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第1話「始まり」

それは、いつの事であろうか。


時間が経ちすぎてもう覚えていない。


でも、なぜ今こうなってしまったかだけは皆、頭に焼き付いている。


さざ波が鳴く一面に広がる砂浜。

少年は流木を見ながら砂浜を歩いている。

所々盛り上がった場所があり砂浜であるが何処か鳥取砂丘な雰囲気もある。


「ん!?何あれ!?」


少年は砂浜の異変に気付いた。

それは、恐らくクジラであろうか、その巨体が砂浜に打ち上げられている。


「くじらさん?まだ生きてる!」


恐らく、打ち上げられて、まだそこまで時間は経っていないのであろうか、まだ少しだか体を動かし海へ帰ろうとしている。


「可哀想。何か僕にできないかな、、、」


まだ少年は、小学一年生ぐらいである。

まだ蓄積されていない情報をひたすら回転させパッと思い付いた。


そう、それがこの悲劇の始まりである。


「たしか、イルカさんって超音波で会話してるんだっけ」


そうなのか?


「だったら、僕のこの甲高い奇声で鳴き声っぽい音出してくじらさんを海へ海へ!返して上げよう!」


よく分からない子供の考えから少年は何処からか湧き出してくる自信を糧に耳をつんざくような奇声を砂浜で上げる。

すると、打ち上げられていたくじらが呼応するかのように動き始めた。


「やっぱりこれなんだ!くじらさん!待ってて海に返して上げるね!」


少年は引き続き奇声を上げ続ける。


くじらの動きが先程よりも増して激しくなっていく。


「ヴォーーヴォーー」


くじらの鳴き声か?


くじらの目がこの世の者ではないような目付きになりこちらを見つめる。

そう、その目はとても綺麗だが何処か不気味なような目。


「くじらさん!頑張って!!」


なにも分からない無邪気な少年はさらに力を入れて奇声を上げる。


「ヴォーーヴォーーヴォーー」


くじらの鳴き声も大きくなる。

その時であった。


くじらは、海へ帰っていった。

しかし、我々が想像するような生易しい帰り方じゃない。

水しぶきを上げ地面が海面に変わったように潜る。


地面が海面に?


地響きが鳴る。


「え!?、、、、これ何」


少年から先程の無邪気さはとうに消えていた。

そこに合ったのは恐怖。


砂浜と海面の境界線が鳴くなり海が少年の方に向かってきている。


「いやだーーーー!!」


少年は、足を取られながらも砂丘を必死に登り逃げる。

周りの大人たちも同じように逃げる。

しかし、さっき少年が歩いてきた場所はすでに海に飲まれている。


「逃げろー!!」

「死にたくない!!」

人々の悲鳴が砂浜に響く。


砂浜の付近には高台があった為、皆そこへ逃げる。


「あ、あそこだ!あそこに皆行くぞ!」


「あと少しだ頑張れ!」


海に飲まれた者をいるだろう。

しかし、生き残った者たちは一人の男に従い高台を目指す。あの少年も同じく。


また、地鳴りが響く。


「な、なんだ!?」


ゴォゴオゴォゴオドードー


蔦が絡み付いた城壁が高台を目指し逃げ回る人々を阻むように地面から隆起したのだ


「う、嘘だろ」


スパーン!!


「ゔぅ!」


「え?」


人々を先導していたあの男の額に矢が刺さった。


蔦が絡み付いた城壁には、ゴブリン達が無数おり、高台を目指していた者達を容赦なく射貫く。


悲鳴が響きそこは死体の城壁が新たに出来ていた。


これが、この世界をあの少年をきっかけに魔界に変えてしまった最初の日である。


あのくじらはなんだったのどあろうか。


人々の生活は、大きく変わる。

あの事件が起きてから、もう3年が過ぎた。

俺はあの時、学生だった。

ちょうどその日は授業が休講になりあの砂浜に遊びに行っていた。


今でも目に焼き付いている。


目の前で人がバタバタとドミノのように倒れていく惨状を。


ここは、かつて日の出る国と呼ばれた場所。

太古より、海運業で栄えた港は、今は跡形もない。

あのくじらの一件から砂浜は魔物がうろつく危険な場所に変貌した。


「おりゃ!あぁ!もう、次から次へとキリがない」


20歳ぐらいであろうか若い男が砂浜に沸いたスライム達に対し一心不乱に剣を振るう。


「ケンさん!もう一息っすよ!」


同じように剣を振るう同年代の男が励ます。


「ハジメ、もう疲れたよ、、、、、こんなことしてても金稼げないし、、、ああ!なんだよこの世界は」


ケンは、3年くらい前に思い描いていた生活とは真逆、いや想像を絶する今の状況に絶望しながら剣を振るう。


「ケンさん。それは、皆一緒っすよ、、、誰があんな映画?アニメみたいな?事がリアルに起こるって思いますか?」


ハジメも嘆く。


「お!!ハジメ危ない!」


ハジメの背後に回っていたゴブリンが斧を振りかざしている最中。


「え!?」


ケンは自分の剣をゴブリン目掛けて投げた!


「ヴぉぉ!ギャン!」


ゴブリンに見事にヒットしゴブリンは怯んだ。


「くそ!!この野郎!」


ハジメはこれでもかと言うような力でゴブリンを叩き切る。


「助かりました!ありがとうございます!ケンさん!」


「いやいや!気にするな俺が嘆いていたからその隙を狙われた、、、すまん」


ケンは、自分の愚痴のせいで隙が生まれてしまいそこを狙われたと落ち込んでいる様子。


「皆おんなじっすよ!ほら!ケンさん見てください!もうアイツら居なくなりましたよ!俺らの勝ちです!」


見渡すと魔物達は居なくなり、あの頃の砂浜の面影が少し甦る。


「そうだな!終わったのか。ありがとうハジメ。そうだ、ここらで丁度、落ち着いたところだし久し振りに釣り!やるか?」


「おお!!良いっすね!やりましょう!」


元々、彼らは同じ学校に通っており、釣りサークルなるものに所属していた。だから、昔はよく釣りに行っていた。

どんな時もケンとハジメは釣りを通してお互いの友情を確かめていた。

砂浜には、赤く夕陽が眩しくこちらを照らしている。


「久し振りっすよね!釣りは!」


ハジメは二人で乗り合わせて来た軽バンのトランクルームをいじりながら自分が持っている剣よりも大事そうに釣り道具を出す。


「なんか、久し振りだなぁ。でも、今日は釣りしたい気分、、、まぁ、夕方じゃ大したことないかもしれないけどな(笑)」


ケンの顔が少し優しくなった気がした。

流木が上手いこと足場になった場所に2人は座り釣りをはじめる。

釣りエサは無い。さっき倒したスライムをエサとして使う。


「うぇーー、これはやっぱいつでもきついっす」


ハジメの眉間にシワがよる。


「慣れだぞ!ハジメ!もう何年この生活してんだよ(笑)いい加減慣れろよ!」


「ケンさんは、良いですよ!昔から何でも鈍感で特に感情がないロボット人間なんですから!あ、でもさっきはちょっと人間みたいだったか、、、、」


2人の関係性が見える会話。世界は変わってしまったけど、彼らにとって釣りは唯一のあの頃に戻れるツールだった。


コツン!


「痛い!!痛いっすよ!」


ケンの拳がハジメの頭に落下した。


「ハジメは昔から、ロボットとか言う!辞めろよそれ!他の奴が聞いたら俺ヤバイ奴じゃん!誤解招くようなこと言うなよ!それとな、人間でしたってなんだよ!俺魔物か!」


ケンは怒ってはいない。

この懐かしいやり取りを楽しんでいる。昔はこうやってからかい合ったりして笑ったり笑ったり、時には怒ったりして過ごしていたから。

今日は、その頃を思い出すような時間。

ケンは、楽しんでいる。


「もう!辞めてくださいケンさん!今のパンチ、マジゴブリン級の一撃でしたよ!マジで!」


ゴツン!

先程より、さらに鈍い音が響く。


「いったーーーーーー!頭へ込んでるよ絶対!いやぁ!こんな近くに魔物いた!!助けてーーーー!」


ハジメの叫び声は冗談か、本心か、、、


「や、やめろ。」


懐かしい時間は過ぎるのが早い。彼是、釣りをはじめてもう一時間以上経つ。


「そういえば、ケンさんは、あの時この砂浜に居たんですよね?」


ハジメの顔が先程とは違う顔つきになった。


「ああ、そうだよ。居たよこの場所に」


ケンの顔も先程とは違う顔つきになる。


「俺は、あの時家にいて、寝てたんですよね。そしたらあの地響きが、、、あれから世の中大騒ぎっすよ、、テレビも2、3日は写ってましたけど、」


ケンとハジメは、あの時別々の場所にいた。

ケンは砂浜に。ハジメは家に。

彼らが再開したのはあの事件から一年後の事。

ケンはその一年間についてハジメに語ったことは無かった。

無論、ハジメ自身も聞こうとしなかった。

でも、今日は普段聞かないような愚痴をケンは漏らした。

長く付き合っている、ハジメだからこそその異変に気付いていた。

今がその時なのかも、と言った感情に身を任せケンに禁断の質問をした。


ケンの口が開いた。


「そうだよな、、、俺もそろそろ話そうと思ってたんだよな。このまま、そこを話さずハジメと付き合い続けるのはなんかこう、胸に何かつっかえるような気がして、、、」


ケン自身も今までの状況をけして良いものとは思っていなかった。


「なんか、今日良い日だな!そ、そうだな、、、俺、あの時・・・・・」





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