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あなたが愛しすぎて  作者: m.
4/34

トラブル

ー12月23日ー








給湯室の前で私はまたあの例の笑い声にため息をつく。








「マジでイライラするー」








「こんな時期に別れようってありえる!?」








「はぁー…あいつはどうせ社長にどっか連れてってもらうんでしょ……」







「あいつって…青木さん?」







「なんか今日オシャレして来てたし」








そんなことないです…

家に帰るだけです…








「てかさ、あいつこの会社に社長と関係持って入ったらしいよ」







「え、まじ!?それはさすがにないわ〜」








「ー…ーーーーー」








何それ………私は社長の愛人でもないし、この会社に入る為にどれだけ必死に努力したか…









社長は見た目は確かにチャラそうに見えるけど、会社愛に溢れていて私のことも気遣ってくれるとても優しい方だ。







黒崎社長のこと何も知らないくせに…









今まで何を言われても我慢できたけど、さすがにこの発言は傷ついた。








仕事終わり、私は家に帰る予定を変更して居酒屋へと入る。







今日は特に人で溢れている。







私はいつものようにカウンターに座りビールを流し込む。








いつもなら美味しいお酒もこんな気分で飲むと全然美味しく感じない。








ダラダラと時間だけが過ぎていく。








はぁ……そろそろ帰るか……








居酒屋を出た私はゆっくりと歩き出す。








ただいま……








心の中でそう言いながら部屋を見て異変に気付く。








「え…なに…これ……」








部屋の中が水浸しだった。








「あ、もしもし…家の中が水浸しで…はい、わかりました…はい、失礼します………」








どうやら上の階の住人の水トラブルで、私の部屋まで浸水したらしい。








業者は月曜日にしか来れないらしいしこんな状態じゃとても寝られない…









どうしよう。








私は水浸しの部屋の中から必要な衣類をキャリーバッグに詰め込む。








家を出た私はホテルに電話をかける。







「すみません…本日は満室でして………」







この辺りのホテルはどこも満室だった。

そりゃこの時間だもんね…







気付ばもう一時間が経過していた。








私の足はいつの間にか居酒屋の前で立ち止まる。









さっき来たばっかりだしなぁ…

また入るの気まずい…







と、その時だった。








「青木……?」









私はその声の方向に振り返る。









「あ…佐々木さん…お疲れさまです」








「お疲れ……入らないのか?」








「あ、いや…………」








「旅行でも行くのか?」








私のキャリーバッグを見てそう言う。








「いえ……ちょっと色々ありまして……」








「色々…?」







「……佐々木さんは飲みに来たんですよね…?では…失礼…します」







「………何かあったのか?」







「………いえ…大丈夫です…では………」








「………何か困ってるんじゃないのか?」








「………………………」









私は事の経緯を説明した。









「そりゃ大変だな……」








「佐々木さんキャンプ道具とか…持ってないですよね…?」








「いや………というかこの辺にキャンプ場なんて無いだろ」








「どこかテント張れそうな場所があれば一日くらい過ごせるかなって…明日朝一でホテル探せば…」








「……本気で言ってるのか?」








「まぁ何とかなるかなと……」








「普通に考えて危険だろ…?」








「………そう…ですよね…」








私は凍えた手に息を吹きかけ温める。









「とりあえず……会社に俺の車停めてあるからそこで考えよう」








「いや!大丈夫です…お気になさらないで下さい」









「こんな話聞いて、放っておく訳にはいかないだろ…」








「すみません…話聞いてもらっちゃって…何とかなると思うので…ほんとに大丈夫です…」







「……このままだと風邪引くぞ」







「………………………」







佐々木さんも寒そうにしている。








「……すみません……じゃあ………」








駐車場に着き、車に乗り込むと佐々木さんがエンジンをかける。







車の暖房で冷えきった体が暖まる。








「とりあえず…どこか泊まれる所無いか探してみるか」







「え…?」








「車だとある程度動けるだろ」








「でも…申し訳ないです……」








「とりあえず…この辺回ってみるか……」








佐々木さんがナビを設定する。








「本当に…良いんですか…?」








「野宿させる訳にはいかないからな」







「すみません…ありがとうございます…」








ーPM11:00ー








「………またダメか」







「はい……」







「もう…こんな時間か…」







「あの……もう大丈夫ですよ…!一日くらい…どうにかなると思うので…」








「どうにかって……」








「これ以上佐々木さんに迷惑かけられないので…」







「…………………………」








「…………………………」









すると佐々木さんが深いため息をつく。








「…………俺の家に来るか…?」








「………え?」








「このまま一人には出来ないし…」








「それは…どういう……」








「このまま帰す訳にはいかないだろ…」








「で、でも……」







私は佐々木さんの家に行くことをためらったものの、このまま野宿したら凍え死ぬんじゃないかと思うくらいの寒さに耐えられる気がしなかった。








「佐々木さんは…良いんですか…?」







「仕方無いだろ」







「…………すみません……よろしく…お願いします……」








「……じゃあ、向かうぞ」







そう言うと佐々木さんは車を走らせる。








「………………………」







「……どうした?」








「え…?」








「いや、大人しいからさ」








「………いえ、何でもない…です……」








「……そうか」








車を走らせて数十分。

佐々木さんが住んでいるマンションに到着した。








見上げる程高いマンションだ。


 





エレベーターで部屋へと向かう。







ガチャ






パタン







「お邪魔……します…」







「奥の部屋に適当に荷物置いて良いから」









「あ…の……佐々木…さん………」







「ん?」







「お金…って………」






「お金…?」







「……いくら……支払えば……」







「お金…?いや、必要ない」







「……………………」






「お金なんて払わせる訳無いだろ…そんな事心配してたのか?」






そう言って笑う。






「…………………………」








「……青木?」







「…………あの…やっぱり私…帰ります」






「は…?」







「……すみません……」







「…………どうした急に……」









「佐々木さんが……私を泊めてくれる理由って………」






「泊まる場所が無いから…だろ?それ以外に何の理由が……」







「……………………」







「青木…?」






「あの…佐々木さんは…信頼できる方だって…頭ではわかってるんです…けど……」








「………………………」








佐々木さんはしばらく黙ると、その場にしゃがみ込んでため息をつく。









「佐々木…さん…?」







「そういう事…そうか……ごめん、俺が悪かったな……」







「え…?」






「俺が男だからって事だよな…」







「……………………」







「………青木に対して後輩以外の気持ちは100%無いから安心しろ」






「……………………」







「でも青木の気持ち考えずに家に呼んだのは配慮が足りなさ過ぎたな…悪い」







「………………………」







「………信用…出来ないか…?」







「…………………………」








「……出来ないよな…ごめん。どうしたら良いか……あ……寝室鍵も掛けられるから不安なら鍵かけて貰っても構わないし……それか俺が車で寝ても良いけど……」






「……………………」







「……悪い。そういう問題じゃないよな…今から泊まれそうな場所……」






佐々木さんがウロウロと歩き回ってる姿を見て、安心した私は自然と笑みがこぼれる。







「どうした…?」







「すみません…変なこと言って……自意識過剰ですよね私……」







そう言って笑う。








「いや…普通警戒するよな、ごめん。後輩が困ってるからって理由だけで深く考えなかった俺が悪かった」








「…………佐々木さんって…本当に優しい方ですね」








「……?」








「何でも…ないです…!お邪魔します…!」







「本当に平気か…?」







「はい…!」








佐々木さんの部屋は物が少なく、綺麗に整理整頓されていた。









「青木はご飯食べたのか?」








「軽くは…」








「なら、俺飯作るから食べるか?」








「え、良いんですか?頂きます…!私もお手伝いします!」








佐々木さんの冷蔵庫は、自炊してるんだとすぐにわかるくらい食材が充実している。








料理の手際もとても良い。








二人でパパっと料理を作り上げていく。






「いただきます…!」







「頂きます」







「おいしいっ…!佐々木さんほんと料理上手ですね」








「……青木が作ったこれも美味いよ」








自分で作った料理を褒めてもらえるって嬉しい。








「……なんか、こうやって誰かと食事するってやっぱり良いですね」








「ほぼ毎日一緒にお昼食べてるだろ」








「一緒に作って食べるこういうのが良いんですよ…!」








「まぁ……確かに……たまには良いかもな」









「今日は本当にありがとうございます…助かりました…」








「今日は疲れただろ。ゆっくり休め」








料理を食べ終え私はお皿を片付ける。








「佐々木さん、キッチンお借りして良いですか?」







「俺やるからそのままで良いよ」







「泊まらせて頂くのでこれくらいはさせて下さい…!」








「じゃあ…頼む」








私は食器を洗い終わり、佐々木さんの元へ戻る。








「……仕事…ですか?」







「あぁ…期限が迫ってて…食器ありがとな。風呂先入って良いよ」







「え…でも………」








「体冷えただろ、俺は後で入るから」








私はお言葉に甘えてお風呂に入る。







旅行用のシャンプーとか持ってきてよかった…







ガチャ






パタン







「あの……お風呂ありがとうございました」







佐々木さんは相変わらずパソコンに集中している。








「うん…あ、寝る場所………」








そう言って立ち上がると奥の部屋へと歩いて行く。









「客室とかないから……ここで大丈夫か?」








「え…ここ寝室…?」








「一応シーツとかは替えてあるから安心しろ」








「いや、そうじゃなくて…佐々木さんはどこに寝るんですか…?」







「向こうのソファ」








「えっそんな、申し訳ないです…!私がソファで寝ます…」







「俺まだ向こうで作業したいからここ使って。じゃ」








そう言うとさっさと部屋を出て行く。







「え…あ、ありがとうございます…」







パタン







私は部屋の中を見渡す。








ベッドとクローゼット…

本当に必要最低限の物しかない。







私はベッドの上に腰掛ける。







なんだか落ち着かない。







家から持ってきたボストンバッグを開け、着替え用の洋服を取り出す。







11時か…まだ全然眠くない。







私はとりあえずベッドに横になってボーッとする。








慣れない場所だからか、余計なことばかり考えてなかなか寝付けない。







しばらく天井を見上げていた私はふとスマホを見る。







12時……喉…乾いたな……







ベッドから立ち上がり、ゆっくりとドアを開けリビングへ向かう。







リビングのドアを開けると佐々木さんの後ろ姿が見える。







まだ起きてたんだ……







仕事が終わったのかゲームをしている。








「あの………」








私は小声で佐々木さんに声をかける。







「うぉ!びっくりした………どうした?」







「あ…すみません……飲み物頂いても良いですか…?」








「あぁうん…適当に冷蔵庫から取って良いよ」







「ありがとうございます…」







私は冷蔵庫から飲み物を取りその場で飲む。







ちらっと佐々木さんの方を見る。








「楽しい…ですか?」







「うん、やってみるか?」







「え、良いんですか…?」







私が近くに行くと佐々木さんが画面を見ながらコントローラーを渡す。







私はそれを受け取り佐々木さんの隣に座る。








「前に言ってた戦闘系のやつですか?」







「うん、キャラどれが良い?」







私は女性キャラを選びボタンを押す。







ー数十分後ー







「よしっ!佐々木さんあいつ倒しましたよ!!」







「うん…後はあいつと…奥にいるあいつか……」








二人夢中でコントローラーを動かす。








「これめっちゃおもしろいですね!ストレス発散できるし最高!」







「だろ?やっぱ二人だと効率いいな……」








佐々木さんが独り言のようにボソッと呟く。








「………あ、やべ」







「どうしたんですか?」








「時間……そろそろ終わるか」







時計を見ると夜中の2時を過ぎていた。







「え、もうこんな時間!?」








「夢中になり過ぎたな」







「ゲームってこんな楽しいんですね…!」








「………少しは気分転換になったか?」







「…え?」








「会った時から元気無い気がしたから」







「………………」







「会社で何かあったのか?」







「あ……いえ、別に……元気ないように見えました?」








私は誤魔化すように笑う。








「………青木が平気ならこれ以上は詮索はしないけど」








「全然平気です…!なんか気を遣わせてしまってすみません」







「……じゃあ、そろそろ寝るか」







そう言って立ち上がる。








「あ、佐々木さんベッド使ってください!私ここ使わせて頂いても大丈夫ですか?」








「いやだから俺ここで平気だって…」








「それはさすがに申し訳なくて私寝られないですよ…」








「………俺ソファで寝るの結構好きなんだよ。だから気にすんな、ベッド使え」








「………それじゃあ…ありがとうございます…」








絶対嘘だと思ったけど、これ以上言っても佐々木さんは折れない気がしたからお言葉に甘えることにした。







ー次の日ー








目覚ましより先に目が覚めた私はすぐに片っ端からホテルへ電話をかける。









「申し訳ございません…」







中々空いているホテルがない。








どうしよう………








私は仕方なく一旦顔を洗う為に部屋を出る。








佐々木さんに断りを入れようとリビングを覗くと良い匂いが漂っている。








「あ、おはようございます…!洗面所お借りしますね…」








佐々木さんと挨拶を交わし洗面所へと向かう。








このまま見つからなかったらどうしよう……








そんなことを考えながら顔を洗う。








「洗面所ありがとうございました…」








「…朝食食べるか?こんなんで良ければだけど」








そこにはThe朝ご飯な胃に優しそうなメニューが並んでいる。







「朝食まで良いんですか…?ありがとうございます…いつもこんな朝ごはん食べてるんですか…?」







「まぁ大体こんな感じだな」







「…佐々木さんってすごいちゃんとした方なんですね」







「それは褒めてるのか……?」







「もちろんですよ…!部屋も綺麗ですし…見習いたいです」







佐々木さんはそうかな…と首を傾げている。







「そういや泊まる場所は見つかったか?」






「………あ、はい!見つかりました!ご飯頂いたら出ていきますね!」







私は急いでご飯をかけこむ。








「……そうか、良かったな」








そう言いながら私の急いでる様子を見ている。







先に食事を終えた私は足早にキッチンへ行き食器洗い始める。







数分後、佐々木さんが食べ終えた食器を流し台に置く。







「あ、これも洗い終えたら私行きますね…!」







「…………嘘だろ」






「……はい?」






「泊まる場所見つかったって、嘘だろ」







佐々木さんが私の表情を伺っている視線を感じる。








「なんで…嘘つく必要が……見つかりましたよ…」








「何て言うホテルに泊まるんだ?」








「えっ?あ、えーっと……なんだったかな……」








「場所は?」








「場所……えっと……」








「自分が泊まる場所も分からないのか?」









「えっと…それは…初めての場所なので…あとで確認してみます」








そう言って苦笑いする。








「月曜には業者来るんだろ?それまでは居ても良いけど」






「え…?」







「まぁ…青木が嫌じゃなければ」






「ほんと…ですか!?」







「……やっぱり嘘ついてたか」







「あ………」







私の表情で嘘をついてたことがバレてしまった。








「ただし、条件がある」







「条件…?」








「飯、作って欲しい」








「え…そんなことで良いんですか…?」







「うん」








「ぜひ…作らせて下さい…!」








「じゃ、決まりな」








「………私佐々木さんと同じ会社で働いてるってだけなのにどうしてそんなに優しくしてくれるんですか…?」








「その様子だとこの辺に家族とか知り合い居ないんだろ?そんな状況でほっとけないだろ」








「佐々木さん…………」








「……何」








「もしかして私のこと好きなんですか…?じゃないと絶対おかしいですよ…!」








すると佐々木さんが呆れた顔をする。








「昨日も言ったけどそれは100%無いから」







「ですよね」








そう言って笑う。








「それより、洗い物終わったら買い物行くぞ」








準備を終えた私達は早速買い物に出掛ける。









「佐々木さん何が食べたいですか?」








「うーん……青木の得意料理は?」








「洋食は割とよく作りますよ!」








「お、じゃあ洋食で。俺自炊ほとんど和食だから洋食食いたい」







「了解です!じゃあ何にしようかな……」








私は少し考えて決まった料理の食材をカートに入れていく。








ガチャ








「ただいま…………じゃなかった………」







自分の家でもないのに無意識に出てしまった言葉に顔が熱くなる。







佐々木さんが後ろで笑っている。








「今のは違うんです!いつもの癖で…!」








私は必死に取り繕う。








買ってきた材料を冷蔵庫に入れ一息つく。







「あ、風呂先入って良いから」






「いやいや、今日は大丈夫です…!佐々木さんお先にどうぞ……」







「俺は後で入るから」






「で、でも………」






「良いから。気にするな」






「ありがとう…ございます……」






そして私はお風呂に入り、スマホを確認する。









親友の優花からメッセージが来ていた。








"クリスマスイブー!楽しんでねー♡"








クリスマスイブ……

そっか色々あって忘れてたけど今日はクリスマスイブかぁ…









とここで私は重大なことに気付いた。









「さ、佐々木さん!!!」








ソファに座ってテレビをみていた佐々木さんはうん?と私の方を振り向く。








「今日クリスマスイブですよ……!」








「それがどうした?」








「私普通にお邪魔しちゃってますけど……大丈夫ですか…!?」








「別に問題無いけど」








「ほんとですか……?」







「うん」







良かった…と思うと同時にふと佐々木さんの恋愛事情が気になった。








「そろそろご飯作りますね…!」







私は買ってきた材料を調理していく。









「うん、いい感じ…!」








味見を終え出来上がった料理をテーブルに運ぶ。








「美味そう………頂きます」








私は食べる佐々木さんの顔をじっと見る。








「美味い……」







「ほんとですか!?良かった〜」








「青木…意外と料理上手いよな」








「意外は余計ですけど…ありがとうございます…!」








「本当美味いわ……ありがとう、作ってくれて」







素直に美味しいって言われると作った甲斐があるし嬉しい。








「……佐々木さんってお付き合いしてる方いないんですか?」







ご飯を食べながらふと思ったことを口にした私に佐々木さんは咳き込む。








「何だよ急に………」








「すみません、何となく気になって…今日クリスマスイブですし……」








「居たら青木を家に入れてる訳無いだろ…一応女性だし」








「一応って…!佐々木さんの恋愛事情気になるなぁ…私佐々木さんみたいな男性出会ったことないですもん」








「別に…どこにでも居る普通のおじさんだろ」









「……佐々木さんみたいな優しい方そうそういないですよ…」








「俺の話はもう良いよ…洗い物してくる」








そう言って席を立つ。








あ、はぐらかされた……







はぐらかされると余計に気になる……








「あ!私食器洗います…!」








「良いよ。座ってろ」








「そういう訳には…!料理と食器洗いくらいはさせて下さい…!」







「じゃあ……頼む」








私は佐々木さんの恋愛が気になりながらも、食器を洗う。









食器を洗い終え、リビングに入ると佐々木さんの姿がない。








私がキョロキョロしていると奥の部屋から佐々木さんが出てくる。








「あ、佐々木さん……何されてたんですか?すごい汗…」








「あ、いや…別に。風呂入ってくるから…冷蔵庫に入ってる酒飲んで良いぞ」








「あ…ありがとうございます…」








奥の部屋で何してたんだろう……








私は気になりながらもソファに座り、ボーっとテレビを見る。








数十分後。








佐々木さんが戻ってきて私の隣に座る。








「あれ?まだ飲んでなかったのか?」








「お邪魔してる身で佐々木さんより先には飲めないです…」








「……青木って意外と気ぃ遣いだな」









そう言って笑う。








佐々木さんは冷蔵庫からお酒を取り出し私に差し出す。









「あんまり気遣うと疲れるだろ。俺別に気にしないからもう少し寛げ」








そんな佐々木さんの優しい言葉に心がキュっとなる。








「ありがとうございます…」








ソファに座りゲームをしながら私達は飲み始める。









「佐々木さん、私昨日より上達してません!?」









「うん、レベルすげー上がったしな」








ゲームの楽しさも相まってお酒を飲むスピードが上がっていく。








「佐々木さん……勝負しません?」








「勝負……?」








「勝った方の質問には何でも答える!どうですか?」








「良いけど絶対勝てないと思うぞ」







そう言うと仲間モードから対戦モードに変更しゲームを再スタートする。








絶対勝つ…………!








ー数分後ー








「マジか………」







佐々木さんがうなだれる。







負けそうになりながらも僅差でなんとか私が勝った。








「ではしつもーん!良いですか?」








「………どーぞ」








「佐々木さんの恋愛話聞きたいでーす!」









「は…!?もう良いって……俺の恋愛なんか興味無いだろ……」







「興味ありまーす!めっちゃありまーす!いつも私の話ばっかり聞いてもらって佐々木さんの話全然聞いたことないので……知りたいです!」








「…何が知りたいんだよ……」








「じゃあ……前の彼女さんとはどれくらいお付き合いされてたんですか?」








「いきなりそんな質問…」








「あれ?負けたの誰だっけなぁ…」








「…………分かったよ。………12年」







「12年…すごいですね…!どうして別れちゃったんですか…?」







「………浮気」








「は…?浮気…!?」








私が佐々木さんを冷ややかな目で見つめる。









「いや、俺じゃなくて向こうがな……」








「え……彼女さんが…?どうして……」








「まぁ……俺にも原因はあるけど…」








「結婚…とかも考えてたんですか…?」








「それはもちろん…だからさすがに堪えたな」









「そう…ですよね…それから恋愛は……」








「してない。そういう気になれない」








「そう…ですか……それは何年前ですか…?」







「5年前………かな」








「5年……でも佐々木さん絶対モテますよね?」









「……別にモテないし誰かに好かれたとしてもあんまり信用出来ないし」








結構なトラウマだ………








「佐々木さん………酔ってます?」








「………酔ってる……かもな」









「ですよね!?私から聞いといてなんですけど赤裸々に答えすぎですよ…?」









「いやだって…質問に答えろって…」








「それはそうですけど……答えたくないことは答えなくて良いですよ…!」








「え、そうなのか?」








佐々木さんの困惑した表情につい可愛いと思ってしまう。









「佐々木さんなら素敵な人と出会えますよきっと」








「そう…かな……この先心から信頼できる人に出会える気がしないけどな」








それを聞いて心が痛くなった。

こんなに良い人を傷つけた元カノに腹が立った。








「彼女さんなんで浮気したんですかね!?」








返事を聞くつもりはなく気付けば心の声がそのまま口から出ていた。








「…………俺がさ……警察官から全く別の仕事に転職したから…それが不満だったらしい……」









「え…警察官……?」








「うん」









「警察官…ですか……」









「ん…?どうした?」








「あ…いえ……佐々木さんってたまに鋭いですもんね…私の嘘も見抜いちゃうし」









「いやあれは俺じゃなくても分かるだろ…青木分かり易すぎるし」








「………でもどうして警察官から他の仕事に?」









「警察官ももちろんなりたいと思ってなったんだけど、昔から機械とかそういうのも好きでさ、知り合いがこの会社で働いてて…色々話聞いてたらここで働きたいって思い始めて……40歳になる前に経験積むために精密機器の製造工場で働いてて…でその後今の会社に」









「そういうことだったんですね……なんかすごいですね…ちゃんと自分の目標を達成してて…尊敬します…!」









「……青木は?夢とかあるの?」








「夢かぁ……なんだろう……現状維持…ですかね」








「現状維持か……」








「………つまんないですよね」








そう言って私は笑う。







「いや、現状維持は大事な事だからな」







「ありがとうございます……でも佐々木さんのお話色々と聞けてよかったです…!なんか距離が近くなった気がします…!」








「何だそれ」








そう言って佐々木さんが笑う。









そんなこんなで二日目の夜が過ぎていった。








ー12月25日ー









佐々木さんの家で過ごす最後の日だ。









「今日で最後ですね…本当にお世話になりました…!今日はクリスマスですし…どこか出かけます?」








「そうだな」








準備を終えた私達は佐々木さんの車に乗り込む。









とりあえず車を走らせたはいいものの……









「人………凄いな」








「やばいですね……」








人の多さに圧倒された私達は結局ドライブすることにした。








「曲流して良いですか?」








私はスマホとプレイヤーをBluetoothで繋げる。








「佐々木さん何聴きたいですか?」








「うーん…任せる」








「じゃあ…サザンとかどうですか?好きですか?」








「好き」







佐々木さんは即答でそう答える。








私は本当に好きなんだと微笑みながら早速曲を流す。








「というかこんなんで良かったのか?ドライブで」








「もちろんですよ!私ドライブ好きなんで…佐々木さんは逆に大丈夫ですか?運転疲れません?」








「俺も疲れた時とか適当にドライブしたりするから平気」








「そうなんですね…!ドライブしてどこか行ったりするんですか?」







「うーん温泉とか行ったり…」







「温泉好きなんですね…!」








私は音楽を口ずさみながら周りの景色を見渡す。







街はカップルと家族連れで溢れている。







「あの…佐々木さん」






「ん?」






「私から誘っておいてなんですけど…すみません…せっかくのクリスマスなのに私なんかと過ごさせちゃって……」







「どうしたんだよ急に」







「外の雰囲気見てたら……なんか申し訳ない気持ちになって…」







「別に……予定無かったし。青木が居なければ外に呑みに行ってたくらいのもんだろうしな」







「それでも…私と過ごすよりはマシだったんじゃないですか…」







私が外の景色を見ながらそう言うと急に佐々木さんが笑い出す。







「えっ…どうしたんですか…?」







私は振り返り佐々木さんの顔を見る。







「青木って本当気ぃ遣いだよな」







「……佐々木さんに迷惑かけっぱなしですし……」







「そんな奴が罰ゲームであんなグイグイ色々聞くか?」








そう言ってまた笑う。








「そ、それは……」







そんなきっかけがないと聞けないし………








「俺は青木の事迷惑だと思ってないし、ただ呑みに出掛けるよりドライブの方が有意義に過ごせてる気がするし?だからそんなに色々考えるな」








「………佐々木さんってほんと優しいですね」







「だからそんな事無いって…」







「佐々木さんみたいな人と…もっと早く出会いたかったなぁ………」






そう私は独り言のように呟く。








「え…?」







「あっ…何でもないです……イルミネーション綺麗ですね…」







「……そうだな」








ー数時間後ー








「だいぶ暗くなってきましたね〜」









「ご飯買ってそろそろ帰るか……」







「ですね…!」







私達はご飯の材料を買い家へと戻る。







玄関に入ると佐々木さんが立ち止まる。







「……どうしたんですか?」







「嘘だろ………」







そう呟くと足早にリビングへと向かう。







私も靴を脱ぐとそこに見知らぬ靴があった。







不思議に思いながらもリビングへ入る。







「佐々木さんっ!お疲れっす!……その人誰っすか!?」








「同僚…てかなんでここに居るんだよ!」








「メッセージしたじゃないっすか!彼女に振られたって〜」









佐々木さんはスマホを取り出し確認する。









「それで何で俺の所に………」








「そりゃなぐさめて欲しいからっすよ…!それよりその人彼女さんですか!?」








「いやだから同僚だって…!」








「同僚とクリスマスに家で二人っきりで……?」








ニヤニヤしながら疑いの視線を向ける。








「いやこれには色々と事情が……話すと長くなるからとりあえず今日は帰って……」








「えー!!!?オレめっちゃ腹減ってるんすけど!」








「近くにコンビニあるぞ」








「うわ………冷た………」








そう言うと私に子犬のような視線を送る。









「え………と…………」








私が困惑して佐々木さんを見ると佐々木さんは深いため息をつく。








「……じゃ飯食ったらすぐ帰れよ」










「っしゃあ!ゴチでーす!」








そう言うと子供のように両手をあげてはしゃぐ。








「あ…こいつ前の職場の後輩の矢吹」








私も挨拶をし軽く会釈する。








「よろしくでーす!」








私は足早にキッチンに行き料理に取り掛かる。







「青木ごめんな。急にあいつの分まで……」






「いえ…!二人分も三人分も対して変わらないので……」






「じゃ…俺も一緒に……」







「あ…大丈夫です…!向こうでゆっくりしてて下さい…!」








「ありがとう…じゃあ何かあれば言ってくれ」








そう言うと矢吹さんの所へと戻って行った。









「……同僚って言ってもただの同僚じゃないっすよね!?」









「だからただの同僚だって」








「今料理作ってんすよ!?」









「それは泊める代わ……あ…いや色々あって…」









「……泊まったんすか!?直人さん彼女ずっといないとか言ってやることやってるじゃないっすか〜!」








「……やむを得ない事情があって、この辺に知り合い居ないから仕方なく泊めてんだよ…そういうのじゃないから」








「あんな綺麗な人とずっと同じ空間にいて手出さない男いるんすか!?」







「……………やめろってそういう事言うの」








「……そんな怖い顔しないで下さいよ〜いやまじでオレあんな美人出会ったことないっすよ!」








「………青木に何か変な事言うなよ」









「わっかりましたぁー!」








ー数十分後ー







とりあえずできたけど……

初対面の人に手料理食べてもらうなんてなんか緊張する…








私は出来上がった料理をリビングに運んでいく。








「お待たせしました…」







「わーうまそー!!紗和ちゃん俺も手伝う!」








「あ…ありがとうございます……」








そう言うと私より先にキッチンへ行き料理を持ってくる。








「それじゃあ……いただきまーす!!」








矢吹さんがいち早く食べ始める。







「え…待って」








「あ…味、大丈夫ですか……?」







すると矢吹さんが私の方に手を差し出す。







困惑しながら私も手を差し出す。







「めっっっちゃうまい!!最高!」







なぜか謎の握手を交わした。







「あ、ありがとうございます……」







「ね、直人さんっ!めっちゃうまいっすよね!?」







「うん、美味いけど…お前もう少し落ち着いて食べろって……」







「紗和ちゃん、彼氏いんの!?」








き、急だな………








「いません……」








「どれくらい?」








「4年……ですかね………」








「え、そんな可愛いのになんで4年も居ないの!?」









「……………………」









「矢吹もうその辺にしとけ……」









「好きな人は?」








「いない…です……」








「じゃあオレ立候補していいっすか!?琉弥っていいます!」








「りゅうや…?」








「あれ…?その反応もしかして元カレと同じ名前とか?」









「あ…そう…ですね…」








「へーその元カレ良い奴でした?」








「……いえ……」








「うわーまじか…でもオレは良い方の琉弥なんで、よろしくです!」







「でもさっき彼女さんと別れたばっかりって……」








「あ、オレ切り替え早い方なんで!」








いや早すぎでしょ…………








「はい、もう食べ終わったな。じゃあまたな」








そう言うと佐々木さんが矢吹さんを半ば無理やり立たせる。








「まだ話終わってないっすよー!」








「また今度ゆっくり話聞くから」








「オレもっと紗和ちゃんとお話………」








「はいはい、またな」








玄関の閉まる音が微かに聞こえる。









急に静かになったリビングに私は一瞬思考が停止する。








「青木ごめん……あいつデリカシーないことを……」








「あ…いえ……」








佐々木さんは椅子に座り再びご飯を食べ始める。








「矢吹さんに合鍵お渡ししてるんですか…?」








「あいつ良く彼女と喧嘩したって家に来るから……合鍵持っとけって渡したんだけど、まさか今日来るとは…本当ごめん」







「仲が良いんですね」







「……あいつあんなだけどさ、俺より工場経験長いから仕事の時色々教えて貰って世話になったし…何か憎めない奴なんだよな」








「お互いに信頼してる感じ、なんか伝わってきました」









私はそう言って微笑む。








ご飯を食べ終え、食器を洗っているとすごい物音にびっくりした私は手を止める。








「佐々木さん…?」








リビングにはいない。








私は物音がした奥の部屋へ向かう。







コンコンコン








「佐々木さん…?」








すると扉が少し開き佐々木さんが顔を出す。








「どうした…?」








「あ、いえ…なんかすごい物音がしたので大丈夫かなと…」








「大丈夫…」








「そう…ですか……」








何か隠してる気がする……








私は気になりながら食器を洗う。








ソファでゆっくりしてるとお風呂から出た佐々木さんが近くに来る。







「佐々木さん…あの部屋何かあるんですか…?」








「あの部屋って?」








「……奥の部屋です」








「え…?いや、別に何も無いけど…」








「じゃあなんで隠すんですか…?」








「別に隠しては……」








「さっきの物音なんだったんですか?」








「上の物が落ちただけだ…」








「怪しい……」








私は佐々木さんを疑いの目で見る。








「別に怪しくないって…そんなに疑うなら入るか…?」








「え、良いんですか?」








すると佐々木さんが奥の部屋へ歩いて行く。







ガチャ







「え……何これ」








私は部屋の中を見て驚く。








「別に…何も無かっただろ…」







そこには本格的な運動器具が置いてあり、ジムみたいになっていた。







「すご…!え、なんで隠す必要があるんですか…?」








「だから別に隠しては……」








「すごい…!佐々木さん鍛えてるんですか?」








「まぁ…一応……」








「えー!腹筋とか見たいです…!」








「は?見せる訳無いだろ…」








「えー!なんでですか…!」









「何でって…逆に何で見たいんだよ……」









「どうして鍛えてるんですか?」









「それは……別に良いだろ何だって」









「もしかして……ボディビルの大会に出るとか?」







「違うわ」







「佐々木さんゲームばっかりしてると思ったら、ちゃんと運動もしてるんですね!安心しました」







「俺を何だと思ってるんだ……」







こうして佐々木さんの家で過ごす最後の日はあっという間に過ぎていった。



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