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第1話

宇宙人の侵略により、世界が火の海に包まれた

人類が観測してきたこれまでの歴史上、最も多くの死者を出した出来事だ

数多の星から攻めてきた宇宙人達は人々を恐怖へと陥れ、地球を支配した

人類の運命が彼らに従う定めへと決められたそのとき

空から1人のヒーローが現れた

そのヒーローの凄まじい力によって、人類は宇宙人達から解放され、平和が訪れることとなる

そんな激闘から1年後

~~~~~

「はああああ!!」

巨漢の男が自分よりも大きな柱を持って、力いっぱいに放り投げる

その柱が宙に浮く円盤と激突する

ズドォォォン!!

円盤は爆発し、火に包まれながら落ちていく

「ふぅ~」

巨漢の男がスマホを取り出し、電話をかける

「もしもし?レーザー攻撃をしていた円盤は今、片付けた」

「ご苦労さまです こちらでも撃墜を確認しました」

落ち着いた男性の声

黒服にメガネをかけた七三分けの40代

今、僕の目の前にいる男だ

「ええ、それでは」

通話が終わり、こちらに向き直す

「話の途中にすみません」

「いえ…僕の方こそ突然押しかけてしまって…」

宇宙人との戦いから1年が経っても尚、まだ地球への攻撃は続いている

「ようやく出来た防衛軍もまだまだ万全の状態とは言えない状態です」

「我々としては、あなたにはまだ続けていただきたいところではあるのですが……」

「どうしてもヒーローをお辞めになられる……と?」

「……はい」

「そうですか…」

「救えない命があったことは、あなただけの責任ではなく私達の責任でもあります」

「今回の件は確かに残念でしたが、あなたに救われた命だってあるのです」

「どうか、あまり自分を責めないであげてください」

「……お気遣いありがとうございます」

「……ちなみに今後はどうされるのですか?故郷の星へ?」

「いえ、この地球で生活をしようと思います」

「憧れだったんです、地球人の生活が」

「そうですか、でしたら今後も私達にサポートさせてください」

「あなたへのほんの些細な感謝の気持ちです」

「……ありがとうございます」

~~~~~

「…………」

ボーッと一人歩く帰り道

無心になりながら景色を眺めていると前から綺麗な女性が歩いてきた

無意識のうちにその女性に目がいってしまう

「こんにちわ」

女性の方から挨拶してきた

「あ、こんにちは……」

女性は優しく微笑むと、こちらに近づき、綺麗で整った顔を僕の首元へ寄せてきた

「え?え!」

事態が把握出来ず動揺するもそれに構うことなく首元の匂いを嗅ぐ女性

「ねぇ?」

女性が口を開いた

「あなた……宇宙人でしょ?」

正体がバレた

知らない女性に

ほんの一瞬で

「安心して、私も宇宙人だから」

それが、この不思議な女性……ノワとの出会い

「これから時間あったりする?」

ノワからの誘いで家へと案内される

「これは……」

家の中にはいくつもの絵が飾ってある

「私が描いたの」

「ノワさんが?」

「そ、どう?」

その絵は何が描かれてるのかは分からない

けれど、不思議と感情が伝わってくる

まるでその絵に印象を操作されてるかのように

「僕は……好きです」

「ありがと、やっぱりそれが一番言われて嬉しいね」

「…………」

「君も描いてみる?」

「え?」

「いや……僕は絵上手くないから……」

「私は見てみたいな」

「ミライくんの描く世界」

「…………」

「じゃあ……」

ミライはノワと2人で絵を描くことにした

「決まったものを描く必要はないの」

「常識だって破ったっていい」

「このキャンバスの中だけは自由な世界が作れる」

「…………」

「詰まったときはね、考えるよりも筆を動かすの」

ノワが華奢な手を優雅に動かす

「ね、いいでしょ?」

「うん……いいかも」

その日はあっという間に時間が過ぎていった

ミライは一度帰宅し後日、ノワの所へまた訪れる

「この絵は……?」

ノワの家に飾られてる絵の中に一枚だけ目立つ絵が飾ってあった

周りに飾ってある絵はどれも抽象的な作風なのだが、その1枚だけが写実的な絵だった

「それはね、私の宝物」

「宝物?」

「私の住んでいた星でもね、趣味で絵を描く人はいたんだけど、あまり一般的じゃなくてね」

「私の周りで絵を描いていたのは1人しかいなかった」

「けどその人の描く絵はどれも上手くてね、まるで写真みたいな絵を描くの」

「私の描く絵とは全く違うタイプの絵」

「だからすごく新鮮で、一緒に絵を描いててすごく楽しかった」

「…………」

「この絵は私にプレゼントしてくれてね」

「2人で一緒によく見た夜空を描いたものなの」

「……すごく綺麗ですね」

「でしょ、この絵を見ると昔のことを思い出すんだ」

そう口にするノワの表情はどこか悲しげに感じた

「ノワさんはどうして地球に来たんですか」

「…………」

「私の星は住むことが出来なくなっちゃってね」

「それで宇宙船に乗って星を出て、宇宙を漂流してたの」

「宇宙を……」

「目の前に流れ星なんかが降ったりして、すっごいドキドキする時間を過ごしながら、やっとこの星に着陸した」

「そうだったんですね……」

少しの沈黙の後、ノワが口を開く

「昨日の続きしよっか」

「……そうですね」

2人でまた絵を描き進める

「ミライくんはどんな絵を描いてるの?」

「僕は……」

正直、完成系は見えていない

「ただ闇雲に筆を走らせていただけで……」

今の自分と同じだ

向かう先が見えていない

「それもいいんじゃない?」

「え?」

「ミライくんの絵、私の目には輝いて見えるよ」

「……本当ですか」

「うん、今のミライくんは迷ってるんだろうけど」

「それでも、今のままでも、きっと正しい道を行けると思う」

「…………」

「ノワさんはどんな絵を描かれてるんですか?」

「私は……」

ノワは言葉を詰まらせる

ミライはノワの絵を見るが、何が描かれてるのか分からなかった

「偉そうなこと言っといて、私も正直分からなくてね」

「…………」

「ねぇ、ミライくんは……」

「なんですか?」

「ううん、やっぱりなんでもない」

その日も絵を描き続けて、1日が終わった

次の日、朝一にノワの所へ向かった

その途中で何台ものパトカーと人が密集しているのを見かける

何故そんなことになっているのかは……すぐに分かった

というより、あからさまに異様な物がそこにあった

空に浮かぶ、20mはあるであろう巨大な卵

「…………」

ミライはその卵を少しの間眺め、ノワの家へ向かった

「どうしたの?今日はあんまり喋らないね」

「え?あ、いや……ちょっと考え事をしてて」

「ふーん」

「…………」

外ではパトカーがサイレンを鳴らして頻繁に走り去っている

「外はいつもより賑やかみたいね」

「……ですね」

「何があったのかしら」

「巨大な卵が街中に現れたんです」

「卵……そう」

「……ミライくんはその卵、何の卵だと思う?」

「恐らく……宇宙人のものじゃないかなって」

「そうね、きっとそう」

「…………」

「ノワさんは……あの卵のこと何か知ってるんですか……?」

「どうしてそんなことを聞くの?」

「あの卵……夜空が描かれてました」

「ノワさんの宝物とよく似た絵です」

「…………」

「あの卵はね、私の星から送られてきた卵なの」

「近々、あの卵から無数の宇宙人が孵化することになる」

「解き放たれた宇宙人はいずれ、地球人と同じ姿になって、人々に紛れ込む」

「そうやって、この星で生きていく」

「…………」

「どうして……そんなこと」

「私の星は今、他の宇宙人に侵略されているの」

「このままだと、私の種族は滅びることになる」

「だから、卵を安全な地球で孵化させることにした」

「……卵から孵化した宇宙人は…人を襲ったりしないんですよね…?」

「地球人と同じ姿になる為には何人か犠牲が必要になる」

「私もこの星に来た時はそうした」

「あなただってそうでしょ?」

「……僕は」

違う……僕は元より地球人と似た姿だった

けど、言えなかった

少しの間、沈黙が続いた後、ミライのスマホが鳴り出す

防衛軍からの電話

きっとあの卵の件だ

「出ないで」

ノワは静かな声でそう求める

「お願い」

「…………」

愉快な着信音だけがこの空間に鳴り響く

ミライはゆっくり指を動かす

そして、世界はまた静かになった

「ありがとう」

ノワの声だけが聞こえてくる

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