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プロローグ・前編

 戦争がいつから始まったのか、もう誰も覚えていない。大体一万年くらいだろうから、一万年戦争と呼ばれている。東の国と西の国との戦争。二つの国の軍隊は国境部分で小競り合い、犠牲者が出る度国民を徴兵し、足りなければ植民地の奴隷を使う。戦いはいつまで経っても進展しないし、終わらない。そんな状況が一万年続き、国民も戦争を忘れかけた頃、その日は唐突にやってきた。                     


 その日僕はじいちゃんと一緒だった。

 そこは東の国の国境付近の村アイラ。首都から一番遠く離れたその村は、皮肉にも、国で一番戦場に近くて、一番平和な村だった。村人達は畑を耕し、贅沢出来ない替わりに貧乏もしない。設備は充分ではないけれど病院も、学校だってちゃんとある。駐屯兵は頼りないけど、事件らしい事件も起きない。あって酔っ払い同士の喧嘩くらいだ。

 そんな心配になる程のどかで平和な村で、僕達は生まれ育った。元軍医で現村の医者の父と、村育ちの看護士の母。生まれた時から医者になるのを宿命づけられたような家系だが、7歳の僕にはそんなことを気にする頭も必要も無く、只々遊び呆けていた。日が落ちるまで森で遊び、暗くなると家に帰って妹に話を聞かせた。

 妹、リラは病弱で、年がら年中朝から晩まで横になり、外で遊んだことなどない。だからよく外での話を聞かせてやった。それには少なからずの脚色が加えられていたり、或いはまるっきりの嘘だったりしたけど、リラは少しも気付かず楽しそうに聞いてくれた。その内容はほとんど遊びの話だったけど、じいちゃんから聞いた話もあった。

 じいちゃんっていうのは実の祖父ではなくて、流れ者の旅人のことだ。本名は誰一人知らないが、子ども達からは親しみと敬意を持ってじいちゃんと呼ばれていた。村より更に国境に近い森の中に住んでいて、獣やらキノコやらを取って生活しているようだった。昔は大陸中を回っていたらしいが、旅をするのに疲れ、森に留まり続けていた。大人達には気味悪がられていたが、反対に子ども達には大人気だった。外のことなら何でも知ってるじいちゃんは、偏狭の村で暮らす子ども達にとっては大きな刺激だったんだ。俺はじいちゃんが大好きで、その日も妹に託された宿題を持って、夕暮れの森へと向かっていた。           

「戦争って何?」

 これは妹から聞かれて、上手く答えられなかった問いだ。大人達はいつも戦争戦争言ってるけど、それがどういうことなのか、あまりよく分からなかった。だからじいちゃんに聞く事になったんだ。

「戦争? お前兵士にでもなりたいのか?」

 じいちゃんは大きな木の幹にもたれかかっていた。いつもじいちゃんはここにいる。

「別にそういうわけじゃないよ。リラから聞かれたんだけど、上手く説明出来なかったんだ」

「ならこう答えてやれ。戦争は、世界一馬鹿な大人が始めた、宇宙一無意味な行為だってな」

 何となく意味が無いことだっていうのは分かるけど、リラにそういって納得してもらえるとは思えない。

「もうちょっと具体的に」

「具体的にって、例えばどういうことだ?」

「戦争が起きる原因、とかさ」

「戦争には様々な理由がある。一つ一つ説明してもいいが、七歳のお前に理解出来るとも思えん。」

「だからそれじゃリラに説明出来ないよ」

 じいちゃんは何でも答えてくれるとは限らない。じいちゃんだって知らない事はあるし、説明出来ない事もある。

 でも明らかにじいちゃんは答えを知ってるし、説明できる。ここでは食い下がれない。

「じゃあ七歳の俺にも分かるように簡単な説明してよ。一万年戦争の理由だけでいいから」

 じいちゃんはそこで一旦考えるような仕草を見せた。

「この国で起こっていることに関して言えば、それは分からん」

「何だよ、それ」

「本当にそれは誰にも分からんのだ。食糧危機から始まったという説もあるし、植民地拡大の為をいう説もある。じかし実際には、当時この国は食料危機に瀕してないし、植民地だって売るほどあった」

「しょくりょうきき?」

「食べ物がなくなることだ」

「じゃあ、しょくみんちかくだいは」

「簡単にいえば他の国を侵略することだ」

「でもどっちも原因じゃないんだね」

「ああ、恐らくな」

 じゃあ言うなよ。俺はめちゃくちゃイライラしてきた。もうリラに、食べ物がなくなると戦争するんだと言ってやろうか。

 それにしても原因が分からないのに一万年もダラダラ戦争するなんて、大人は馬鹿だ。確かに世界一馬鹿だ。

「一説では、もっと些細な事が原因だといわれている。まあ俺は、それが一番信憑性が高いと思っているが」

じゃあ先にそれをいって欲しい。

「それはなんなの」

 じいちゃんは一旦間を置いた。

「それは」


瞬間、


轟音が鳴り響いて、じいちゃんの後ろの森が爆発した。


 じいちゃんは驚いて後ろを振り返る。俺は驚きのあまり固まっている。

「伏せろっ」

 じいちゃんは俺を抱きかかえると、そのまま倒れこんだ。

その直後、爆風と木々の残骸が襲い掛かってくる。俺はわけも分からず目をつぶった。

 しばらくして爆風が止むと、じいちゃんはゆっくりと俺を放した。

「怪我はないか」

 でも俺は方針状態でじいちゃんの声なんて耳に入っていない。

「おい、ユーリ」

 俺はじいちゃんにぶたれて、やっと正気になった。

「じ、じいちゃん今のは」

「分からん。もしかしたら西軍が攻めてきたのかも知れん」

 すると爆発した森の方から声が聞こえてきた。声というより音だ。何かが唸るような声が聞こえてくる。じいちゃんは慌てて俺を連れると、林の裏に身を隠した。


 しばらくすると、その集団は現れた。兵隊らしく、鎧を身につけ、武器を持っている。

 どうやら西の国の軍隊のようだ。じいちゃんの予想は当たっていた。

 西の国が国境を越えて攻めて来れた事など一度も無い。俺は西の国の人間を見るのですらこれが初めてだった。

 その中でも俺は、一人の兵士が目に付いた。その兵士は

(真っ黒な、鎧?)

 漆黒の鎧を身に着けていた。本当に漆黒だ。黒以外に何の色も使っていない。

 どうやら黒の鎧がリーダーらしく、様々な指令を飛ばしている。

 でも俺が気になったのは鎧が黒いことでも、リーダーらしいことでもない。


 その兵士は他と何かが違った。上手く説明できない、何かドス黒いものを放っている。


 俺がそんなことを考えながらじいちゃんを見上げると、真っ青な顔をして小刻みに震えていた。

「まさか、あれが完成したのか。だが、俺抜きでどうやって」

 じいちゃんはブツブツ言っている。俺は気になったが、大声を出して見つかるわけにはいかない。黙って兵士の会話に耳を澄ました。


「リン様。ここより700メートル程先に。アイラ村があります」

 どうやらあの黒い鎧はリンというらしい。

「ああ。ちなみに村の勢力は」

「駐屯兵が数名いますが、話にならないレベルです。恐らくリン様が出ずとも我々だけで」

「いや、いいよ。俺が出る。何せ西の国の新たな歴史を幕開けだからな。派手に行きたい」

 なんだろう。あのリンという兵士はそこまで強いのか。人一人でどうこうなる問題じゃないと思うけど。


「ところで、そこの林の影に隠れてる奴」

 心臓を鷲づかみにされた気分だった。

「今出てきたら命だけは助けてやらんこともない、かもしれない。望みは薄いが。出てこなければ消し炭だ。100パーセント死ぬ」

 リンはそこで一呼吸間を置いた。

「どっちを選ぶ」

 俺は後悔した。どうして今日ここにきてしまったんだろう。リラの質問なんて、適当に考えて答えれば良かった。それならばこんなことにならずにすんだ。

俺がそんなことを高速で考えていると、じいちゃんからそっと声を掛けられた。

「逃げろ。村に向かって走れ。時間は俺が稼ぐ」

じいちゃんを見上げると、じいちゃんは何かを決意した表情だった。

「でも」

「いいから早くいけ」

俺はじいちゃんが大好きだった。たまには良く分からない答えもあるけど、大概は何でも知ってるじいちゃんが好きだった。

だけどそのとき、俺は死ぬほど逃げ出したくて、じいちゃんのことなんてまるで考えなかてなかった。

俺は一目散に走り出し、その場を後にした。








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