旅立ち
「ただいま…」
「おかえり、間宮大丈夫だったか…?」
「すごく…辛そうだった」
「そうか……」
「なんで私のためにそこまで……」
「……それだけ紗和が大事なんだろ」
「でも私の気持ちは…間宮くんに向かないことも知ってるんだよ…?なのになんで……」
「……そういうのって理屈じゃないんだよ」
「……?」
「ただ紗和を守りたい…それだけなんだよ、あいつは」
「そんなの……間宮くんが辛いだけじゃん……」
「…………そうだな」
それからまた、凛の方から間宮くんに電話があったらしい。
「………はい」
「隼斗…電話出てくれるんだ…なんで?」
「別に…なんとなく」
「……写真のことだけど」
「………………」
「あの時の仲間は、連絡先すら知らないから安心して」
「………何で急に話してくれた?」
「……隼斗は全然男気なくてつまんないし、なんかもうどうでも良くなった。紗和のことも今のあたしには何の関係もないし」
「………ありがとう…話してくれて」
「……じゃ、切るね。バイバイ」
プツッ
そして一ヶ月後。
「紗和さん、俺今度こそこの会社辞めます」
「え…?」
「海外、行こうと思ってて」
「海外…!?」
「新しい環境に飛び込んでみようと思います」
「それは…私のせい……」
「……紗和さんに嘘つくのはもう嫌なんで…本当の事言うとそれもあります。紗和さんのせいと言うか…このままだと紗和さんを想い続けてしまうので。そんな自分を変える為にも紗和さんと離れた場所に行きます」
「………そっか……」
「今回は代わりの人、決まったみたいなので……紗和さん…?大丈夫ですか…?」
「うん…大丈夫」
「また前みたいに……」
「うぅん…大丈夫…!もう前みたいに引き止めたりしないから…!間宮くんの挑戦を応援する!」
「…ありがとうございます」
「いつ…辞めるの?」
「一ヶ月後です。来週新しい人が入社するので仕事を引き継いでから…ですね。その内社長からも話あると思いますけど…紗和さんには先に話しておけと言われたので」
「そっか…じゃあ残りの期間…よろしくね…!」
「…はい」
それから間もなくして新しい秘書がやってきた。
「おはようございます!本日からお世話になります、猫田裕介です。よろしくお願いします」
そう言ってニコッと笑う。
いわゆる子犬系男子というやつだ。
愛嬌があってとても可愛らしい。
私達も自己紹介をし、猫田くんの席に案内する。
「猫田くんは…秘書経験あるんだっけ…?」
「いえ、ないです。でも秘書って憧れてたんですよね〜」
「そうなんだ…!大変な仕事だけど…その分やりがいもすごくある仕事だから…!」
「楽しみです!」
そう言ってまたニコッと笑う。
か、可愛い……
「……猫田、ちょっと良い?軽く説明したいから」
「はいっ!」
猫田くんは小走りで間宮くんの近くに行く。
間宮くんの話を表情豊かに聞いている姿が可愛くてつい私まで微笑んでしまう。
「…じゃ、とりあえずここまで宜しく」
「了解ですっ!」
「……ちょっとお手洗い行ってきます」
「はーい」
ガチャ
バタン
業務に集中していると、ふいに猫田くんに話しかけられる。
「………青木さんっ」
「……ん?」
「間宮さんって、超イケメンですね…!」
そう小声で囁く。
「そう…だね?」
「僕めっちゃタイプです…!」
「そ、そっか…」
私は反応に困ってると猫田くんが首を傾げる。
「あ、もしかして間宮さんと付き合ってます?」
「え!?付き合ってないよ…!」
初日とは思えないコミュ力だ。
ガチャ
「……どうかしました?」
「え…?別に…ね…?」
「はいっ!」
そんなこんなで新たに強烈なメンバーが加わった。
「おはようございまーす!今日もよろしくお願いします!」
猫田くんが居ると場の空気がパッと明るくなる。
「うーん…それじゃあこういう場合はどうしたら…」
「あーそれは………」
「そういう事ですね…!了解ですっ!あと…」
「あぁこれな……ってお前距離近いな。もう少し離れろよ…」
「えー良いじゃないですかっ!間宮さんのその顔拝みたいですし」
「何言ってんだお前……」
そんな二人のやり取りに思わず吹き出す。
「……何ですか紗和さん」
「微笑ましいなーって思って」
「どこが……」
そう言って間宮くんは猫田くんから離れる。
「とりあえず、そこまで進めたら教えて。ほら戻れ」
「はーい!」
猫田くんは素直に自分のデスクに戻り、パソコンとにらめっこしている。
そして、次の日。
「青木さんっ青木さんっ!」
「ん?」
私はお昼休憩に行こうと準備をしていると猫田くんが近くで私を呼ぶ。
「向こうに居る…ほらっ!あの人!誰ですか!?」
「あの人…?」
私は振り返り猫田くんの指す方向を見る。
「なんだろう…色気すげー…スーツ姿やばいっすね。まじでどタイプです」
「あ…あぁ…あの電話…してる人…?」
「そうです!うわ…カッコいい……」
ガチャ
「紗和さん、何してるんですか?早く行きますよ」
「間宮さんっ!あの人…何者ですかっ!?」
「あの人……あぁ佐々木さん?開発部の」
「佐々木さんって言うんですね…!」
「ほら、早く行くぞ」
私達は社員食堂に向かう。
直人さんの横を通ると、私と目が合いニコッとされる。
「え…今…青木さんに笑いかけませんでした!?」
猫田くんが振り返りながらそう言う。
「あ……」
「佐々木さんと紗和さん付き合ってるから」
「え、ちょ…間宮くん…!」
「えぇっ!?」
猫田くんがうなだれる。
「何で言ってくれなかったんですかぁ」
「ご、ごめん…なんか…言い出しづらくて…」
「やっぱ素敵な人には相手が居るのかぁぁ」
悲しんでる猫田くんを私はどうしたらいいかわからずあわあわする。
「ね、猫田くん……」
「間宮さん…慰めて?」
そう言うと、間宮くんに抱きつく。
「ちょ…何だよお前は……!」
間宮くんが猫田くんを引き離して早歩きする。
「間宮さーんっ」
それを猫田くんが追いかける。
私はそんな二人を見てまた微笑む。
「ただいま」
「あ、おかえり直人さん!」
私は料理をしながら直人さんを見る。
「今日お昼の時に居た子…新しく入社した秘書だよな」
「そう!猫田くん」
「そうか…」
「そういえば猫田くんが入社の挨拶した時、直人さん不在だったもんね」
「………そうだな」
「……どうかした?」
「あ…いや、また秘書は男か…と思って」
「あ……心配してる?」
「そりゃ…心配はするだろ」
しゅんとなってる直人さんが可愛いすぎて、私は料理の手を止め直人さんをギュッとする。
「そんなに私のこと…心配?」
直人さんを見上げながらそう言う。
「あんな若くて爽やかな奴……」
「可愛い…」
「え?」
「嫉妬してる直人さん、可愛い」
「か、可愛い!?」
「うん…」
「可愛いの感覚が俺にはさっぱり分からないんだけど」
「うん、そういう所も含めて可愛い」
「……………」
直人さんの困ったような表情が可愛すぎる。
「安心して?猫田くんのタイプは直人さんみたいだから」
「………え?」
「今度、みんなで間宮くんの送別会しない?猫田くんも誘って」
「そうだな」
そして、間宮くんが会社を去るまで残り一週間を切った。
「かんぱーい!!」
間宮くんの送別会も兼ねて、私達の家で飲み会が行われた。
「猫田くんはお酒飲める方?」
「めっちゃくちゃ弱いです…」
「そうなんだ…じゃあ無理せずにね…!」
そう言った30分後。
「佐々木さん…!お酒足りてます〜?」
「あ、あぁ…大丈夫」
「猫田くん…大丈夫…?」
「全然大丈夫でーす!ほら、間宮さんもっ!」
そう言って間宮くんのグラスにビールを注ぐ。
「お前お酒弱いんだろ?もう飲むのやめろよ…」
「だって…楽しいんですもん!」
そう無邪気な顔で言う。
すると、猫田くんが直人さんの隣に座る。
「佐々木さん…ほんとカッコいいですよねぇ」
「え…?」
「前に青木さんに話してたんですよー佐々木さん大人の色気ヤバいーって」
「い、色気…」
「この体付きとかたまんないなぁ…」
そう言って直人さんに抱きつく。
「えっ…ちょ……」
すると猫田くんが上目遣いで直人さんの顔を見つめる。
「僕、佐々木さんのこと…すっげータイプです」
「え…と……」
直人さんはなんとも言えない表情をしている。
「え、なんで目逸らすんですか」
「え…いや…なんかそんな真っ直ぐ言われると恥ずかしい…だろ…」
「……やば」
「え…?」
「青木さんっ!何ですかこの可愛い生き物は…!」
猫田くんが私を見てそう言う。
「うんうん、わかるよ」
「この見た目でこの感じ…たまらないんですけど…青木さんこんな尊い方とお付き合いされてるんですか!?」
「うん、尊いよね」
「な、何言ってるんだよ二人して……」
「……あの、盛り上がってる所悪いんですけど俺の送別会ですよね」
「……あ、嫉妬ですか?」
「いや、違うし」
「間宮さんの事ももちろんタイプですよっ!」
そう言うと直人さんから離れ、間宮くんに抱きつく。
「やめろ…俺は佐々木さんみたいに尊くない」
「えー嫉妬してる間宮さんも可愛いくて尊いっす!」
「嫉妬じゃねーし。離れろ」
そんな二人を見て直人さんと笑い合う。
それから数時間後、泥酔した猫田くんは寝てしまった。
「猫田くんってほんと可愛いなぁ…」
「どこがですか」
「そんなこと言って…間宮くんも結構猫田くんのこと好きでしょ」
「は…!?」
「間宮くんと何年一緒にいると思ってるの。見てればわかるよ」
「……………」
「今日はありがとね、来てくれて」
「いや…こっちのセリフです。送別会まで開いてくれてありがとうございます」
「海外に行って何するとか決めてるのか?」
「まだ何も。とりあえず行ってから決めようと思ってます」
「そっか…」
「何か困った事があればいつでも連絡しろよ」
「……ありがとうございます」
「私にもいつでも連絡してね!」
「……紗和さんには連絡しません」
「え…?」
「紗和さん、最後までほんと鈍感ですね」
そう言って困ったように笑う。
「ご、ごめん……」
すると間宮くんが立ち上がる。
「それじゃ、そろそろ帰ります。猫田も連れて帰らなきゃなんで。ほら、猫田起きろ」
間宮くんは猫田くんの体をトントンと叩く。
「ん……なんですか…」
「もう帰るぞ」
「んぇ〜せっかく気持ち良く寝てたのにー…」
間宮くんは猫田くんの体を持ち上げ支える。
「今日はありがとうございました」
「間宮くん一人で大丈夫…?」
「大丈夫です」
「大丈夫でーすっ」
二人は玄関へ向かう。
「それじゃ、また月曜日に」
「気を付けて帰れよ」
「私下まで送ってくるね!」
「良いですよ、別に」
「だって心配だもん…」
そして私も一緒に玄関を出る。
「間宮さ〜ん…」
「何だよ…」
「眠いぃ…」
「家まで我慢しろ」
「うーん……」
「あの、紗和さん」
「ん?」
「残り僅かですけど…最後まで宜しくお願いします」
「うん…!こちらこそ!」
そして、二人がタクシーに乗るのを見送り部屋に戻った。
「二人大丈夫だったか…?」
「うーん…なんとか?まぁ間宮くんが付いてるから大丈夫だと思う…!」
「そうか…」
「猫田くん、こんなに絡んだの初めてでしょ。どうだった?」
「いや…凄かったな…圧が」
「なんか猫田くん天真爛漫って言うか…今まで会ったことないタイプだから見てて楽しいんだよね」
「確かに、飽きなさそうだな」
そう言って二人で笑い合う。
そして間宮くんの勤務最終日。
「隼斗さんっ!短い間でしたがお世話になりました!」
「紗和さんに迷惑かけないように頑張れよ」
「はいっ!」
「間宮くん、今までありがとう…!海外でも頑張ってね…!」
「ありがとうございます。猫田を一人前に育ててやって下さい」
「明日、空港まで見送り行きたいんだけど…」
「何言ってるんですか。明日平日ですよ?仕事あるでしょ」
「少し抜けるくらい…」
「大丈夫です。見送り来られたら気持ち揺らぎそうなんで」
「…………」
「…気持ちだけ…頂きます。ありがとうございます」
「じゃあ、今日このメンバーで飲み行きます〜!?」
「いや、明日の準備もまだ残ってるし…」
「そうですよね…」
猫田くんがわかりやすく、しゅんとなる。
「じゃ…準備手伝ってもらって良い?」
「はいっ!手伝います…!」
「じゃあ紗和さん、俺達行きますね。……また」
「……うん…また…ね」
すると間宮くんが近づき私の頭をポンポンとする。
「ほら、またそんな顔する…」
「え…?」
「最後は紗和さんの笑顔が見たいです」
そう言って微笑む。
「……ごめん…じゃ…またね…!」
私は精一杯の笑顔で見送る。
「うん…行ってきます」
そして、フロアを出て行く間宮くんと猫田くんの背中を見つめ、パタン…とドアが閉まると涙が溢れてくる。
「……っ」
私はそこでしばらく泣いていた。




