでいるだけで、動くものがない。

 困ったな。

 アバウトすぎる集合場所だから、どこか分からないぞ。

 なんでこんなに船があるのに人がいないんだ? 不思議に思いながらあたりを見回す。

「ん?」

 俺の目が対岸の船舶の中でかすかに動く赤いものを捉えた。

「どうかしましたか?」

「見つけた。対岸に人が見えた。あの人にでも聞いてみるか」

 俺はコックピットのテンキーに番号を入力してユリアを取り出し、腰のケースに収める。

 飛行艇の羽根を伝って桟橋に飛び移る。

 丁度、近くに向かい側に渡る立橋があったので、向かい側の桟橋に迷うことなくつくことができた。

 桟橋にたどり着いた俺は、さっき人影が見えた小型船に向った。古いミサイル艦を改造した運搬船なのだろうか荷物がいくつか載せられている。

 荷物の隙間から、リズムカルな音とともにデッキブラシを片手に小型船を掃除している少女が見えた。

おそらく俺と同年代だと思われる少女は、鼻歌混じりにデッキブラシを動かしている。

 掃除の邪魔にならないように、ストレートの長い黒髪をくくってポニーテールにしているのが特徴的で、白と赤を強調したエプロンドレスがいかにも女の子らしさをかもし出している。

 この場所には少々あっていない格好だが、声をかけないわけにもいけないので、俺はその少女に声をかけることにした。

「あのスイマセン。ちょっと聞いていいですか?」

「はい、何ですか?」

 俺の声に少女は世の男性ならイチコロになってしまいそうなほど笑顔でこちらを振り返った。

 胸元には、『姫川ひめかわかぐや』と書かれた可愛らしい名札がついている。

 姫川かぐやか。

 どこかで聞いたことのある名前だが……。

 一瞬彼女の名前が引っかかったが、それは直ぐに忘れてしまった。その理由は彼女の容姿にあった。

 さらっと流れるように伸びる黒髪に磨き上げられたルビーのように透き通った紅色の瞳。少女のような清楚さと、大人の女性のような妖艶さを合わさったその容姿に俺の目は奪われたからだ。

 だが、固まっていたのは俺だけではない。少女も同じだった。

 俺の姿を見て、まるで時間が止まったかのように固まっている。まるで目の前で、想像を絶する何かが起きたかのような顔をしている。

「えっと、聞こえています?」

 取りあえず声を掛けてみる。すると、彼女の顔が見る見る内に青ざめていく。

「はにゃ~~~~!!!」

 そして、新種の生物みたいな鳴き声を上げて、彼女が後ろに跳んだ。

「おお。素晴らしいジャンプです。十点満点。これは評価高いですよ」

「何冷静に解説してるんだよ。お、おい。大丈夫か?」

 俺は、軽くユリアに突っ込みながら少女に向き直る。

「み、見たわね!!」

「は?」

 手で服を隠すようにして2メートル先で怒り出した少女に俺はポカンとなった。

「マスター。これが噂のフラグというものですね」

 こんな状況下でも、いたって冷静なユリアの発言で俺の思考回路が動き出した。

 現在進行形で進んでいるこの状況を理解するために頭をフル回転させる。

 少女はよほど自分の格好が見られたのが恥ずかしかったのだろう。あの反応からしておそらくそれであっているはず。

では、なぜ見られて恥ずかしい格好をして掃除をしていたのか。これが問題だ。

考えれば考えるほど謎が深まるばかり。一向に答えにたどり着かない。

「絶対――」

 少女がボソリとつぶやく。

「えっ?」

「絶対、許さないんだから!!」

少女はそう叫びながら、すぐ横に立てかけられていた柄の長いハンマーを手に取る。

ちょっと待て、話の意図が分からないぞ! 一体なぜこうなった?

「ちょ、ちょっと待て! はやまるな!」

「フラグはフラグでも死亡フラグでしたか」

 素でこの発言をするユリアの肝っ玉の座り方にはある意味尊敬する。

 だが、今はそんなことに感心している場合ではない。

「今ここで見たものすべて忘れなさい。データ消すみたいに記憶から綺麗さっぱり抹消したら許してあげるわ」

 どす黒い殺気を発しながらゆっくりと近づいてくる少女。

 これはなんのホラーゲームだ? 恐ろしく怖いぞ。

「人間の頭はコンピュータじゃないからそう都合よくできていませんよ」

 火に油どころかガソリンを注ぐような発言をするユリアに俺の血の気が引く。

「じゃあ、私がその記憶を消し去ってあげるわ」

 彼女の顔には笑すら見えている。ジリジリと俺との間合いが詰まる。その距離は、ハンマーの攻撃半径に入る少し手前。

「まさかだとは思うが。そのハンマーを使ってなんて言わないよな」

「まさか……」

「そうか、それはよかった」

 そう言いながらも俺はゆっくりと後ずさる。こういう言葉は後半が重要だと相場は決まっている。

「コレはあんたを気絶させるために使うだけよ。その後に、ウチの医療班から借りてきた記憶を消しさる薬を――」

「やっぱりか!」

 俺は少女に背を向けて逃走を図る。

「逃すかぁ!」

 少女もすかさず俺を追って鈍く光る金属製のハンマーを振りかぶる。

 襲いかかってくるハンマーを紙一重でかわす。鼻の先を通過したハンマーは目標を失い、木製の桟橋をぶち抜く。

 盛大に桟橋に穴が開き、木片が飛び散る。

 俺と少女の位置が変わり、唯一の退路だった桟橋を少女によって塞がれてしまう。

「そんなもので叩かれたら、意識どころか魂まで飛んでいくだろうが!」

「問答無用!!」

 めちゃくちゃに振り回すハンマーの軌道を先読みしながら、俺は逃走の瞬間を探る。

「マスターが真っ赤な花を散らす前に私は電源切りますね」

 ユリアはそう言って電源を自分で切る。

「さりげなく恐ろしいこと言うな!」

「どうやら、あんたの負けのようね」

 マズい。可愛いやつだが、性格が手におえるものじゃないぞ!

 一大決心で、逃げの一手を打とうと左足に力をかけた瞬間だった。力いっぱい桟橋を蹴って走りさそうとした左足が空を蹴る。

「なっ!?」

 木製の桟橋が崩壊したのだ。ずいぶん古い桟橋だったのか、ハンマーの攻撃で基礎が折れてしまったのだろう。

 一部が崩れ始めると、雪崩のように桟橋全体が崩れ落ちた。

 一瞬の浮遊感の後、盛大な水しぶきを上げて運河に落ちる。夏とはいえ、トンネル内の海水は冷たい。

 チクショウ。

 なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ。

 いきなりハンマーで殴りかかられて、おまけに運河に落ちるとは、今日は相当ツイてない日に違いない。

 薄暗い水中で俺は、脳内でグチを漏らした。

 それが、俺と姫川かぐやの衝撃的でブッ飛んだ出会いだった……。


どうも夏川です。


この度は、大改稿により皆様にご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします。


これからも、『アリソラ』ならびに夏川四季をよろしくお願いいたします。

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