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1 始まりは腹痛から

短編とはそんなに変わってません。加筆修正も一文くらいで、後は改行や漢数字の修正くらいですので、短編既読の方には申し訳ないです。

 すっごくお腹痛い。


 車にぶつけられたから、という理由からではなく、胃腸風邪のせいだ。もしかするとノロかもしれなかったけど、私には確認する術なんてもうなかった。

 これから病院行くとしても胃腸科じゃないでしょ、絶対。

 早退する途中で、信号無視の車に突っ込まれて、おしまい。花の女子高生がこんな終わり方でいいのか! 健康な状態ならこんなことなかったと思うから尚更口惜しい。

 うう。死体が、吐瀉物まみれだったら、イヤだな……。

 なんて考えながら、意識はフェードアウトした。




 どろり べちゃべちゃ


 ん? なになに? なんなのこの音。しかもなんか臭い。え、最悪の予想ドンピシャ?

 そろりと目を開けてみると、寝ているのかやけに地面が近い。しかも、体が気持ち悪い。首を捻りつつ前足()を動かして視界に入れると、黒い毛並みがどろりと何かで濡れている。

 …………毛並み? 毛並み!?

 驚いて飛び上がる。掌には肉球も確認。隣の家のポン太(猫)とそっくりのそれに、私は確信した。


 ――――これ()、猫だ。


 愕然としたその時、背後からシューシューと嫌な鳴き声がした。嫌な予感に、こんな毛並みでなければ冷や汗が流れたに違いない。恐る恐る振り返ると、やはり予想通りというかそれ以上の巨大な蛇が口を広げて待っていた。


「ミギャーッ!」


 人生初の四足歩行で全力疾走する。何度も脚をもつれさせそうになるが、気合いで走った。しかし、まず大きさが違う。いくら相手が蛇だからといっても追いつかれるのは時間の問題かもしれない。だって、多分子猫()の十倍はあった。

 体力ももう限界に近付いていて、そういえば、胃腸風邪どこいったのかなあ。なんて現実逃避しかけた時だった。


 その影が現れたのは。


 日に輝く白い毛並みが美しい、大きな虎だった。

 それは藪の中から躍り出て、大蛇の喉元(蛇に喉という物があるのかは疑問だけど)に食らいついた。太い前足で頭と長い胴を抑え、尾が暴れ出す前に咬み千切る。飛んだ頭部が目の前に落ちて鋭い牙を見せたので私は悲鳴を上げてしまった。

 そこで初めて、その真っ白な虎は私に気付いたのだろう。金に輝く瞳をこちらに向けた。死んでいると理解しつつも蛇の頭部は恐ろしかったのでそろそろと移動する間も、その目は私をじっと見つめ続けている。

 まだまだピンチ? 虎って肉食!? 肉食ですよね!


「みゃ、みゃーお」


 食べても美味しくないですよーと切実な訴えを込めて語りかけてみるが、反応は無し。猫語と虎語は別!? 両方猫科だからという安易な考えは駄目ってこと? た、食べられちゃう?

 びくびくして逃げる気も沸かなかった。だって、あの大蛇を一発で仕留める俊敏さ! 頭なんて私の遥か頭上にあるから見上げなければならない。

 やるならいっそ一思いに! と覚悟して目を瞑るけど、衝撃は襲ってこない。やっぱり猫科の(よしみ)で大丈夫だった? と考えた瞬間、ぱくりと首根っこを咥えられた。そして続く浮遊感。ぶらん、ぶらんと揺れる。

 別の場所で食べられちゃう? 虎穴には沢山の虎児!? スプラッタ決定!? 嫌だーっ。

 なんて考えても、鋭い歯が突き刺さりそうだから髪の毛一本も動けない。うう、怖いよう。



 ぽしゃん、と頭まで浸けられたのは小川。水の流れで洗うように左右に振られる。息継ぎに水揚げされ、また沈められるのを数回繰り返される。近付いていたからそうかなとは思っていたけど、いきなりで驚いた。

 蛇の唾液付きなんて食品衛生上良くないんだよねきっと!

 しかし洗濯の後、思いの外丁寧に地面に下ろされた。もっとぽーんと放られるかと思っていたのに。


 しかもっ。


「みゃ、みゃーっ」


 べろんべろんべろん


 丁寧に丹念に舐められている。鼻先で仰向けに転がされべろべろ。終わったと思ったらひっくり返されべろんべろん。

 ひいいいいっ! これ一体、何事デスカッ!?

 正直舐められて洗われたの台無し……いやいや、どうせこれから入る口の中の分泌液だから良いの?

 表も裏も舐めまわされてくたくたになった私はまた小川へ。その時、漸く私は見た。水面に映された真っ黒い子猫の姿を。


 夢であってほしかった……。


 再度の洗濯の最中、私の意識はまた急激に引いていった。



 目を醒ました私はどこか洞穴のような場所にいた。小川の流れる音がするからそんなに離れてはいないのだろう。きょろきょろする私に虎さん(某テキ屋のオジサンみたいだけど、意思疎通ができず名前も知らないのだから仕方がない)はどこから採ってきたのか、毒々しいまでの赤い皮を持った果実を差し出してきた。赤いといっても林檎とかの可愛らしいものではない。茸なら確実に毒だと断言できる禍々しさに私はぶるぶると震えた。しかし、虎さんは顎をしゃくって『食べろ』の合図をする。

 食べないとこちらが食べられる! ていうか食べてから食べられる?

 (おのの)きつつも赤い皮、寧ろ殻というべきものに歯を立てるが撃沈する。歯が折れそうな程固かった。それが狙いかと思った。虎さんはそんな私を見かねてか、その凄まじい口角の破壊力を見せつけてくれた。正直、食べる気を無くすほどの恐ろしさだった。自分の行く末はあれかと。

 砕けた実に口を付けてみると、殻の硬さ、毒々しさに反して柔らかく瑞々しい甘さを持ったなんとも美味しいものだった。メロンのような果肉は白く、純白といって良い程の美しさ。空腹感が一気に体を突き動かして、一心不乱に食べる。

 しかし、美味しいおいしいと初めは勢い良く食べていたが、何分この果実は私の体程の大きさがあった。全部食べきるのは土台無理な話だったわけで。しかも、気付いてしまった。私を太らせてから食べる作戦などではなく、実はこの虎さんはベジタリアンだったのでは!

 それなら、丁寧(洗濯は除いて)な扱いも頷けるのではないか。虎さんにとって食糧の調達ではなく人命救助だったのかもしれない。


「みゃーん」


 ありがとう虎さん、と心からの気持ちを込めて、果実を虎さんの方へ差し出す。

 食べ過ぎちゃってちょっと少ないけれど、どうぞ! 貰い物だけど!

 虎さんは一歩近付いて果実に顔を寄せたかと思うと、べろんと一舐めしたのはなんと私のほっぺの方だった。やっぱり肉食?

 だけど、見上げた虎さんの目が優しかったので、私は暫く舐められっ放しで我慢した。



 それからというもの、虎さんは甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。毒々しい果実に始まり、様々な木の実、甘い草の根に、綺麗な琥珀色をした樹液を葉に採ってきてくれたりした。生魚を持って帰った時には、ちょっと生は嫌だと遠慮する意を示すと洞穴から出て、帰った時には焼き魚になっていた。

 え、なんで?

 寝る前と起きた後には、毛に潜む蚤のような虫を取るのに、虎さんが手伝ってくれる。私は自分の体の毛繕いをするのも苦手だから、楽をしているけど、時折心配になる。他人の体に付いた虫って嫌じゃない? いや、私だって虎さんが『やって』って言ってくれたらやりますとも! 今までそんなことは全くなかったけど。


 ――――ただ、虎さんと意思疎通は大方できるようになったけど、言葉だけは通じていなかった。やっぱり、虎と猫の壁は大きいのだろうか。





 なんて、割と快適な虎さんとの生活も数ヶ月が過ぎた。この世界が私の居たところとは別だということも、虎さんから与えられる食料で理解した。少なくとも日本ではない。

 そんな頃、二匹だけの日常に乱入者が現れた。


「こら、ヴァレンディア! いつまで休暇取ってるつもりだ! いい加減にしろよっ!」


 朝起きてすぐのことだった。私は久しぶりに見た人間の姿に驚き、乱入者は虎が子猫を舐めまわしている状況に目を見開き動きを止めた。そんな中、虎さんだけは乱入者を無視してぺろぺろと私を舐め続けていた。


「ヴァ、ヴァレンディア! 止めろ、お前! そんな小さいのに無体を働くな!」


 復活した乱入者は焦った様子で虎さんの背に手をかけたけど、虎さんは全く気にかける素振りもない。

 ヴァレンディアって、虎さんのこと?


「みゃ、みゃう」


 ぽんぽん、と虎さんの頬を叩くと渋々止めてくれる。だけど、男の人から庇うように背に隠すことは忘れない。


「いつからそんな幼女趣味になったんだ!? しかも、獣形ってお前……構うだろっ!」


 独り言かな。虎さんと人間で会話なんてできないでしょう? 幼女趣味~? なんでそうなるの?


「もういいっ、無理やり連れて帰るからな!」


 乱入者がそう言うと同時に、ぱくりと虎さんに咥えられた。移動時のお決まりポーズだ。この数カ月でそれは安心感をもたらせてくれるものとなっていたけど、今回ばかりは久しぶりに危機感と不信感を抱く。そしてそれは乱入者の足元から広がって巨体の虎さんを中心とした、幾何学模様と蚯蚓のようなものが描かれた円によって、事実だと知らしめられる。

 光る円と突然の体が引っ張られる感覚に、私はまた意識を失った。


 子猫になってから、こういうの多くない?




 なんか、ふかふかしてる。体と一緒にもう一度意識が沈みそうなくらい。だけど、男の人の声に引き上げられる。両手に力を入れて上体を起こした。

 見渡した部屋は、飾り気のないものだった。殺風景だと言っても良い。日本ではなく、欧米をイメージさせる雰囲気のものだ。

 首を回して、最後に目に入ったのは、二人の男の人だった。


「お前は杜撰すぎる。彼女の体に負担がかかっただろう」

「ちょっ、待て怒るな! うわああっ」

「煩い――――目が醒めたみたいだ。命拾いしたな」


 話していたのは、乱入者ともう一人。そのもう一人が、私の――大きなベッドの側へ寄ってくる。

 その男の人は白い髪をしていた。といっても若白髪とかそんな風ではなく、きらきらした銀髪と言うのが正しいのかもしれない。そしてそれは虎さんによく似た色で安心感を与えてくれた。顔は欧米人とかそういう感じで、十人が十人「かっこいい」と言うに違いない美形だった。それがとろけそうな笑みを浮かべている。

 な、なんか、眩しすぎる……。


「起きたんだね。大丈夫? おかしな所はない? 一応僕も確認したけれど、もしかすると、ってこともあるから……」


 段々と心配そうな顔に変わるから、大丈夫だよって言いたくなるけど、如何せん私は猫だ。虎さんとすら会話できないんだから、人間となんてとんでもない。

 そういえば、虎さんはどこに行ったんだろう?


「でもまず、君の名前を教えてくれないかな?」

「私、喋れないから、無理です…………あれ?」


 普通に話せている。いつも通りの、猫になる前の私の声だ。


「ああ、良かった! 喉も大丈夫そうだね。可愛い声だ」

「あ、りがとうございます……?」


 ぺこりと御辞儀もする。日本人の習性というやつだ。そのついでに、自分の臍が見えた。


 …………おへそ?


「みぎゃああああっ」


 はだか! 頭の先から爪先まで子猫の時と変わらずに!

 足元に寄せられていたシーツをひっつかみ、胸元まで隠す。いつの間にか人に戻っている。

 もしかして子猫は夢? だけど、ここは病院でもなんでもない。ぼんやりと見えた部屋の調度品などが妙に古めかしい。


「ああ、服か。僕のもので良いかな」


 ぱちん、と指を鳴らせると頭上にばさばさと服が降ってきた。白いブラウスのようなものに、黒いズボン。ブラウスを男の人は当たり前のように手に取って広げる。というか、鼻歌まで歌っている! にこにこと笑いながら、私に言い放った。


「はい。手挙げて? 着せてあげる」


 輝く笑顔。いやいや、無理でしょう、なんて言わせない笑み。だけど、美形でもそれはいただけません! ムリムリ! 服は欲しいけど、ムリ!

 私は話をそらすことにした。逃げたわけじゃないんだから!


「あっ、あの! 私と一緒にいた虎さん、真っ白で大きな虎なんですけど、どこへ行ったんですか?」

「ここに」


 未だブラウスを広げつつ、男の人が答える。


「はい?」



 今、なんと仰った?



「だから、僕は、あの虎なんだ。この数ヶ月、ずっと君と一緒にいた」


 呆けた私に上手く理解させるように優しくゆっくりと紡ぎ出された言葉に、頭が真っ白になる。


 ぼくが、あのとらなんだ?


 あの、虎さん…………?


「あれ? どうしたの? ねえ」


 頭に()ぎるのは過ごした日々。たくさんお世話になって、舐められたり、舐めまわされたり、舐めつくされたり……。


 ぺろり


「みぎゃあああああっ!?」


 舐めた! 舐められたっ!

 シーツを引き上げて舐められた頬をごしごし擦る。美形だからって何をしても許されるって訳じゃないんだからね!

 私の中でこの自称・虎さんは変態ランキングで堂々の一位になった。虎さんだなんて、嘘だと思いたい……。


「ふふ。可愛い。ねえ、早く名前を教えてね」


 これに、名前書かなきゃいけないから。


 って、なんですかソレ!

 何が書かれているか読めませんが、なんとなく判りますよ!



 ああ、またお腹痛くなってきた……。



ここまでご精読ありがとうございます!

ゆっくりですが、頑張って完結させたいです。

誤字脱字や、感想などあればお願いします。


改めて、ありがとうございました!

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