第16話 『姫川の過去』
今回はかなり短い内容となっています。
次回は長くなると思いますのでよろしくお願いします
小惑星の海を縫うように進んで敵を巻いた俺たちは、小惑星帯の手前まで来ていた宇宙戦艦長門へと乗艦していた。
「マスター。これからどうするんですか?」
「そうだな。今俺たちが置かれている状況を知っているのは殿下だけだ。だから、まずは殿下に話を聞きに行くことにする」
「で、殿下って、あの内親王殿下ですか!?」
「ちょうど今はこの長門に乗艦されているからね」
「あ、あの。私は長門で緋龍の整備をしてていいでしょうか? あの子もずいぶん飛んだので」
「あ、ああ。じゃ、俺は殿下に会ってくるから、整備よろしくね」
ミラに緋龍を任せると俺は長門の艦橋に向かうことにした。流石に全長381メートルは大きい。
艦橋内にある殿下の部屋の前に来るとメイドの榛名さんが待っていた。
「お待ちしておりました。殿下は中でお待ちです」
そう言って深々とお辞儀すると大きな扉を開けると、部屋の真ん中で白い海軍服に身を包んだ殿下が畳の上で正座していた。
「無事で何よりでした」
目をつむったまま殿下は微笑んだ。
「通信していたのか戦闘機中だったのが幸いでした」
「通信でお話しできなかったことを今お話ししなくてはなりませんね」
殿下の表情が少し険しいものになったのが分かる。
俺は無言でうなずくと畳の上に座り込んだ。
「もうお気づきかも知れませんが、ハイゼル氏は姫川艦長の義父に当たる人なのです。孤児だった姫川艦長を拾ったハイゼル氏は、巨額の富を投じて徹底的な英才教育を施したのです」
「姫川にそんな過去があったのか……」
俺が銀河の中で見てきた姫川とは思えない過去に俺は驚いた。
「今回の件には姫川艦長だけの問題ではありません。皇国海軍とも関わる問題があるのです」
「問題……ですか?」
「はい。ハイゼル氏は姫川艦長が宇宙船の艦長になることをとても嫌っていました。理由は分かりませんが、おそらく会社の跡継ぎとしたかったのではないのでしょう。その件に関してハイゼル氏は我が皇国海軍の幹部に根回しをきかせて艦長を拉致する計画まで企てていたようなのです」
「そんな簡単に実行できることなのですか?」
「ルーゼル重工は各国に様々な兵器を売買しています。ですから、各軍の幹部クラスの人物ともかなりの接点を持っているのです。私が私用で頼んだ内部調査で明らかになったので海軍内部での事件を未然に防げましたが、この調査に感づいたハイゼル氏が私設部隊で銀河を強襲したのが今回の事件なのです」
「つまり相手はかなり強大だと……」
不穏な空気が部屋の中を包んだのが分かった。
「悪いことは言いません。この件で貴方のような人間を失うのは皇国としても避けたいことです。お願いですからここは身を引いてください」
殿下の黒い瞳が俺を真っすぐに射抜く。決意が決まっていてどこまでも純粋な瞳に俺は目をそらすことができなかった。
「銀河の船員に危害は及んでいません。もともと、ハイゼル氏もそれを望んでないようですから心配いらないでしょう」
今俺が銀河に飛び込んで行っても皆に危害がおよぶ可能性があるということだろう。
「分かりました。もともと、これは艦長の問題です。事が収集するまで長門に乗艦してよろしいですか?」
「もちろんです。私からも、この事件に関してハイゼル氏に聞かなくてはならないことがありますから」
殿下はニコリと微笑むとそばに置いていた金色のバッジが輝く海軍帽をかぶるとゆっくりと立ち上がった。
「艦橋に参りましょう。新たな情報が届いているかもしれません」
夏川四季が送る、『ありそら』を踏まえて書いた『暁の協奏曲』のプロローグを投稿しました
この作品は、ありそらと同じ団体名や人物名が出てきますが全く違うものになっていますので、混同される可能性があります
それを御理解していただいた上で読んでくださるとうれしいです
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