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アリソラ 〜ARIASの宇宙(そら)〜  作者: 夏川四季
第3章 すれ違う想い
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第14話 『傷ついた銀河』

どうもお待たせしました。


今回は少なめですが、よろしくお願いします

「通常空間に復帰を確認。現在座標値から、本艦はエリス小惑星群付近に着宙したようです。レーダーに通商船団捕捉。全隻異常無しとの、通信が入っています」


 先ほどまでの死闘が嘘かと思うほど静かな空間に銀河はポツンと浮いていた。銀河に刻み込まれた痛々しい破壊の跡。


「まずは被害報告を」


 中央作戦室に集められた、主要な人物を見回すと姉さんはそう言った。この現場にいるべき人物、姫川の姿はない。


 あのまま、医務室から帰ってきていないから当たり前だが。


「姉さ、じゃなかった、長官、被害報告をいたします」


 俺に送られてきた銀河の情報は決して良いものではなかった。巡洋艦の初撃で銀河に直撃したレーザーで甲板の一部の装甲が吹き飛んだが、第2装甲は無傷だったから大事には至らなかったのだが、問題は噴射口の直撃弾だった。


 銀河の装甲は巡洋艦のレーザー砲の直撃弾ぐらいで穴は開かないのが、噴射口は機動性を重視しているために、装甲が薄い。


 そこにレーザーが直撃したものだから、普段なら粒子の流れを綺麗に流して推進力を得られるはずの噴射口に大穴が開いてしまった。その穴から粒子が盛大に漏れて、銀河の推進力が基準値以下にしていた。


 しかも、直撃弾の影響で銀河の第2エンジンに不具合が起きていて、銀河はエンジン出力の80パーセントまでしか使えない状況になってしまっている。


 死者はでなかったのは不幸中の幸いだった。しかし、怪我人が続出したので、今頃医療課はてんてこ舞いだろう。


「とりあえず、死者が出なくてよかったわ。まずは、エンジンの修理をしつつ、小惑星帯を脱出しましょう。噴射口の修理は木星のドッグで。それじゃ、警戒態勢を厳として木星を目指す。いいわね?」


「了解!」


姉さんの言葉で中央作戦室に集まっていた銀河のクルーたちは自分の持ち場に帰っていった。


「刀夜。ちょっと頼まれてくれない?」


「ああ、構わないけど」


「後でいいから、艦長に会ってきてくれない?」


「あのな、姉さん。さっきの騒動で、死者は出なかったが、けが人は出たんだぞ。肋骨を骨折した奴から、火傷で寝込んでいる奴もいる。俺は艦長の子守する為にこの船に乗ったんじゃない。すまないけど、それは他の人に頼んでくれ」


 俺はそれだけ言うと中央作戦室を出た。冷静に勤めているつもりだったが、どうやら、頭に血が上っているらしい。


俺はそのまま第1艦橋にはいかず、俺は医務室の隣のけが人のベッド室に向かった。部屋についた時には、治療は大方終わったのか、ベッドに横たわっている人たちの顔色はだいぶよかった。


 部屋の奥のベッドに行くと、先に部屋に来ていたらしく、アズ姉がそこに立っていた。


「大海は?」


 俺の言葉にアズ姉が振り向く。俺を見て、アズ姉は目線を左向ける。そこのベッドには大海が寝転がっている。


 左足には包帯がまかれており、ギプスもはめているのか随分動きにくそうだ。


「大丈夫か?」


 俺を見た大海は、子供みたいな明るい笑顔で俺を笑った。


「何辛気臭い顔してるんだよ。ちっと足の骨を折っただけだ。大体ここの医者は大げさなんだよ」


 大海は意外と元気そうで俺はホッとした。


「全く、心配させる。私が大急ぎでとんできたら、この様子だ。怒る気も失せたよ」


 アズ姉は、苦笑しながら、ベッドの脇に置いていた椅子に座る。


「だから、それが大げさなんだよ。アズ姉も刀夜もな」


 俺たちの顔を見て、大海は笑っていた。


「大丈夫そうで安心した。何かいる物でもあるか?」


「そうだな。じゃあ、俺の部屋からプラモでも――」


「少しは休め」


 アズ姉は片手に戻っていた刀の柄で大海の頭を叩いた。


「痛っ……分かりましたよ。ああ、そういや銀河はどうだ?」


 大海にそう聞かれて、何事もないと答えようかと思ったが、宇宙船オタクの前で隠してもバレるだろうと思った俺は、正直に現在の銀河の状態を答えてやった。


「なるほどな。噴射口の大穴は確かに痛いな」


「修理は木星のドッグについてからになるらしい」


「それが妥当だろうな。大急処置で直せないことはないが、まぁ、それほど急ぐほどのことじゃないし、ドッグでしっかりと修理したほうがいいだろう」


 腕組みをして、大海は窓から宇宙を眺めていた。


「大海、エンジンのほうはどう思う?」


「ああ、それなら心配ない。小惑星帯を出るまでには直るだろうよ。出力が落ちている直接の原因は恐らく、噴射口に直撃したレーザーエネルギーをエンジンが吸収して粒子にムラができたからだ。通常通りに航行しながらエンジンを直すとなると、ちょいと裏技だが、推進剤を混ぜて、煙突から綺麗にエネルギーを出してやれば、元通りになるはずだ」


「煙突? あれは飾りじゃないのか?」


 銀河に2本の煙突が立っているのは、船に乗り込むときに見たので知っている。俺はてっきり、船の個性を出すためにある飾りだと思っていた。


「銀河のエンジンは双発でしかも超強力だからな。エンジンの力を全てを推進力や艦内電力に回していたら、通常航海はできないんだ。だから、非戦闘態勢で宇宙を航行するときは余剰エネルギーを煙突から排出する仕組みなんだぜ」


「それは知らなかった」


「しかし、そう簡単にエンジンを直すことが出来るんだな」


 確かにアズ姉の言うとおり。意外と簡単に出来ることにビックリした。


「ん~。推進剤の量を間違えたらエンジンの調子がもっと悪くなるかもな。まぁ、ウチの機関長は凄腕だから心配はいらないだろうよ」


 大海が大丈夫というのだから心配するのは無用か。現在の位置からしても、木星に着くのはあと1日ほどだ。


 火星近辺には、殿下が乗艦する長門がいるだろうから、後で一応連絡を入れておこう。いくら大企業のARIASと言えど、正規軍を敵に回すのは苦重たすぎるからな。


「大海。また後で来る。ちゃんとおとなしくベッドで寝てろよ」


 大海に手を振って、アズ姉にこの場を任せると俺は部屋を出た。隣の部屋、医務室の扉の前で足が止まる。


 姉さんの言われた通りに姫川に顔でも合わそうかと思ったが、ついカッとなってもいけなと思い立ち去ろうかと背を向けようとした時だった。


 軽い機械音と共に、医務室のドアが開く。


 医務室から出てきたのは、暗い顔をした姫川だ。しかし、俺の顔を見るなり、瞬時に顔をそらす。


「な、なんであんたがここにいるのよ」


「仲間が怪我したからな。見舞いにだ」


「そ、そう……」


 姫川は顔を伏せ、艦長帽を深くかぶる。元を正せば、こいつがしっかりしていれば起きなかったかもしれない事件だ。


だが、怒りと共に、疑問も浮かび上がる。


 この前の未確認戦との戦闘ではあれほどしっかりしていたのに、なぜ今回の戦闘ではあれほど混乱していたのか。


長く留まっていては、怒りが勝りそうで俺はその疑問を頭の隅へと追いやった。


「次はしっかり頼むぞ……」


俺は静かにそう言い残すとその場を離れた。


 少しはできる艦長かと思ったが、とんだ欠点を持っていたもんだ。一言と言ってやりたい気持ちをグッと我慢すると、第1艦橋へ向かうエレベーターへと乗り込む。


 エレベーターのドアが閉まる直前にもう一度、医務室の方を見るとただ呆然と立っている姫川の姿がまだ見えていた。

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