第2話「終わりの始まり」
砂浜を、夕陽が眩しく照らしている。
ハジメの問いに、ケンは答えようとしていた。
ケンの空白の一年間。あの事件後の動き。
「そ、そうだな、、、俺は、あの時、、必死で逃げたんだ。俺たちを導いてくれていた中年の男性は、彼処に見えるあの壁、あれが急に出てきてそこにいたゴブリンに殺された。」
「あの城壁、やっぱり噂通り急に現れたんですね、、、、でも、なんで?」
「さぁ、、それは、分からない。でも、あのくじらが関わってるんじゃないかな」
夕陽が少しづつ、水平線に消えかかっている。
「その、くじらって何者なんすかね、、、、」
「そうだな、、俺も遠くからしか見てなかったしなんとも言えないけども、、」
~あの事件が起きる数時間前。シチリ市ナナホシ海岸~
カンヅキ・ケンは、ナナホシ海岸へ向かっている。
ナナオシ海岸とは、ニホンの中でも3本指には入る名所のひとつ。古くから海運業で栄え昔は酒造業や宿泊業で賑わっていた。今はその面影は無いが景観は昔から維持されているため、所謂映えスポットとして全国から人が集まっている。
「新しく買ったこの釣竿!その性能見せてもらいますか!新しい釣竿ちゃん使うならやっぱこの海岸なんだよな!とは言ってもナナオシ海岸、人多いけどそれは仕方ないか…」
ケンは、レイメイ大学に通っており、釣りサークルに所属している。元々、幼少期から親の影響で釣りをする機会が多かった為、気付くと自分も釣りにハマっていた。
「よーし!着きましたと!うーん、そうですよね、、、人多い今日も!!」
見渡す限り人人人。ニホン3本指は、伊達じゃない。
ケンは、釣り道具をまとめ砂浜の端にある堤防を目指す。
「なんか、やけにあそこ人いるな」
普段は、人は多いがそれぞれが映え写真を撮るためバラバラな場所にいる。だから、今日はおかしいのだ。
「なんか、砂浜に動物?うち上がってるらしいよ」
「えー?なにそれ?」
ケンの横で若い女2人組がヒソヒソと話す。
・・・砂浜に動物がうち上がってる?・・・
ケンも、興味が湧いてきた。
よくテレビで見るイルカだったり、深海魚、そしてくじら等等。
ケンは、釣り道具を持ったまま人が集まっている場所に向かう。
少し歩くと甲高い奇声?いや、子供の声?が聞こえる。
「な、なんだ?子供の声?か?」
そこには、少年と打ち上げられたくじらのようなものがいた。
「くじらさん今助けて上げるからね!」
少年は必死に叫んでいる。
「あら、可愛い!あの子、あの声で話してるのかなくじらみたいな生き物と」
「ちょっと、やめなよ!バカにしてるみたいに聞こえるよ」
「なんだなんだ、この人だかり!なんだ、くじら?か!こんなところに珍しい」
そこに集まった人々は普段あり得ない光景にスマホで写真を撮ったり物珍しく近くに行って見に行っている。
「なんだよあれ?くじらだよな?でも、何でこんなところに」
ケンの頭は、いまの状況を上手く理解出来ないでいるが凄い状況と言うことは分かっていた。ポケットからスマホを出し、後輩に今の状況を連絡しようとしたその時!
ヴォーーヴォーー!!
地面が揺れる。
「くじらが海へ帰っていくぞ!!」
「ああ!良かった、、、、え!?」
人々が異変に気付く。
「に、逃げろー!」
くじらは海へ帰ったのではなかった。
砂浜、いや、陸地が海へ変わり出していたのだ。
「う、嘘だろ、、、」
ケンは、ポケットから出したスマホを地面に落とす。
四方八方に人々は、逃げる。
勿論、ケンも自転車を置いた場所へ逃げる。
しかし、、、
「そ、そんな!!広場が海に飲まれてる!」
陸地は突如現れた波によって海に変わり、飲み込んでいく。
砂浜は、丘になっており、その上に高い建物が合った。
人々は、足を取られながらもそこを目指し走る。
ケンも。
「あの、高台を目指すしかない」
「みんな!!こっちだ!!」
人々を先導する男の声が響く!
「助けて!!動けない足が!!力が入らなくて!誰か!助けて!」
「あ!?」
高齢な男性が助けを求めているのにケンは気付く。
どうやら、足を痛めたようだ。
「おい!お前!助けようなんてバカな真似するなよお前も死ぬぞ!」
見知らぬ強面の男がケンに吐き捨てる。
「で、でも!」
「死にたきゃ、助けろよ!俺は他人だお前が死んでも悲しくはねぇよ!でも、あの爺さんを助けなければお前は助かる。この状況考えろよ!目の前にそんな無謀なことしようとしてる奴がどうしてもムカついてな」
「す、すみません!」
ケンは、高齢の男性の方を見るのをやめ、高台に、照準を合わせる。
人々の悲鳴はあちこちから聞こえる。恐らく、何人もの人が飲み込まれているのか。
助けたい気持ちは、人として誰もが持っている。しかし、強面の男が言ったように自身も死んでしまったら意味がない。
究極の選択であるが、道徳的感情は時に自分を潰す狂喜に変わる。
「みんな!!自分の事だけを考えろ!今はあそこ!あの高台を目指すんだ!!」
人々を導く男が大きな声で叫ぶ。