間宮くんの彼女
それから約半年。
私と間宮くんは居酒屋に来ていた。
「紗和さん、俺彼女出来ました」
「え…!?ほんとに…!?おめでとう!!」
「ありがとうございます」
「色々話聞きたいな…!」
「良いですよ、何でも聞いて下さい」
「じゃあ…出会いは…?」
「マッチングアプリです」
「おぉ…!今時だね…!いつから付き合ってるの?」
「もうすぐ一ヶ月…ですかね」
「そうなんだ…!間宮くんが好きになった子どんな子なんだろう…気になる…!」
「写真…見ます?」
「え、いいの…!?」
間宮くんはスマホを操作し、私の方に向ける。
「ツーショット写真…!いい…ね………」
スマホの画面に写ったその顔を見た瞬間、私の鼓動が早くなったのがわかった。
「紗和さん?」
「この子が…彼女…さん…?」
「はい」
「そ…そっか…あ…ありがとう…見せてくれて……」
私は画面から目を逸らし、ビールを飲む。
「もしかして…知り合いとかですか?」
「え…?あ…いや……」
「そういえば…彼女紗和さんと同い年です。同級生…とか?」
「あ……」
私は言葉に詰まる。
「あの…間宮くん…私、今日はちょっと帰るね……」
「え…?まだ来たばっかりですよ?」
「ごめん…ちょっと用事…思い出して」
「…分かりました。じゃ俺も出ます」
「うぅん!間宮くんはそのまま居て…!」
「お一人で…大丈夫ですか?」
「うん…!まだ外明るいし…大丈夫!ありがとう…それじゃ…また会社でね…!」
私は居酒屋を出て、タクシーに乗り込む。
「もしもし…直人さん…今…家…?」
「いや…まだ会社。どうした?」
「あ…うぅん…!何でもない…じゃまたあとでね…」
私は必死に深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
部屋に着いた途端、その場でしゃがみこむ。
息が…苦しい。
胸を押さえ、違うことを考えようとすればする程嫌な記憶が蘇ってくる。
ガチャ
「紗和!?」
「直人…さん…?」
直人さんが私の背中をさすってくれる。
その言葉と暖かい手の温もりに私の鼓動が少しずつ落ち着いてくる。
「……落ち着いたか…?」
ソファに移動した私は直人さんが持ってきてくれた水を一口飲む。
「うん…ありがとう」
「何か…あったのか…?」
「……………………」
「過去の事…思い出したのか…?」
「うん…」
「そうか…」
直人さんはそれ以上何も聞かなかった。
そして次の日。
「おはようございます、紗和さん」
「おはよう…昨日は…ごめんね」
「…いえ」
私は何故か間宮くんと目が合わせられず、そのまま椅子に座る。
「紗和さん」
「なに…?」
「何か…俺に隠してます?」
「……別に…隠してないよ…?」
「…そうですか」
お昼休憩も私は逃げるように間宮くんから離れた。
「ただいま…」
「………なんで先行っちゃったんですか」
「あ…ごめん…お腹…空いちゃって」
「…そうですか」
そして、終業後。
「じ、じゃあ、私先帰るね…!お疲れさま…」
「ちょっと待って下さい、俺も帰るんで」
「わ、私…ちょっと急いでて……じゃ…」
私はバッグを持ち、早歩きでフロアを出る。
エレベーターを連打し、待っていると向こうから間宮くんが歩いてくるのが見える。
「紗和さん…!」
その姿を見た瞬間、私は横の階段をかけ下りる。
「紗和さん、待って下さい!」
「だから…急いでるんだって…!」
間宮くんはすぐに追いつき、私の目の前に立つ。
「なに…?」
「なんで逃げるんですか?」
「に、逃げてないよ…!急いでるって……」
「昨日、彼女の写真見せた後から明らかに様子おかしいですよね」
「…………………」
「凛と…何かあったんですか?」
その名前を聞いた途端、また胸が苦しくなる。
「……っ」
私は胸を押さえ、しゃがみこむ。
「紗和…さん…?」
こんな所で発作を起こしたらやばい…
「紗和さん!?大丈夫ですか!?」
間宮くんが私の背中をさすってくれる。
それでも息苦しさは治まらない。
目の前がチカチカする。
「佐々木さん…!今どこに居ますか!?…紗和さんが…苦しそうで…フロアの近くの階段の…はい……はい」
トントントントン
少しして階段を降りてくる音が聞こえる。
「直人…さ…ん……」
直人さんは私の正面に回り、優しく抱きしめ背中をさすってくれる。
「大丈夫……ゆっくり深呼吸して……」
直人さんに抱きしめられると気持ちが軽くなる。
数分後、落ち着いた私は直人さんから離れる。
「紗和さん…大丈夫…ですか」
「ごめん…間宮くん…びっくり…させちゃって……」
「……………………」
「間宮、後は俺が付いてるから…」
「はい…」
幸い、階段を使う社員は居なかったため私達の様子は見られずに済んだ。
「なぁ紗和……」
「ん…?」
「発作の事…間宮と何か関係があるのか…?」
「…………………」
「もしそうなら…紗和は辛いだろうけど…ちゃんと向き合わないと…またいつ発作が起きるか分からないぞ…」
「そう…だよね……」
次の日。
「紗和さん…大丈夫…ですか?」
「うん…昨日はほんとごめんね…あの…今日…少し話せる…?」
「…分かりました」
終業後、私達はカラオケ店に来た。
「ごめんね、二人でゆっくり話せる場所カラオケ店しか思いつかなくて…」
また発作が起きると困るため、周りに誰も居ないカラオケ店を選んだ私は間宮くんと向かい合って座る。
「あの…ね…」
「……………」
「間宮くんの彼女…だけど…高校の時の友達…で…その…」
〜♪
言いかけた時に、間宮くんのスマホが鳴る。
「あ…出ていいよ」
「大丈夫です」
その後一度鳴りやんだ着信が再び鳴る。
〜♪
「急用かも…出た方が…」
「……すみません」
間宮くんは部屋を出て行く。
なんて伝えればいいんだろう…
言ったとして、もう何年も前のことだ。
あの子は…凛は…変わってるかもしれない。
そんなことを考えていると、ドアが開く。
「おかえ……」
「あんたあたしの彼氏と何カラオケ来てんの!?」
「おいっ凛…!」
「凛……」
「は!?なんであたしの名前知ってんの!?」
「紗和さんは会社の先輩って言っただろ…?」
「だから会社の先輩となんで二人でカラオケ……」
そう言いながら凛は薄暗い部屋で私の顔を覗き込む。
「え…あんた…紗和…?」
「久しぶり…凛」
「………まじかー」
そう言いながら私の向かいに足を組んで座る。
「凛…なんで座ってんだよ…」
「なんで?ダメなの?いいよね?紗和」
「うん…………」
私は震える手を必死で押さえる。
「てかさ、こんな密室で何の話してたわけ?」
「…………………」
「あたしと隼斗が付き合ってるの知ってんだよね?」
「うん…」
すると凛がため息をつきながら笑う。
「あんた…相変わらずだね」
「え…?」
「樹先生の次は隼斗?何回あたしの好きな人取ったら気が済むわけ?」
「……………………」
「紗和さ、高校ん時私が好きだった先生と付き合ってたんだよ」
「………適当な事言うなよ」
「……………………」
「いやほんとだし。ね?紗和」
「……………………」
「何無視してんの?」
「やめろって凛」
「……もう話、終わったでしょ?帰れば?」
「……うん」
「え?紗和さん…話まだ……」
「……ごめんね…二人の邪魔しちゃって…私…帰るね」
「ばいばーい」
「紗和さん、送って来る」
「は…?彼女一人にする気!?」
「間宮くん、大丈夫だよ…駅近いし…」
「本当…ですか…?無理してませんか…?」
「大丈夫、大丈夫…!それじゃ、また会社でね」
私はそう言ってカラオケ店を出た。
外に出た途端、手が震える。
私は小走りで帰った。
そして次の日。
「紗和さん、昨日はすみません…あいつが急に…」
「うぅん、私の方こそ…配慮が足りなくてごめんね…」
「いや…昨日…何話そうとしてたんですか…?」
「あ…そんな大した話じゃないから…大丈夫…」
「そう…ですか」
そして終業後。
「間宮くん、私先に帰るね」
「え?」
「ほら、あんまり一緒にいない方がいいと思うし」
「一緒に会社出るくらい平気ですって…」
「勤務以外は…ね、一緒にいたら色々話しちゃうし」
「気にしすぎですよ…」
「じゃ…お疲れさま…!」
私は小走りでフロアを出る。
そしてエレベーターを降り、会社の入口を出た所で声をかけられる。
「紗和さんっ…!」
振り返るとそこには息を切らした間宮くんが居た。
「なに…?」
「あの…やっぱり…昨日の話…ちゃんと聞きたいです…」
「……だから大した話じゃないって」
「凛の事…ですよね」
「…………………」
「凛と何があったんですか…?」
「…………………」
と、その時だった。
「はーやーとっ♪」
振り返ると近くに凛が立っていた。
「え…?何で……」
間宮くんが驚いた表情をしている。
「来ちゃった!……てか二人でなに話してんの?」
「あ…なんでもないよ…じゃあね、間宮くん…お疲れさま」
私は凛のそばを通り過ぎようとした時だった。
パシッ
凛に腕を掴まれる。
「紗和…ちょっといい?」
そう小声で囁かれる。
「え…」
「隼斗!あたしちょっと紗和と話したいから、待ってて?」
「話…?」
「久しぶりに会うんだもん、思い出話とかしたいじゃん?」
「……それなら俺も一緒に……」
「女子同士の話もあるし、二人で話したいんだけど」
「でも…」
「間宮くん…!私…大丈夫だから…」
「紗和もこう言ってるし、ちょっと待ってて!」
私と凛は人通りが少ないビルの隙間へ入る。
「……………………」
「あんたさぁ、隼斗のこと好きなの?」
「え…?うぅん…」
「それにしては距離近くない?今日も一緒にいたし」
「間宮くんとは…同じ秘書の仕事で…」
「いや知ってるし。でも会社の外でもよく一緒にいるじゃん」
「それは…」
「もう、隼斗はあたしのものだから」
「うん…」
「…………………」
凛が私の姿をじーっと見ている。
「あんたさぁ、ビッチのくせに清純ぶるの得意だよね」
「…………………」
「樹先生と付き合ってたのなんで肯定しなかったわけ?」
「樹…先生とは……付き合って………」
「付き合ってたでしょ?みんな知ってたし」
「…………………………」
「隼斗にあたしが嘘ついてるって思われたじゃん」
「ごめん…なさい」
「……そういうとこ、ほんとイライラする」
「…………………」
手の震えを隠そうと必死に腕をさする。
「どうせ、今も色んな男と遊んでるんでしょ?」
「……………」
「でも、隼斗はダメだから」
「……………」
「それとも…もう手出した?」
「そんなこと…してない……」
「隼斗…あたしと付き合う前に大好きな人が居たって…だからあたしと付き合うの躊躇してた」
「え…?」
「あたしのこと好きになれるかわからないって」
「………………」
「その相手って…あんたでしょ」
「…ちが……」
「嘘つくなよ。隼斗の表情とか行動見てればわかるし」
「…………………」
「ほんっと…その顔って得だよね〜」
「…………………」
「男に好かれる顔だもんね」
「………………」
「でも、あんたなんて外面だけだから。あんたの内面なんて誰も見てないから」
「………………」
「それでさ、あんたに提案なんだけど」
「……………」
凛が私に近付く。
「今の仕事、辞めてくれない?」
「え…?」
「あんたのこと信用できないし」
「なに…言ってるの…?」
「だからっ!あんたが隼斗のそばに居たらあたしが安心できないでしょ!?だから辞めてよ!」
「そんなこと…できる訳ないでしょ…?」
「はぁ!?」
「私そもそも…恋人居るし…間宮くんのこと後輩としてしか見てないから…」
「だから何?」
「え…なに…って……」
「とにかく、辞めてね?じゃないと…許さないから」
「え?ちょっと…!」
凛はビルの隙間を出て向こうに歩いていく。
「凛…!待って……」
「もうあんたと話すことないから。付いてこないで」
その言葉に私は思わず足が止まる。
「……………………」
「隼斗ごめんねーお待たせっ!」
「…紗和さんは…?」
「もう帰ったよ?」
「……………………」
「なに?そんなじっと見て。疑ってるの?」
「俺、ちょっと行ってくる」
「なんで!?紗和はただの先輩でしょ…?」
「ちょっと待ってて」
「隼斗っ…!」
私はため息をつき、歩き出す。
「紗和さんっ!」
「間宮くん…どうしたの…?」
「凛に…何か言われました…?大丈夫ですか…?」
「うん…大丈夫…凛待ってるんじゃない…?早く戻ってあげて…」
「紗和さん、全然大丈夫そうじゃ…」
「もういいから…間宮くんの彼女は凛でしょ?私のことはいいから…凛の所戻りなよ」
「でも……」
「……もう…ほっといて……ほんとに大丈夫だから…じゃ…お疲れさま…」
私はそのまま歩き出す。
その日を境に私は間宮くんと仕事以外で話をすることはなくなった。
間宮くんも、何かを察しているのか話さない私に何かを聞いてくることもなかった。
それからの私はため息をつくことも多くなった。
間宮くんとの空間は重い空気が流れているような気がして、毎日仕事をしている時間が長く感じた。
そんな日々が三週間ほど続いたある日。
「紗和さん」
「……なに?」
「…いつまでこんな事続けるんですか?」
「こんなこと…って…?」
「いや、分かってるでしょ」
「………………」
「俺、ずっとこんな空気の中仕事するの耐えられないですよ」
「でも…さ…」
「別に俺達やましい事何もないじゃないですか」
「それでも…凛の気持ち考えたら…」
「じゃあ一生こんな空気の中仕事するつもりですか?」
「それ…は…」
私がそう言うと間宮くんがため息をつく。
「…それじゃ、お疲れ様です」
「お疲れさま…」
そして夜。
「紗和…大丈夫か…?」
「うん…ごめんね……」
凛に会ってからというもの、私は発作を頻発していた。
その度に直人さんがそばにいてくれて、なんとか日々を過ごしていた。
そして三日後。
会社を出た私はその姿を見てため息をつく。
「ちょっと来て」
「…………………」
私はそこに居た凛の後ろをついて行く。
「どこ…行くの…?」
凛は近くのホテルに入っていく。
受付を済ませて、部屋に入っても何も喋らない。
「なに…?どうしたの…?」
ずっと黙ったままの凛に痺れを切らした私は自分から話しかける。
「なんで辞めてないわけ?」
「なんでって…辞める訳…ないでしょ…?」
「はぁ!?」
「私は…この会社で働きたくて働いてるの…凛の…そんな自分勝手な理由で…辞めない…」
「…まじでムカつくわ」
「間宮くんとは…仕事以外の会話はしてないし…凛が不安に思うようなことはしてないよ…?」
「じゃあ…なんで振られたわけ!?」
「え…?」
「別れたいって言われたの!あんたのせいでしょ…!?」
「そんなわけ……」
すると凛がスマホで誰かに電話をし始める。
「今すぐ来て。…うん、あのホテル。じゃ」
電話を切ったあと、私を睨む。
「あんたなんか…傷付けられればいい」
「凛……」
それから数十分、凛は一切喋らずスマホを触っていた。
「凛…私…かえ……」
「まだ話終わってないから」
「………………」
コンコン
そのノック音に凛が立ち上がりドアの方へ向かう。
「うーっす」
「やっと来た…こいつ好きにしていいから。じゃ」
知らない男二人が部屋に入って来たかと思うと、凛は同時に部屋を出る。
「えっ…凛…!」
私が立ち上がると、一人がドアの前に立つ。
「はいはい、落ち着いて。とりあえず座ろっか」
「…………………」
私は言われた通りに座る。
すると隣に座ってきた男が私に話しかける。
「何ちゃん?」
「…………………」
「あ、無視か。まぁ良いけど」
そう言って笑う。
「しっかし、酷いよな〜、友達にこんなことするなんて」
「どうする?どっちが先がいい?」
「そりゃ俺が先だろ。年上だし?」
「年上っつっても一個しか変わんねーだろ」
「お姉さんはどっちが好み?」
「その子に聞くのかよ!」
二人で勝手に盛り上がっている。
「じゃ…俺から…お前ちゃんと見張ってろよ」
「わかってるって」
すると男が私に顔を近付けてくる。
「……あの」
「はい?」
「こういうことして楽しいですか?」
「うーん、まぁ罪悪感あるっちゃあるけど…凛さんの頼みだし。あの人怒るとこえーから」
「何回目…ですか」
「なにが?」
「こういうこと…」
「いや…初めて…だけど」
「なら、やめてください。こんなことして…どれだけ傷付けるかわかってますか…?犯罪ですよ…?」
「まぁ…それは…ね。でも俺らまぁまぁ悪い事してきてるし。今更そんな事言われてもね…」
そう言いながら私をゆっくり押し倒す。
「それに…お姉さんすっげー好みだし」
「……………」
私は大きくため息をつく。
男が私に顔を近付けた瞬間、私は男の急所を思いっきり蹴る。
「いって!!!」
男がうずくまると見張ってた男が私に近付いてくる。
「お姉さん何してんの?」
立ち上がった私の口を塞ぎ、後ろから抱き着く。
「大人しくしてりゃ、乱暴にしなかったのに…」
そう言った瞬間、私は右腕の肘を思いっきり男のみぞおち辺りに当てる。
「………!!!」
男がみぞおちを抑えた瞬間に、私は部屋を走って出る。
「おいっ…!待て……」
私は受付に行き、スタッフに助けを求める。
すぐに警察に連絡をしてくれ、事なきを得た。
その後私は間宮くんに電話をかける。
「もしもし、紗和さん?どうしました…?」
「……間宮くん、凛の連絡先わかる?」
「どうかしたんですか…?」
「……ちょっと話があって」
「今凛と待ち合わせしてて、すぐ来ると思うんで少し待ってて下さい」
少し経って、電話がかかってくる。
「……凛に電話変わりますね」
「…なに」
「直接会って言いたいんだけど、会える日あるかな」
「……あんたに会いたくないんだけど」
「今日のこと…間宮くんに言ってもいいの?」
「は…!?脅してるわけ!?」
「そうじゃないよ。凛とちゃんと話がしたいだけ」
「めんどくさ…じゃ、今こっち来てよ」
「わかった。どこにいるの?」
私は場所を聞いて、そこに向かう。
「何かあったのか…?」
「なんか紗和が話あるって」
「話…?」
「ごめん隼斗…今から紗和と会うから、また今度ちゃんと話し合おう?」
「…………………」
「ごめんね…?また連絡するね」
数十分後。目的地に着いた私は凛を探す。
あ…居た……
「ごめん、お待たせ」
「で、なに?話って」
「………向こうの方で話さない?」
「は?なんであんたの為に場所変えないといけないわけ?」
「…………………」
その言葉に私は凛の隣に座る。
「凛…」
「………」
「自分がしたことわかってる…?」
「………」
「凛がしたことは最低の行為だよ…?」
「………」
「……いつまでこんな幼稚なこと続けるの?私達もう大人だよ…?」
「うっざ…」
「私は…もう…昔の私じゃない…こんなことに屈しないから…」
「は…?」
「私は…凛のこと考えて行動したのに…なんでこんなことするの…?」
「あたしのために何したって言うわけ…!?」
「……間宮くんとは仕事以外に話はしてないって言ったでしょ…?」
「あたし会社辞めろって言ったよね?話してないから何?同じ空間に居られるのが嫌なんですけど」
「……そんな凛のわがままで簡単に辞められるわけないでしょ!?」
「はぁ!?私がわがまま!?」
「だいたい…間宮くんのこともう少し信用したらどうなの…!?間宮くんが凛を裏切るような人じゃないって付き合ってればわかるでしょ…!?」
「何知ったような口聞いてるわけ!?私の方が知ってますってマウントでも取ってんの!?」
「なんでそうなるの…?そういうことじゃ…」
「いいよね、あんたは。人生イージーモードで」
「イージーモード…?」
「男にちやほやされて、楽して生きてきたんでしょ?」
「…………………」
「ほんと…あんたっていちいち癪に障るんだよ…!」
そういうと私に掴みかかりベンチから突き落とす。
「…っ……」
「紗和さんっ!」
その瞬間、間宮くんが私に駆け寄る。
「隼斗…!?なんでっ…」
「凛何やってんだよっ…!紗和さん立てますか…?」
「…大丈夫…ありがとう」
間宮くんが手を差し伸べ、私は立ち上がる。
「間宮くん…どうしてここに…?」
「………二人が心配だったから近くで見てたんです」
「そっか…」
すると凛が急に笑い出す。
「隼斗さぁ、そんなにこいつのこと好きなの?」
「は…?何言ってるんだよ」
「そいつ高校ん時先生とデキてたやつだよ?」
「…………………」
「ほら、これ見てよ」
凛が間宮くんにスマホを向ける。
それを見た間宮くんがバッとスマホを掴み画面を隠す。
「恥ずかしいよねーみんなの前でこんな姿……あ、むしろ見せたかった?」
そう言うと、私にもその画面を見せる。
「………………………」
「やめろ!凛………」
「懐かしいよねぇ」
そう言って笑う。
そこには無理やり制服を脱がされ、下着姿にさせられた私の姿が写っていた。
「……………………」
「これ…ばらまいてもいいの?」
「……………………」
「そんなことされたら…あんた困るんじゃない?」
「凛いい加減に……」
「………好きに…すれば…?」
「……は?」
「凛は…それで何か得するの…?」
「はぁ!?」
「ばらまけば…いいじゃん」
私がそう言うと凛は引きつった笑い方をする。
「うわ…むしろみんなに自慢したいって?引くわー」
「……………………」
私は折れそうな心を必死に保とうと凛の顔を真っ直ぐに見る。
「…消せよ」
すると間宮くんが聞いたことない低いトーンでそう言いながら凛を睨む。
「え…?」
「凛、今すぐその写真消せって」
「どうしたの…?隼人…そんな怖い顔して…」
「お前いくつだよ。こんな事して楽しいの?」
その間宮くんの冷めた表情に私も困惑する。
「間宮…くん…?」
「お前が消さないなら俺が消す。貸して」
そう言うと凛からスマホを奪う。
「え…ちょっと…!」
「こんなに…」
間宮くんがそう呟く。
そして、しばらくして凛にスマホを返す。
「お前、最低だな」
「え…?最低って…こんなの…学生のノリでしょ…?」
「……ノリ…?ふざけんな。紗和さん行こう」
そう言って私の腕を掴む。
「ちょっ…隼斗…!話し合いは…?」
「……そんなの必要無い。もう二度と会わないから」
「え…?話し合うって言ったじゃん…!」
「こんな最低な事する奴、別れるに決まってんだろ」
その冷たい言葉に凛が泣き出す。
間宮くんはそれを無視して、私の腕を引く。
「間宮くん…いいの…?」
すると間宮くんは軽くため息をつく。
「紗和さん、人が良すぎますよ。あんな事されて、まだあいつの心配してるんですか?」
「………………」
その言葉に私はそのまま間宮くんと歩き出す。
数分歩いた後、近くの公園のベンチに座る。
「………………………」
「紗和さん…大丈夫…ですか…」
「うん…全然…大丈…」
「手…震えてる」
そう言うと、間宮くんが私の手を握る。
「…………………」
「ごめん…俺のせいで…嫌な思いさせて…」
「間宮くん…何も悪くないでしょ…」
「…………」
「私の方こそ…ごめんね…せっかく…彼女できたのに…こんなことになっちゃって…」
「謝らないで下さい」
そう強い口調で言われる。
「…………………」
「紗和さん…」
「…………………」
「今…紗和さんの事…すごく抱き締めたいんですけど…ダメ…ですか…」
「え…?」
すると間宮くんは両手で自分の顔を覆う。
「いや…何でも無いです…すみません、忘れて下さい」
「…………………」
「家まで…送ります」
「大丈夫…電車で帰れる…」
「送らせて下さい…お願いします…」
間宮くんの何とも言えないその表情に私は思わず頷く。
「ありがとう…」
それからお互い無言のまま、私は車から見える外の景色を眺めていた。
すると、間宮くんが口を開く。
「あの…紗和さん」
「ん…?」
「紗和さんとあいつの事…俺…何も知らなくて…辛い事…思い出させましたよね…」
「…………」
「あの…写真……」
「大丈夫…もう…過去のことだから…」
「紗和さん…本当に…ごめん………」
私は間宮くんの顔を見る。
「間宮…くん…?泣いて…るの…」
「…………………………」
「大丈夫…?」
「………………俺…あいつの事許せません。今すげー腹立ってます」
「…………………………」
「紗和さん、本当にすみません」
「………間宮くんが写真消してくれたでしょ…?だからもう大丈夫だって…ね…?」
私は間宮くんの肩をポンポンと叩く。
しばらくして、間宮くんが口を開く。
「………紗和さん」
「なに…?」
「俺、あいつと何も無かったんで」
「え…?」
「いや…紗和さんに勘違いされたくないんで…」
「勘違い…?」
「付き合ってたけど…何もしてません」
「……………」
「…それだけ伝えたかったので…」
「……うん…」
「正直言うと、紗和さんを忘れる為に付き合ったんです。誰でも良かったっていうか……最低ですけど…付き合ってればそのうち好きになれるんじゃないかって」
「…………そっか……」
そしてマンションに着き、間宮くんに別れを告げる。
「間宮くん、ありがとう…」
「……ゆっくり休んで下さい」
「…間宮くんも」
間宮くんを見送り、部屋に入る。
リビングに入り、直人さんの姿を見た瞬間肩の力が抜ける。
「おかえり、紗和。遅かった……どうした…?」
私は無言で直人さんに抱きつく。
「紗和…?」
「……っ…」
涙が溢れて止まらない私を、直人さんは何も言わずただ優しく受け止めてくれる。
そして私は、今日起こったことを全て話した。
ホテルのことを話すと、直人さんはため息をつきより一層私をギュっと抱きしめる。
「……怖かったろ…一人で…無事で居てくれて…本当に良かった…」
その言葉に私もギュっと直人さんを抱きしめる。
本当は心の底から怖かった。
あの時、すぐに直人さんに会いたかった。
でも、凛と今話をしないとダメだと思った。
「……で、その子に会いに行ったのか…?」
「うん…」
「そんな精神状態で…何で……」
「このまま逃げたら…また凛と向き合えなくなるって思って…それで……」
私は凛にはっきり自分の気持ちを言ったことを伝えた。
「そしたら…逆上した凛が私を突き飛ばして…」
「突き飛ばした…!?」
「うん…でもその時間宮くんが来てくれて…」
「間宮が…?」
「私達が心配で近くから様子見てたらしくて…」
「…そうか……」
「それ…で……」
写真のことを話そうとした途端、手が震える。
「写真……っ…」
「紗和…?」
「凛に…撮られた…写真……」
「……無理しなくて良いから…言いたくなければ言わなくて良い」
直人さんが優しく背中をさすってくれる。
「いじめられてた時に撮られた…写真…スマホに…あって…それをばらまくって……」
「………………」
「でも…間宮くんが…消してくれて…」
「………辛かったな…もう大丈夫…大丈夫だから……」
佐々木さんはそう優しくなだめてくれた。




