『収穫祭』模擬戦会議
結局。
蟲魔を『ラタトスク』に任せて、一連の出来事は口外禁止となった。
もちろん、梅咲初名のことも含めて、だ。
今にして思えば、かなり無茶な判断だったかもしれない。
初名と蟲魔を引き離すため自分が囮になり、結果的には初名の力を借りてなんとかなったが、その原因で『ラタトスク』に露見された。
(僕のせいだ)
梅乃花春告が場を納めたとはいえ、初名が蟲魔だと知られたからには『ラタトスク』の警戒も強まるだろう。
(僕にもっと力があれば初名を頼る事もなかった。まだ『普通の女の子』として過ごしていたかもしれないのに)
自分の犯した選択肢は果たして、初名にとって幸せに繋がっていたのだろうか。
彼女は言っていた。『これが、わえの使命』と。蟲魔の天敵である存在。それが梅咲初名だ。
「おい。聞いてるのか?」
と、そこまで考えていたら注意を受けられた。
場所は全生徒が集まる講堂。ここでは一年生と二人の上級生がある会議をしていた。
「俺の話を聞かないとは。いい度胸だな。妖精さんに会えてそんなに嬉しかったか?」
「い、いや。妖精さんはともかく、ちゃんと聞いてますよ……」
一年生の前には二人の上級生、生徒会長の並羅歩と副会長の蜂木文人が座っていた。
香輔は目の前の歩に萎縮しながら謝った。正直なところ聞いてはいないが、ここに集められたのは『新入生歓迎会』のイベントのことだった。
「お前も注意してくれ。一応副会長の立場として参加しているんだぞ」
横に座る文人は携帯をいじっているだけで、魔の抜けた声で返事をした。
「あー? まぁいいんじゃねぇの? 一年もあんまり気を張らずに適当にやっとけよ。コイツが真面目すぎるから」
「そんなだから士気が上がらないんだ。見ろ、お前が適当だから一年生達がポカンとしているぞ」
「いや、歩の作戦会議がガチすぎんだよ。お前んとこのチーム全然ついていけてねーぞ。なんだよ、前衛と後方支援って。軍隊じゃねーんだし」
『新入生歓迎会』では、『収穫祭』という競技を元にしたイベントを行う。
『収穫祭』とは、全国の魔豊高等学校が集まり、世界樹に奉納し、五穀豊穣を祈る大きな行事だ。収穫することで、次なる豊かさを願う。という意味があり、その考え方を取り入れた競技となっている。
「いいか? もう一度説明するぞ」
歩は特に香輔を睨みながら。
「歓迎会では基本的に『収穫祭』と同じルールを使った模擬戦を行う。俺と文人に分かれて上級生と一緒にポイントを競い合ってもらう。本番の時は農作物を収穫するが、今回は学校内で設置されたポイント付きのアイテムを『収穫』するんだ」
歩は手元にある番号付きのボールを見せる。
「このアイテムを各場所に設置する。見つけて自分のチームの拠点に戻って奉納すれば初めてポイントが入ることになる。まぁ、豊穣術がありの奪い合いだが、あまり羽目を外しすぎて怪我のないように……、特に梅咲」
「わえ!? なんして!?」
「お前が魔豊植物の扱いのヘタなのは、俺たち生徒会から注意深く報告されている。禁止とまでは言わないが、周りに迷惑をかけないように」
「……えー」
テンションをガタ落ちさせた初名が唇を尖らせる。 目立つなと言い聞かせてはいるが、彼女の存在感はあまりに強すぎる。だが、今の彼女を見ていると、逆に大人しくしている方が目立つ可能性がある。案外この『危なっかしいお調子者』という立ち位置こそが、周囲に溶け込むための最良の迷彩なのかもしれない。
「星雪。もしかして、それが妖精さんか?」
突然、三上が香輔の胸ポケットを指を刺して
彼の胸ポケットからひょっこりと顔を覗かせていたのは『樹界公園』で会った妖精花・シロカブリだった。
「うわ。マジでシロカブリだ。お前良く見つけたな」
感嘆した様子で、マジマジと凝視する三上。そう。あの事件の後、なぜかシロカブリが香輔に懐いてついてきてしまったのだ。
なお、『樹界公園』で起こした出来事は、『初名を探していたら、香輔が妖精さんを見つけだと言い出して捕まえようとして、結果二人とも迷子になった』と説明で通している。
そのおかげか、最近は香輔に向けられる視線が、以前よりも少し優しくなった気がする。
「……」
とりあえず、自分のことは横に置いとく。
顔を半分だけ覗かせたシロカブリが、こうして人前に現れるのは極めてレアケースなのだが、香輔についてきたのは謎であった。
(たぶん、僕の体質なんだろうけど、初名の影響でもある。『天雷梅』を使用したせいで僕の自然エネルギーと瘴気が混ざり合ったんだ)
シロカブリの安地。言わば、優良物件の住み心地を見つけた。といことだろう。
「なぁ、俺にも触らせてくれよ」
そう言って、三上はシロカブリに触れようとしたが、すぐにポケットの中へ引っ込んでしまった。
やはり、姿は表しても他の人には懐かないらしい。
「一週間後には『新入生歓迎会』を行うが、それまでに俺と文人のチームに分かれての作戦会議を設ける。放課後や時間が空いた時など、好きに集まって話し合ってもいい。……文人、それでいいか?」
「ん? あー、おっけー」
またも、間の伸びた返事をした文人に歩は頭を抱える。
香輔は文人のチームになっているが、大丈夫なのだろうかと思う。
「まぁ。のんびり行こうぜ」
文人のだらけた一言にチーム一同が、同じ感想を抱いた。




