優しさに触れて
ーある日の金曜日ー
「かんぱーい!」
前に言っていた佐々木さんとの"次"の日だ。
「今日は私が奢るんで、じゃんじゃん飲んで下さいね!」
「……そんな事言って大丈夫か?」
「……じゃんじゃんは言いすぎました」
そう言うと佐々木さんが笑う。
「佐々木さんって休みの日何してるんですか?」
「急に何だ…」
「別に深い意味はないですけど…ふと気になったんで」
「うーん…ゲーム…とか」
「ゲーム!?意外!!どんなゲームするんですか?」
「戦闘系とかRPGとか色々」
「えー楽しそう!私ゲームあまりしたことないんでやってみたいです…!」
「結構ハードだぞ」
「そこは佐々木さん教えてくれますよね?」
「俺結構厳しいけど」
「えー…厳しいのは無理です…!」
「じゃ諦めろ」
「ちょっと…!そこはじゃあ優しく教えるとか言って下さいよ!」
「俺はそんなに甘くない」
「うわ…厳し」
私はジョッキに入ったビールを一気に飲み干す。
「すみません、ビールお願いします!」
「ペース早くないか…?」
「いつもこんな感じですよ?………佐々木さんは私に聞きたいことあります?」
「いや…別に無いけど」
「ないんですか…?興味ないのはわかりますけど…なにか聞いて下さいよ…」
「いや…興味あるとか無いとかじゃなくて…俺みたいなおじさんが青木にあれこれ聞くとか気持ち悪いだろ」
「え…そんなこと思ってるんですか?」
「そりゃそうだろ…だから青木が一緒にお昼食べようってなるのも不思議だし」
「そういう風に思ってたんですか…私佐々木さんの年齢気にしたことないですけど…」
「話も合わないだろうし…」
「そうですか…?でも知らない話聞くのも楽しいじゃないですか…!」
「………そういうもんか…?」
「そういうもんです…!佐々木さん気にしすぎですよ…そんなの気にせず、ほら飲みましょ!」
「うーん……」
佐々木さんは納得していない表情を浮かべる。
ー数時間後ー
「じゃあ、そろそろ帰るか」
「そうですね…!」
結構頼んだな…というかほとんど私が食べ飲みしちゃったけど…
お金大丈夫かな…
私は不安になりながら財布を覗き込む。
レジに着くと先にお会計していた他のお客さんの後ろに並ぼうとする私の腕を佐々木さんが引いてドアへと向かう。
「え!?佐々木さん!まだお会計が……」
「もう済んでるから」
「え!?いつの間に……今日は私が奢るって言ったじゃないですか…!いくらですか?払います!」
「いくらだったか忘れた」
「忘れたって…じゃレシートは……」
「捨てた」
「…じゃあお店に聞いて……」
「良いって。奢られとけ」
「え…?」
「ほら、行くぞ」
「………………」
「……青木?」
「それは……嫌です」
私は立ち止まってそう言う。
「……?」
「そうやって毎回奢ってもらったら……佐々木さんと気軽に飲めないじゃないですか……」
「そんなの気にするな。別に大した額じゃないし」
「私は…そういう立場で佐々木さんと飲みに行きたくないです」
「そういう立場…?」
「毎回奢ってもらえると思って飲みに行きたくないんです」
私が真剣に話をしていると、佐々木さんが急に笑いだす。
「珍しいな奢られるのが嫌って。そんな事言われたの初めてだよ」
「すみません…変なやつで」
「じゃあ…青木と飲む時は割り勘な」
「はい…!」
私が笑顔になると、それを見てまた佐々木さんが笑う。
「それじゃ…行くか」
そう言うと歩き出す。
「佐々木さん、この辺に住んでるんですか?」
「いや…?」
「えっ…じゃあ私今日は一人で大丈夫で……」
「だからこんな時間に一人で帰るのは危ないって言ってるだろ…」
「いやいや、大丈夫ですって!この前だって大丈夫だったじゃないですか…!」
「この前大丈夫だったからって今日も大丈夫とは限らないだろ」
「でも…奢られるのも嫌ですけど…こうやって毎回送ってもらうのも申し訳なくて嫌です……」
「いや、これは青木が何と言おうと譲れない」
「え………」
「俺も少し歩いた方が酔い覚ましにもなって丁度良いし」
「佐々木さん………」
「ん?」
「佐々木さんってモテるでしょ」
「は!?何だよ急に」
「私だから良かったですけど、世の中の女子勘違いしちゃいますよ?」
「勘違いって何を……」
「もしかして好きなのかな…?とか。佐々木さんって普段から優しいですし」
「大袈裟な…別に普通だろ。これくらいで勘違いされても困る」
「わーそういうこと普通にできちゃう…今までどれだけの女の子が涙流したんだろうなぁ」
「何を言ってるんだ…」
「あーかわいそう…」
「もう良いって……」
「あー否定しないんだ」
そんなくだらない会話をしながら、夜の街を歩く。
「…じゃまた月曜日にな」
そう言って向こうに歩いて行く。
「あっ佐々木さん…!」
「ん?」
佐々木さんが立ち止まり振り返る。
「送ってくれてありがとうございます…!それと、ごちそうさまでした…!」
私はペコッと頭を下げる。
「……変な奴」
佐々木さんが笑いながら軽く手をあげ歩いて行く。
そんなことを言われたことには気付かず私は機嫌よく部屋に帰った。