第4話「結束」
強面の男達、一団は壁の下にたどり着く。
「着きましたね」
ケンは言う。
「はぁはぁ、はぁはぁ、、ここからどうするんですか?」
女子大生は、強面の男に問いかける。
強面の男は、城壁に無数に絡み付いた蔦を掴み、一団に引っ張ってみせる。
「俺の策は、こうだ!」
強面の男の顔は自信に満ち溢れている。【野生の感が言っている】的な言葉が顔に書かれているような自信だ。
「この蔦!この蔦を今から登る!」
「蔦を登る!?そ、そんな無茶な」
「ここまで来てまた、そんなことするのかよ!」
友人2人組は、提案された無謀にも見える策を真っ向に否定する。
「じゃあ!どうするって言うんだよ!え?この壁が何処まであるか分からないんだぞ!」
「だったら!高さだって何処まであるか分からないんですよ!」
また、言い争いが始まった。
「あの皆さん落ち着いて!一応、もう策無さそうですし一先ず、ここはこの人の意見を聞いてみましょうよ!」
あの、絶望的状況下でもこうして生きてここまで来れた。それは、どう考えてもこの強面の男の提案によるものだ。言葉は荒いが、命を最優先して導いてくれている。この男に、今は心の底からついていこうとケンは思い声をあげる。
「で、でもな若いお兄さん!蔦を登ってる最中にこの謎の矢の餌食になったらどうする?何処からともなく打ってきてるんだぞ!何処に居るかも俺達には分かりやしない、、、」
「確かに、、そう言われると、そうですが、、、」
男の圧に次第にケンは押される。
ドンッ!!
何かが城壁から落ちてきた。いや正確には、ダイナミックに降りてきたのか。
「な、なんだ?」
目の前に現れたのは、漫画やゲームの世界でしか見たことのない、緑色の皮膚を持ちそして、鋭い眼光、その者の性格を表すような爪や歯の鋭さ、手には弓、腰には、短剣、軽装ではあるが防具もつけている、そう、これはゴブリンと言う生き物に違いない。
「ば、化物だと!?」
強面の男は叫ぶ。
「ギャァァァアア!!!!!」
ゴブリンは地面に弓を捨て、腰に装着している短剣を引き抜き、強面の男に猛進してくる。
「逃げろ!!」
「逃げて下さい!!」
「逃げてぇーーー!!」
みんなの思いは一緒であった。何も出来ないがせめて、声をあげる事で少しでも強面の男が助かればと願い声を発する。
「糞!この野郎!舐めやがって!」
強面の男は蔦を上る。
猛進してきていたゴブリンは呆気にとられ、蔦を登ろうか悩んでいる。弓を捨てていたため蔦を登る強面の男を射貫くことが出来ない。知能の低さがここで如実に現れる。
強面の男は、様子を見るや否や蔦の一部を獣の如く引きちぎり、ゴブリンの背後へ飛び降りる。
手に持った蔦をゴブリンの首元に回し思いっきり自分の方へゴブリンを引き寄せる。
「グゥァァアア!!!!!」
ゴブリンは、息が出来ない。
踠く足掻く、強面の男は一切力を緩めない。むしろ、段々強くなっている。生き残るためなら手段を選ばない男。生き残るためなら己自身も強くなるのか。
ケン達は、どちらが異形の者なのか分からなくなる。
ゴブリンが握っていた短剣は、次第に地面へゆっくりと落ちていく。ゴブリンは、力尽きた。
「凄い、、、、」
「はぁ、、はぁ、コイツら意外と骨がない奴らだな!撃たれてた矢の元凶はコイツらだな、、、にして何なんだ」
「これは、ゴブリンだと思います、、」
ケンは、漫画やゲームでしか見たことの無い存在が目の前に現れて状況を整理できない状態であるが、特徴や性格全てを合わせて見てもこの異形の者達はゴブリンに、違いないと確信があった。
「ゴブリンだと!そりゃッゲームでしか登場しない化物だろう?そんな奴が何で、、、」
「よく分かりませんよね、自分もです。でも、目の前に転がっている死体はゲームでしか登場しない化物そのまんまなんですよ、、、」
「にしても、凄いですね、、武器なしの状態から即座の判断で蔦を使って仕留めるとは、、、何者なんですか?あなたは?」
ケンは今まで抱いていた疑問を強面の男に投げ掛ける。
「うん、、、、まぁー、、なんだ、あれだよ、、、、、」
強面の男が珍しく言葉を濁す。
「一先ず、俺はこう言う状況になれててな!武器もあることだ!見よう見まねだがなんとか使いこなして生き残るぞ!」
強面の男は、ケン達を見るとゴブリンの亡骸から短剣と、弓矢を奪い取る。
しかし、その時先程のゴブリンの叫びを聞きつけた他の仲間達がケン達の元へ降りてきていた。それに気付いた女子大生は、叫ぶ。
「きゃーーーー!!上からさっきの化物と同じのが降りてきてる!!」
「嘘だろ!?マジかよ!?どうするんだよ」
強面の男は、不適な笑みを浮かべる。
スーッと呼吸を整え目を閉じる。その姿は、まさに戦士が戦場へ向かう前のルーティンワークにも見えた。
「まぁ、見てろ!」
強面の男は、鋭い眼光をゴブリン達に光らせる。
鍛え抜かれた腕が矢を掴み、照準を合わせ相手が気付く前に射貫く。そして、また次。また次。と降りてくるゴブリン達に向けて強面の男は、一心不乱に弓を引く。
「あの人は、何者なんだよ本当に、、、」
男は、震えながら言う。
強面の男に射貫かれた、ゴブリン達は力無く落ちてくる。1匹、2匹、3匹、4匹、5匹、、、
この短時間で男は5匹のゴブリンを仕留めたのだ。仮に武器に心得があったとしても凄まじい適応能力である。
強面の男によって倒されたゴブリン達の装備を、先程と同じように剥ぎ取り一同に渡していく。
「無いよりは、あった方がいい、、ここから先は本当に分からない、、何回も口酸っぱく言うが無理だと思うならここでお別れだ!ついてこれる奴だけこい!」
「もう!分かったよ!何回も聞いてるから!あんたのさっきの動きと今の状況見たらあんたは只者じゃないのは理解したさ!そんな人なら自分の命預けてもいいかなって思う!よろしく頼む!」
男は、半分やけくそではあったが強面の男の前に手を差し出す。それは、お互いを認めた証、握手をしましょうのポーズであった。
「やめろよ、、、俺はただ死にたくないだけだ、、、まぁ、、よ、、よろしく、、、、」
強面の男は、照れ臭そうに差し出された手に自身の手を重ねる。
「お優しいんですね!やっぱりあなたは好い人!!」
女子大生がからかう。
「や、やめろよ姉ちゃん、、、」
ケンは、こうした状況を見ながら時間にしたらまだ数時間の関係ではあるが体感はそれ以上長く付き合っている気がした。それは、生き残るための逃げ惑う人々の集団ではなく、危機的状況を打破するため結成されたチームに思えた。チームならお互いをもっと知りたいと思ったケンは、互いの自己紹介を提案した。
「あのー!なんか変ですけど名前だけでも聞いてもいいですが?みなさんの!ここまで来たんですからなんかもう、、チームに思えまして、、」
「チームだと!?ふざけるなよ人助け兄ちゃん!俺は何回も言ってるけど生き残りたいだけ!」
「もう、素直じゃないんですから(笑)」
女子大生は、煽り性能が高いと見える。
「この、クソガキ、、、、」
「え?なんか言われました?」
「な、なんもねぇーよ」
強面の男はついつい小言で照れ隠しではあるが半分は本気の嫌味が出た。
「私からいいですか!?イチノセ・ユリって言います!大学通ってました、、、よろしくお願いします!」
「俺は、ハヤマ・シンジです。コイツと友人関係にありまして2人で海見に来てました。よろしくお願いしまーす!」
「シンジの友人のトキタ・ジュリと言います。よろしくお願いします!」
「自分は、イチノセさんと同じ大学生のカンヅキ・ケンって言います!趣味は釣りです!よろしくお願いします!」
「いや!趣味とか今の状況で要らないだろう(笑)でも、釣り趣味いいねぇ!」
シンジがケンの自己紹介に突っ込む。
強面の男以外が自己紹介を終え、残るはこの男のみ。
皆の命を守り抜いてきた口は悪いが案外心優しく頼りがいがある男。ユリが男に向かって早く教えてください!と言わんばかりの勢いで急かす。
「後は、あなただけですよ!!早く!」
男は、空を見ながら手を閉じる。職業柄なのだろうか、腕は後ろで組み適度に空いた両足。鍛え抜かれた胸板を前へと付きだし、呼吸を整え発した。
「ふぅー、、、モロボシ・クマノスケだ!嫌いな奴は、生きることを諦めた奴だ、以上だ!」
・・・・・
「嫌いな奴を自己紹介で言う奴いるのか、、、」
「おいやめろ聞こえるだろバカ!」
シンジとジュリがその覇気に圧倒されたが自己紹介にそぐわない内容に反応した。
「なんか、言ったかお前ら?」
クマノスケは、鋭い目付きでシンジ達を睨む!
「いやー!なんもないっす!!」
「クマノスケさん、、、うーん、えーと、、その、クマさんって読んでいいですか?その方が親しみやすいし!クマさんちょっと怖いので名前だけでも可愛くしといた方が、、」
「プッ!ク、クマさんって(笑)」
シンジのドツボにハマったようだ。
「なんだよ!!おい!・・・・」
クマノスケは、言葉の間の後、
「クマさんいいじゃねーかよ!」
あっさり、ぶっ飛んだユリのあだ名を肯定した。
「いやー!いいのかーい!」
ジュリはツッコむ。
「クマさん!良いじゃないですか!イチノセさん、あだ名の才能ありますね(笑)」
「ケンさん、ありがとう!」
ケンは、ユリに向かってサムズアップをした。
「ケンさんそれなんですか?」
「いやーあの、、、わ、忘れてください!」
ケンはあわてふためく。
「ケンちゃん、照れてるな!なぁーおーい!おーい!」
シンジがモジモジしているケンをからかう。
「やめてください!シンジさん!」
互いを知れたことで先程までの張り詰めた空気が嘘のようになる。授業で行われるグループワーク。まず、自己紹介から行うが実際、見ず知らずの相手に何故自分を教えなくてはいけないのか分からない。ましてや、コミュ力が、無いものからしたらそれは、ただの苦痛な時間でしかない。でも、今は分かる。お互いを知ることでその人の何となくの雰囲気や特徴が分かる。
ケンからの提案だったが、頭のなかでは、あの授業はしっかりと意味があったんだなと痛感した。
ケンは、本題に戻りクマノスケへ問いかける。
「話を戻してしまうんですが、クマさん!この壁を今から登るんですよね?」
「そうだ!ケン、怖いか?」
「怖いですよ!でも、皆さんを知れたので今は何が起きても乗り越えれそうな気がしてきました!色々ありましたけどここまで来れました!素直にクマさんに感謝してます!ありがとうございます!僕の気持ちはいつでも行けます!」
「そうか!それなら心強い!他の奴らも大丈夫か?」
そこには、ユリもシンジもジュリもケンと同じように「何時でも行けるよ!」と言う顔をしている。
クマノスケは、過去の光景と今が重なり少し懐かしさを感じていた。
「よし!じゃあ!登るぞお前ら!生き残るぞ!」
クマノスケ、ユリ、ケン、シンジ、ジュリら5人は蔦に覆われた城壁をゴブリン達から奪い取った装備を身に付け登り始める。考えれば、あのクジラの一件から今に至るまで現実では起こり得ない体験の連続だが数多くあった山場をこの仲間達と超えてきた。正確にはクマノスケに助けられたのだが、自己紹介も終えお互いを知れたことでより結束力も出来た。
さっきケンがクマノスケに言ったように、何が起きてもこのメンバーなら乗り越えられると皆が信じ、進んでいく。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字の嵐だと思います。すみません。
ここまで書かせていただき登場人物紹介が出来ていないので軽くここに書かせていただきます。
宜しくお願いします!
主人公
カンヅキ・ケン
キド・ハジメ
ケンと同じ大学に通い同じサークルの後輩
モロボシ・クマノスケ
ケンを何やかんやで導いてくれている強面の男。
イチノセ・ユリ
ケンと同い年の女子大生。
ハヤマ・シンジ
ケンと同じくクマノスケに従って逃げている男。友人のジュリと一緒に砂浜に遊びに来ていた。お調子者。
トキタ・ジュリ
シンジの友人。シンジとは旧知の仲。