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第12話 『右目の証明』

どうも夏川です。


前回、殿下の名前が『ざくら』になっていましたが正しくは『さくら』です。


ご迷惑をお消して申し訳ございません。

誤字脱字も多いため、確認次第直していくつもりですのでよろしくお願いします

「殿下の入れるお茶はとてもお美味しいですね」


「ほんとだ。とっても美味しい」


「お粗末さまです」


 殿下は微笑むと自分もお茶を一口飲んだ。


「殿下、帝様はお元気ですか?」


「はい、お元気ですよ。ここに来る時も姉さまに、刀夜さんを皇居に遊びに来てくださいねとお伝えされるように言われたくらいですから」


「それは良かったです」


 職務でご多忙な一日を送っていると聞いてたが、殿下の話を聞いてホッとした。帝様もお元気でなによりだ。


「刀夜って皇室どういう関係?」


「ま、まぁ。色々だ」


「刀夜さんは私たちを助けてくださった命の恩人なんですよ」


「ウソ、この刀夜が?」


「はい。そうですよ」


「こので悪かったな」


 俺がジト目で姫川を睨むと、当たり前でしょといった感じで睨み返された。


それから、1時間ほど殿下と他愛もない世間話をさせていただいた。


「さて、それでは俺たちは帰りますね」


 俺と姫川が立ち上がり、部屋を出ようとした時だった。


「刀夜さん。少しお耳に入れておきたいことがありますので、ちょっといいですか?」


「は、はい」


「私は外で待っているわね」


 姫川が部屋を出ていきそれに続いて部屋を出ていったメイドさんがドアを閉めたのを殿下はしっかりと確認すると、先ほどまでの微笑み顔を隠し、真面目な目つきで俺の方を向いた。


「刀夜(、、)。右目の方はどうですか?」


「殿下のおかげで、体調には異常はありませんよ」


「それは良いことです。あなたのその瞳は謎が多すぎます。少しでも私たちに出来ることがあれば、なんなりと話してくださいね」


「いえ、俺の為だけにそんなことは……」


「あなたの為だから私も、姉さまも心配しているんですよ」


 心配そうに殿下はうつむき加減にそう言った。


 殿下の心配の種は、俺の右目。常人には無い不思議な力が、俺の右目に宿っていた。


千里眼。


 全てを見透かす鬼の目と呼ばれる超能力だそうだ。遠くの物を見ることができ、見えないもの物まで見える力。だが、俺の右目が千里眼だと確証はない。なぜなら、この能力は伝説で語られてきただけの存在だからだ。


150億人にも膨れ上がった人類で10億人近くの人間が、何らかの常人にはない能力を持っていることがつい最近になって分かった。


 この世界の超能力は、漫画やファンタジーの世界のように手から炎が出たりするようなほど大層なものではない。例えば、任意の位置の音だけを聞き取れる人間、物を透かせて向こう側が見える人間。


 様々な超能力者がこの世の中にいる。


「何か異常があったらすぐに言ってくださいね」


「分かりました」


「もう1つ、刀夜に言っておかねばならないことがあります。宇宙戦艦銀河艦長、姫川艦長のことです」


「艦長?」


「はい。あの方は少し常人とは違う雰囲気が出ておりました。気を付けておくに越したことはないでしょう」


 殿下の真面目な瞳が俺を射抜くように向けられる。普段の少しほんわかした人物とは思えないほどの眼力とその言葉に、背筋がゾクッとする。


「ど、どういう意味でしょうか」


「邪気を感じたわけではございません。ですが、何か彼女の中に私には分からない何かを感じることができました。あのようなものを感じたのは生まれて初めてでした」


 殿下も特殊な能力を持っていると言われている。一目見ただけで、その人の本質を見抜いてしまうらしい。


「分かりました。少し、注意します」


「人間誰しも他人には言いたくないことはあります。心配には及びません、私の目が正しければ、彼女は信用に値する人です。あれほどまで揺るがない信念をお持ちの方はそうそういません。艦長を大事にしてあげてくださいね」


殿下はにこやかな笑顔に戻るとそう言った。


「了解したしました」


「貴方と銀河の旅に幸があらんことを」


 そう言って微笑んだ殿下に一礼して俺は部屋を出た。


「用事は終わった?」


 部屋を出ると、廊下で姫川が待っていた


「ああ。終わったぞ」


 殿下が気にかけているものが何なのか凡人の俺には分からない。姫川の中に存在する何か。殿下でさえ分からなかったその正体は気になるが、殿下が言っていたように誰しも話したくないことはあるものだ。


 深く聞かずに、何事もないように接したほうがいいだろう。


「ん? 私の顔に何かついてる?」


 首をかしげて姫川は俺の目を見つめる。


「いや、なんでもない。さぁ、買い物の続きをして帰ろう」


「そうね」


 姫川を連れ、俺は長門を後にした。


中央公園に戻ってきて、俺は海に浮かぶ長門を振り返った。銀河もそうだが、海に浮かぶ戦艦はまたちがった顔を見せるものだ。


海軍最強の戦艦を眺めた後、俺は姫川の買い物の続きへと荷物運びのためについていった。


こうして、夕方まで続いた姫川の買い物に付き合わされた俺が銀河に戻ってこられたのは、午後7時をまわった頃だった。



「で、なんで刀夜が俺の部屋に来てるんだよ?」


 夕飯を食べ終えた後、俺は自室には帰らず、大海の部屋に来ていた。


 大海の部屋は、機関室の近くの少し狭い部屋なため、同室者はいない。おまけに機関室の駆動音がするからあまり人が住みたがらない部屋だ。


「買ってきた物の整理するから帰ってくるなって言われてな。後2時間程は帰れそうにない」


「お前もお前で大変そうなんだな」


 そう言いながら、大海は机の上でプラモを制作している。


「しかし、機関室の音はするが、いい部屋だよな」


「バカ野郎。機関室の音がするからこそ、いい部屋なんだよ」


俺は、少し狭いながらも1人部屋という利点の美味しさに、部屋を褒めたつもりだったが、やはり、大海はそう思って部屋を選んだわけではないようだった。


「この銀河が奏でるエンジン音の中で、宇宙船のプラモを作る。これほど贅沢な居住空間はないぜ」


 そう、こいつは宇宙船オタクなのだ。証拠に、部屋の棚にはいくつもの宇宙船のプラモが並んでいる。


 大海が言うには、機関音だけで船の名前を言い当てるのは朝飯前らしい。


「お前は本当に好きだよな。特に軍艦が」


「男のロマンってもんだ。お前もやってみたらどうだ?」


「遠慮しとく。で、今は何を作ってるんだ?」


 俺は、大海が真剣な眼差しで作るプラモデルに視線を向けた。白い船体にいくつもの赤いラインが入った特徴的な船。


 古い戦艦なのか、今の宇宙戦艦には滅多についていない、巨大な光学カメラ塔やゴテゴテした機関銃が付いている。


「おお、親友よ。よくぞ聞いてくれた。この船は、西暦、2166年に誕生し、3年後の2169年にダイブ事故をおこした悲運な戦艦。宇宙戦艦センチュリオンだ」


 ダイブ事故。宇宙船の長距離航法にダイブ航法が用いられ始めたのは、60年ほど前から。ダイブ航法とは、超長距離をごく短時間に移動することを指す。


宇宙空間を一枚の紙と例えるとするならば、紙の上にAという点からBとういう点まで移動したい時、昔は直線で結んだ距離がいち早く目的地地点に辿りつけると信じられてきた。


だが、それ以上に時間を短縮する方法が見つかったのだ。


 紙を折り畳みA点とB点をくっつけてしまう。こうすれば、ほとんど移動せずに目標地点にたどり着くことができる。屁理屈に聞こえてしまうが、実際、空間を捻じ曲げて目標地点にたどり着くやり方こそが、ダイブ航法。


 アタランタ粒子を使い空間をねじ曲げる。


 だが、発見された当初は、この空間をねじ曲げるという大出力なエネルギーを制御しきれず、ダイブ事故が相次いでいたのだ。 


「66年っていたら、長門が作られた翌年か。どうりで、結構古い作りだと思ったよ。でも、その頃になったダイブ事故なんて千、或いは万の確率でしか起きないと言われていたんだろ?」


「そうなんだ。ダイブ事故が少なくなってきた中でまさかの事故を起こした宇宙戦艦。事故の原因は、ダイブ中の隔壁破壊。当初は隔壁扉の閉め忘れと言われていたが、後になって隔壁自体にも問題があった可能性が浮上してきたために、各国において、安全性が再確認されるようになったんだ」


「それがセンチュリオンだと。で、残骸は見つかったのか?」


「隔壁破壊が起きたような事故だからな。おまけに事故はダイブ中。おそらく、どこか知らない宇宙に飛ばされちまってるから、残骸なんて見つかるわけないさ」


「なるほどなぁ。でもなんで、隔壁が壊れたって分かったんだよ?」


「センチュリオンの最後の通信で隔壁が損傷したと報告があったからだ。事故当日にセンチュリオンに乗っていたのは、わずか30名」


「30名? そんなの戦闘も修理できないだろ」


「そういうこと。その日、センチュリオンは火星からの軍の積荷を運んでいたんだ。大きな戦艦を輸送艦替わりに使うだけだったから、船員は航海員だけしかいなかった」


「事故の真相も、事故への対応も、全ては宇宙の果てに、か」


「そういうことだな」


 大海は話しながらも、そっとパーツを接着剤でくっつけていく。プラモの箱の中には、プラスチック製の部品がまだ入っている。


「結構細かいんだな」


「ああ、この会社は実在する戦艦をきちんと細かく測量して作ってるからな。測量できないものは、写真から長さや角度を割り出してるんだ」


「ファンにはたまらないな」


「言葉できないな。でも、このセンチュリオンだけはなかなか実物通りっていうわけにはいかなったらしいぜ」


「そうなのか?」


「ああ、実物はとっくの前に無くなってるからな。写真だって少ない。もちろん軍が、図面を提供してくれたらしいが、写真と食い違ってる部分もあってな。提供されたのは、後から描いた図面だろうと言われている」


 無くなったとはいえ、軍事機密の図面をなかなか渡してはくれないだろうな。図面さえあれば、その船の強みも弱点もわかるらしいからな。


 黙々と組み立ていくプラモを見ながら、大海と雑談をして2時間ほど時間を潰した俺は自室へと帰った。


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